未奈の訓練Ⅱ
やべえ、投稿頻度が……
「ッ!」
「はいダメ―」
「んもう! ああああああっ!」
「いったん休憩するか?」
「いや、いい! 続ける!」
「そうか」
勇者パーティー弱すぎ案件に直面し、鍛え方の見直しがされ、かなりガチの方になった。
レベル上げに躊躇いなんかいらねえよ。と思うが、まあ、なんだ。弱すぎる。殲滅もできないのだろう。
先ほど、統率の訓練が終わって、今は未奈と個人的な訓練中。
魔星武術、歩式、利生。
これの習得はマジで時間かかるからな。集中する必要があるぞ……と思ったが、超魔法を使うまでもなくめっちゃ頑張ってるわ。こいつ。
必死に覚えてるんだよ。目がぎらっぎら。
「そ、れで? はあはあ。この続きは?」
「相手との距離を詰めるのに必要なことを言ったよな? 覚えているか?」
「えっと……①虚と理を使い分けること、②こちらに利があるように動くこと、だよね?」
「そうだな。相手が想定していない場所へ、移動手段で、いつの間にか近づいていれば成功だ」
「いつの間にか……虚と理ね……」
「俺が瞬きをしている間に俺の目の前に来てみろ」
「分かったわ」
パチッ
バシュッ!
「あっ……」
「はいアウト~。あ、いいこと思いついた。ちょっと待っててな」
「う、うん……」
まったく習得できない……
天歩は、速さと広範囲の視界と瞬時に判断する能力があればできた。
これは違う。
瞬時に、なんてものじゃない。
それは本能。
体が勝手に動くように、相手に近づく。
むずかしいな……
「ただいまー」
「うわっ! びっくりした!」
「これもまた利生。言った場所から帰って来るという理を外れて、外から周って来ることで虚を突いた。単純で、深い。簡単で、難しい。それが利生だ」
「なるほど……それで、どこへ行っていたの?」
「ああ、新しい超魔法を創ってきたんだよ」
「どんな?」
「……〈視界微々電流〉」
「……はい?」
「だるまさんが転んだを、魔法にして、眼に見えた生物に電流を流すんだ。すっごい弱い電流を」
「ああ、それを瞬きですると……電流が流れている時に、俺に触れていれば、お前の成功。電流が流れている時に、俺に触れていなければ、お前の勝ちだ」
「え、それって最強の技では? 見ただけで相手の動きを止められるじゃない」
「自分への殺意が強ければ強いほど電流は弱くなるから、実践では強くないな」
「なるほど……」
「ちょうどいい。天歩も練習するか」
「え?」
「〈創造〉」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
「簡単な迷路だ。俺のいるこの空間だけ広くしたから、後は頑張れよ」
「う、うん」
「迷路と言っても、障害物が置いてあるだけで、基本一本道だ。天歩だって使える。さ、頑張れよ」
「了解!」
そう言い放ち、北の入口へ駆けて行った。
……さ、待つか。
っと、そんな暇はないようだな。
北から足音がした。
……気配が西からするが……魔力は南から感じる。
さて、上手いな。
足音は、その場から動かない。
魔力も、その場から動かない。
気配は、すごい速さで近づいてくる。
……というわけで、西へ向く。
…………
その瞬間、俺は振り向いた。
「!? あぐえっ!」
「上手かったな。足音は氷をうまく使って再現し、気配は氷の分身体に自身の血を流した。そして、魔力は遠隔で扱っているのか」
で、実際は気配を消して東から近づいて来たのんだな。すごいえね。
「惜しいな。複数の方向から近づいてくるという虚を突き、気配が近づいてくるという理を使った。そうだな……あとは、そいつらの位置がランダムにワープでもしたら俺に触れれたかもな」
「……もう」
「まあ、もう完璧にできてるし、いいと思うぜ? 知らんけど」
「知らんけどじゃなーいっ!」
いい向上心だ。
だが、魔星武術に限界はない。最適に正解はない。完璧に教えることなどできない。
