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挑戦者

 美しい木漏れ日が差し込む森の中、男女が二人歩いていた。


「ほんとにこっちにあるんだよね? めっちゃ森なんだけど」

「あるよ。エルも言ってたし、地図も見た。何より、道ができてるしな」

「まあ、誰かが通った痕跡はあるよね。ってか、二人置いて来てよかったの?」

「いや、俺が置いてきたわけじゃないし、一応あいつらの考えだぞ? 『また死ぬのが嫌だからいい』っていう返事だったし」

「そんなの言ったら私も嫌だけどね」

「へえ。じゃあなんでついて来たんだ? ああ、突き放す意味じゃねえよ?」

「分かってるよ。それはもう、ね?」

「?」


 今俺たちは【暴食の大口】に向かっている。

目標はもちろんレベル上げ及び大罪魔剣の入手だ。

今回で鏡花にレベル二百を突破してもらいたい。

理由? 特にないが?

まあ、ある程度強くなってもらわんとこっちだって困る。だから仕方無い。


「よし、ここらへんだな。鏡花、全力で魔力を開放してくれ」

「えっ? なんでこんな森のど真ん中で?」

「いいから早く」

「んもう……えいっ!」


ゴウッ! …………


「……視えた!」

「えっ、何が!?」


 そう言い、カイは駆け出す。その一歩ですでに百メートルほど進んでいるが、止まる気配はない。

そして鏡花が全く見えなくなったころ。


『んー鏡花。聞こえる?』

『聞こえるよ。何で先に行っちゃったのよ。おかげで見失っちゃったじゃん』

『悪い悪い。一瞬純真な魔力にさらされて見える洞穴があるんだよ。そこにまずたどり着かないと、意味ないから、な?』

『もー。それで? どこに行けばいいの?』

『そのまま真っ直ぐ、二キロぐらい』

『二キロぉ!?』

『大丈夫。全力で飛ばせばすぐだから』

『分かった。じゃあ待っててね!』


……二分後


「着いた!」

「おう、お疲れ~」

「お疲れーじゃないよまったく! で? この洞穴は何?」

「ん? 目的地」

「え?」

「だから、【暴食の大口】だよ」

「うええ……すっごいただの洞窟なんだね」

「そりゃそうだ。百層まではいつものダンジョンと変わらんさ。問題はその先から。二百層にベルゼブブがいる。そいつに会いに行かなきゃならねえからな」

「ふうん……で、行くの?」

「当たり前だ! つかまってろよ?」

「うん!」


 というわけで、いつも通り駆け抜けていく。

軽く斬ってみたが、あれだな。一層目なのにいつもの洞窟の十層目くらいの堅さだな。

まあ俺からしたら大して変わらんが。

じゃ、疾走しますかー



……ニ十分後


「さ、ここからが本番だぜ。百五十層。さっきまでとは格が違う。一体一体がボスクラスだ。気を引き締めろよ」

「う、うん……それよりなんか息苦しくない?」

「それは知らん。俺【毒竜喰】あるし」

「悲しい」


【毒竜喰】により俺に害のある成分は無効化されることになっている。なので、苦しい、というのが分からないな。魔力濃度でも高いのか?


「分からねえな……〈抗魔治癒〉」

「! ……ふぅ。楽になった~。ありがとう!」

「ん、ならよかった。さ、行くぞ」


 俺は重厚感のある扉を押し開ける。

ここから先は別世界だ。

ギ、ギイイ……


「来るぞ!」


ガキン!


「速いな……ん、後ろから来るぞ、よく見とけよ!」

「了解! ってうわっと! あっぶない! ん!」

「魔法乱発すんな! しっかり狙って撃て!」

「わか、った! ん!」


 んーやっぱ固くなってるから疾走はできねえな……

俺一人なら突き抜けるけど、今回は鏡花がいる。置いて行くわけにはいかない。

とりあえず、両目開眼っ! 【超魔進化】!


「きゃー♡女子ぃ!」

「おいこらこっちみんな! 集中しろ!」

「はぁい♡」


 悲しいッ!

なんでだよっ!

少し可愛い女子になったからってそんなことになるなよッ!

……より虚しくなったからやめよう。こんなこと。



……三十分後



「はあ、はあ……はああああああ」

「お疲れ。よく耐えたな。ついに二百層。ベルゼブブとのご対面だ」

「はあ、うん……え、知性あるんだよね?」

「めっちゃある。マモンと同じだからな。しかも何気に頭いいし」

「えー、頭のいい最強生物って……」

「そんで、最初は対話を望むけど、いざ対戦になったら絶対手出しはするなよ」

「え、なんで? 遠距離チクチクもダメ?」

「ダメ。あいつ魔法無効化どころか魔法喰ってくるぞ。そんで魔力回復されたらたまったもんじゃない。だから、見学しててくれ。ああ、結界は張っとけよ?」

「うん。分かった。じゃあ行こうか」

「ああ」


ゴゴゴゴゴ……



 ……ただひたすらに広い空間だ。

奥が見えないな。地下に広がっているとはいえ、ここまで広く造れるもんか?

