表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

IsYYsN

作者: KOU

きっと誰もがそう思ったに違いない。日本がこんな事になるなんて。2020年コロナが蔓延し、それから5年、、

今日本にいるのはコロナによる症状が出ない人間とコロナにかからない人間、そしてなんとか病院で完治した人間とに分かれる。コロナに、耐性のない人間は特殊なマスクをして生活する、そのマスクさえすれば問題はない仮に発症してももうワクチンがあるから大丈夫だ。なぜか日本だけこんなに極端な分類がされてしまった。日本以外の国は蔓延し、鎮静し、今ではインフルエンザのようなカテゴリーで落ち着いているのだが、日本人だけはなぜか先に話した分類が定着してしまった。なぜか、海外に行くと耐性のない人でも発症にはいたらない、日本人の耐性のない人が日本国内に居ると特殊マスクが余儀なくされるのだ、、


2020年まだ中国でコロナが騒がれ始めた頃、僕は日々自分が生きる事に精一杯で、人様に想いを巡らせるなんて小指の爪ほども思うことはなかった。週休一日、始発に乗ってしっかり働き帰宅して自分の世話をして気づくと寝る時間そして仕事の時間。そんな日々の繰り返し。なんとか暮らしていける給料、やりたい事はあっても時間も金もない。人様に迷惑かけないようにとだけ、気をつけていきている。

もともと人付き合いが苦手で歳を重ねやっと、孤独と折り合いがつき始め、独りで過ごす事に慣れその中で楽しみをみつけながら生活している。寂しいと思う時もあるが、自分の時間を好きに過ごすのが好きだ。


今日もいつもどおり電車に乗る、マスクをした人としてない人が半々ほどか、そろそろ花粉の時期、僕もひどい花粉症を耳鼻科の薬で抑えている。マスクはした方がいいと言われたが基本しない。ランチの準備をし、小休憩、ランチ営業、休憩、カフェ営業、ディナー営業と小さい飲食店で働く僕はなかなか忙しい。同じくらいの時間働くアルバイトと同じような給料で、ただ社員と名のつくだけのような職場、先輩が一人、バイトが二人、金持ちの道楽でやってるオーナーがたまに顔を出すそんな職場だ。毎日毎日変わらぬ日常、ほぼ毎日来る常連客、近所のママ友グループ、学生、サラリーマン、見た顔や見ない顔そんな注視することもなく同じ仕事をこなして行く、皿を割ったり、注文を間違えたり、発注を間違えたりそんなこともたまにある。


横浜の港のでかい船にコロナ感染者が居て大変らしい。一日に何度もこのニュースが流れ続けている。

マスクをしてる人が増えた気がする。今週の休みは実家に帰って、親の手料理を食べよう。僕は実家が好きだ、正確には好きになった、実家を出て親のありがたみをしみじみ感じた。あまりいや、大変迷惑をかけた学生時代、お前も大人になれば分かると、あるあるな言葉をなげられ、知るかと思っていたことを思い出す。そして、大人になったのか非常に感謝している。そんな自分ににやりとしてしまう。

帰るのに2時間くらいかかるから頻繁に帰る事はないが、三ヶ月に一度は帰ってる。多いのか少ないのかは知らないが、独りで過ごすか、実家に帰るか、本当に稀に飲みに行くかそんな日々だが、どれも自分には必要なのだ。同じ世代に多い週一飲み会とかそんな事はとても出来ない。大切に思う友達も数人いるが一年に一度会うくらい。こんな感じにしか生きれない人間だ。


でかい船の乗客が下船し始めたらしい。

八割の人がマスクをしている。僕はマスクを持っていない。薬局には食品と歯ブラシ、トイレットペーパーを買うくらいだ、たまに洗剤類を買う。マスクがどの位置に売ってるのかも知らない。

暖かくなってきたから、親父と釣りに行く。これも気まぐれで釣り好きの親父に同行する。ほぼ釣れないのだが、太陽を浴びて波を見ながら、ぼけっとするのは気持ちがいい。

会話はほぼない。でも仕事終わり無性に釣りがしたい。そう思って同行するのだ。

この頃くらいに、彼女とまともに話した。職場の乳製品の会社の担当者、担当場所が変わるからと丁寧に挨拶してくれたのだ。同い年くらいかなと思いつつ挨拶は交わしていた正直にとてもタイプだった。会えるだけで今日はラッキー的なレアキャラだ。

内心、異動かぁ、、と残念極まりなかった、そうですかと、お首にも出さず挨拶を交わす。

その時、名刺を渡された。


これ新しい名刺なんです。


?ども、お元気で、お世話になりました。


名刺を制服のポケットに入れて、なんとかいつも通り会話できた、、だろう。

自分という人間を理解し始めだ僕はなるべく人とは話さない。仲良くなりたいと前のめりすぎどんびきされる。恋愛は夢中になりすぎて周りが見えなくなる。言葉足らずで伝えたい事は大概伝わらない。長く一緒にいてくれる数少ない人は少なからずこんな僕を理解してくれてるんだと思う。


でかい船の出入りしてた人や無症状の人の感染が日々取りただされ毎日毎日コロナコロナ一色。

掃除、洗濯、買い物、たった一日の休みも自分の世話だ。無造作に置いておいた彼女の名刺が目に止まる、元気にしてるかな、、何気なく手にとる、会社名、部署、名前、会社の電話番号。よく考えると名刺をもらったのは初めてだ。飲食店にそんな習慣はない、裏返してみた。


!!!


