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初装備がッ!

「ええええ!? なんでそんなにぐったりしてるの!? 服は綺麗だけど!」

「ボコボコにして、されて、洞窟出て、修復した」

「あーうん。なるほどね」

「なんで先輩は理解できるんですかぁ!? 俺なんも分かんないんですけど?」

「お前ボロボロだな京……お疲れ。あれ? 愛は?」

「あっちで気絶してる」

「あらら」


 うーんうーん、と唸っている愛を尻目に、俺は四人に記憶を見せる。

感想は……


「ヒュドラと戦ったのですね……そして五十層への扉も開いたと……まあ、ボスは何度でも復活するとはいえ、一度でも倒したというのは素晴らしいですよ」

「そいつはどーも。かなり瀕死だし、最後はラッキーだったけどな」

「うっわ……カイ、お前……よくこんなに大量の生物を殺しながら、平然としてられるな。弱肉強食の世界か」

「殺らなきゃ殺られるからな……まあ、結構蹂躙が楽しかったけどな」

「カイ……女子モード可愛いね!」

「オイ鏡花」


 なんかコイツだけ感想が違うぞ。

もっと違う観点があったろ。

いや、これが水無月鏡花か……


「さて、じゃあ装備を取りに行くのは少し後だから、時間つぶすか」

「どうやって?」

「そりゃあ―――――模擬戦だろ」

「「「え?」」」



今俺たちは、究極訓練場にて鏡花、愛、京と相対していた。

勿論、エルは入らない。()()()()からな。

だから、いまは三対一の模擬戦をする。

しかし、負ける気がしない。


「さ、始めようか」

「うん。そうだね。二人とも、いい?」

「ああ、うん……いいけどさ、勝てる気がしないんだけど?」

「私もそう思う……レベル十二になったばっかで、二百越えに勝てると思えないんだけど……」

「大丈夫だいじょーぶ! ……多分。三人でやればなんとかなるでしょ! それにハンデも貰ってるし!」


 鏡花の言うハンデは以下のもの。


・剣は使わない

・魔法も、殺傷能力の高いものはダメ(弾丸とか、終末の罪火も)

・全身にエルのデバフがかかっている(ステータス約三分の二)


 エルのデバフは、軽いものとはいえ結構強いからだいぶだるい。

体を動かすのがきついな。

だが……


「先手必勝! 〈烈火滅却〉!」

「どええええええ!? 先輩、いきなり燃やすんですか!? 死にますよ!? カイが」

「大丈夫でしょ。何だかんだ生きてるし」

「「え?」」

「いやーさすがに烈火滅却をいきなりぶっぱしてくるとは思わなかったな。ま、多少の回避で済んだが。じゃ、こっちからいくぞ? 右眼開眼、【限界突破】」

「来る……! キャッ!?」 タンッ

「えっえっ!? 先輩!?」 タンッ

「え? いきなりカイを補足できなくなったんだけど!? わっ」 タンッ

「あと二回づつね~早くしないと秒で終わるぞ?」

「「「なっ!?」」」 タンッ、タンッ!

「はい、お終い」

「あーカイ様。早すぎません? 搦型で終わらせましたよね」

「……なんか虚しい。そういえば、レベル上げしてないやつと戦おうなんて無茶だったのか……でも楽しかったな!」

「「「何もしてないけどね(な)!」


 まあ、相手の技量を知れて楽しかったかも。

大罪魔剣の入手に並行して、こいつらのレベル上げもしなきゃな。

でも面白かったわ。


「さて、カイ様。もうそろそろいい時間なので、向かいますか?」

「そうだな。京と愛はもう部屋に戻ってもいいし、ついて来てもいいし、どうする? ああ、正義たちのことを見にいってきてもいいぞ」

「んーじゃあ俺は見に行こうかな。多分弱く見えるけど」

「私も行く! ぬるま湯につかっている奴らを見て来る」

「お前らキャラ変わってんぞ」


 地獄は人を変える……

ん?