ところで……
「未奈。なんでお前はそんなに強くなりたいんだ? そこを教えてくれ」
「……そういう一族だから、って言ったらいいかしら?」
「スマン。まったく分からん」
「……浅井家は、代々刀を扱ってきた流派なの。私はまだ習っていないけれど……刀は小さいころから触れてきた。血生臭い家系」
「刀に触れただけじゃあ、血生臭くは無くないか?」
「人を殺したことがあるといっても?」
「俺からしたら普通だな」
「……は?」
そんなに悩むことでもないと思うが。
ああ、世間一般では人殺しは何事にも代えがたい罪なんだったな。
なんか、申し訳ない。
「えっと……カイがどうかは知らないけど、普通の人からは忌み、嫌われる存在なの。私たちは」
「だろうな。一度人を害したことのあるやつと一緒にいたくないんだろうな」
「だから、私は……偽って生きなきゃいけないの。浅井ではなく、未奈として」
「ふうん。偽って生きるか……」
偽って生きる。これほどまでに悲しげな声を、俺はいまだかつて聞いたことが無い。
だが、俺の感性は少し狂っているんだ。
普通の人とは考え方が違う。
「それの何が楽しいか分からんが、まあいい。なんで殺したんだ?」
「そういう試練だから……ごめんなさい。これ以上は言えないわ」
「ああ、悪い。そんなつもりはなかったんだ。ただ、一つ言えるとしたら、もう俺たちは地球にいない。無法と混沌が渦巻く世界で、地球のルールを持ち込んでも意味がない。ここでは殺しの能力が生きる術なんだからな」
「カイ……」
平和に生きていたあの世界にはもういない。
悪意と陰謀にまみれた異世界だ。
……いや、悪意も陰謀も、地球の方が多いか……
「さて、帰るか!」
「分かったけど……どこへ行けば?」
「いや、お前は知らんがな。勇者パーティーへ戻れば?」
「えぇ……」
「嫌そうにすんな」
「みんな頭がちょっと……」
「おんおん。悪いと」
「素直に言うな」
「だってそうじゃない。正義は理想大好き芸人だし、大吾は脳筋。叶衣は、恐怖で動けない。どうしろと?」
「だからこそお前がいてやんねえと、クラスメイト達はこれ以上進化しないぞ? ああ、京がもう二人位やる気のあるやつがいるって言ってたな」
「ふーん。まあ、私の方でも探しておくわ。またね」
「ああ、じゃあな」
ま、だいぶ上達したし、実践でも使えるだろ。
歩式は全ての武式に共通する基本だからな。これを教えるに限る。
……暇になった。
……浅井家の裏事情か……
臭うな……ちょっと調べてみるか。
『あ、京? 今いいか?』
『ん? いいけど、なんだ?』
『ちょっと調べてほしいことがあってな。暗殺のために気配を消す訓練にもなるだろ』
『分かった。誰を調べればいいんだ?』
『未奈だ。あいつの家について調べてくれ。拷問系は使うなよ。催眠系だけで、吐かせろ』
『あいあいさー』
「これで、何かわかるといいが……」
……あ? 待てよ?
なんか、引っ掛かる……
『んっん~鏡花?』
『何? 超魔法創る?』
『正解。よくわかってんな。準備しといてくれるか?』
『分かった~』
……記憶を精査する。
…………
「どんなのを創るの?」
「自分の記憶を見にいく魔法を創ろうかな、と」
「記憶を見にいく?」
「ああ。ちょっと確かめたいことがあってな。そのために、記憶を読みほどきたいんだ」
「なるほどね。分かった! やろう!」
記憶に関する系……情報干渉……可能性も探っとくか。
…………
「よし。完成」
「今回は長かったね~。名前は?」
「〈記憶探査〉って言うらしい。使ってみるか」
「やってみて!」
「〈記憶探査〉」
……ん?
発動させたとき、俺は海の中にいた。
(まあ、焦ることはない。〈水中活動〉)
しかし、魔法は発動しない。
(なんでだ……? 魔法が発動できない?)
息は……できる。魔法が発動していないのに、息ができるのだ。
泳がなくても、移動ができる。
……ここが記憶の世界か?
