スパルタ
投稿が月、水、金に戻ります。
「さて……みんな、まず、異世界来たてほやほやのお前らにはするべきことがある」
「な、なんだ?」
「できることならやるよ!」
「なに、鏡花は三十分でできた」
「よし、やってみようか! で、何をするの?」
「魔法を使うんだよ。おそらく、騎士団のほうでも多少色々教えられてから魔法を使い始めるだろうな」
「魔法! めっちゃ異世界感あるじゃん! よし、やろう!」
「それで、カイ。どうやって使うんだ?」
「うーん。まずは、魔力を扱うところからだな」
今、俺たちはまず俺の部屋に集まってもらっている。
どうやら、他の人から見たら、俺の部屋は他の人の部屋より広いみたいだ。000号室だからか?
まあいい。
まず、魔力を扱うところから始めるんだが……うーん。
俺たちも、この指輪があってようやくできたからな……よし。
「魔法のことなら鏡花に聞いて!」
「えっ……」
「というわけで、鏡花先輩。よろしくお願いします!」
「はぁ~~~~~!!!??? 今のはカイが教えるところでしょ! そもそもあれじゃん! エルの解説の記憶を見せてやればいいじゃん!」
「た、確かに……」
というわけで、俺の記憶を見せてやることに。
すると、
「お、おおおおっ、うおおおおおっ!!」
「ぜええええええいっ!!!!」
「うるせえ。静かにやれや」
「いやーだってさ? 気合入れた方がやりやすいじゃん?」
「そうだそうだ! そっちの方がやりやすいんd……あっ! やめ、て! あた、ま、グリグリしないでぇ!」
「お仕置きだ。それに、お前ら二人とも、もうちょっとで魔力でるっぽいぞ?」
「「ええっ!!??」」
「確かに。この二人、私たちと違ってすぐ靄でたもんね。私たちと違って」
「調整されてなかったのは、召喚者たちのミスだ。鏡花が根に持つことじゃない……と思う」
「いや、だってさ! 少し悲しいんだよ! 私たちが開けるのに苦労した謁見の間の扉、意外とあっさり開けるんだもん! もう!」
「……うん。あれは、まあ、あの、はい」
「でしょ!? ……まあ、今は指輪があるからいいんだけどね! 中指につけてるから!」
「やかましい! 今度はそれを持ち出してくるな! 地味に思い出して悶えてんだよ!」
「「……(え、こいつら付き合ってねえの?)」」
はあ、なんてめんどくせえやつらだ。早くくっつけよ、お前ら。みたいな雰囲気を醸し出している京と愛。まあ、愛の方は複雑な表情だったが。
そして、そんな夫婦漫才を二人が繰り広げている間、京は一つ考えていたことがあった。
「(……こいつの開眼の能力は、解析しても分かんないんだろ? もう、超能力なんて言葉じゃあ、すまないんじゃないか?)」
そう。カイの開眼能力についてだ。
記憶を見せてもらってから、ずっと気になっていた。
まあ、【時兎】の使用不可や解析不可ならわかる。こちらの世界の、いまだ解明しきっていない謎だからだ。
カイも、魔法同士で干渉でもしてるんだろ、という結論に至っていた。
しかし、【開眼】については別だ。地球産の現象だし、さらに言えば魔法ではない。いや、両目開眼のときの眼の紫の光は認識阻害の効果があったらしいが。
だからこそ、開眼は何なのかが本当に気になるところだ。
と、京が考えていると、
スルッ……
「おい、京! 魔力! 魔力が出たぞ!」
「あ! 愛ちゃんも出てるよ! へえ~綺麗な色だね」
「ああ。京は暗殺者らしく藍色。愛は……まあ、キュート(笑)だからピンク的な色」
「今なんか、キュートの後ろにつけたよね? なんかついたよね? ねえ!?」
「気のせいだ。それより、こっから魔法の訓練に入るぞ? ハイペースだが、魔力を扱い始めてスタート地点。魔法を使えて、ようやく始まる感じだ。そこからスキルだのなんだのを使い始めるには、さっさと下地を作るべきだろ? だから、今日のうちに色々終わらせるんだ。幸か不幸か、朝早くから九素崎が逃げたせいで、まだ時間はあるしな」
「うう……喜びを噛みしめることもできない……」
「心が……心が疲れてるんすけど。カイ」
「しゃーねえな……〈心癒〉、〈強制覚醒〉、〈治癒〉」
「おおう!? 一気に体が楽になったぞ!? それに、目も覚めたし……疲れが吹き飛んだ!」
「なんか、カイが最後に会った時より、どんどん人間離れしてるよ」
「ふふん! それをずっと近くで見てきたんだよね! 私が! そう私が!」
「何アピールしてんだよ。おい、二人とも。これで、また訓練できるだろ。魔法を使うのは、ほんとに鏡花に聞いてくれ。俺村人だから使えただけで、実際の使い方は分からんからな」
「あ~そうだったね。よし、二人とも、心して聞くがよい」
「「はいっ! 先輩!」」
「ふふふ。人に何か教えるの楽しい……」
あっちは鏡花に任せて、俺の方ですることがある。
えっと? 鏡花の部屋の壁はどっちだ?