手書きの字が書いてある、、えっ!?いつ名刺もらったっけ、、


連絡先が書いてあった。同世代の方となかなかお目にかかれないので良ければお友達にと、、

彼女がタイプと言うのはもちろんだけど、自分という人間に興味をもってもらえるってだけですごく嬉しい。

もし、友達が一人増えるならそれは大歓迎だ。ただちゃんと仲良くなれるだろうか。25歳すぎてもこんな事思うんだな、、こんなに考えを巡らせるのは久々だ。やらないで後悔するより、やって後悔だ。連絡しよう。


連絡先書いてくれたの気づかなくて、遅くなってすみません。カフェ店員の佐山です。こちらこそ、職場と家の往復で新しい友達なんてできると思ってなかったので仲良くなれたら嬉しいです。


無視かと思いましたよ!よかったー

佐山さんおいくつですか?


僕は今年27です。


二つ上なんですね!敬語やめてくださいよー


そか、俺のが年上か!


そんなたわいないやりとりを休みいっぱいして、次の休みにご飯に行く事になった。楽しみすぎる!彼女は藤沢の実家に住んでいるらしい。

僕は茅ヶ崎の安アパートだ。なぜか鎌倉が好きで、なるだけそばに安く住めるとこを探したらここに行き着いた。自然ごはんは鎌倉で食べることになった。


コロナ感染者が軒並み増えている、マスクがレアキャラになった。マスクを買うのに行列ができているらしい。

落ち着いたら買いに行こう。少し買い溜めした方がいいかもしれない。


駅で待ち合わせして、小町通りをのんびり散歩。平日だけどそれなりに賑わう、海の方へ歩いて行きつつお互いの話をする。僕は初めてと思えないくらいうまく喋れている!会話はまったく途切れない。楽しい楽しすぎる。彼女も楽しいといいな。昼ごはんを食べて、次は江ノ島へ行ってみる事に水族館へ行って、うまい具合に夕日がきれないなタイミングに公園に着いた。今まで見た中で一番きれいだった。二人で黙って夕日を堪能した。僕は今日彼女と話したことを思い出してた、真の強い声で、僕をまっすぐに見て話す強い瞳、好きだと思った。


その日から僕らは時を共にする事になった。


マスクをしていない人の方が目立つようになった。いつまでも買える気のしないマスク、高値で転売されている。

緊急事態宣言が出されると話題になり、総理が否定する。緊急事態宣言が出されると僕の生活はどう変わるのだろう。


とりあえず、変わらない僕の日常、いつも通り電車に乗り仕事をして帰る、帰ったら自分の世話だ。でも、心はいつもと違う彼女とおはようや、お疲れ様、一日数回のやり取りだけで見る景色は華やいだ。普段ならいらっとすることも、仕方ないわざとじゃないとスルー。お客様にもいつもより感謝ましましだ。げんきんなやつだ。自分で思うけど、今の僕の方が僕は好きだ。そして彼女が大好きだ。


そろそろ緊急事態宣言がでるのでは、、今はこの話題一色だ。在宅ワークというやつが始まってる会社もあるらしい。

マスクをしてないと、かなり見られる。睨まれる。でもないものはないのだ。


カフェはお客さんが減った、テイクアウトに力を入れようという事になった。バイトのシフトも減らし気味だ。


緊急事態宣言がでた。不要不急の外出は控えて下さいとの事だ。在宅ワークの人も増えて、電車の人も気持ち減った気がする。マスクをしてない人を見つける方が難しい。


仕事は休みにならないので、いつも通りに生活する。ニュースでは、マスクの効果を説明してみたり、いつになったら買えるのかの解説、コロナの発生状況。コロナ一色。でも僕は変わらぬ日常なのであまり実感がない。マスクもない。なんで、みんな持ってるのだろう。朝一には並べない、ネットのマスクは高すぎる、、どーせそのうち買えるようになるだろー安くなるまでまっておこう。持ってるやつは、マスクをして持ってない僕を助けてくれくらいに思う。

今日も彼女と、少ないながら幸せなやり取り。明日夜会えそうだ!またこの温かくなった心で一日をやり過ごそう。


いつも通りに仕事を終わらせて待ち合わせの居酒屋へ。お疲れ様と一杯のみつつ。お互いに近況を話す。彼女と過ごすのは本当に心地がいい。変な話だけど、ずっと付き合ってたかと思うくらいだ。コロナの影響で、店が暇になってしまったと話すと、彼女も取引先も困ってるところが多い事、マスクの取り扱いや除菌アルコール、ハンドソープなどの在庫の有無を頻繁に聞かれたりすると話す。やはり他人事と思っていたけれど確実にぼくの生活にも害を及ぼしているみたいだ。

