転生者の生贄 転生者を轢いた運転手の末路
「きゃーーーーーー!!」
女の悲鳴が聞こえる。目の前には一人の少年が飛び込んでくる。
トラックはもう止まらない。
ブレーキも間に合わない。これでは引いてしまう。
少年は自ら飛び込んできた。道路にいきなり少年は飛び込んできた。
酷い音が響く。人を轢き殺す…そんな感覚味わいたくなかった…。
俺の名前は泉 俊哉37歳。元トラックドライバーだ。
俺はあの日人を轢いた。被害者の名前は東 忍高校2年生。
どうやら家庭環境は複雑で身内はいなかったらしい。
ひっそりと葬式は行われた。
俺は1度警察に捕まったが、少年が自殺目的だったことが判明した。
一応無罪として留置場からは出ることが出来た。
しかし職場からはクビを言い渡された。
「人を轢いた人を雇い続ける訳にはいかない。」との事だ。
そのまま追い出されるように会社を後にした。
少しは貯金があった為、遠く離れた県のボロアパートに引っ越すことにした。
その時住んでいた所は人殺しなどと噂されてまともな生活どころじゃなかったのだ。
しかしそれも甘かった。俺の勤めていた会社が大企業だったせいもあってかネットで拡散されてしまった。
『大企業鶴亀運送のトラックが高校生を轢き殺す衝撃の瞬間!』という目撃者が俺の顔つきで拡散。
瞬く間に拡がり、時の人となってしまった。
そのせいでどこに行っても後ろ指を刺され続けた。
再就職も考えたが特に資格もなく、トラック一筋だった俺になかなか見つからなかった。
たまに見つかり面接まで行くも、人を轢き殺した男のレッテルが離れず落とされ続けた。
いつしか就職活動も諦めてしまった。
好きだった車の運転も轢き殺した感覚がトラウマになってしまい乗らなくなってしまった。
結局少ない貯金と生活保護を細々と削り生活する、引きこもりになってしまった。
そんな日々が続いてはや5年が経った。
俺は午後12時頃、12時を告げる市内チャイムで目が覚める。
部屋に溜まったビールの空き缶やゴミをかき分け、何とか洗面所に着いた。
顔を洗い目を覚ます。鏡を見た時に死んでるのか生きてるのか分からない人間が映っていたが気にしないことにしている。
カップラーメンを食べようと棚を見た時、カップラーメンは無かった。そういえば昨日切らしていたんだったな。
冷蔵庫は異臭を放つ何かが沢山入っているが片付ける気にはなれなかった。そんな冷蔵庫の中も何も食える物が無かったため、仕方なく買い出しに行くことにした。
服を着て、少し大きめのコートを羽織った。
今は秋だ。薄着しか持っていない俺には少し寒い。
スマホと財布を手に持ち、外に出た。スマホには着信履歴とメールが沢山来ていた。
多分友達だった奴らと身内だろう。心配して毎日連絡をくれるが、いつからか返信していない。
最初実家に帰ってきてもいいと言ってくれたが、流石に自分の家族まで暗い生活を押し付けたくなく縁を切った。
(今日何月何日だっけ?····生活保護の金振り込まれてるかな。)
そのままフラフラと近くのスーパーに向かった。
スーパーの近くには銀行もあり、お金を引き出せるだろう。
そのまま何事もなく銀行に辿り着き、1万円引き出した。
ボロボロの財布に1万円を雑に詰めるとスーパーに向かった。
中は何かセールでもしているのか人で溢れていた。
(うるさいな。)
人と人の間を抜け出して、カップラーメン売り場に来た。
すると、いつも食べていたカップラーメンが売り切れていた。近くには安売りセール対象商品と書いてあった。
そうか。みんなが買っていったせいで自分の分がなかったのだ。
なら別の所へ行くか。少し距離は離れているがいい運動になるだろう。
誰かがたまには外に出て綺麗な空気を吸えと言っていた気がする。
そのまま別のスーパーのところへ向かっていく。
しかし景色などどうでもよく、紅葉がとかも気にしなかった。
何も見ようとしずにフードを深く被り下を向いて歩いていた。
それがダメだったのだろう。前方不注意で人とぶつかった。
俺はそのまま軽い衝撃だったが倒れ込んでしまった。
体に力が入っていなかったんだろう。
「あっすみません。大丈夫ですか?立てますか?」
ぶつかった人が声をかけて手を伸ばしてくる。
「あ、…あ。」