んーっと、ああ、こっちか。
ピンポイントでこの四角を吹き飛ばせるかな。
「〈終末の罪〉―――」
いや待て。この部屋には結界が張られている。
終末の罪火を撃って、部屋の内部に行ったらあいつらが危ない。
鏡花はいるけども。
何かいい方法はないかな……あっ。
壁の四辺を斬って、この壁を完全に独立させる。
からのぉ~
「〈腐食〉重ねて、〈侵食〉」
シュワアアアァァァ……
「めっちゃ上手くいった」
「!? ちょっと! カイ、なにしてるの!?」
「え? 壁を腐らせて、徐々に消滅させてってる」
「え!? なんで!?」
「ああ、腐った壁くらいだと、侵食で消滅させられるんだよ」
「そうじゃないッ! 聞きたいのはそれじゃないっ!」
「あれ?」
どうやら間違えたようだ。
〈腐食〉は、文字通り腐らせる魔法。それは例外なく腐る。
〈侵食〉は、対象を喰い、蝕む魔法。〈拷問〉の中にも入ってる。蝕むとか言いながら、腐った壁くらいは消滅させられる。勿論、徐々にだが。
「というわけで、ここの壁を撤去したんだ。あれ? 鏡花んとこと、部屋のサイズ同じだな?」
「ほんとだ。でもあれ? こんなに私の部屋広かったっけ? ……じゃないのよ! え、なんで壁壊したの!?」
「いや、だってさ? どうせ、一緒に寝るんだったら、もう同じ部屋でいいじゃん! っていう発想に至って」
「「!!??」」
「いや……まあ、確かにそうだけどさ……」
「「!!!!!?????」」
やっば。やっばやばじゃん! もうやばいよ! と、頭の中で連呼する京と愛。
そりゃあそうだろう。同級生、しかも幼馴染、親友である。そんな奴が、自分の学校の高嶺の花と一緒に寝てる。そう、一緒に!
もう、やっばやばじゃん!
カァ~! と顔の熱くなる愛。
コイツも成長したんだな~という顔になる京。
…………
「……え? もしかして、俺がズレてる?」
「「とってもズレてるっ!」」
「~~~~ッ!」
「え、なに、カイと、鏡花先輩って同棲してんの?」
「……いや、毎晩俺の部屋に、ってか、布団にもぐって来る」
「「……」」
「やめて! そんな、変な人を見る目で見ないで!」
「変な人を見てますからね」
「ちょっと先輩……それはダメでしょ」
「う、うぅ……」
「え、鏡花。壁、直しといたほうがいい?」
「そのままでっ!!」
え、俺なんか変なことした?
