問題なし、だろ
最強になるのは、もうちょっと先かと。
少し、カイが勉強しないといけませんもん。
……え、これまずくない?
前の二人が虹色の光を出していたのに対して、俺は真っ黒なのだ。
「……あの、エルさん?」
「は、はい! あ、王に連絡してきますぅ!」
「あ、ちょっと!」
……行ってしまった。
待ってこれさ、勇者召喚って言いながら、すっごい簡単に言えば『魔力がいい感じのやつ召喚』だろ? 別に勇者じゃない可能性があんじゃね? でも黒って……
「ハッハッハァ! ついに終わったな、時兎カイ! 三人の中で二人が勇者で、一人だけ黒とか、これは終わったな!」
「時兎君……」
「何この悪役とヒロインの絵面」
「ああ?」
ザキポ……九素崎は俺を見下すような目線で、先輩は俺を悲しい目で見ている。
……え、何この光景。なんか、悪役が姫様を連れてってるけど、俺が助けられないような感じだ。
その瞬間。
「カイはいるか!」
「グルナ様! えーっと、分かりますけど、何の用ですか?」
「エルから聞いた! 水晶が黒くなっただと!?」
「やっぱそれですよね」
ああ、詰んだ。これはまずい。
二人が神々しき虹色の勇者の中、俺は黒く染まった悪党だろうか?
だとしたらヤバイ。
このグルナ様の焦った顔。俺がやばい奴だったからか? 今すぐ処刑されたりすんのかな。
「お前……ありがとう、ありがとう……!」
「……ん? どゆこと?」
「おい、グルナ! このクソ野郎は処刑だろ? 早くしろよ!」
「? どうして処刑せねばならん? むしろこの世界において貴重すぎるのじゃよ?」
「はぁ!?」
おい九素崎。どうしてそうまでして俺を殺したいんだ。
だが、どういう意味だ? 処刑されないのは助かったが、貴重っつーのが分からん。
「この水晶の黒とは、【村人】を表す」
「村人? 俺が村人ってこと?」
「うむ。そして今現在、この世界に職業【村人】はいなくてな、全滅したんじゃ」
「村人が、全滅? 戦争でもあったんですか?」
「いや、先輩、それは違うと思います。だとしたら、村人だけ極端に減るのはおかしい……いや、まさか、差別か?」
「そうだ。十二年前、どこぞの誰かが、『村人は無能だ。使えないし、魔族との戦争の時の邪魔になる』と、ほざきやがってな……まあ、そして村人を根絶やしにして、世界中が大飢饉に襲われた、というのは皮肉なものだな」
「そんな……そいつの一言だけで、世界中の村人が滅んだんですか? そんな!」
「ん~? グルナ王、そういえばさ、職業って生まれる家に関係する?」
「いや、『村人』だけは親が村人ではないと生まれんな。『勇者』や『聖女』は、どこからでも生まれる。生まれる確率が限りなくゼロに近いだけだがな」
「なるほど」
だから、異世界人である俺しか村人がいないと。
だから、貴重すぎるのか、この世界において。
「おい、グルナ、一つ聞いていいか?」
「なんだザキポン」
「ザキッ……! まあいい。勇者と聖女と村人の特徴を話しやがれ」
「違い、か。ふむ。簡単に言うと、勇者は普通の人間の倍ぐらいのスペックを所持している。簡潔に言えばチートか? 次に聖女だが、現在存在する魔法をすべて使える。魔法術式の構築速度も、【魔術師】や【賢者】の比ではない。次に、村人だが……うーむ」
「? どうした? あー分かった。無能って言いたいんだろ? 前者に比べて能がないから、言いにくいと。しかも正面にいるし、村人が。そういうことだろ?」
別に強くないんだったらさ、辺境でスローライフしながら、二人の武勇伝を聞いとけばいいんだからな。
あーでもなぁ。九素崎の武勇伝かぁ……耳が腐りそうだ。
「……すまない」
「何で謝ってるんですかね? ってか別に世界最強の力を求めてたわけでもねーし、力を持てあます方もあれだし」
「そうか……いや、待てよ? エル!」
「はい! ここです!」
「確か村人は……ほかの職業にはない特技がなかったか?」
「特技……ですか? うーん、うーん……うーんぅ? 特技というか、その……能力はありましたね」
「何がある?」
「確か村人は、『どんなに難しい術式でも、初級魔法ならすべて使える』はずです」
「初級魔法をすべて使える?」
「待って、当人を除いて話が進んでるんだけど」
「「え?」」
こいつら、俺のために話してくれるのはありがたいけども、その俺を除いて話しちゃいけないだろ。
しかし、どういうことだ? 初級魔法ならすべて使えるだと?