人と話してなかったのか声が上手く出なかった。
申し訳なさを感じながら手を取る。男はそのまま立ち上がらせてくれた。
「お怪我とか大丈夫ですか?」
「あ、……いや…。」
上手く返答できない自分に苛立ちを覚えたが、すぐに消えた。
「あっ急いでるんでした。僕斉木 翔って言います!何かあったらここに電話してください!」
メモに電話番号走り書きすると青年はそれを俺に渡し笑顔で走っていった。
(忙しい人だったな。)
そしてそのままスーパーに歩いていった。
その後は特ににもなく、目的地にも着いた。そこにはいつものカップラーメンが売っていたので、それを爆買いして安いビールも少し買った。
「ありがとうございましたー。」
店員がそう言った。俺はどうせこいつも人を浮浪者だとか思ってるんだろうと思った。
人の目がやっぱり気になる。外に出るもんじゃないな。
このまま直帰しようと、外に出た時さっきの青年が歩いていた。
「あっ!見つけましたよ!」
そう声をかけてきた。そして青年は俺の方へ向かって走ってくる。
「いやぁさっきはすみませんでした。」
そう言ってきた。
そして青年は曇りのない笑顔のまま話を続けた。
「いやあのですね。さっきぶつかってしまった時何か落としませんでした?」
そう言ってきた。特に心当たりがないと思いつつコートのポケットの中を漁る。
スマホがない。全く使わなかったから気づいてなかったけど確かにスマホを落としていたようだ。
「さっきぶつかっちゃったところにこれが落ちてたんですよー。」
そう言ってスマホを差し出した。自分のだった。
「あ、…ありが…とう…ご、ござ……います。」
「いやいや全然。こちらこそぶつかってしまってすみませんでした。」
そう言って青年は快くスマホを渡してくれた。
「そういえばさっき電話かかってきてましたけど大丈夫でした?」
そう言われて着信履歴を確認した。友人だったやつからだった。
「だ、だ、だ…だいじょぶ……で、です。」
「そうですか!良かったです!緊急のお電話じゃなくて。」
この青年はいつまで俺と話しているつもりだろうか。
このやり取りは2分もみたいものかもしれないが自分には30分に感じれた。
「それでは。すみません僕も大事な用事があるので!」
そしてまた走り去ってしまった。
(ホント嵐のような人だな。)
俺はそのまま帰路に着いた。
家まではゆっくり亀のように歩いて帰っていた。
日差しが眩しく、動く気になれなかった。
そんな中スマホから着信の音が鳴る。
さっきからしつこい旧友だ。俺はため息をつきながら電話に出た。
「おい!俊哉か!?」
その声は何か焦っていた。嫌な予感がする。
「お前の母さんが…母さんが!」
その一言で俺は頭が真っ白になった。
「お前の母さんが今朝亡くなった。」
気づけば俺は公園のベンチで座っていた。
日は暮れ子供達が遊んでいるのを眺めていた。
「お前の母さんが亡くなった。死因は病気だ。末期の癌だ。」
その電話を受け俺は放心してしまっていた。
薄い記憶を辿って旧友の言っていたことを思い出すと母さんがわざと黙っていたそうだ。
俺に心配をかけたくないからってずっと抱え込んでいたらしい。
だから周りからしても唐突な事だったらしい。
それでも俺は母さんに最期まで親孝行という親孝行ができていなかった。
なんて親不孝者だと自分を祟った。
そんなこんなでずーっとベンチだ休んでいた。
もう何も考えたくない。このまま死んでしまいたい。
「あ、あの…。」
小さな声が聞こえたので目を開ける。
そこには高校生ぐらいの少女が立っていた。
なんで俺に声をかけたんだ。
「大丈夫……ですか?……あの……えっと…。」
大丈夫じゃないだろ。見ればわかるじゃないか。
俺はもう生きててもしょうがないんだ。
「…あ、あの…。もしですが…。」
少女は続ける。なんだこんな男にかける言葉なんて何も無いだろう。
「男の人を見ませんでしたか?」
「は?」
思わず声が出た。こんな見るからにやばい大人に話しかけてまさかの人探しかよ。
「この…人なんですけど。」
と少女はスマホの画面を見せてきた。
…身に覚えのある顔だ。俺にさっきぶつかった嵐のような男だ。
「私…この人と待ち合わせしてたんですけど……迷子になってしまってるみたいで…。」
