あつかましいわ
とりあえず、雑貨屋から出たあと、どこかによる予定もないし、真っ直ぐ城へ帰った。
……いやーこの装備が強すぎてなんかさ……
勇者の装備が霞んで消えそうなレベルの強さ。
そもそも、服の自動修復や使用者への自動回復。
ステータス補正も高すぎる。
……負ける気がしねえ……
だが、この世界は十年ごとに難易度上昇される。
アップデートは、世界のレベルが上がることだ。
簡単に言えば、魔物が強くなったり、魔力が濃い地域が出て来る。
そして、アップデートの合図は、大災害だ。
恐ろしいほどの災害が起きる。
飢饉、洪水、隕石、雷雨、暴風、ひどいときは消去されるらしい。
文字通りの消去。この世界の一部が消される。
はあ~ほんとに恐ろしい世の中だ。
お、着いた着いた。
「さ、晩飯喰いに行くか!」
「うん! もうみんな揃ってるのかな?」
「そうだろ。前は二人だったからな。九素崎とは時間別だったし」
「確かにね。私がエルに『九素崎とご飯一緒なんて嫌! まずくなる!』って言ったからね」
「……」
「アハハハハ。あれは面白かったですね。あの瞬間は。目が、絶望でしたもん。まあ、九素崎さm……あの九素崎があの場にいなくてよかったですよね」
「ほんとだよ……」
「俺がいない間になんて会話してんだよ」
女子って怖いわー。
「そうそう。カイとエルに聞きたいことがあってさ」
「おん」
「弾丸とか、想像構築とかさ、なんか読みが違うときあるじゃん? あれ何で? 終末の罪火とかは同じじゃん」
「ん? あーそれは、格の違いだな」
「格の違い?」
「はい。カイ様の言った通り、魔法やスキルの格が違うんです。ちなみに、魔法の名前を考えているのはカイ様ではないですよ?」
「え゛っ。違うの!?」
「ああ。創って、完成した瞬間に頭に流れ込んでくるんだ。決してイタい厨二病じゃねえぞ?」
「へ、へえ……」
「んで、格が高ければ高いほど、強い。もう純粋に強い。弾丸なんて、簡単に敵を貫けるくらい強いだろ? 相手が障壁を張ってても簡単に貫いたのは、そういうことだ。アップデートも、格というか、まあ他とはレベルが違うじゃん? 星一つに干渉できるレベルのことだからな。そういうことだ」
「なるほどねえ……分かったような、分からないような」
「まあ、なんか当て字系の魔法が創れたら、「あ、この魔法すごいんだ」とでも思ってくれりゃあいい」
「はぁ~い」
「それでは、私は別室にて仕事に戻るので、夕食をお食べになってください。カイ様って、魔法の続き創ろうとして毎回創れてませんよね。今回はゆっくり創ってきては?」
「そうだな。結構アイデアが湧いてきたんだ。毒竜にボコされたし」
「「……」」
ほんとにあの毒竜許さん。
この装備で行ったら簡単に勝てるかもしれないけど、なんかムカつく。
魔法で潰したい。
ああ、あと、魔力純度上げなきゃな。
純粋に魔力純度低かったら魔法が強くても押し負けるし。
というわけで食堂に来た。
前は個人の部屋に食事を持ってきてくれたのだが、これだけの人数がいれば一気に食わせる方が早いのだ。
まあ、超魔法があればすべての皿を一気に洗えるのだが。
ここはシェフを苦労させないようにしてやろう。
「お! 来たか、カイ! かっけえな! それに、俺たちの装備とは比べ物にならないほど強そうだな!」
「まあな。それで、京。どうだった? 勇者パーティー」
ちらりと周りを見た後、
「……念話カモン」
「あいよ。〈思念伝達〉」
『……いやー便利だな! これ』
『使ってるのは俺だけどな。それで? どうだったよ』
『んーありゃー駄目だな。鏡花先輩に鍛えてもらったり、お前の記憶を見せてもらったからこそ分かる。あれは戦いに使えない』
『ほー。そんなレベルか。人を見る目があるお前が言うんだから、間違いねえな』
『ああ。特に勇者なんて自分の持つ力に自惚れてるし、他のやつらも異世界異世界! って感じで浮かれてる。魔法だ! って感じだし。生物を殺すこと、敵と対峙することの重みが分かってねえ』
『そんな奴現代日本にいる方が怖えよ』
『お前は? 一般人じゃねえだろ?』
『やかましい。で、まともな奴は一人もいなかったのか?』
『いんや、三人ぐらいはいたな。ま、二人は顔見えなかったけど』
『へえ、なんでそう思うんだ?』
『体に纏う熱意が違った。この世界で生き残るためには、とか。死なないために、とか。自分の持つ力を最大限使おうと頑張ってたな。騎士団の指導じゃあ、成長が遅かったが』
『そうか……』
そもそも異世界に来てそんな志を持っている方がおかしいのだが、ちゃんとした心を持っている奴がいるならまだマシか。
で、勇者ね……ハア。
ホントあいつは……
勇者なんだからって押し付ける訳じゃねえけど、クラスのリーダーとしての責任を持てよ。
なんだかんだポテンシャルは一番高いんだし。
それにあいつの持つ固有スキル【勇者演出】ってのは、ホントにえぐい。
負けそうな状況になったら一時的にステータス三倍、そして因果律すら味方に働いて、勝率が一割上がるんだとよ。
例えゴミでも勇者(笑)だよね、ってのを表してやがる。
勇者演出……どっかのテンプレってことね。
負けそう! →力があふれる!? →うおおおおおっ! →勝った……! だろ?
