なんで今来た!?
「え、マジで言ってる?」
「はい。大マジです。鏡花たちが帰られた後、忽然と姿を消しました」
「ええ……そこまで馬鹿だったんだ……」
「あー、確かに俺のつけた〈追跡〉が消えてる。おかしいな、隠蔽したはずなんだが。あいつ如きに見つけられるもんか?」
帰って休んでいると、エルが扉を破壊して入ってきた。
そして、話した内容は『九素崎が逃げ出した』ということだ。
……なんでぇ?
誰かの協力がないとそんなことできないはずだ。
それこそ、魔眼に特化した奴じゃねえと〈追跡〉は見つからないはずなんだが……
ああ、魔眼というのは、眼に何らかの傷を負うか、生まれながらに持ってるか……いろんな原因で特殊な能力が使える目のことだ。勿論、魔法だって読み取ることができる。
「ま、済んだことは仕方ない。国としてはどう対処するんだ?」
「え? ああ、もう一度勇者召喚なんて非人道的なことはできないので、二人に頑張ってもらうか、冒険者ギルドから優秀な人を引っこ抜くか……」
「? 待て、魔王討伐すんのか?」
「え?」
「え?」
…………
「何を言っているんですか?」
「いや、何でもない。続けてくれ」
「??? はい。えっと、さっきの話のように考えていたんですけど、先ほど神聖教会の方から連絡があり、『ジント様が次の勇者召喚する。的なことをおっしゃりました』ですって」
「はあ? そもそも、俺たちを召喚したのって、お前らだろ? なんでジントとやらが絡んでくる?」
「さあ……今の混沌の世をゲームとしてみているか……神聖教会が厨二病かだな」
「後者であってほしいですね。もう、人の生活を奪いたくありませんから……」
「……」
「え? 要するに、もうそろそろ新しい勇者が来るってこと? 一応私たちも行っておく?」
「ああ、そうだな。相手の混乱を抑えられるし」
「来てくれると助かります。場所は、恐らく謁見の間になります」
「そう、それが謎なんだよ。なぜ謁見の間なんだ? 異世界から勇者召喚って、いろんな複雑な魔法陣やら、莫大な魔力やら、いろんなものが必要だろ? もっと適切な場所はなかったのか?」
「初代王都の王が謁見の間に莫大な魔力を貯蔵しているので、それを使っていたんです。まあ、今回はジントが勝手にやるだけですけど」
「ああ、そういうことだったのね」
だから俺たちが最初に出たのが謁見の間だったのか。
なんかさ、異世界転移あるあるでさ、変な専用の部屋に出たりすんじゃん?
現実はこれだよ。
お、着いた着いた。
「おお、カイたちも来てくれたのか!」
「ああ、混乱を抑えるためにな。いつ頃来るかとかは分かっているのか?」
「それなんだが……恐らく、十分後だと思われる」
「十分!? 随分と早えな。ついさっき九素崎が逃亡して、ジントが召喚するぞーっていってから、数時間も経ってねえぞ!?」
「神聖教会に連絡してから、調整をしているのだろう」
「調整?」
「ああ、お主等はされておらんかったが、世界の差というものがあってな。最初はお主等も城門開けるのに苦労したじゃろう? それを無くすのが調整じゃよ」
「あー、この指輪が解決したやつか。ようするに、この指輪が俺たちの調整をしているんだな」
「? どこで手に入れたかは知らんが、そういうことじゃな」
「……」
エルの眼がスッと細まった。
ん? 何か魔法を使っているな。隠蔽されているから何かは分からないが、まあ、解析系の魔法だろう。
〈真理の究明〉も使えるえるだから、分からないことなどないだろうが。
だとしたら、今解析するもの……この指輪か?
指輪の話をしてからだから、何かあるのかもしれないな。
実際、俺が〈究明〉してみても、『測定不能』だったし。
と、考え事をしていると。
ピカアアッッ!!!!
「来たか。恐ろしいほどの魔力の奔流だな」
「まぶしいっ!」
「この短期間で二回も見ることになるとは……」
「よし、セリフを言わねば」
「身も蓋もねえな。王って」
そこで、光が収まり、勇者たちの姿が見えた。
……ッ!? 何!?