「その……人なら……昼間……会いましたよ。」
「え?ホントですか…?」
少女は驚いた表情で言った。俺は黙って携帯番号が書かれた紙を彼女に渡した。
「こ、これが…電話番号です……。その…人の……。」
「ありがとうございます!」
そう一礼すると少女は電話を掛けながらどこかに歩いていった。
俺はそれを気にすることも無くまた植物のようにボーっとしていた。このまま静かに眠ろう。
長い長い時間が経ったのだろう。辺りは暗くなってしまい、もう誰も公園からも居なくなり静かな空間になっていた。
ふと誰かの足音がした。
警察だろうか。警察だったら殴りかかれば留置場にでも行けるだろうか。
殺せば死刑だろうか。
しかし予想は外れ以外にもさっきの2人だった。
「まだいるよ!?」
「大丈夫ですか!?」
2人は俺を見るなり近づいてきた。
「凄い冷たい。このままじゃ風邪ひいちゃうよ…。」
「家は近くですか?送りますよ?」
「も、もう……いいんだ。ほっといて…くれ。」
俺は震える声でそういった。しかし2人はそれではダメと判断したのか2人で俺を連れていこうとした。
「近くに僕の家があります。そこに連れて行きますね!」
そう言って俺を2人は無理矢理運び始めた。
俺には抵抗する余力すら残っていなかった。
「花梨。お風呂の準備をしてくれ。給湯器あるからスイッチ押してくれれば溜まるから。」
そう青年は言って俺を椅子の上に座らせた。
そのまま青年達はパタパタと動き、色々を準備してくれていた。
お風呂ができたからかお風呂に入ってもいいそうだ。
俺は言われるがままお風呂に入った。
そして久方ぶりにゆっくり湯船に浸かった。
そのまま湯船でウトウトしていると、誰かが帰ってきたようだ。
「キャップおかえりなさい。」
「…誰かいるのかい?」
「実は………。って言うことで家で保護してるんですよ。」
「まったく君たちは…。どんだけお人好しなんだよ。」
キャップと呼ばれている人物は、2人のお人好しさに落胆していた。
それは俺も思うことだ。もしかしなくても邪魔だろう。
お風呂から出たらすぐ家に帰ろう。
「とりあえずだ。君達は少し危機管理が足りない。」
などと説教されている。
「とにかくだ。事件と関係ないお人好しをする時間はないの!」
「はーい。」
2人の気の無い返事が聞こえる。
話は終わったのだろう。今がチャンスだ。
「す、すみません…。そろそろ帰ります。これ以上は迷惑だと思うし。」
そう言って着ていた服を着て外に出ようとした。
その時、キャップと呼ばれていた背丈の小さい女が声をかけてきた。
「君凄い臭いよ。」
何を言っているんだ。俺は風呂に入ったばかりだぞ。いつもより臭くないはずだ。
「すごく臭い。死臭がする。」
「死臭……ですか?」
「…気をつけて帰るといい。」
「は、…はい。」
そして俺は外を出た。部屋の中から3人の話が聞こえてくる。
「キャップ〜。素直に言ってあげましょうよ。」
「全くこーゆー所キャップの悪い所だよ。」
「うるさいぞ!お前ら。これでも気を利かせたまでだ。」
そんな微笑ましい3人の話を聞き、少し気が晴れた。
家に帰って寝よう。
寝る前にスマホを確認しよう。
『相次ぐ青少年の自殺。裏ではなにかの陰謀か!?』
記事を見るに、中高校生や大学生の自殺が相次いでいるらしい。
ここ数年の自殺の事件がピックアップされている。
トラックに轢き殺される。電車での飛び込み。飛び降り、不審死。たくさんの事故、事件があったようだ。
確かに異様に伸びている。
俺のあの……。いやいや考えるのはやめよう。
どうせ都市伝説だ。
この社会青少年には生きづらいだけだろう。
今日も酒を飲んで眠りにつこう。
あっ荷物どっかに置いていたようだ…。
おいマジかよ…。
次の日
気がつくと俺は外に出ていた。
荷物を置き忘れ、食事が満足に取れていない。
フラフラと歩きながら道を眺めていた。
ふと、反対側の車線に昨日の2人が走っているのを見つけた。
その時何を思ったかトラウマの光景が浮かんできた。
黒い服装をした奴が彼らとすれ違う瞬間だ。
気づけば足は動いていた。
プーーーとトラックの音が聞こえる。
青年が黒服に突き飛ばされる。
少女が悲鳴をあげる。