んー〈究明〉


……はあ。とんでもねえ場所だな。

ただの岩に見えるこの壁。一つ一つが神結晶だ。

神結晶っていうのは、数億年の時をかけて魔力が結晶化したものだ。

それに、これほど質が高いってことは魔力純度:白銀クラスだろうよ。

ったく、なんてもん使ってやがる。


「……いた」

「あれ? あの岩の上で寝てる人?」

「そうだ。ちなみにこの会話多分聞かれてるぞ」

「え!?」




「……よくわかってんじゃねえか。ガキが」

「!?」

「……ベルゼブブだよな? 恐らく、マモンから話は聞いているとみられる」

「ふん。生意気なやつだな。初っ端からタメ口なんてよぉ。嘗めてんのか? ああ?」

「嘗めてねえよ。今すぐにでも戦闘できるぐらいには警戒してるさ」

「ほお、そうか……じゃあ、いいよなぁ?」

「ッ! 鏡花、引けッ!」

「!? 分かっ」


ゴウ!


「ちっ! 〈魔絶結界〉! 重ねて、〈修復〉!」

「!? 〈反抗源波〉! 重ねて、〈聖域展開〉!」

「クックック……いいねいいねぇ……俺の魔力開放術に耐えるとはぁな。マモンが言ってただけはあるなぁ」

「!? 嘘……〈反抗源波〉が相手の攻撃を跳ね返してない!?」

「いや、跳ね返したが、効いてないんだよ。魔力開放の余波だけでダメージ喰らうとは思えんしな」

「ふん。無駄口叩くな。行くぞ」

「!? ちっ! 〈聖魔混成絶対領域(カオスエリア)〉! 〈弾丸(バレット)〉!」


 俺はまず牽制用の攻撃と敵の力をそぎ、味方の力を上げる領域を展開する。

しかし相手の力が衰えたようには見えない。

溢れんばかりの滅びの力がよく視えちゃう。なんて悲しい。

そんなこと考えながら、ちゃんと剣で対抗している。

右手一本なのになんて力だ!


「いい魔法だ。が、まだ甘いな。あいつらに比べたら、こんなもん大道芸だ」

「監視者のことか? あいつらと比べんな!」

「はっ! 超魔法を使うやつが何言ってやがる! 禁忌を超えた力なんぞ、扱うにはもったいねえよなぁ!」

「禁忌を超えようが関係ねえ! 俺の力だ! 文句言うな!」

「文句じゃねえ! 感想だ!」

「どうでもいいわ! うらぁっ!」

「! いい攻撃だなあッ! さあ、ギア上げるかあ!?」


 ベルゼブブの体から、黒い粒子が立ち上る。

あいつお得意の滅びの魔法だ。

これを止める手段はただ一つ。


「〈黒滅雷魔災淵砲ギール・エクス・リアリグス〉」

「〈連創常新結界クール・ニュート・クリエイト〉! 重ねて、〈創造〉!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


