荒ぶる
「え? カイさん。あなた、何普通に聖剣持ってるんですか? 聖剣なんて、一国でも多くて十本しか持っておらず、個人で持つなんて、そりゃあものすごく熟練の達人か、勇者ぐらいですよ!」
「え? 今この世界に勇者いんの?」
「えええええ!? いますよ! ザキポンさんです」
「それ以外で」
「いや、それ、って……まあいいや、一応いますよ。どこの国も取っていない山に」
「高いか?」
「高いですね」
「強いか?」
「現世界最強ですね」
「おおう……おん!?」
まてまてまて、どういうことだ!? 世界最強!? マジ!?
……あ、勇者だったか。
「っていうか、話をそらさないでください! なんで、聖剣なんてもの持ってるんですか! どこのものを盗んできたんですか! どこのダンジョン攻略してきたんですか! どこの神殿から引っこ抜いてきたんですか! 魔王城にでも入ったんですか! 商人から買ったんですか! そうだ、もうダンジョンしかない! どこにぶっ刺さってたんですか? 逆によく引っこ抜けましたね! いや、それともモンスターが落としたんですか? いつの間に外に行ってたんですか? そういえば、キョウカ様は、カイ様と一緒に帰ってきていましたよねえ! 何も知らないんですか!? どこでこれを入手したのか、知らないんですか!?」
「え、エル? それは、カイと合流した時には、もう持っ」
「そーですかそーですか! 二人だけの秘密ですか! はん! いいですねえ! 若い人は!」
「いや、エルって確か、十は」
「〈捕縛〉ッ!」
「あでっ!?」
「女性の年齢を言うのはタブーですよ? キョウカ様?」
「あい……」
こっわ。
いやなにこっわ。
急に豹変するやん。
鏡花のセリフ、二回ともインターセプトされたぞ。
いや、普通に怖いんだけど。
「いや、お前の言ってた店、『雑貨屋』にあったぞ? ってか、出してもらった」
「HA? ナニイッテンノ? アタマオカシインジャネーノ?」
「アーティファクトは扱ってないらしいが、聖剣はアーティファクトじゃなくて、聖剣だから。聖遺物じゃなくて、聖剣だから」
「AA、タシカニ、一部除キ、セイケンハ剣ダ……」
「とりあえず、喋り方戻せよ」
「はっ! 私は何を……」
「呪われてんのか?」
悪魔とか、魔王のそれやんけ。
ああ、なんか、AAになっとるし。
怖いわー。
だが、そこまでレアなのか?
いや、まあ聖剣とか魔剣はレアなの知ってんだけど。
普通に売ってあったから分かんねえ。
「まあ、聖剣の話は後でいい。今は勇者についてを聞きたい」
「別に後でよくないんですけど……はあ、まあいいですよ。現勇者の名は……」
「名前は?」
「……オウ・トキト」
「オウ・トキト……ときと・おう……時兎 おう……時兎?」
「え? え?? えええ???」
「どうされました? ん? そういえば、カイ様もカイ・トキトですよね? え? え?」
「「「ええええええ~~~~~~~!!!!!!??????」」」
??????????