トラウマの光景だ。クソ何やってんだ俺は。
気づけば青年を突き飛ばしていた。
クラクションの酷い音がする。俺は終わった…のか。
ずる…ずる…。
引きずられる音がする。
ずる…ずる…ずる…。
背中が擦れて痛い。
ずる…ずる…ずる…。
どん。どこかに投げ飛ばされた。
「褒めてやるよ。俺の行動を邪魔したのはお前で最初だ。」
「何を言ってるんだ。」
「おう意識があったんか。」
口が血の味がする。どうやらすごいボコボコに暴行されていたようだ。
力が入らない。こんな事ならご飯食べとけばよかった。
「運が良かったな。生きてたぞてめぇ。」
「何が……だ。」
「冥土の土産が聞けるんだ。幸運だな。」
「何を言って……。」
「お前…5年前のトラックの運ちゃんだろ?俺の初仕事の相手だったから覚えてるぜ。」
「何を言ってやがるんだ!」
「そうカッカすんなよ。もう余命ないんだから。」
こいつの言ってることを理解しようとしない。脳が働かない。目の前のこいつを取り除きたい。
「まぁまずだ。お前異世界転生物を知っているか?」
俺は首を振る。殺意を向けた目で睨みながら。
「それが今の世の中流行ってるんだよ。若いヤツらとかにね。」
「それがどうしたんだよ。」
「何と!実は!異世界転生は可能でした!」
パンパカパーンと彼は口で言った。
「で、俺はその導きのお役目。」
「つまり…。」
「この青少年連続自殺事件はみーーーんな異世界転生をしたくて自殺したってこと。」
何を馬鹿なこと言っている。そんなお話みたいなこと出来るわけないだろ。
「実は俺たち…異世界の方とふっとーーーいパイプがあるんよ。それのお陰でね、こっちの世界の人をあっちの世界に送ることができるんだよなぁ!」
なんか怪しいセールスみたいなテンションだな。
「少し悪ノリしたがそういうことだ。お前は運がなかっただけだ。ただ自殺って事にしてやったのは俺らのおかげなんだぜ?」
「え…じゃあ…俺は……。」
「あぁ。普通に人を轢いたんだ。押された人だがな。」
…。
「なぁ今どんな気持ちだ?お前は一人の未来ある少年の命を奪ったんだ。まっ転生したんだけどな。」
「……。」
拳に力が入る。ギリギリ動ける。やれる。
警察に電話しよう。精一杯時間を稼ごう。
「ま、異世界転生したところでそこが平和とは限らないけどな。」
男は何か思うところがあるようだ。
よし頭がしっかり働き始めた。多分火事場の馬鹿力だろう。
まずここは、廃工場だ。近くには…細事した部品と…武器になるものが無い訳では無いな。
鉄パイプがある。それで殴りつければいいか。
「そう言えば言ってなかったな。異世界転生したいものは証拠っつう物を見たがる。」
距離は数メートル。行けるか?行ける。しかし不意打ちはこれじゃ無理だ。
細々とした部品…これで気をそらそう。
「お前もよく見とけよ。これが『魔術』だ。」
よし、今だ。死角の中で思いっきり部品を投げつける。
すると部品はカランカランと遠くで音が鳴る。
「はっ!」
火の玉が音の方へ行ったかと思うと大爆発した。
非科学的だ。だけどそんなのはどうでもいい。
鉄パイプを握りしめ男に殴りかかった。
「バカか。」
呆気なく蹴り飛ばされてしまった。
胃液が逆流して吐き出した。
「甘いんだよほんとに。」
スマホを手に取ると警察に電話をかける。
今のご時世逆探知とかで捜索は簡単なはずだ。
ガチャ
「すみません助けてください!襲われて…」
また蹴られた。
そのまま転がっていく。男は電話を切る。
「バカなのか?ほんとに。」
この男達は自殺偽造が完璧だった。逆に考えれば警察にも根回ししてある可能性がある。
その発想まで行かなかった。
「お前さぁ。ホントなんなの。落ちる所まで落ちても一丁前に足掻くんだな。」
もう一度蹴られる。思わず血を吐いた。
「はぁ…せっかくの幸運をこんなのに使うなんてな。運が無かったわけだ。」
男はため息を着いてスタンガンを手に出した。
「安心しな。お前に転生権はないからな、死んでもあの世行けるぜ。」
そのままスタンガンを近づけられる。全く最悪だ。
ガタン………………………ゴトン………………。
遠くからなにか地面越しに響いてくる。
ガタン……………………ゴトン………………。
だんだん近づいてきてないか?