ま、このスキルにも弱点が大量なんだけど♪
『ああ、それで、一人は分かったんだろ? コイツいいね、ってやつ。誰だ?』
『うーん。言っていいものか? いや、そういう意味じゃないんだが……勇者が面倒でな』
『は? どういうことだ? なぜ勇者?』
『……例えば、ここで俺が言うとする』
『おん』
『そんでお前が勧誘するとする』
『多分しないけど、おん』
『勇者が暴れる』
『なるほどなるほど。誰かわかったわ』
俺が引き抜くことで勇者が暴れると言ったらあいつしかいない。
昨日も廊下で暴れてたんだからな。
それであいつに止められてたんだし。
『せーのっ』
『『浅井未奈!』だろう?』
『やっぱお前分かってたか』
『当たり前だろ。テスト上位者舐めんな』
『開眼使ってないのに上位行ったのすげえよな。まあいいや。それで、勧誘すんの? しないの?』
『しない』
『へえ、それまたどうして?』
『勇者がめんどくせえ』
『理由が虚しい……人族の英雄のはずなのに……』
『今、俺の持ってる勇者へのイメージ最悪なんだけど。九素崎とか、天河とかで』
「そりゃお疲れ。でも可愛い彼女さんがいるだろ?」
「声出してるぞ。お前。あと、それ以上同じこと言ったら〈拷問〉な」
「すいませんでした」
拷問すら超えた拷問舐めんなよ。
あー、だがどうしたもんかな。勧誘か……アリだな。
浅井はかなりいいやつだしな。
現実が見れてるし、何より強い。
職業は誰にも見せていない。勝手に視た。
だってあいつの職業【魔聖剣士】だし。
魔なのか聖なのか分からないが、とにかくレア度が高い。
念話でレア度高いこと言っておいた。
『お前、魔聖剣士だろう?』
『えっ、なんで!? ……ああ、視たのね』
『ああ。それでな、簡潔に言うと、その職業レア度高いから絶対に誰にも言うなよ』
『えっ? いや、それはいいのだけれど、そんなにすごい職業なの?』
『そうだな。とてつもなく高い。記憶の一部を見せてやるから』
『……うわ……これマジ?』
『マジ。だから主に勇者には言うな。めんどくさくなるし、何よりお前に執着しちまう。いろんな意味で』
『……そのいろんな意味が知りたくはないのだけれど。まあ、分かったわ。口外しないことを約束する。その代わり―――』
って感じでな。
ちなみに、これを伝えたのは廊下で正義を引き摺っていた時だ。
そして、その代わり―――の後の言葉はこうだ。
『その代わり、私に刀術を教えてくれない?』
「は?」『……はい? なんて?』
この時、俺の脳内は「ん?」で染められていた。
さっぱり理解できなかったのだ。
俺は剣なんだけど。
『いやあー、さっきの記憶を見せてもらってくれた内容の中に、魔聖剣士は刀を使った方が補正がかかるってあったでしょう?』
『ああ、そうだな。だが、俺は剣だ。刀じゃない』
『知ってるわ。だけど、記憶を送るときに少しミスをしたのかは知らないけど、いくつかの情報も流れてきたのよね』
『どんな?』
『魔星武術の基本、歩式や、気の回し方。あと、いい感じの刀も欲しいな。あ、それと』
『げえ、まだあんのかよ……要求多いな』
『いいじゃない。こいつは私に任せたんだから』
『しゃあねえな。で? なんだ?』
『えっとね、鏡花先輩との間を取り持ってほしいの』
『…………は?』
キャー! みたいな声が聞こえそうだったが、ギリギリ理性を保つ。
??? ギリギリ理解できなかった。
いや、深い意味はないか。
『……それって、友達になりたいって意味だよな?』
『え、えっと……そ、そう! だから、よろしくね! じゃあ!』
『あ、おい!』
……切れた……
ってか、どうやって切ったんだよ。電話か。
……い、やあ……ちょっと、困るんだが。
真面目そうなやつだったのに……
いや、それもまた個性だから。俺は何も言わない。