「おい、ここはどこなんだ!? なにがあった!?」
「え、え、えっ……だ、誰だ!! ……って、えっ!?」
「マジか……これは何の因果だよ。めんどくせえな」
そこに現れたのは、俺のクラスメイト達だった。
~~~~~~~~~~~~~~
「……オイ。まずは王としてあいさつだろ」
「あ、ああ。ようこそ勇者様方。私たちは、あなた方を歓迎いたします。この国、王都の王をしている、グルナと申します。以後、よろしくお願いしますぞ」
「おい、グルナ。ちょっと混乱しすぎだ。もっとわかりやすく喋ってやれよ」
「ぬ、しかし、お主の知り合いなのじゃろう? どう反応すればいいのかわかりまいて」
「……あの、俺たちはいったいどうなったんですか?」
「ああ、お主等は、この世界に勇者召喚されたんじゃよ」
はい、ここまでテンプレだったら、もうどんな反応するかわかる。
『ゆ、勇者召喚~!?』だろ?
ほら、言ってみろよ。
「勇者召喚か……まさかとは思ったが、カイがいるってことはそうなのか……?」
「え、マジで勇者召喚!? さいこーじゃねーか!」
「えーっ! ってことは、ここ異世界!? やったー」
「……えっと、カイ。何で君のクラスメイト達って、こんなに飲み込み速いの?」
「……こいつら、意外とファンタジーな頭してるんだった。ああ、それと、グルナ。何も説明しなくていいぞ」
「何? なぜだ?」
「強制的に分からせるからだ。〈思念伝達〉、重ねて〈即時理解〉」
すると、クラスメイト達はそろって、『うおっ』、『なんて?』、『そういうことか……』となっている。
「えっと、〈思念伝達〉で頭の中の情報を送って、〈即時理解〉で脳の処理能力を一瞬だけ上げることで、理解させるってこと?」
「そういうこと。だから、この国が今どういう状況か、俺たちはどういうことをしているかってのが分かったはずだ」
勿論、強くなるための方法なんて伝えていない。
そんなもの自分で調べろ。
っていうか、俺が調べた情報を一気に理解させたら、何人か廃人が生まれちまうからな。
さて……
「ええっと、エルさん、ですよね? このまま職業測定に行くのですか?」
「……いや、カイ様のおかげでその必要はなくなりました」
「カイの?」
「皆様。〈ステータスオープン〉と言ってみて下さい」
「「「「「ステータスオープン」」」」」
「さて……俺的には、誰がどんな職業かなんて一瞬で分かるが……暴動は起きないだろうな?」
さっき、『ええっと、エルさん、ですよね?』 って言ったやつが天河 正義だ。
どんな奴かというと、俺が九素崎並みに嫌いだ。だが、その面は大変むかつく男子の敵である。
自身の正しさを疑わず、「俺が正しいんだもんね!」を貫くスタイルがめっちゃ嫌いだ。
しかも、それを女子たちが後押しするためタチが悪い。
一応生徒会副会長。
まあ、カリスマ性と顔面的に勇者だろうな。
「ん? 俺、勇者って書いてあります!」
「……はい。正義様が勇者ですね。他の方は?」
「……おい、エル。全員分分かってんだろうが。俺たちの時はステータスウィンドがなかったから、あの水晶使うしかなくて知らせなきゃいけなかったけど、今はあるから〈真理の究明〉でも〈解析〉でもできるだろ」
「ああ、確かに。それなら、もう皆さんだけで交流させましょうかね?」
「それでいいだろ」
……ってか、俺等よりも扱い雑じゃね?
勇者見つけても、おお、あなた様が勇者様ですか! じゃなくて、『あ~はいはい、勇者ね。次の方どうぞ~』みたいだもん。なんでだ?
「だって、今はあなたの方が強いでしょう? それに、一応あなたたちの方が先輩にあたりますから。この人たちよりも敬意を払うんですよ」
「心を読むな」
「オッホン! いいんですか? みなさんめっちゃ話したそうですけど」
「……めんどくs……しゃーねーな」
「今、めんどくさいって言ったよね!? ねえ!? ちょっと!?」
ずかずか近づいてきて俺を問い詰めてきているこの女子。
猫咲 愛という。
ちっこくて、いつも明るい(?)ムードメーカー的な存在だ……と思う。
一応地球でも仲良くはしていたし、この対応もうなずけるのだが……うーん。
「お前さ? すぐ飛びかかって来るのはどうかと思うんだ」
「え? いいじゃん! いつも受け止めるか、避けるか、叩き落すかなんだから!」
「何で喜んでんだよ。Mなのか。そうなのか」
「ちがうわ!」
『いや~この夫婦漫才が見られるとは……眼福眼福』
『やっぱこいつら仲いいな……付き合ってんのか?』
「おい! 何を勝手に―――――」
「あ? 誰と誰が付き合ってるって?」
「「ヒイッ!?」」
俺と愛が付き合ってるとかほざきやがる男子生徒を止めようとすると、俺の背後からとてつもない不穏な気配が!