ガタン…………………ゴトン………………。
何が起こってるんだ?思わず目を開ける。
すると俺は線路の上で手も足も拘束され、口には猿轡が。
体も何かにぐるぐる巻きにされ芋虫だった。
ガタン………………ゴトン………………。
列車が来ている音だ。嘘だ嘘だ嘘だ。
ガタン……………ゴトン………………。
カンカンカンカンと無慈悲に遮断棒は降りてくる。
周りには誰もいない。
ガタン…………ゴトン………………。
近い。もうくる。逃げられない。
嫌だ!まだ死にたくない…ここで轢かれたらまた誰かの人生が!
ガタン………ゴトン………………。
頼む止まってくれ気づいてくれ!
ガタン……ゴトン………………。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
ガタン…ゴトン…。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
まだ…俺は…救われて…ない。
キィィィとブレーキ音間に合わない。
この世界に救いなどない。奇跡はもうない。
後日談
「岐阜県△✕市の○○の踏切で泉俊哉さん37歳無職が午後11時頃電車にはねられ死亡しました。
踏切の線路の上に暴行を加えられ、布でぐるぐる巻きにされたまま放置されていたそうで、警察は犯人の動向を探っています。」
ニュースはそう告げている。
「あーあ本当に死んでしまいましたねー。キャップ。」
と花梨は言った。
「……そうだな。」
キャップは少し暗い顔をした。
「キャップ…。俺あの時…正しかったのでしょうか。」
「お前は正しかった。翔。」
…あの時俺は何者かに突き飛ばされた。
しかしその不意打ちは花梨によって助けられるところだった。
僕の服を引っ張って助けようとした。あの時の判断能力はすごいと思った。
しかしそれは錯乱して走ってきた彼によって邪魔された。
僕を突き飛ばした…多分助けようとしてくれていたのかもしれない。
そのまま花梨と僕は川に突き飛ばされた。
彼は「俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない。」とずーっと繰り返していた。
完全に精神が参っていた。多分僕達のことを見てトラウマか何か再起したんだろう。
しかしそれを僕達は構わず犯人を追った。
それでもそんな簡単に見つかる訳もなく結局見失い、戻った時には彼も居なくなっていて家も分からないから探す宛てもなく、拠点に帰ってきていた。
「キャップがちゃんと素直に言うべきだったんですよ。」
花梨は川に落ちたせいで、風邪をひきくしゃみをしている。
キャップは励ましはするがただ雰囲気が暗い。罪悪感を感じているんだろう。
そういう僕も罪悪感で潰されそうになる。これが初任務とか胃が痛い。
すると拠点のドアが開いた。
「やーやー。お通夜みたいな雰囲気醸し出しちゃってぇー君たち。」
「なんだ…。サボりか。今更来てどうした。」
サボり副キャプテンは少しノリノリで言った。
「せーーっかく俺がやる気出したってのになんだいなんだい。…あーこの事件か。お前らの知人か?」
「ちょっとした恩人。」
花梨はそう言った。
「ふーーん。まっ俺らの役職上クヨクヨしてたってしゃーないじゃん。ま、線香ぐらい上げてやりに行きな。」
「お前なぁ。」
「キャップそんな事より。…例の犯人目星着いたぞ。」
僕達の任務はまだ終わらない。
読んでいただきありがとうごさいます。蓬漫充と申します。
初投稿で結構攻めた話を書きました。色々なお話を読ませてもらっていた時ふと、「転生者轢いた運転手ってどうなるんだろう」と思い、そんな運転手のリアルさと自分の作品らしさを合わせて作ったものが今回のものとなります。
面白く読んでいただけると幸です。
これからも適当に短編や書きたいなー!っと思ったら書いていきます。よろしくお願いします!