ついに分かった
「うおおおおおおおおっ!」
「はい遅ーい」
正義の剣が空を切る。
一応ガムシャラではなく、騎士団の剣術に沿って頑張っているのだが、まあなんというか……
「あれだな。京が速すぎる」
「雷の力を手に入れたからね。スピードを上げ続ければ、カイを抜けるんじゃない?」
「それはない」
「わーお」
正義と京が喧嘩してる、と聞いたが、いや、正義が襲い掛かって、京が背中に回っているっていうのが多いな。
なお、京は一度も攻撃はしていない。ただ背後に回り込んでいるだけ。
なんて虚しいワンサイドゲームだ。
「おい、京。もう終わらせてやれ。見てて腹が痛い(笑)」
「お、分かった。二秒な」
「ふん! お前が攻撃してこなかったのは、俺にダメージを与えられないからだ! 暗殺者のお前が、勇者である俺にダメージを与えることが―――」
「できるんだな、これが」
京は、〈雷刀閃激〉を使わず、普通に持っている刀で勇者の鎧を斬った。
おもいっきり切り込む感じとは違い、暗殺者特有の“引き”を意識した動きだったな。成長してる。
ま、レベルのせいで攻撃力と防御力に差があって、普通に鎧貫通するんだけど。
この世界の武器、防具類は、元の能力に加え、使用者のステータスに依存する。
それゆえ、防具性能+ステータスという感じではなく、防具性能×使用者のステータス度合となる。
「な、んだと……!」
「おいこら。別にダメージは無いところだぞ。ってか、お前っていっつも誰かのかませ犬になってんのな」
「くっ! 京! 貴様もあいつに洗脳されたのか! どんな薬を使った! どんな卑怯な手を使った!」
「え? カイについて行って、死にかけて、死にかけて、死にかけてまでレベルを上げた甲斐があった。ずっと引きこもってるだけのやつに負ける気はしないな」
「このやろう……!」
「もうやめろ」
そこで俺が一言。
はあ、ホント見苦しい。
これでも勇者か? いや、勝手に肩書を押し付けるのは違うな。
だが、こいつも世界救うんだ! 俺最強だ! FOOOOOOッ! ってやってんだから、もうちょっと強くなってほしい。
さすがに、勇者のくせにレベルが五十行ってないってマジ?
ちなみにだが、一番レベルが上がりやすいのが村人、上りにくいのが勇者である。
そりゃあ、同じ量の敵を倒しても、世界の設定的に、村人が弱くなるように設定されている。だから、村人の方が経験値が入手しやすいんじゃないか? と、俺は思っている。
あっ、騎士団長じゃん。
「なあ~騎士団長。こいつら、レベル上げさせねえの? さすがに見苦しくなってきたぞ」
「ふむ……今日は早く上がらせて、明日にでも行くか。さすがに、弱すぎるのでな……いや、今目の前にいる少年が強すぎるのか?」
「ハッ、今なら自信を持って言えるな。俺の方が強い、と」
「ふふふ……ならば、試してみるか?」
「願ってもない」
というわけで、模擬戦をすることに。
この間、副団長に明日の予定を知らせ、クラスメイト達は早く休みへ。
そして、残っている騎士たち、城にいる魔術師たちが全力で訓練場に結界を張る。
じゃないと、街に被害が及ぶしな。
「騎士団長、ガルム、参る!」
「かっもーん!」
突っ込んでは来ないが、じりじり近寄って来る。
しかし、一定の距離を保ち、俺に近づかないようにしている。
ある程度の間合いを持たねば斬られると悟ったのだろう。
ちなみに、お互い殺す気でやっている。大丈夫。多分死なない。
「フン!」
「! いい攻撃だな。圧倒的剛力による重い一撃と、軽いフットワークにより、敵を逃さず、圧倒的な一撃を入れる無慈悲なやつか」
「そちらこそ、「当たる!」と確信したのに、いつの間にか横にいるのだからな。速さが人間を逸脱している」
「レベルがEまで行ったからな! ハアッ!」
魔星武術、攻型、百花繚乱で攻め立てる。
が、さすがの技量とアーティファクト。ギリギリで受け流し、凌いでいる。
一応ガルムさんもレベル九百九十九だしな。この世界では強者に分類されるだろう。
ただ、悲しいかな。俺とガルムさんじゃあ、圧倒的な力の差がある。
到達者と、未到達者という差が。
「! ……! ガッ! ガフッ!」
「もうやめとけ。まだ、力の半分も出していないが、結果は明らか。魔法を使い始めたら、力加減ができないかもしれない」
「そう、だな。負けを認めよう。しかし、数日見ない間にまた強く……恐ろしいな」
「だろう?」
「そうだな……そうだ。負けた立場で言えることじゃないが、一つアドバイスしても?」
「ああ」
「確かに、Lv:Eまで到達した。大罪魔剣も入手し、対影神剣も手に入れようとしている。最強の装備も手に入れた。しかし、まだ殻の中だ」
「殻の中?」
「そうだ。様々な人間を見てきたから分かる。人は皆、成長しきってもしきらない。到達しようと届かない。そんな生物だ。君が今一番にすることは、君自身を繰り上げることだと私は思うのだ」
「繰り上げること……」
「まあ、それは君自身にしか分からないことだ。人の眼から見て分かるようなものじゃない。君に、全て委ねるさ」
「ああ、ありがとう。少し分かったような、分からないような……」
「考え続けていれば、いつかは分かるだろう。それまで、試行錯誤をするんだ」
「分かった。ありがとう。またいつか、模擬戦、よろしくお願いします」
「それは無理」
「あるぇ?」
普通に断られてしまった。
だが、殻ね……
すこし、そんな感じはしていたが、殻、と表現されると分かりやすいな。
最近の会話にヒントがあった。
『超魔法の中で最高』
『一段階上げる魔法を』
だけどな……情報干渉系の魔法は、初級魔法にないから、そういうのは創れないんだよな……
考えろ……考えろ。
今まで使った魔法、見た魔法で、何かできることはないか?