「きゅう……」
「ああああああ! ショックでカイが倒れた!」
「ちょっとー! 今、この混乱を収められるのは、あなただけなんですけど!?」
「……あぶっ!?」
「あ、起きた!」
オウ・トキト……時兎 王……時兎なんて名字がたくさんいるわけない……加えて、王という名前は……
「俺のじいちゃんだ」
「は?」
「え?」
「えええええええええええええええええええええ!!!???」
「恐らくだがな」
「時兎王……俺にいろんなことを教えてくれたし、俺のことを護ってくれた師匠でもある。だから、こっちの世界で魔法が使えるようになって世界最強になってもおかしくない」
「え、ええ……それはさすがにないでしょ? 少し強いくらいじゃあ、勇者にはなれないだろうし?」
「少しねえ……それじゃあさ」
「うん」
「鏡花のおじいちゃんって、弾丸斬れる?」
「……は?」
「いや、だから、十メートルぐらいの距離があったら、ピストルの弾斬れるか?」
「いや、無理に決まってるでしょ! むしろ年齢関係なく無理だわ! 弾丸って時速何キロぐらいすると思ってんの!?」
「時速三百から、四百くらい」
「分かってんじゃねえかチクショウ!」
今日は、いろんな人が荒れるな……
でも、本当なんだ。
剣の名手で、刀よりも剣が好き。弾丸くらいは気合入れれば斬れる。
俺に武術を教えてくれた人でもある。
そして……
「エル。じいちゃんは何年くらい前に来た?」
「え~っと、そうですね。六年前くらいですね」
「六年前……やっぱな……」
「え、まさか……」
「ああ、うちのじいちゃん、六年前に行方不明なんだ」
「え!?」
「だから、この世界に召喚された時期とあってるな」
だとすると、俺に武術を教えた後(十二歳、中一の夏)、この世界に召喚され、勇者として頑張って、戦争を痛み分けで終わらせたのか。
バケモンじゃん。
え、一年足らずでこの世界に適応しちゃってんの? えっぐ。
「まあ、会いに行くか。とりあえず」
「うん。そうだね。行ってみよう」
「ええええええ!? なんでそんなに行動力が高いんですか! そんなにすぐ行こうなんて思いませんよ! しかも、その山に入るには資格が必要なんです!」
「どんな?」
「魔力純度のステージが白以上です!」
……ちっ
「まあいい。来週には行こうぜ」
「え? カイ、魔力純度上げる方法あるの? エルから、瞑想し続けて、生涯で一度上がるかどうかって言われてるんだけど」
「おい、エル。なんて嘘をつきやがる」
「えっ!? 私、嘘はついていませんよ!? そんなもの発見出来たら、王国から賞が渡されるくらいです!」
「……??? なんで? 図書館の深淵管理度数Ⅲで読んだぞ?」
「え? いや、私だってあの内容全部を暗記したわけじゃないですけど、そんな内容どこにも……あっ!? まさか!?」
「ああ、お前、散々暴れ散らしてただろ? この聖剣」
「まさか!? それ!? 魔浄聖剣ですか!!??」
「そうだ」
そんなにやべえのか?
いや、世界に一つしかない聖剣を普通に持ってるだけでやべえのに、どこかの国がもってるかもしれないやつを持ってる方がおかしいのか。
「そんな、オウ様の持つ聖剣の一つですよ!?」
「うぉうぉう。マジで?」
「マジで」
「ほんとにどこで手に入れたんですか!」
「雑貨屋!」
「もう!」
「なんか話ついていけないけど、聞いておけばいいよね。うん」
鏡花がすごく虚しい。
まあ、この話は王都でも機密情報を知りまくっているエルと、強くなる方法を完全網羅している俺じゃないと話せんわな。
「ってか、なんでその山、魔力純度白以上じゃねーとダメなの? 国が持ってないなら封鎖とかもできないし、じいちゃんの力で封じてるのはまあ、ありえそうだけど」
「……ここでは話せません」
「なんだと? ここは城の中。もっと言うと訓練場だ。防御性能は高い。これだけ広い上に、ぼっこぼこに荒れている」
「うへっ」
「結構、安全だと思うんだが?」
「ここじゃあ、魔力濃度が低すぎます」
「ああ、そういうことか」
「え? どういうこと?」
魔力濃度。簡単にいうと、その空間内の魔力の濃さだ。これが低いと、まあ、呼吸はしやすいし、魔道具だって壊れない。日本と同じ状態という認識でいい。
高いと、ある程度の適応力、魔力量、魔力純度が高くないと何もできない。外からの遮断性も高い。そのため、国家機密レベルの話をするときは魔力濃度が八十五以上の部屋で話す。
その話を鏡花にもしてやった。
そして……
「魔力濃度の高い部屋ってのは、神の眼、【神眼】も欺けるし、色々遮断できる。だから、神に聞かれたくない話をするには絶好の場所なんだ」
「ああ、そういうことか!」
「で? 行ってもいいのか? 究極訓練場に」
「行きましょうか」
「え? 訓練場と何が違うの?」
「まあ、訓練設備が整っている以上に、魔力濃度が九十ある。ちょうどいいだろ?」
「そうだね。じゃあ、行くの?」
「そうだって言ってんだろ!」
ふう。いつか、思考をリンクできる魔法でも作るか。
……にしても、時兎家から異世界行くやつ多くね?
書いてて時系列がこんがらがりそうでした。