今日は彼女は僕の家に泊まる。ずっと一緒に居たいとそう思える人に出会えた。


トイレットペーパーもハンドソープも体温計もドラッグストアから消えた。緊急事態宣言がだされた。アベのマスクなるものが一世帯に二枚届くらしい。

電車でマスクをしてないのは僕くらいだ。


マスクをしてないからか、舌打ちをされた気がする。マスクをしてない人が悪のような世論だ。でもマスクでは菌を防げないとも言われているのに。僕だってマスクがあればもちろんつけるただ、売っていないじゃないか。それとも高値で買えとでも?そんなの嫌だ。僕が使っていたのは30枚300円くらいのマスクだ。何倍もの値段のマスクなんて馬鹿らしくて買えない。


宣言が出ても僕の生活は変わらない同じ時間の電車に乗り、だいたい同じ時間に帰る。店に来るお客様は減ったけど、テイクアウトでなんとかなっている。本当になんとかって状況だと思う。ずっと好きな歌手のライブがある楽しみだ。このご時世なので、返金に応じるともなっている。すごいガラガラだったら面白いななんて思いながら向かう。なんてことはない、激混みだ。ただほぼみんなマスクだ。アルコールスプレーでの手の除菌やうがいの協力を求められた。

少し行かない方がいいのか?とも思ったがこりゃ問題ないだろう。存分に楽しんで帰宅。


僕はTwitterやインスタなどはやっていない、Facebookをやってみようとしたことはあるが、暗証番号などログインに必要なものを忘れてそれきりだ。ネットでニュースをみるので、話題になったらそこで知ることが多い。

僕が行ったライブの次の日からライブが中止になり、他のライブも続々と延期、中止になった。

そんな中、有名なアーティストがライブを決行した、とてつもない非難の声が寄せられたそうだ。そこまで変わらぬ生活をしている僕でもこのどんよりとした空気を日々感じる。そりゃ、開催したら行くよなと思ってしまう。それと同時に華やかにみえるそうゆう世界の人々もとても大変な状況にあるのだという反面も露わになってきた。借りた会場はコロナでは、保険対象外でそこに関わる人々の損失ははかりきれないらしい。在宅ワークの人も増えて、学校も休校になりどんどん生活スタイルが変わり始め大変だとニュースで流れるている。僕は変わらず仕事がありいつも通りの生活。ニュースの中の人とは考え方もずれているのかもしれない。

そんな話を彼女としたりした。変わらず会える時は食事したりうちに泊まったり、毎日少なくとも連絡を取り合っている。


不要不急の外出禁止、人との接触八割減、手洗いうがいをしっかりこまめにやろう!

都内はカラオケや大型デパートなど人が集まる場所に自粛を要請し銀座や原宿、渋谷はがらんどうになった。ニュースでみただけだけど。なんせ僕の生活スタイルは茅ヶ崎から目黒の職場へ往復のみだ。

そろそろマスクをしないとからまれるのでは?と危機感を覚える。アベのマスクいつくるのだろう。


緊急事態宣言がだされた週末人気がない気がする。電車もいつも以上にがらがらだ。お客様もこない。これはすごいなと思う反面、僕クビかな、、と不安になる。でも道楽オーナーが頑張ってくれている。二人の社員は変わらずに雇い続けると言ってくれた。この時ほどこの人を敬ったことはないだろう。変わらない日々に心底感謝した。


次の週、平日はテイクアウトのお客様をさばき少し増えたかな?なんて思いつつ週末。あれ、、普段通りすこし少な目くらい?自粛ムード終了か?その日のニュースも人でごった返す商店街をとりあげていた。


そんなふうに日々が過ぎてGW間近、コロナ感染者が急激に増え始め自粛モードがどんどんどんどん強まっている。マスクをしてない人はほぼいない。公園に立ち入り禁止のビニールテープや、海辺のパーキングの使用禁止、パチンコ屋の営業停止要請。どんどん息苦しくなる。実家に帰りたいが、両親にうつしたりするのが恐くて帰れない。彼女を誘うのはやめた方がいいのだろうか。逢えないと思うと逢いたくて逢いたくて仕方なくなるものだ。なんて考えながら時間を共有してしまっている。


GWになった。ニュースキャスターはここでの頑張りでコロナを封じ込められる。不要不急の外出は控えましょう、県を跨ぐのもやめましょうと警報をならしている。

そんななか、沖縄への旅行者が沢山いると話題になった。沖縄の人も来ないでほしいと懇願している。やはり要請だけでは難しいのだろう。


生活の為に電車に乗り毎日通勤していて、マスクもない、彼女とも逢っている。そんな僕には人を批判することなどできない。ネットにはマスクをしないで走る人への批判やこのご時世に出歩いていた芸能人への批判そんなものが、あふれまくっている。みんなおかしくなってるのだろうか、それともこれは本当に一部の人だけの書き込みなのだろうか。

