両目の代償
今回から、三日連続で投稿します。
今回の話を嫌に思う方もいるかもしれません。
今回は五千文字を超えました。
「いや、右目だけでもとんでもないのに、左目があるって言われて『ぎょええええええ!』ってなるわけないじゃないですか」
「ぎょええええええ!」
「いたわ」
「いましたね」
そんな驚き方ギャグマンガですら見たことねえよ。
ってか、エルはもう予想がついていたか。
んー時兎家の能力は、右目の【限界突破】だ。
だが、じいちゃんも父さんも持っていない能力。
それが……
「左目、開眼【超演算頭脳】」
「おお、左目が蒼くなった! えっと、これは元から青い左目が、蒼い光でカラコンでも抑えられなくなった、って認識でいいのかな?」
「そうだな。それで左目がかすかに青く光っているように見えるだろ」
「うん。それで、超演算頭脳の能力は?」
「脳の処理能力十倍。それだけだ」
「充分すごいけどね」
うーん。でもなあ。
身体能力十倍のほうが分かりやすく使いやすいしな。
脳の処理能力が上がっても、なにか便利かって言われても、んー、って感じで答えかねる。
ああ、でも、こんなことができる。
「鏡花、俺が喋り終わって三秒後に、五歩下がって右足を前に出してみろ」
「うん? わかった。1、2、3、4、5。右足を前に出す……って、えっ!?」
「ぐあっ! 何をしやがる! チッ! 追いつかれる!」
「流倒堕微。はい、大人しくしてような―」
タン、タン、タン
「ああ!? 何しやがる!? ひとまず逃げ……あ? なんだ……体に力が……」
「へえ、それが流倒堕微ですか。力の起点を突くことで、相手を行動不能にするのですね」
「ほお、よくわかったな」
「情報通ですからね。ところで、この方は?」
「さあな」
いや、少し離れたところで、『待て!』とか、『逃がすな!』とかあったからな。
まあ、大人しくしてもらおうかと。
うーん。少し大きめの鞄に宝石が詰められている。大方、泥棒かそこら辺だろ。
ま、それはこれから来る騎士団に任せるか。
「えーっと? カイはなんで三秒後がどうとか分かったの?」
「左目の能力。完全な未来予知とまではいかないけど、脳の中でも主に演算能力が上がってるから、それに近いことができる。もちろん、視たことだけだがな」
「え、すごくない?」
「人間卒業してますよね」
お、騎士団に男を引き渡したエルが帰ってきた。
ってか、おい。どういうことだ。
こっちからすれば、魔法使ったりする方が人間やめてるわ。
「いや、何言ってるんですか。図書館の本、数千冊を暗記したり、スキルなしに身体強化したり、簡易的な未来予知したり。そんな人、なかなかいませんよ」
「そうだそうだ! 力を一つよこせ!」
「本の暗記は鏡花もできるだろ」
「でも、身体強化はできない! あ、そういえば、開眼に使用制限ってあるの?」
「あるよ?」
「どんな?」
「一日に五十回しか使えない」
「充分使えるじゃん。一回の使用時間に制限は?」
「三十分」
「短いのかな? ……ん?」
「それって、一日中使えますよね?」
そうなんだよなー。
一日三十分が五十回ってことは、常時使用可能なんだよ。しかも、別に常に発動しようってわけじゃないから余裕もある。
なんて便利なんだ。
「人間の眼ってすごいねぇ」
「いや、キョウカ様。普通の人間はそんなことできませんよ!?」
「あはは、そりゃそうでしょ。カイだもん」
「なんだ、その信頼は」
「え? そもそも、録画の中で言ってたじゃん」
「何を?」
「『時兎家の血筋、舐めんなよ?』って」
「うるさい。地味に言ったこと後悔してんだよ」
「なんで? かっこいいじゃん」
「厨二っぽいから」
「なんかごめん」
少しだけ、本当に地味に後悔した。
格好つけたからいいんだけど、まあ、な?
記録に残って、いろんな人に見られたから。
ぐああ……これが一番効く攻撃かもしれぬぅ。
「あれ、カイ。そういえばさ」
「おん」
「その開眼能力って、両目で併用できるの?」
「…………」
「あれ? カイ?」
答えたくない。
凄く答えたくない。
答えたらほんとに心が死ぬ。
いや、直接的に死ぬんじゃないけど、記憶がよみがえって死ぬ。
「え、何? すごい代償があるとか?」
「うん。とてつもなく大きな代償がある」
「ええ? それほど?」
「どれくらいなのですか?」
「大勢の前でやったら羞恥心で死ぬレベル」
「はい??」
ああ、思い出してきた……
ダメだ! 思い出すな!