ということは……
真相を探るため、深層へ潜る。
深く、深くへ。
すると―――
「……ッ!? ぐあああっ! なんっだ! 頭がッ!」
頭が痛い。何か、深くから起き上がって来るような感覚。
これが、記憶かッ―――――
「……じいちゃん。今度の実践訓練は何処の家?」
「ああ、今度はなあ……えっと? おお、あったあった」
そういい、時兎王はメモを取り出す。
そこには、孫である時兎カイのスケジュールがみっちり書いてある。
「ふむ。次は、明々後日の浅井家じゃな……あそこは気配の操作が上手いからな。見習うところがある」
「浅井家かぁ……あそこの跡取りがなかなか強いんだよなぁ……名前、なんて言ったかな……未奈、だったよな」
「よく覚えてるな。お前が人に興味を持つとは珍しい」
「覚えてるさ。刀を振る時の顔が印象的でさ。相手を傷つけることにビビってる感じで」
「あそこの嬢ちゃんは、ホントは跡取りなんかしたくないようだな。才能が兄貴よりあるだけで」
「ふーん……」
そういうもんなのか……
時兎家は物心ついた時から武器持ってるからよく分かんねえな……
ま、それが一般的な家なんだろうな。
とりあえず、準備しとくか。
―――――――――――
「……っあ? ここは……部屋か」
「あ、起きた! カイ、大丈夫? 三時間寝てたんだよ?」
「そんなに……」
「で、どうだったの?」
「……どうやら、俺と浅井はあったことがあるようだ」
「は?」
…………
「えっと、どうしたの? カイ」
「……お前も、覚えてないのか?」
「えっ、何を?」
「俺たちが小学五年生だったころ、実践訓練していただろう?」
「なっ……!? なんでそれを!」
「お前の対戦相手に時兎家っていなかったか?」
「時兎家……? 待って、何か思い出しそう……」
「ちょうどいい。思い出してみろ。〈記憶探査〉」
「え?」
「さて、どんな結果になるか……」
三……秒後
「うわああああああああっっっ!!!!!! あああああああああああ!!!!!!!!」
「ど、どうした!? いや、ホントに何があった!?」
「ああ、あああああああっ!!!! ああああああああ!!!!!」
「……〈心癒〉」
「うっあ?」
「大丈夫か? 狂乱してたぞ」
「ちょっと、思い出して……」
「さあ、全て吐け」
「え、ひどい」
「まあ、無理やりは喋らせねえから安心しろ。で、どんくらい思い出した?」
「……全部」
「そうか」
ん、バチっとする。来たか。
「〈思念伝達〉重ねて、〈拡声〉」
「誰との念話?」
「京」
『おう、カイ。繋がったか』
『どうだった? 今、絶賛ご本人と話してるところ』
『げえっ。俺、言っていいのか。これ』
『ああ。もう聞かれてる。早く言え』
『ったく……浅井家は、代々続く、由緒正しき武士の家系だ』
『ほうほう』
「……」
『それで、まだ探ってみたんだが、ちょいと危ういな』
『どんなふうに?』
『まあ、浅井家に生まれた子供は、必ず跡取りがいるんだが、浅井……いや、未奈にしとこう。未奈は、跡取り第一候補だった』
『だな』
「……」
『そして、跡取り候補は必ず行わされる【試験】があったんだ』
「……」
『それが、誓血決闘だ』
『誓血決闘? なんだ、それ』
『殺すんだよ。相手を』
『……』
「……」
『相手は誰か関係ない。決闘を申し込んで了承されたらそれでいい。それで、殺したものだけが跡取りになれる』
『だが、未奈が自分から決闘を申し込むとは思えない。何かあったのか?』
『ああ。親が勝手に申し込んだ。未奈自身は知らなかったようで、殺さないと殺されるというのをその日初めて知ったようだ』
『で、現に未奈は生きている。ということは……』
『ああ。ご想像の通りだ』
「もうやめて! 止めてよ!」
「……悪い」
『……』
その場を、圧倒的な静寂が包んだ。
初級は、正月まで投稿を止めさせていただきます。
大変勝手ながら、お理解のほど、よろしくお願いいたします。