買い物にいく、いつもより列が長く皆イラついてるように感じる。離れて並ばない客ともめたり、カゴをアルコールで拭けと騒ぎ立てる客。誰もどこも混乱しているのだ。いつまでつづくのだろう。

食品店やコンビニでは、ビニールで仕切りをして感染拡大防止をしている、TVでしきりに医療従事者や食品店、ゴミ回収業者など生活に欠かせない仕事をしてくれてる人々へ感謝を声高に訴えている。


GWも、終わり緊急事態宣言はまた一ヶ月延長されている。コロナは一時停滞し、またはねあがった。一度かかって治ってもまた感染してしまう人が多い。

アベのマスクはまだ届かない。僕も洗濯機で洗えるマスクを購入した。でも発送待ちですこし時間がかかるみたいだ。


マスクをするのは、他人のためというより面倒ごとが起きない為だ。そう思っていたけれど、スーパーで買い物をしている時苛立った客を相手にしている店員さんを見て、大変だなと思うと同時にやりたくてやってるんじゃないんだよな。と彼らが働いてくれなきゃ本当に困るのだと。彼らにもうつしたくない家族がいるのだと漠然とあたり前のことを思ったのだ。自分の大切な人が元気ならいいとそれしか思えていなかった。出来ることをしようと思った。

店を出た時、中年?おじさんに声をかけられた、なんでマスクしてないんだ。と面倒だなと思い頭を下げてそそくさ立ち去った。でもその、おじさんはあごにマスクを下ろしていた。ちゃんと着けてる人ならまだしもまったく意味のわからない奴だ。心がささくれる。


実家に電話。僕の家族は大丈夫そうだ。少なくとも自分の周りの人が無事なのは嬉しい。昨日から彼女からの返事がない。めずらしい。携帯でも落としたかな。なんて思ってたら連絡がきた、熱が出て寝込んでいたらしい。もう落ち着いたとのことだ。良かった良かった。連絡が取れなくて、所詮他人だとこうして突然彼女が消えてしまうのかとなんとも言えない痛みを感じた。プロポーズしようそう決めた。


ラジオのパーソナリティが声高にマスクをつけるのはマナーだ、洋服を着るようにマスクをつけるのがこれからは普通になると言っていた。

また彼女から連絡が途絶えた体調が悪いのだろうか。体が丈夫そうな印象だっのに。


知らない番号から連絡があった。基本的に電話はかかってこないので、知らない番号なら出ないしかけ返すことは絶対にない。たまたま携帯を持ってる時同じ番号からの着信。たまに配送業者から確認の連絡があったりするからなにか頼んだか考えていた。電話が切れた。また着信。うざいから出てみることにする。


もしもし


もしもし、佐山さんですか?未亜の母です。


??はい。佐山です。初めまして。

なんとか声をしぼりだす。頭には?がたくさん。


未亜がコロナウイルスに感染しました。今は症状が落ち着いてるみたいです、私たちも会えないので詳しくはわからないのですが。感染の恐れや危険のある可能性が高いと思われる方々には保健所から直接連絡がいくんです。でも佐山さんは微妙なところだったみたいで、、でもまだまだ色々わかっていないウイルスなのでお知らせした方がと思いまして連絡しました。


未亜さんが、、大丈夫なんですか?逢えないんですか?どこに入院してるんですか?

すぐにそばに想いがあふれる。


私たちも逢えないんです。検査は陰性でしたが、自宅待機で外との接触をたっています。未亜の大切な方なので、もし体調に変化があったりしたら気をつけて下さい。それをお伝えしたくて連絡しました。私たちも未亜がいつ帰るのか、、軽症だとそれだけしかわからないの、、


電話越しに泣いているのがわかる。絞り出すような声が耳から僕の身体に吸い込まれていった。僕も声を絞り出す。


なにかお手伝いできることありませんか?


、、、

ありません。


僕、未亜さんと結婚したいんです。彼女しかいないんです。彼女がいないと生きてる意味がないんです。

泣きながら電話に叫ぶように話していた。


未亜が帰ってきたら、まず食事でも一緒にしましょうね。


微笑んでるように聞こえる声だった。


また電話してもいいですか?


もちろん。


あと、あの、まだ未亜さんにプロポーズしてないんです、、


二人でくすくす笑って電話を切った。



僕はコロナのニュースをよく見るようになった。ネットでも調べた。

色々なことが書かれててどれが正しいのかわからない。でも漠然とコロナは未知のウイルスではっきりこれという道筋がないのだと言うことだけはわかる。無自覚の保菌者や、完治してすぐ発症し直してしまう人、軽い発熱、味覚の衰えや、高熱など症状もそれぞれだ。マドンナも過去陽性だったと公表した。彼女は無自覚でさらに完治もしたらしいのだ。

未亜は今どんな感じなのだろう。苦しいのか、安定してるのか。2回検査して陰性だと家に帰れるとネットで読んだけど早く逢いたい。僕も検査をしてもらいたいがまだ気軽にはしてもらえないのが現状だ。



おかわりないですか?まだ、外には出られていないんですか?


