ステータスウィンド
学級閉鎖が起こって三日暇なので、今週は水木金と投稿します。
「ほう、ステータスウィンド消失の原因が分かったのか? カイよ」
「はい。確証はないのですが、恐らくそうだと思われます」
「そうか……ところで、敬語を使ったりタメ口になったり、統一してくれんか? お主の楽なほうでいい」
「そうか。じゃあ、タメ口を取らしてもらおう」
「フッ……普通ならば敬語をとるはずなのだがな」
「べつにいいだろ? 選択肢を出してきたのはそっちだぞ?」
「そうだな。して、原因は?」
「ああ、この城の最上部。東の塔があるだろ」
「ああ。ときどき息抜きに使わせてもらっている」
「あっ! 時々いなくなっては仕事をしていないと思ったら、あそこに行っていたんですか!」
「おいエル。ブラック上司みたいだぞ」
怖いわ。
逃げ出すやつを探し出して、仕事させようとするやべーやつじゃん。
王だって忙しいんだろ。
知らんけど。
「いや、私だって同じくらいの量こなしてますよ?」
「え、なのにこんなに差が開くのか?」
「私は、五つの仕事を同時進行させますからね。効率だって段違いですよ」
「すげえな。【時の管……」
「さて! グルナ様も気になっていることですし、早く解決されてはどうですか!?」
「お、おう。そんで、その塔の中心にはアーティファクトがあるはずだ」
「ああ、確かにあるぞ。たしか、夜景を綺麗に見せる効果だったか」
「はあ、そう伝えられているのか。おそらく違う。本来の効果は、ステータスの可視化。つまり、ステータスウィンドを創り出す効果がある」
「どういうことだ? 何故そんなものが?」
「まあ、まずは行ってみようぜ」
「あ、ああ……」
俺の一言により、まずは行ってみることに。
すると……
「あった。これだな」
「ああ。中に黒い球体が入っていて、周りを立体魔法陣が囲っているという特殊な機構だ。うつくしいだろう?」
「そうだな。この立体魔法陣の意味は分かるか?」
「? 知らんな。どういう意味がある?」
「魔力循環。一度魔力を消費しようと、大気中から魔力を奪いながら発動し続けるものだ。そして、この中心の球体。これに込められた、概念は分かるか?」
「何も知らぬ」
「ステータスウィンド。これだ。ステータスは存在するが、ステータスウィンドは後付けの概念。この魔道具が世界全体にステータスウィンドを見せていたんだ」
「何と……」
「そして、十数年前魔王が復活した。それはグルナも知っているはずだ」
「ああ。そのせいで五年前の戦争が起きた。散っていったあやつらのことは忘れぬ」
「……そして、魔王復活の時。あいつは大気中の魔力を根こそぎ奪ってったんだ」
「……! 確か、一時期魔道具が停止したとか、魔力が使えないとかの問題が起きていたような……そうか! そのせいでこの魔道具も必要な魔力が供給できないため、ステータスウィンドが開けぬのか!」
「ああ。そして、ステータスウィンドは概念だ。概念がないのに覚えている奴がいるわけない」
「そ、そうか……ならば、なぜ儂は覚えていた!? そのことが分からぬ!」
「……俺から言うわけにはいかないな、エル」
「…………そうですね」
ふう。これで一件落着か。
さ、起動してステータスでも確認するか。
あ、ちなみにこの魔道具、設置したのは監視者だ。
最初にメンバーの一人が、『ステータス可視化したい』って言ったのが始まりで、メンバー全員が試行錯誤し、創り上げたもの。なかなかの代物だ。
ブン
「お、起動した。へえ。立体魔法陣が回転してる。こうやってエネルギへ変換してるんだな。なるほど」
「おお、開ける……ステータスが見れるぞ!」
「マジで!? 見てみよ」
時兎カイ
職業:村人
Lv:5
魔力純度:黄
称号: ……未獲得
固有スキル:時兎
スキル: ……未獲得
「へえ……これ、レベルしか表示されねえんだ。もっとステータス的な感じだと思ったんだが……まあいい、ところで、固有スキルってのはなんだ? エル」
「はい? ああ。生まれた時から既に持っているスキルのことですよ。例えば、聖女なら生まれた瞬間に【想像構築】と決まっていますし」
「それが魔法を創るスキルか」
「そうですね」
「ところで……時兎って書いてあるんだが……どういうスキルだ?」
「??? さあ……私も聞いたことありません」
「そうか……」
時兎家って、異世界でも特異的な存在なんだな。
あ、他の人のも、見してもらうか。
「グルナ王のは?」
「儂か? ほれ」
グルナ
職業:王
Lv:52
魔力純度:緑
称号:人をまとめる者、支配者
固有スキル:反乱支配
スキル:精神支配
「ほ~やっぱり、王なだけあって支配系のスキルが多いんだな。ところで……精神支配って、どういうスキルだ?」
ブワッ!