何か、その物質、魔法に干渉できるような魔法が―――
ん?
『鏡花! 聞こえるか!?』
『はぁい! 自室でごろごろしてまあっす!』
『よし、新しい魔法創るぞ!』
『はぁい! どんな魔法?』
『簡単に言えば、〈異次元突入〉を、Lv:E専用じゃないようにする! ついに分かったんだ!』
『うん。全然分かんない』
『後で説明するから待ってろ!』
『あい!』
というわけで、大至急帰宅。
すでに魔法創奏台座が用意されており、鏡花の準備能力が知れる。
そして、来る途中、京と愛も呼んでおいた。
……なんでか、浅井も来たが。
『え!? 時兎君が何かするの!? しかも、めっちゃ興奮した声で!? 行く!』
って感じで愛についてきた。
勇者は寝てるから問題ナッシングってよ。
「さ、創るぞ。二人……いや、京、愛、ついでに浅井の三人は、この台座を修復し続けてくれ」
「「「あいあいさー!」」」
「よし、鏡花」
「うん! 【想像構築】」
台座に魔力の線で円が描かれる。
しかし、いつもより緻密に、繊細に。
魔法を当てはめていく。配置も考えながら、効果を考えながら。
圧倒的な量を入れているため、台座も悲鳴を上げる。
京、愛、浅井がそれぞれ修復させる魔法を使い、台座を持たせる。
そして、ついに。
「OK、鏡花。やってくれ」
「うん……! んんんんんんんんんっ!」
眩い、いや、最早熱すらともなった光が室内を照らす。
魔力が荒れ、室内が散乱する。
光が収まり、現れた魔法は―――
「〈昇華〉」
「おおおおおおっ! すごい! かっこいい!」
「レベルアップって音からするに、何かを上げる魔法か?」
「そうだな。対象を、一段階上げる能力だ」
「え、でも、情報干渉系の魔法無いよーって、前の洞窟で悩んでなかった?」
「言ってた言ってた。どうやったんだ?」
「見つかったんだ。情報干渉魔法が。俺が復活させてたんだよ」
「「「「???」」」」
魔法に、概念を組み込んだ。
―――〈ステータスウィンド〉という概念を。
忘れていた。いくら概念とはいえ、使うのは魔力。つまり、〈情報開示〉という魔法だ。
そして、村人が使えるということは、初級魔法の類い。つまり、超魔法に組み込める。
情報に干渉し、数多の……千を超える魔法を組み合わせてできたのが〈昇華〉だ。
「ね、ちょっと使ってみてよ!」
「そうだな~。まずは、台座に使うか」
「あー、魔法制作に耐えられるように?」
「それもあるけど、〈創造〉を超えれるようにならないかなって。まあ、〈創造〉に〈昇華〉を組み込めばいいんだけど、なんか違う気がして」
「やってみよう!」
というわけで、台座をレベルアップさせる。
すると、台座が光に包まれ、形を変える。
より大きく、硬くなった。
なにより、これからは創れる魔法が、増えるようだ。
超魔法と、違う魔法が。
まだ、魔力量が足りないため創れないけどな。
あー楽しみ!
「それじゃ、〈創造〉に〈昇華〉を組み込んでみる?」
「そうするか」
はい、またやってみる。
すごい。台座が変わった影響か、めっちゃ創りやすい。
「ん~できた! 〈創造〉!」
「あー〈創造〉の上位互換か。大きなものも造れるんだな」
「ビルダーとかいうもんね」
「じゃ、一人ずつレベルアップしちゃう? ああ、純粋にLvじゃなくて、肉体改変しちゃう? ってことだ」
「そういうことね。じゃあ、受けるわ」
「あ、未奈ちゃんずるい! 私も!」
「じゃ、俺も」
「私もする! いいよね? カイ」
「ああ、全員しようぜ!」
と、全員の希望があったので、全員昇華させた。
思った以上にぶっ飛んだ魔法で、Lvは変わらないのに、明らかにみんな強くなった。
しかし、重ね掛けは肉体が持たないので、やめておいた。
あーだが、とんでもない魔法だ。これは、俺の集大成かもな。
この後、休憩をはさみながら、俺の使うすべての魔法に〈昇華〉を組み込んだ。
四つずつ、魔力ポーションを飲みながらな。
……魔力量がLV:999の勇者よりも多いはずなのに、魔力枯渇で気絶しかけたのは内緒だ。
騎士団長との戦闘は、〈昇華〉を創るうえで必要だったのです。
ちなみに、投稿前日に、一時間かけて四千文字打ちました。