検査も陰性だし出ても大丈夫と言われてるだけど、ご迷惑かけないようにもう少し様子をみようと思ってるの。


お買い物とかどうなさってるんですか?


本当にありがたいことに、とても仲のいいご近所さんがいて色々気遣ってくれて。私達は恵まれてて、もう大丈夫なんじゃないって出ておいでって言ってくれるから念の為あと一週間だけ様子みるわ。

ニュースでは出歩くと通報されたり、誹謗中傷をうける人もいるって言ってたから本当にありがたいわね。


それなら本当に良かったです。そんなことをぼくも耳にしたので心配してました。

未亜さんはどうですか?


もう一回陰性が出たら退院できるみたい!


そうですか!もうすぐ逢えますね!!


何度目かの短い電話で嬉しい報告が聞けた。

未亜が退院した、でもここからしばらくは自宅での隔離措置をしなければならない。ご近所の人達は未亜にも優しく誹謗中傷はうけていないらしい。

僕らは電話や、SNSで前のように連絡を取り合っている。逢いたい。窓越しいいから逢えないかと退院してすぐに聞いてみたけどすぐにはと断られてしまった。逢えないまま一ヶ月が過ぎた。でも僕はより彼女を好きになった。失ってしまうかもしれない恐怖から生きている事への感謝。未亜の声が聞ける。ただただそれだけで、僕は幸せだ。


マスクは少しずつ店に並ぶようになった、でもマスクをつけるのが当たり前になった社会ではお洒落な柄や模様の布マスクが流行している。洗濯して何回も使えるやつが主流だ。学校も時間をずらし登校、席を離すなどの措置で再開されている。少しずつ少しずつ戻り始めている。

コロナ感染の検査を全国民が順番に受けることになった。


やっと未亜に逢える。鎌倉で待ち合わせ、小町通りを散歩して、海岸へ。江ノ島まで足を伸ばす。そう初めての日をなぞるように。また、夕陽の綺麗な時間にあの公園へ。

夕日を眺める未亜の変わらぬ強く綺麗な瞳を見て、あの日よりも強く彼女が好きだと確信した。


結婚してください。


夕日を背負ってオレンジに輝く彼女が大きな瞳でこちらをみる。涙と笑顔でくしゃくしゃの顔でうなずいてくれた。

手を繋いでしばらく黙って夕日をみてた。


僕は変わらずカフェで働いている。マスクも毎日してる。カフェの営業は普通通りにもどり、お客様は少しずつ戻ってきている印象だ。苦しいのは変わらないけど、なんとか働けている。プロポーズを受けてもらったけど、これから何をすればいいんだろう。ご両親に挨拶に、指輪も買わなきゃ。結婚式に、新婚旅行、未亜と話さなきゃいけないことがたくさんあるな。仕事しながら頭では彼女との未来を考え続けている。


仕事終わり携帯に着信がある、未亜のお母さんからだ。プロポーズの話しかななんて思いつつ掛け直す。


未亜がまた、コロナに感染したの。昨日朝熱っぽかったんだけど、夕方熱が上がって呼吸がし辛そうで、、

病院から感染してるって連絡が、、なんであの子ばかり、、今回は呼吸器に繋がれてるの。


目の前がくらくらする。気づかぬうちに携帯を落としていた。


なんで、なんで、、また未亜が。色々なことが頭を巡る。ネットで出回るレベルの不確かなコロナ情報を頭に詰め込んだ僕は呼吸器に繋がれるのは絶望的でしかないとしか思えなかった。逢えない、当然声もかけれない、未亜はまた独りで戦うのか。なにもできない、なんでなんでなんで、、


イライラする、何もかも気に触る。マスクをしないやつ、マスクを顎にしてるやつ、ランニングしてるやつ、無駄だとしか思えない外出をしてるやつ。みんな頭にくる。誰でもいいからつかみかかってしまいたくなる。

職場でも態度にでているのだろう。気遣ってくれたオーナーが休みをくれた。一言、頭を切り替えてこいと。


帰りの電車、マスクをしてない人がマスクをした人の隣に座る。マスクをした人はしてない人を一瞥。席を立つ。

ハンカチで口を抑え座る人。

窓が空いて風が通る車内、色のない世界。


いらついて、いらついて、いらついてどうすればいいかわからない。なにもかも壊してしまいたい。


電話が鳴る。


もしもし


佐山君大丈夫?あれきりだったから。


大丈夫です。。

嗚咽がもれる。僕なんかよりお母さんの方が辛いに決まってる、悔しいに決まってる、泣くな泣くな泣くな。


泣いていいのよ。私にはお父さんがいるから。あなたには未亜でしょ?今は私が変わりにね。


、、、

どうしよう。彼女がいなくなったら。どうしよう。助けて、誰か助けて、、泣き声と叫び声とぐちゃぐちゃの音が僕の口から溢れた。溢れ続けた。未亜のお母さんはずっと電話越しに寄り添ってくれていた。