「ぐっ……そ、その殺気を締まってくれ。い、息がしにくい……」
「ん? ああ、悪い。だがな、俺たちを利用していそうならば、許すわけにはいかんのよ」
「せ、精神支配は、職業が王になり、し、称号に支配者が、あ、あった時に、に、得られるスキルでっ、一度も使ったことはっ、ないっ」
「そうか。ならばよい」
「うぐっ……ふう。普通ならば不敬罪で即刻死刑なのだが、異世界からきて不信感や、立場的なものがあるため、許してやろう」
「おお、ありがとう。悪かったな。少し怪しいと思ったら警戒しちまって」
「いや、仕方あるまい。それより、あの口調が変化したあれは何だったのだ?」
「キレただけだろ。それより、エルから宝物庫の中から一つなんか選んでもらえるって言われたんだけど、いいよな?」
「? エル、そんな約束をしていたのか?」
「ハイ……実は、カイ様の秘密が知りたくて。よろしいですよね?」
「して、その秘密とは?」
「エル、説明してやれ」
めんどくさいことは苦手だ。
それにしても、宝物庫か……あ、そうだ。
魔法を創るために必要な魔道具が入ってるはず。
それを貰って鏡花と創るか。
今日はもうそんな時間はないから明日かな。
ん、もう説明終わったのか。
「それで、何が欲しいのだ? 宝物庫内のものならば、何でも言ってみればよい」
「やっぱり、カイ様なら武器ですかね? 魔星武術の剣式の二刀流も見てみたいです」
「いや、武器じゃない。俺が欲しいのは、『魔法創奏台座』だ」
「ま、魔法創奏台座!? それまた何故……ああ、たしか魔法を創られるんでしたね」
「ああ。あれがある方が作りやすいからな。あるよな?」
「はい。確かあったはずです。今から行きますか?」
「ああ。頼む。それじゃ、グルナ王、また」
「そうだな。次は創った魔法を見せてくれ」
「分かった。じゃあまた」
次は創った魔法を見せてくれ、か。
これは何が何でも成功させねば。
鏡花がスキルを使えれば、俺が魔法を魔法創奏台座に当てはめれば創れる。
ぶっちゃけ、もうどんなものを創るかは決めてある。
おっ、着いた。
「はい、ここが宝物庫です。どうぞ、お取りください。どうせ、分かっているのでしょう?」
「よくわかってるぅ。んじゃ、いただくぜ」
「やっぱり、何のためらいもなく取るのですね」
「あげるって言われたものを、躊躇う必要なんてどこにある? それに、ステータスウィンド消失を解決したんだ。文句を言われる筋合いはねえだろ?」
「まあ、確かにそうですね」
「んじゃ、鏡花呼んでくるわ。もう魔法創りを始めたくてな」
「ああ、キョウカ様なら、すでにカイ様の部屋の前にいらっしゃいます」
「あ、まじで? 仕事早いな。分かった。ありがと」
「いえいえ。それでは」
「ああ、またな」
―――――エル視点
「はあ。もうあそこまで気付いているなんて……」
彼らがこの世界に来たときは、もっと気が楽だったのにな……
カイ。彼が図書館で得た情報は、とてつもなく重要なことだ。主に、監視者のこと。
彼ならば、そのメンバーの名前を何人か知っているだろう。
それは、彼が強くなるうえで必要な情報だったのだろう。私だってそう思う。だけど……
「知ってほしくなかったなあ……恐らく、彼ならばもう気が付いているだろうな……」
あの事を知っていると気付いた時から、少し冷たくしてしまっていた。
だけど、仕方ないじゃない。
……ああ、仕事に支障を出さないくらいには元気出さないといけないな。