「ああ、すまない。二人も聞いてくれ。この世界には、魔法が、初級・中級・上級・最上級・禁忌と、五種類ある。普通の冒険者たち、魔術師や賢者などが上級以下を使い、【戦士】などが中級以下を使う、などだな。そして村人は―――」
「初級だけかぁ。きついか? いや、それさえ使えればいいか、うん」
「お、おう。なぜわかったかは分からんが、そういうことなのだ。しかし、さっきも言ったように、村人はすべての初級魔法を難なく使える。便利だが、初級魔法だけというのが無能といわれる原因だ」
「簡単に言えば雑魚ってことだろう? ハハハハハハ! やっぱ終わってんじゃねーか! 時兎ぉ!」
「うっわ、めんどくさ……いや、待て」
「「「「?」」」」
「グルナ王、魔法って独自に作り上げられるか?」
「……聖女の力を使えば創れるかもしれん。一度作れば、後は世界に記録されて、その魔法の概念が残る。そうやって魔法は生まれてきた、と聞いた」
「そうか……」
確かエルはこう言ったな。
『どんな難しい術式でも、初級魔法ならすべて使える』
ならさ、
初級魔法を強引に組み合わせて、能力いっぱい持たせて『初級魔法』として扱ったら、村人の俺でも強くなれるんじゃね?
魔法陣もあるかは聞いてないがおそらくあるだろう。召喚された時もあった。
理論は簡単だ。
たとえ、魔法陣を組み合わせまくって、緻密な魔力の扱いが必要になっても、村人はどんな初級魔法でも使えるんだからな。
創らせるのも、俺はアイデアを出すだけであって、実際に創るのは先輩だ。
よし、カンッペキだ!
「何かの結論に至ったようだな」
「ああ、グルナ王。一つ聞く」
「なんだ?」
「勇者じゃなく―――村人が世界最強になる話は好きか?」
「ッ……! お前……それは、まさか……」
「ああ、ご想像通りだ。俺はこの愚者……間違えた。勇者すら軽く超えるぐらい強くなる」
「あぁ? てめえごときが俺を超えるとでも? ハッ! 片腹痛いぜぇ!」
「時兎君……(かっこいい!! ってか頑張れ! 私も手伝えることあるかな?)」
「そうか……お主は、もう……覚悟を決めたんじゃな」
「いや? 全然」
…………
「「「はあ!?」」」
「ん? なんか変なこと言ったか? 俺」
「言いまくりだな。お主」
「時兎君ちょっとそれは……」
「オイ、時兎ぉ……テメェ……」
「? いやだってさ、確かにそこの馬鹿を超えるぐらい強くなるとは言ったが、修羅に堕ちるとは言ってねえぞ? あくまでこの世界にある魔法をすべて凌駕して、人間の枠組みから外れるだけだ」
「お主、さらりととんでもないこと言ってることに気付いているか?」
「かっこいい……!」
「? 今先輩何か言いましたか? ……テメェ、先輩に何しやがったぁ!」
よし、無視だ!
とりあえず、ここまで宣言したから、王だって無下にはしない……ハズ。
でもグルナ王優しいからな。
もう、なるようになるわ。きっと。
「なんにせよ、お主等の職業は分かった。もう三人はこの城を自由に歩いていいぞ。部屋も一人ずつやろう。何か部屋に欲しいものがあれば言うがよい。じゃあ、また明日、謁見の間に来てくれるだけでいい。今日は休め」
「わかった」
「はい」
「チッ……(今日は先輩にいいアピールできなかったじゃねえか……)」
「では……エル! 案内を頼む!」
「はぁい!」
……まあ、最初異世界に連れてこられたときはやべえと思ったけどさ、意外と何とかなるな。うん。
え、待って。
俺さ、強くなるために、先輩の力借りようと思ってたけど、いつか、先輩と二人きりにならないといけないじゃん。
……詰んだわ……
部屋へ行く道をエルに案内されながら、俺はそんなことを思った。
どうでしたか?
ブクマ、コメント、評価お願いします!