「勧誘もありだな……だが、あいつは来ないぞ」
「へえ。それまたどうしてだ?」
「浅井は勇者の抑止力でもある。それを自覚しているからこそこっちに来るわけにはいかないんだよ」
「可哀そうなやつだな。ま、ならいいか。それはそうと、早く食おうぜ。腹減ってきた」
「自由なやつだな……まあ、そうだなー。じゃ、真ん中らへんの席を取ってきておいてくれ」
「分かったー……が、なんで真ん中? 別に他でもいい気がするんだが」
「いいからいいから。少し面白いことするだけだって」
まずは、晩飯を取りに行こう。
ここ、マジで何でもそろってるからな。しかも、あいつの好物もあるから、取っていってやろ。
というわけで、両手に金属のトレーを持ち、〈念力〉でご飯を置いて行く。
その光景にクラスメイト達は、あれは人間か? みたいな顔になるがガン無視。
京の座っている席まで持って行く。
「お、サンキュー。うわ、すげえ! この世界にも焼きそばあったのか!」
「……お前、変わってるよな。最高級の飯が並んでいるのに、欲しいのが焼きそばっていうな」
「うるせえ。俺はこれがいいんだよ。そういうお前は好き嫌い多すぎだろ。何種類あるんだよ」
「測定不能」
こんなふうに遊んでいると、さっき言った面白いことが来た。
ああ、面白いとも、めんどくさいともいうがな。
「おい! なぜ、お前が食堂の中心にいる! そこは勇者である俺の席だ!」
「そーなんだ! すごいね! だから何?」
「なんだと!? お前は村人だ! 俺は勇者だ! この絶対的な差を理解できないのか!」
「勇者はこの世にあと三人。しかも一世代ごとに四人生まれてくる。村人は俺一人。後世に生まれる確率はゼロパーセント。このレア度の差を理解できないのか?」
「~~~~!!!」
面白いこと。それはこいつをおちょくることだ。
あらかじめ浅井には手を出すなと言ってある。ついさっき。
んで、こいつを煽り続けたらどうなるか。結果はこうだ。
「もういい! お前は俺たちの癌だ! 今ここで殺す!」
「飯喰い終わったらな。あと、こんなところですんな。迷惑だろうが」
「うるさい! 正しいのは俺だ! 俺こそが正義だ!」
「お前、あだ名エスターにするぞ」
まあ、殺しに来ると思った。
ここ日本じゃねえし。さらに勇者だし。
俺がルールだ、を地で行っているこいつに何を言っても意味がない。
だから、
「あーご馳走様。で? やるのか?」
「そうに決まってるだろ! 殺す!」
「なんか最近血の気の多い奴ばっか相手してる気がする」
「来い! 聖剣!」
「……なんてもったいないことを」
最初に装備を配られたときに渡された聖剣か。
いやー、こいつに聖剣を渡すとかもったいないな。
ま、でも格の低い聖剣だからいいか。
そして天河の呼びかけに反応した聖剣が飛んでくる。律儀に廊下を通って。
「すげえ、持ち主と違ってルールを守ってる」
「これで俺は負けない! 死ね!」
「まあ待て勇者(笑)。少しくらい場所移そうぜ。そうだな、訓練場とか」
「うるさい! 怖気づいたか!」
「……〈拘束〉、誰か、ロープ持ってねえ? 引き摺って訓練場連れてくから」
「ちっ。ウオオオオオッ! フン!」 メキメキ……バキィッ!
「あっ、〈拘束〉解かれちまった。さすが勇者か」
「ちっ、訓練場に行く! お前も早く来い!」
「俺はずっと言ってんだろうが」
というわけで、訓練場へ移動。
周りのクラスメイト達も何だかんだついてくる。
さっきの争いも周りでずっと見てたし。
ん? 京のやつ、ちゃっかりポップコーンみたいなの持ってないか?
あいつ映画見る気分かよ……
「ふん! 勇者の名において、貴様を断罪する!」
「おい、俺が癌だったら、切除だろ。間違えんなよ」
「~~~ッ!!!」
というわけで、勇者対村人の模擬戦が始まる。