「やってみてよ。どうなるか見てみたい」
「ええ……キョウカ様……大きな代償があるっていうのに、発動させようとするのは……」
「でも、見てみたいじゃん。エルもそうでしょ?」
「はい。実は開眼能力のことを聞いてからすごく興味がそそられています。なんなら早く両目開眼しろ、とまで思っています」
「お前が一番やべえじゃねえか」
マッドサイエンティストかよ。急に怖くなったわ。
うーん。人が多いからな。嫌だな。
「やってくれたら、城の宝物庫から何か一つ上げますよ」
「よっしゃ、やってやんよ!」
「切り替え早!?」
「はい。交渉成立です。やって見せてください」
「うおー! ……でも、すごくやりたくない。あーでも! 宝物庫から欲しいっ! このジレンマッ!」
「カイ、もう決めたんならやってよ」
こいつらめ……
今俺がどんだけ苦悩していると思ってんだ。
しゃあねえな……
「ふう、両目開眼【超魔進化】」
「おお、眼が紫に! ……って、うん?」
「かっこいいっ……あれ? えっと……」
「うう……恥ずかしいからもう切っていいか?」
「いや、その、可愛すぎて……私、そっちの気はないのに、惚れちゃいそう」
「わ、私もです……」
確かに、両目を開眼させた。
それにより、先ほどの二つの性能を兼ね備えながら、それらをさらに昇華させたものになっている。
が、一つの代償。それが、
「……女体化?」
「うあああああ……それを言わないでくれぇ……こ、心が、ココロが……」
「いや、もう完全な女子ですよ。それも、すごく可愛い。キョウカ様よりも可愛いのでは……」
「うわあ、カメラがあれば連写してるよ! え、キスしていい!?」
「ダメに決まってんだろ」
「そんなあ……」
そう、女体化だ。
この眼を発動させたとき、確実に発生する現象。
黒髪ロング、(自分で言うのもなんだけど)顔は完全にアイドル並み。
体も、全体的に華奢だ。
声だって、多少女子用になっている。
「くうぅ……直視できない……その姿は、単純に両目の能力を併用するだけなのですか?」
「めっちゃ、普通に話してるじゃんか……いや、この姿は、さっきの能力が相互干渉することで、十倍のところが百倍になる」
「……つまり?」
「身体能力百倍。脳の演算能力百倍。これがこの姿の能力」
「充分恐ろしいですね」
「女の子としての見た目はそれが全てなのかな!?」
「少し落ち着こうか。そうだな、百倍、百倍だったらこの姿だ」
「えっと、どういう意味?」
「比率さえ変えれば姿も変わるって意味だ」
「私、もう死んでもいいかも」
なんでやねん。
おっと、つい、関西弁でツッコんでしまった。
実際この能力を使ったのは、五回だけ。
最初に試しで一回。できた……なぜ女子に?
二から四回目で訓練をした。やっぱ、女子は変わんねーか……あれ? 倍率いじれる?
そして、今。
姿を変えられるのに気づいたのは三回目だ。
「やってみてよ!」
「ここまで来たらもう自棄だ!【比率変化】!」
「うわぁ……かっこいい……」
「くうぅ……目の保養になる! ところで、その比率は?」
「身体能力強化百五十倍、脳の演算能力百五十倍。常に足すと二百になるようになる」
「へえ、便利なんですね。それにしてもかっこいい……」
身体能力強化側を上げればクールになる(女子)。
ちなみに、身体二百、演算零にすると、
「いわゆる氷の貴公子じゃないですか! ああ、成仏しそう……」
「……」
「あれ? キョウカ様!? 鼻血出して倒れてる! やっばやばやば!」
と、回復魔法を使っていたりしている。
演算能力を上げると、
「わあ、今度は可愛らしいですね! 少し小さくなりました?」
「なんて童顔……可愛らしい……」
「演算二百、身体零にするぞ?」
「ああ、ハイ……ッ!?」
「ふう、やっと落ち着いt……ッ!?」
「どうだ? 一番恥ずかしいんだが」
「百点満点中……一億点……」
「ろ、ろろろ、ロリィィィ!?」
約、六歳くらいの体になる。
しかし、演算能力が桁違いに高いため、今この瞬間にも、あらゆる物理演算、未来予知が行われている。
膨大な量の情報が入るが、演算処理能力も上がっているため、余裕すらある。
便利な能力なんだが……代償がでかすぎる。
使わないことを願うな。
「あれ、そういえば、超演算頭脳使った状態で本を読まないの? 普通にやって二冊同時の速読だったら、その状態だとに四百冊くらい同時に読めるんじゃないの?」
「読めるけど、手が足りない。視界に入るものだけしか計算も暗記もできないしな」
「なるほどねぇ~」
「そうだ。俺が女子になるときって、お前らどう見えてんの?」
「どう、とは」
「いや、変形するのかモザイクがかかるのか。いずれにせよ、どんなふうに変わるんだろうと思ってな」
「? そういえば、どうなってたっけ?」
「??? 覚えてないですね……」
「もう一回切ってから発動してくれませんか?」
「分かった。【解除】」
「??? やはり、覚えれませんね」
「もう一回発動するぞ?」
「はい。〈真理の究明〉」
「ッ! ……【超魔進化】」
「すごいね。まったく分かんないや」
「……そういうことですか。分かりましたよ。その眼の紫の光、それは認識阻害の能力があります。なので、私たちは覚えるどころか、理解すらできなかったのです」
「「そういうことね」」
すげえな。
これが魔法か。こんなことまでわかるなんて。
だが……〈真理の究明〉か。
たしか、禁忌魔法だったはずだ。
それを使えるだと……? ただの歴史の記録者が使えるか?
まあいいか。
「ああ、そうだ。このロリ状態になって気が付いたことがある」
「なに?」
「ステータスウィンドが消えた原因」
「え!?」
「……そうですか。グルナ王との謁見予約を取ればよいのですか?」
「ああ。それで頼む」
さて、ようやくステータスが見れるし、魔法も使い始められるな。
初級魔法使うとか言いながら使い始めが遅すぎてタイトル詐欺って言われるのが怖かったです。
ここから超加速していきます!