少し落ち着いた頃、お母さんが静かに話し始めた。


佐山君に次に会ったら話そうって言ってたんだけど、あの子看護師の学校に行くって。看護師になるって。

病院内はとても混乱している様子で自分はコロナで入院して申し訳ないと思ったって。たまたま担当の看護師さんが一般の患者さんにコロナがうつるから触るな、近寄るなって言われてたところを見てしまったんだって。未亜泣きながらすみません。って謝ったらしいの。そしたら、看護師さんが悪いのは病気です。元気になってもらえるのが一番嬉しいです。ってにっこり笑ってくれたんですって。それで、元気になったら看護師になってあの看護師さんを目指すんだって。


彼女は強いですね。太陽みたいだな。

ぼそりと呟いた。


未亜はあなたが月みたいだって言ってたわ。誰も寄せ付けない空気があるんだけど、近づくとふわっと暖かいんだって。だから、いつもより頑張れる、力が湧いてくるんだって。月と太陽なんてお似合いね。


また少し泣いて電話を切った。


なかなか未亜の症状は安定しないらしい。話しだけなので様子はわからない。有名人が亡くなり大きなニュースになったりとまだまだ日本もコロナと戦い続けている。

食品の売り子はフェイスシールドをつけ、ビニール手袋をして仕事をし、飲食店は向かい合って食事をするのを禁止、電車も一席開けて座る、列に並ぶ時は1m間隔、マスク着用義務、学校は机を1m以上離して配置向かい合って話さない。提案された当初はこんなことと鼻で笑っていたが、普通になる。電車で話してたりすると睨まれたり、舌打ちされ、口論になったりする。人間は良い意味でも悪い意味でも柔軟性がある。ぎすぎすした空気を一緒に吸い込んで、心がささくれる。君がいないとこのまま消えてしまいそうだ。


未亜と連絡が取れるようになった、僕の心は一瞬で暖かさに包まれた。彼女はこのまましばらく医療関係者に協力するらしい。連絡はとれるけど、半年くらいは逢えないかもしれないと言われた。大丈夫、生きててくれればそれだけで。それに医療関係に協力していれば無事だろうと、漠然と思ってしまった。


そしてコロナが流行り出して一年近く時がたった。

有効的なワクチン開発された、人に試して問題なければ増産される。オリンピックは中止になった。オリンピック始まって以来のことだ。コロナの影響で二割の会社が倒産した。大混乱というよりはじわじわと力尽きていくように店を閉める様子だった。僕の好きな中華屋もなくなった。彼女といったレストランもなくなった。でも変わりに違うお店がオープンする。そんなものなのだ。僕は雇われの身だから経営者の事はわからない。でも街を見て感じるのは、どんな時でも終わりまた始まりの繰り返しという事だろう。そうやって生きていくんだ。


未亜とはこまめに連絡をとり、逢えないけど支え合って歩いてきたと思う。まだ指輪も買えてないけど、そんな楽しみをとっといてるんだと前向きに歩いてきた。未亜の家族と僕の家族とリモート顔合わせなるものをやってみたりもした。

最後はやっぱ味気ないななんてみんなで笑って逢えるのを楽しみにとお開きになった。


感染者を知らせる画面がでかでかとニュースになってから、テロップで流れるようになり、朝や夜軽く触れる程度になり、今は興味のある人が自ら調べる程度の情報になった。でも0になったわけじゃない。地震と一緒で風化しつつあるのだ。


そして国から発表された。

日本には特殊なマスクをしないと感染を防げない抗体の全くない人間が存在する。この人間は国外に行けば一般的とされる感染確率になる。なぜ日本だけに限るのかは未だ調査中である。日本においては、全く感染しない人間と、感染しても症状が出ないもしくは軽症の人間、全く防げず感染すると重篤な症状になる人間に分類される。この全く防げない国民は特殊なマスクの着用を義務化することになる。


この発表から順番に全国民が自分の分類を検査する事になった。


僕は感染しても症状がないか軽症と分類された。マスク着用義務の人は一割にも満たない少数の人で、その人達の大多数は僕らの知らないところで症状が普通になる海外へ移住したり、保護されている形になっていたようだ。今回の検査で日本にとってコロナはインフルエンザと同じ分類になったというわけだ。


こんなふうにバタバタと時間が過ぎ、検査が終わった頃未亜と顔を合わせる事がやっとできた。朝から緊張して、にやにやして、指輪を買いに行こうと決めていた。逢えない間、懸命に貯金したのだ。彼女がどんなことに協力しているのかは話せないと言われたのでそこは今まで聞いてこなかった。

久々に見る彼女。相変わらず凛とした強い瞳、マスクをしてるからますます綺麗な瞳が目立つ。瞳しか見えなくても笑顔なのがわかる。僕らはしばらくにっこりと見つめあって話始めた。


ずっと逢いたかった。星がいたから頑張れた。

看護学校に行って看護師になりたいの。

あとね結婚のことなんだけど、私あなたの前でこのマスクは外せないの。ずっとかもしれない、もしかしたら外せる日も来るかもしれないけど、、でも、外せないと思ってくれた方がいい。どんな生活になるかわからない。ごはんも向かい合って食べれない、キスもできない、他にも発症リスクがある事はできない。だから一緒には生きれない。