「待て、愛。そういえば、愛の職業って何なんだ?」

「え? 私は、【聖治癒師】ってあるから、回復役じゃないかな?」

「…………え?」

「…………待ってください、今、愛様【聖治癒師】とおっしゃいましたか?」

「え? は、はい。そう言いましたけど……」

「エル。やばいな」

「え、ええ。そうですね……」

「え!? 待って、どうしたの!? 治癒ってあるから、回復役なんでしょ!? ねえ~!」


 聖治癒師は治癒師の最上位職。

回復において右に出る者はおらず、聖女が本気で回復させるよりも治癒力が高いのだぞう。

しかし、戦争においてはそんなことより大事なことがある。それが……


「聖女よりも強力で、さらに広範囲のバフがかけられる。それも大人数に。どちらかというと、回復よりもそっちの方が戦争では役立つから、えぐい職業なんだよ。あ、ちなみに出現率は勇者と聖女と同じ」

「ええええええっ!? 私、そんなレベルのレア度だったの!?」

「いや、このパーティーなんなんですか。聖女、聖治癒師、現世界唯一の村人と、レア度がカンストしてるんですが」

「はっはっは。そりゃあ、いい光景見れてよかったな? エルのパーティーは、聖治癒師はいなかったんだっけか」

「……カイ様。その話はまたいずれ」

「……そうか。()()()

「えっ、えっ!? 何の話!? カイ! どういうこと!?」

「その話はまた今度な」


 ま、俺はもう知ってるが、こいつのことを考えたら言うわけにもいかない。

だから……


「装備貰いに行くか!」

「うえっ!? 今いきなり話題変えたよね!? ねえ!?」

「そんな愛みたいなこと言うな。あいつらもう勇者んとこ行ったし、俺たちも行こうぜ」

「う、うんぅ……くそう。まあいいや。行こうか」

「では、さっそく向かいましょうか。早く帰らなければ、夕食に間に合いませんよ?」

「まじか。急がないとな」


 と、さっそく出発。

こっちの世界に来た時より体力が増えているため、すごく近く感じる。


「いらっしゃ……おお、エル! 待ってたぜ! もう装備は準備できてる!」

「マモン! ありがとう! やっぱり、この二人は勇者たちと同じような国宝級じゃだめだもんね~」

「ハッハッハ! そいつもそうだな! って、んんん!?」

「どうしました?」

「お前、私の名前知ってんのか?」

「はい? そりゃあ知ってるに決まってるでしょう。七つの大罪の一人、強欲のマモン。能力は記憶模倣で、雑貨屋の経営をしており、七つの大罪のメンバーを主な仕入れ先としている。生まれは―――」

「分かった分かった! もうやめろ! エルは私の素性を知らないと思ってたんだがな……」

「ああ、そういえば言ってたな。最初に来た時。マモン殿? って言ったら、エルも知らねえはずだが……みたいなこと言ってさ~」

「うるせえ! さっさと装備の渡すから、こっちに来い!」


 半ば強引に話を打ち切られ、店の奥へと連れられて行く俺たち。

……最近は魔力探知をずっとしているから分かる。店の奥から、とんでもない密度の魔力があふれ出してる。一つは悪魔のような。もう一つは天使のような。

……これが装備品か……


「ほれ。こっちの黒い一式がカイ。お前のだ」

「おぉ~! かっけ~!」

「そんで、こっちの白いのが嬢ちゃんのだ」

「わっ! 天使みたい!」


 ……なんかさ、一週回って凶悪なレベルで強い装備が来たんだが。

鏡花もそれは同じだが、強すぎる。

勇者の装備が余裕で霞むくらいの装備が目の前に……


「うん? 一応性能解説してやろうか?