「すべてを滅ぼす魔法に対抗できるのは、全てを創り出す魔法と常に新しくなり続ける結界だ!」

「いい発想だなあ! 真っ向から撃ち合うとは! だが、全力じゃねえだろおお!?」

「望むところおおおっ!!」


 魔星武術、攻型、百花繚乱を使い、攻め立て、あちらの攻撃は回避に徹する。

しかし、七つの大罪。そう簡単に避けられない。

そして、斬りあいながら、吹っ飛ばされながらも互いの魔法は撃ち乱れている。

触れただけで消滅する魔法と、触れた対象を作り変える魔法がぶつかり合う。

その間にも、〈弾丸〉が飛び交い、魔力砲が飛び交い、相手の心臓を貫かんとする。

百九十九層に到達した時点でレベルは九百九十九だったんだがな。届かない。


「何だその甘い攻撃はぁ!? 傷一つつかねえぞ!? 嘗めてんのかぁ!?」

「お前が硬すぎるんだ馬鹿野郎! Lv:Eが何言ってやがる!」

「てめえももう少しだろうが! あ? 至り方を知らねえのか!?」

「ああ、知らん! だから監視者に聞こうとしたんだよ! お前が教えてくれるのか!?」

「厚かましい! 大罪魔剣とLv:Eとか調子に乗んな!」

「乗ってねえわ! 乗れるほど強くねえし!」

「はっ、よく言いやがる!」

「ッ!」


 と、首元に来た一閃をかろうじて回避し、可能性体と共に攻め立てる。

だが、あいつの周りに展開されている自動迎撃魔法によりすべて消されるうえ、こっちにまで攻撃が飛んでくるから困る。

そして俺は何回目かも分からないが吹っ飛ばされる。

皮肉なことに、美しい虹色の輝きを放つ神結晶は破片だけで俺にダメージを与える。


「ぐっ! いってえな……だが、勝機が見えないわけじゃない」

「調子に乗んなああああああああ!!!」

「どんだけ遠くから突っ込んできてんだよッ! 〈弾丸(バレット)〉ッ!」


 超至近距離で弾丸を打ち込む。

時速千キロを超える弾丸は、ついに暴食を捉え―――ることはなく通り過ぎてゆく。


「遅え遅え! そんぐらいで俺にあたると思ってんのか!? ええ!?」

「普通は当たるんだよっ! 化け物が!」

「いい誉め言葉だ! 化け物とはな! カハハハ!」

「ちっ! この野郎!」

「~♪ 甘えっ!」

「!? がはっ!」


 蹴りを入れられ、吹き飛ばされる。

そして本日何回目かも分からない〈絶魔完全回復〉をし……


あ? 待てよ?


こんなに何回も回復してるってことは?

人体の構造的に……

あるいは、新たな魔法を……

進化の先に……


「……行けるはずだ!」

「はっ、いい眼しやがる! あいつを思い出すなあっ!」

「勇者か?」

「あ゛? そんなやつじゃねえよ。俺の……親友だ」

「そうか。いや、知らんがな」

「てめえが聞いて来たんだろうがぁっ! 死ね!」

「ッ! もうちょっとで届きそうなのにっ! 考えろ……考えろ!」


Lv:Eにならなくてもこれより強くなる方法を!

成長し続ける魔法を!

傷つくたび、さらに強くなる魔法を…………


「そうか。そうか!」

「ほう、何を思いついた?」


『鏡花、聞こえるか!』

『ん!? うん。聞こえるよ!』

『今から〈創造〉を使って、使い捨ての『魔法創奏台座』を創る! だから、それに【想像構築(イメージクリエイト)】を使ってくれ!』

『分かった! ばっちこーい!』


 そして、鏡花の目の前に魔法陣が描かれ、魔法創奏台座を造り上げた。

いつも通り、いや、それ以上に丁寧にスキルを使う鏡花。


『できたよ!』

『よし、思考を並列させて、可能性体に描かせるから、俺がいいと言ったら創ってくれ!』

『ん!』


 俺の可能性体を鏡花の目の前まで走らせ、魔法創奏台座に超魔法を描かせる。

普通の台座でも悲鳴を上げそうな魔法を、使い捨ての魔法が耐えられるわけない。

しかし、〈修復〉にてギリギリ繋いでいる。

その間も二刀流と片手剣の打ち合いは続いており、こちらが押されている。

魔星武術も圧倒的な力によりこちらの形が崩されるため、正常に機能しない。

早く……! 早く……!


 片目でちらりと台座を見ると、思い描いていた魔法ができている。

よし。


『OK! 創ってくれ!』

『任せろーい!』


その刹那。

まばゆい光がその空間を照らした。


「あ゛あ? なんだぁ?」

「! 完璧!」


超魔法―――――〈超回復型進化体(ニュータイプ)


完成したてほやほやの魔法を、()()描く。

その瞬間、体が脈打ち、熱が上がってきた。

即座に〈抗魔治癒〉を使い、耐え、荒れ狂う剣戟に対応する。


「ほお。おもしれえ魔法だ」

「見ただけで分かるのかよ……」

「ああ、そいつはお前が傷つき、超常的なまでの回復をすることで肉体の進化を促す魔法だな? 超回復の超完全上位互換で、一度使えば二度と解除できないように中毒症状も発してる。なかなか面白いな」

「ぐっ!」


 面白い、と言いながら容赦なく斬り刻み、魔力開放の余波で俺を数百メートル吹き飛ばす。

斬られたそばから〈絶魔完全治癒〉を使うという神業を披露し、壁に激突したダメージも〈絶魔完全回復〉で癒す。


「はっ! 明らかに強くなったな!」

「何度死に体になろうと……最終的に勝ってやらぁ!!!!」




最近新作を書き始めて、書きだめているところです。

正月にでも出そうかなと思っています。

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