本当に心から星が大好き。出会えて良かった、誰よりも幸せになってほしい。だからさよならしよう。


何言ってるの?傍にいるよ?一緒に生きよう。

結婚しよう。

二人でいれば大丈夫だ、なんでも乗り越えられる。僕には輝くように未来しか見えなかった。



一緒に暮らし始め、穏やかな陽だまりの中にいるような生活が始まった。彼女は専門学校へ通い僕は変わらずカフェで働いてる。藉を入れる事は、両家から待ったがかかってしまった。僕の両親は、彼女を気にっているし、彼女の両親とも変わらずいい関係を続けさせてもらっている。僕らは紙きれ一枚のことだと気にせず今時の事実婚という形をとっている。


彼女は見事に看護師になった。マスクを外す事はまだできない。やりたい事へ向かってキラキラ輝く彼女と共に時を刻むのはとても幸せだ、でも時々複雑な顔をする彼女の顔。最近はますます増えた気がする。僕は仕事が大変なのかなとか自分に出来ることがあるかなとか考えてる。


旅行に行こう!


僕らはイタリアへ行く事にした、海外は日本と違いほぼコロナの脅威は払拭されている。すぐに病院に行けば大事には至らないし、基本は抗体があるから大丈夫らしい。

未亜もマスクを外してる。手を繋ぎ、あっちへ、こっちへ、映画で見るように情熱的なキスをしてるイタリア人を横目に彼女に軽くキス。二人で悪戯っ子の笑みを交わす。


なんて解放的で幸せなんだろう。当たり前の事を、コロナなんか無ければ日本でもこんな2人だったはずなのに。頬が濡れた、未亜に気づかれないように拭って、今を楽しむ事に精一杯になる。でも心の底の悔しさは消えなかった。

初日からはしゃいで、はしゃいで、美味しいご飯も食べて部屋へ。僕らは初めて身体を重ねた。


愛してる

未亜

好き

大好き


何度も何度も囁き合って、じゃれて身体を重ねあって、絡みつくように2人で1人のように眠りについた。


そうやってあっという間に帰国の日になった。


帰りたくない。


同時に同じ言葉を呟いた。



海外で暮らそうか?


暮らせたらいいね。

悲しそうな複雑な顔で未亜が答えた。



帰国して、また、同じ生活に戻った。僕は本気で未亜がマスクを外して暮らせる国へ行かないかと調べ始めた。

正直2人で頑張れば行けないことはなさそうだった。少しお金を貯めて、あとは飛び出せばいい。2人ならなんでも大丈夫だ。お金がなくても、言葉が違くてもきっと、、


未亜、お金を貯めて海外で暮らそう。僕調べたんだ。2人ならどこでも行けるよ。マスクを外して2人で生きていこう?どこの国がいいかとか、明日お互い休みだし仕事が終わったら話し合おうよ!


わかった!


未亜の出がけにさらっと、言葉をかけた。夜が楽しみだ。


僕はいつも通り仕事をする、ランチの仕込み、ランチ営業、ディナーの仕込み、ディナー営業。


佐山君ご機嫌だねーなんかあったのー?


なんもないっすよ!


先輩につっこまれる。そうか未亜と海外に行くならここも辞めるのか、、めちゃくちゃ、お世話になったな。ずっとここで働き続けると思ってたんだけどな、、寂しいな。


ただいまー


暗いな、まだ帰ってないのかな?


机の上に手紙が、、心がざわつく。落ち着いて手紙を開く。



星へ


すぐに、マスクが取れる生活が来ると思ってた。だって海外なら大丈夫なのに日本だけって、、だからすぐ普通の生活に戻れるって。普通の恋人、夫婦みたいにできなくても幸せだった。星と暮らせるだけで幸せだった。でもずっとずっと早くマスクを外せるようにって願ってた。

普通のデートって楽しいね、一緒に一つになって寝るのって安心だね、キスって幸せだね。普通っていいよね。

もう戻れないよ。私は日本を出れない。

さよなら 私の事は忘れて。


未亜より


封筒の中には指輪もはいってた。



泣いた


仕事した


食事した


引っ越した


泣いた


仕事した


食事した


何回何十回何百回繰り返して、鎌倉へ散歩に出た。

家と職場以外のとこへ行くのは何ヶ月ぶりだろう。


マスクをした人で賑わう小町通りを抜けて、海岸へ。

海がきらきらしてる、犬の散歩をしてる人、浜辺に座って本を読む人、デートしてる人、色んな人がいる。


彼女だけがいない。。


どのくらい佇んでいただろう。

ぼんやりと記憶の中を彷徨っていた。彼女みたいな人が僕のそばに居てくれると胸が高鳴った時、同じくとてつもない不安が押し寄せた。僕には幸せなんて似合わない。昔聞いた歌のワンフレーズ、なぜかそこだけ心に残っていた。楽しい事があるとそれを消し去る悪いことが起こった。そんな繰り返しだった。いつからか、僕は幸せになれないって、、悪い事が起こってもやっぱなって諦めてきた。そうしないと心がもたないから、大切に想う人から同じ想いが返されなくてもしがみ付いて共に歩いてる風を装った。本当はぼくは独りぼっちなのに。独りで大丈夫だと言い聞かせて独りが好きだと壁を作った。そしてなんとかそれを着こなして、僕はずっと歩いてきた。