どうせ毎日ベットに入って来るんなら、もう部屋繋げていいじゃん。
だって、元から一部屋高級ホテル並みの広さ、設備は整ってるんだし。
あーそしたらベットとかも動かさないとな。
「よし、鏡花の部屋の引っ越しはこっちで済ましとくから、鏡花達は先に訓練場に行って、魔法を使えるようにしといてくれ」
「……もう、どうにでもなっちゃえ」
「ああっ! 諦めたらだめぇ! 少しは常識を、教えてやってくださいよ!」
「いや、諦めろ愛。こいつは時兎家の一員だぞ? 常識なんてあったもんじゃねえだろ」
「おいこら。どういう意味だよ」
失礼な奴だな。時兎家全員やばい奴みたいないい方しやがって。
俺たちは常識良識共にあふれる一般人に決まってんだろ。
逸般人じゃねーよ。
「ま、俺はあと二つ三つぐらいやることがあるから。そっちは任せたぞ。鏡花」
「うん。じゃ、また後で」
「ああ、二人とも、頑張れよ?」
「うん!」
「当たり前だ」
「それじゃ、行って来いっ!」
そこで、俺は設置型の〈転移〉を使う。
訓練場にはすでに設置してあるため、いつでも転移できるはずだ。
うまくいったか?
……鏡花につけた〈追跡〉が訓練場前に行ってる。よしよし。
「さて……始めるか」
まずは、家具の移動だ。
重い家具は〈念力〉では動かせないため、身体強化し、力で動かす。
あっ、そういえば、鏡花にどんな構想がいいか聞いてなかったな……
『なあ、鏡花』
「ひゃい!」
「? どうしたんですか? 先輩?」
「いや、なんかカイの声が聞こえた気がして……気のせいか」
『ちげーよ』
「!?」
『念話だ』
『うーん……こう? できてる?』
『ああ。できてる』
『それで? 何の用?』
『いや、部屋の構想を聞き忘れてたから。どういう配置がいい?』
『えっと……説明しにくいんだけど』
『〈思念伝達〉重ねて、〈想像図面〉』
『わっ! 頭の中に部屋の見取り図が! これをイメージしていじればいいの?』
『そうだな。それで頭の中でいじくりまわして、俺に送ってくれ』
『了解! できたよ!』
『早いな』
忘れてたけど、この人頭いいんだった。それに想像構築なんか使うんだ。想像力豊かに決まってる。
それで? 配置はっと……
『んーまあ、了解した。大体移しておく』
『よろしくねー!』
……ふむ。まあ、この図面の通りにやろうと思う。思うのだが……
箪笥が隣は分かる。チェストが隣は分かる。机が隣はまあ分かる。だがな、
「ベットは隣じゃなくていいだろ……」
いや、確かにな? 部屋はつなげたよ? だけど、ベットは離れててもいいだろ。むしろそうじゃなきゃダメだろ。
え、鏡花って女子だよな? 一応確認だが女子だよな?
……ハァ。防御力が低すぎる……
「しゃーねえ。一応図面通りにするか」
ごにょごにょ言いつつ、なんだかんだ図面通りに部屋を作り直すカイ。
二分後……
「よし。できた。俺も訓練場に行こうかな? ああ、そうだ」
金払いに行かないとな。さすがに泥棒になっちまう。
『んっんー鏡花?』
『何?』 ボオオオオオッ!
『……いや、魔力純度上げたり、雑貨屋に金払いに行ってくるから、もう少し頑張ってくれ』
『分かったー』 ゴロゴロゴロゴロ……ピシャッ! バリバリッ!
『ぜんばい!? がびばびが! ぼばびべぶぶぅ!?』
『ギャー! 先輩いいいい! なんか炎が青色になって追いかけてくるうううう! なんか恨みでもあるんですかああああ!』
『こっちは大丈夫だから、行ってきていいよ』
『……そうか』
「おい、カイ! どうせ念話でもしてるんだろ! 助けてくれれれれれれれれれ!?」
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!? 先輩!? 絶賛炎上中! 燃えてるう!!!!! 〈水弾〉! ああっ! ぶっ飛ばされるぅぅぅっ!!!???」
『行ってらっしゃい?』
『……あい。分かりました……』
……こえええええ……
スパルタだ……スパルタだよ……
京が雷アバババされて、愛が追尾式の炎(高温の蒼ver)で焼かれている。
むごい。凄くむごい。
まあ、鏡花だから大丈夫だろう。
京も愛も、心が強いし。
どっかのなんちゃって勇者とは違うんだよ。
さ、俺も働かないとな。
「あ……金貰いに行かねえと」
少し抜けているカイだった。
今回の話は、別に俺の趣味で同棲させたわけではありません。断じて。




