相生雪乃1:気がついたら悪役令嬢に生まれ変わっていました
「あれ……私、なんで生きてるの……?……えっ?しゃべ、れる……?」
私……相生雪乃は、小さい頃に一度だけ泊まったホテルのようなフカフカのベッドの上で目が覚めた。
混乱したまま、動かせる範囲だけで首を動かしてあたりを見る。点滴も、体中を蝕んでいた痛みも無い。
ゆっくりと上半身を起こし、剃りあげたはずの髪が流れ落ちるのを感じる。手に取ったそれは、栄養を失ってカサカサだった私の黒髪じゃなくて、黄金をそのまま髪の細さに引き伸ばしたような深い輝きの金髪だった。
「も、もしかして……!」
思うとおりに動く体を使って、ベッドから降りて部屋を見渡す。
お姫様の部屋と言っていいような、豪華で広い空間の中にある鏡の前に立って私は確信した。
「い、異世界転生……ほんとうに、本当にあるものなんだ……」
鏡の中の姿を見ているうちに、じわじわとこの世界で生きていた記憶も蘇ってくる。
だけど、それを自覚するたびに鏡の中の美しい顔から、前の私のように血の気が引いて行く。
「……わ、わたし……アマンダに生まれ変わっちゃってる……!!」
気付けば私は『乙女の百合と騎士の薔薇』という作品の悪役令嬢、アマンダ・ローレッタに生まれ変わっていた。
「うぅっ……好きな作品ではあったけど、よりにもよって……」
相生雪乃としての私は、病魔に侵されて死んだ。
最後の最後は動けなくなってしまったけど、そうなる前はよく本を読んでいて……少しだけ、刺激の強い物も読んでいた。
そんな刺激の強い方の作品が『乙女の百合と騎士の薔薇』だった。同性愛をテーマにした作品で、主人公とその婚約者はそれぞれに同性の恋人がいて……最終的には家の契約として結婚するけど、それぞれの恋人を結婚させて互いに家族のように身近に過ごすという流れのものだった。
そんな作品の悪役が、高位貴族の令嬢アマンダ。
自身のとりまきの中で序列を作っていじめて遊ぶという悪趣味かつ卑劣で極まりない人物で、主人公と恋人はアマンダの気に入らない事があれば酷い辱めを受ける。
その過程で何度か恋人関係だという事がばれかけるものの必死に隠し、そして隠すたびに『なぜ私たちの関係を隠さねばならないのだろう』と傷つきながらも絆を深めていく。
最終的にアマンダは主人公達以外にも凶暴性を発揮していたために、諸々の悪事とまとめて断罪され一家まるごと流刑地におくられていたはずだ。
「……ということは、あの二人付き合ってるのよね……う、うひゃぁ~~……」
脳裏に浮かぶのは、私がとりまきとして引き連れている子のうちの二人。
そういえば仲がいいというか、かばい合う素振りがあった。
それを指してからかっていたアマンダの記憶もばっちりある。
「……と、とりあえず、もうみんなに無茶ぶりとかしない様にしないと……それに、そのあたりの事情も漏らさないように注意して……あとは、なによりも」
折角生まれかわった事に気づいたのだし、未来の記憶もちょっとある。
……アマンダの最大のやらかしかつ、断罪の直接の原因はまだやった記憶が無い。
なら、私がこれから先やる予定の悪事をしなければ、少なくとも私の断罪は回避できる……はず。
「家族の罪を把握してないし、うまく行くかはわからないけど……少なくとも、好きな作品のみんなをいじめたくはないもの」
心を新たに、小さくガッツポーズを作る。
私の断罪回避と、あわよくば百合薔薇両カップルに幸せな人生を送らせたい計画がこうしてはじまったのだった。
初回ですのでごく普通の悪役令嬢転生何とかしよう系