その正体は、鏡花である。
「ねえ、君たち。誰と誰が付き合ってるって言ったのかな? かな?」
「え、ええっと……そ、そのっ」
「あ、ああああ、あののののっ」
「「すいませんでしたぁっ!!!」」
「分かればよろし」
「いや、こっわ」
なんのスキルも使わずに、ただ眼と言葉で脅しやがった。
ってか、どこにキレてんだよ。
さっきまで、抱き着いていた愛も即離脱し、皆のもとへ帰っていった。
まあ、あいつ一応可愛いし、愛嬌(笑)があるから人気なんだよな。
ああ、それと、なんだかんだ幼馴染……かな?
「いや、まさかお前が異世界転移喰らってるとはなあ~カイ」
「そうなんだよ~あ、そん時地球ってどうなってたんだ?」
「ああ、現代のハーメルンか!? とか、オカルト系のやつらがテレビに出て大忙しだったよ。連日お前らのこと探してたしな」
「マジか」
今話しているのは唯一の親友といってもいい友達。
西凪 京。
俺、結構友達少ないから、こういう親友がいるのはすごくありがたい。
「んで―――異世界大好きで、特殊能力持ちのお前が普通に暮らしてるわけないよな。全て吐け」
「ちっばれたか。実は意外と暴れてるんだよな、俺。記憶の一部をコピーして渡そうか?」
「……お前、なんか異世界に染まってんな。そんな言葉ポンポンと出せるとか」
「ああ、勇者よりもはるかに強いしな、俺」
「これが自意識過剰って言えねえのが悔しい」
そうして、俺は記憶の一部を渡す。
強くなる手段を調べたんだよ! めっちゃ知ってるよ! ということも渡したので、こいつは俺が異世界に来てからのことをほぼ知っていることになる。
それくらいの親友なのだ。
「お、おお。お前、なんかすげえな。ってか、こっちの世界の人優しいのな。普通王族にタメ口とか、死刑まっしぐらだろ。いや、九素崎何してんだよ……」
「うーん、九素崎がいなくなったせいでお前たち呼ばれたし。まあ、ご愁傷様」
「うるさい」
そんな、京との会話を楽しんでいると、
「よし、決めた! 俺は魔王を討伐し、世界に平和をもたらす! この世界の人を幸せにするんだ!」
「「「「「!!??」」」」」
「……あのバカ……」
「カイ……お前さ、実は魔王討伐あんましたくねえだろ?」
「うん」
「即答かよ。まあ、記憶の中でも少し微妙なのが分かったしな。まあ、お前のことだ。魔人族側の人たちも救ってやりたい、とかいうんだろ?」
「さあな。ま、相手が助けを乞うんなら答えてやるさ。逆に、憎悪の刃を向けてきたら、即殺す」
「やっぱぶれねえな、お前。で? あの勇者はどうするんだよ。現実なんも見えてねえぞ?」
「……放置。基本的に俺と鏡花は九素崎とは別行動だったしな。それに、勇者(笑)なんかと一緒に鍛錬とかw 逆に弱くなるっての」
「(笑)は草。いや、お前すげえな。なんか、適応力高くね?」
「だろう?」
「それで……一部の狂信的な女子と、女子に格好つけたい男子が魔王討伐乗り気なんだが?」
「まあ、騎士団の訓練を一緒にする特別プログラムがあるらしいし、そこで何とかしてくれるだろ。俺みたいに情報を持たねえ奴らが魔王討伐は無理だ。それは先人を侮辱している」
「……なんか、少し怒ってんな。やっぱ、一代前……いや、九素崎も含めて二代前の勇者がお前のじいさんだからか?」
「まあ、それもあるな」
「他には?」
「監視者の努力を無駄にすることになる」
「そういうことね」
だからこそ、そんな軽々しく魔王討伐とか言わないでほしい。
そして、こいつは今、きっとこう考えている。
「人々を苦しめる魔王こそ悪! そんな奴を倒し、世界に平和をもたらす勇者、つまり俺こそが正義だ! へへへ、ついでに可愛い女子がパーティーに入ってくれればいいな~」
と。
……ちなみに最後の一文は悪ふざけである。
「はあ。一気にめんどくさくなったな。マジで」
「うう……ライバルが現れたかもだよ、カイ……」
「お前はお前でどうした!?」
本当にめんどくさくなった。
ほんと、キャラの名前考えるの上手い人尊敬する……