防御性能は素で勇者の四百レベルくらいの防御力はある。さらにそこに防御系スキルの重ね掛け、エンチャントもいくつかついているから、まあダメージは負わないわな。あと、素材に不死鳥の羽と世界樹の新緑を使ってあるから、たとえ破れても自動修復機能付き! 使用者への再生効果もついてるよ。ああ、ユニコーンの角と、血も入ってるから、魔力の回復速度も上がるし、そもそもの魔力量が増える。攻撃性能……といっても使用者への攻撃ステータス補正だが、素材に使われている邪龍の爪やブレス、銀翼魔龍の魔石で攻撃ステータス補正が五倍くらいになるし、紅月(ブラッドムーン)の夜に発生する魔獣の、フェンリルの牙やペガサスの翼で移動系ステータス補正も五倍になっている。もちろん、素材一つ一つにスキルを付与したり、エンチャントしてるからさらに効果は上がってるがな! この溢れ出る魔力を隠蔽することもできるからな。むしろそうするのが普通だと思うぜ。後はな―――」

「せい」

「あいでっ」


 怒涛の勢いで語り始めたマモンを、エルが全力のチョップで止める。

理解はできるが、いやまあ、なんかね?

この装備強すぎるだろ……

え? もう装備じゃねえじゃん。

この装備だけで魔王倒せるんじゃねーの?


「おっと、熱く語りすぎちまって悪かったな。だが、この装備は私たち(七つの大罪)の最高傑作だ。

それを、お前たちのためだけに創ったんだ。金は要らねえ。借りも意識しなくていい。お前らが、いつかその装備を着て最後の戦に出たとき、私たちの願いが叶ってくれるんなら、それでいいんだ」

「「……」」

「だからな、ただひたすらに強くなれ。誰にも追いつかれないくらい高く、強く。そして、己の道を信じて突き進め。誰かが間違っていると言っても、後ろ指を指されても、自分の慕う人が止めない限り、自分を変えるな」

「「……」」

「それが、この世界の『最善』になるだろうよ」

「……そうか。そこまで言われたらしゃあねえな」

「はい。分かりました。この誓い、一生違えません」

「ならいい。その言葉だけでもな」


 そう言い、マモンは豪快に笑う。

俺たちの何倍、何百倍、何千倍も生きているマモンに言われたことは、とても重みがあった。

確かに何を言ってるか分からなかったが、抱擁するというか、圧迫するというか。なんか知らないけど、こう、力というか圧倒的な存在感があった。

恐怖より畏怖。

これもまた、一つの力なんだろうな。


「ま、重い話はこれで終いだ! さっさと帰って晩飯喰って来い!」

「そうさせてもらうわ。ああ、前の昇華神剣の分。払っておくな」

「おお、ホントに払うとは……エルに工面してもらったのか?」

「ちがうわ! 自分で稼いだっての。この装備だったらあのダンジョンのどこまで行けるんだろうな」

「ちなみにカイ様。あの洞窟の最高踏破記録は百十二層です。冒険者初心者でも行けるので、よく使われています。まあ、ソロで挑む人なんていませんが」

「じゃあ、目指すは最下層だな!」

「……なんでそうなるの!? 今のエルの話的にせめて百二十層でしょ!? もう!」

「くははははは! そいつは元から戦闘狂だろう!? 暴れさせてやれよ! ははははっ!」


 ……そんな楽しい雰囲気で雑貨屋を後にした。

右を見てみると、エルが城と連絡を取っている。鏡花は眠そうだ。おい、まだ飯食ってねえぞ。

しかし……


「……最後の戦、か……地球の戦争だったら核ぶっ放したり、情報合戦したりだが、この世界だと核クラスの魔法合戦だったり、暗殺者による暗殺なんだろうな。だが、最後の戦ってのはなんなんだ?」


 やはり分からない。ならば考えるだけ無駄だろう。

今はただ、強くなることを求めて、ひたすらに足掻くだけだ。

真っ直ぐ自分の進む道を信じて。

それが、マモンの望んだ『最善』につながるのであればな。




シリアスムズイな……

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