でも、、そう、未亜が傍にいてくれて彼女の光を浴びて変わりたいと思った。綺麗事に聞こえるかもしれないけど、こんな僕をあんなに素敵なきらきらした人が愛してくれるなんて。強い彼女を光る道を一歩ずつ進む彼女を見て僕も彼女のように、せめて彼女に恥じない人間になりたいと思った。それで、初めて知った。考え方、心の持ちようで世界は反転することを。すぐに暗闇に逃げて、僕にはこんな世界がお似合いだと思ってたけど、明るい世界で歩くことを教えてくれた。そして明るい世界は僕に少しの自信と優しさ強さをくれた。もし彼女がいつか僕に愛想つかしても、僕は君と出会えてよかったと心から言いたい。そして、君と過ごした日々は何よりも温かくて幸せな時間だった。だからもし独りになる事があれば次は僕が誰かの助けになれるように生きよう、、

そう思ってたじゃないか、、あの時の僕を僕は誇りに思っていた。本気で未亜を愛して、自分をほんの少し愛した。

次は僕の番だ。

光に包まれた心で帰路に着く。電車に乗ってなにができるか考えていた。

海外ボランティアのポスターが目に入る、これも運命かもしれない。僕は説明会に参加する事にした。

色々なパターンのボランティアがあるみたいだ。お試しコース的な短期のもの、本格的な長期のもの、秀でるものがある人はそれを生かしてボランティアワークができたりするらしい。僕はやってやるって前のめりで、がっつりの1年をと担当の方に話をしてみたのだが、世界を一周しながらボランティアをしていくという、旅行がメインになるものを勧めてもらった。私たちの活動をまず知ってほしいと話してくれた。でも僕は強く人の為になる事がしたいんですとはなした。

担当者は強く望んで頂けるなら、日本をみて、世界をみて、そしてあなたの心をより広げて欲しいとアドバイスしてくれた。僕は担当者と話を進めていった。

1年間のプログラムを決め、必要なチケット、パスポート、ビザ。カフェはギリギリまで働いた。もしまたもどって、空きがあれば雇ってもらえるそうだ。本当にいい職場だった。少し泣いた、、

ありがとうございました。オーナー、先輩にお礼を言って歩き出した。好意でぎりぎりまで働かせてもらって、手渡しで今日までのお給料をもらった。

荷造りをして、出発だ。


国々でボランティアワークに参加させてもらいつつ観光をする。未亜との旅行以外で海外へ来たことのない僕は全てが新鮮で驚きと不安と寂しさが波のように押しては返す。僕の参加するボランティアは本当にお手伝いのようなもので、何年も携わってる方や、短期で仕事の合間にできるだけ手助けをと参加してる方、大学の休みで気軽に参加した学生さんなど沢山の人が居た。その方々の話を聞くだけでも僕の世界観は変わっていく気がした。


フィジーに着いた。この経験も半年ほどたった。とても子供達が懐っこくて海岸で駆け回って遊んだ。そこに、多分お父さんらしき人が来て僕に手を差し伸べてハグしてくれた。僕は少し恐々とはぐし返して笑顔を返した。英語はボランティアに参加すると決めてから猛勉強したがたかがしれてる。彼に手を引かれカムカム言われ、なにやら泥水を囲んだ宴会的なものに招かれた。気の大きなボール用なものに泥水がはいっている。カヴァ、カヴァと指差してお互い単語とジェスチャーでやりとりする。ココナッツカップみたいなもので回し飲みが始まった。こんなディープな関わりは初めてだ。思い切って飲む。まずい。舌がぴりぴりする。これ大丈夫か?でもでも、探索した時軒先でこんな感じでカヴァを囲っているのをみたきらきっと大丈夫だよな。。いっきに飲み切った僕をみなが嬉しそうに囃す。みんなはなんか言って、手を叩いて飲んでる、見様見真似で真似する。みんな笑う。そしてまた回し飲みが始まる。これはいつ終わるのかと思いつつ、結局泥水がなくなるまで続けた。お腹がたぽんたぽんだ。舌も痺れてる。ゲラゲラ笑いながら片言の英語で話す。夕飯まで出してくれた。年上に見えたが僕と大して変わらない。Tシャツを裏返して着ていて裸足だ。でもいい匂いがして、懐っこい笑顔。初めて本当に初めて現地の人と触れ合えた。彼らは親切で僕の話を聞きたがった、なにしてるんだとか、なに人だとか、何歳だとか、なんの仕事してたんだとか単語とジェスチャーで話す。

もちろん全部理解できたわけじゃないけど、彼は現状に満足していて人と比べるなんて事をしないようだった。

僕は日本に居るのが苦しかった悪いことはしてないのに、こんな僕が生きてるのが悪みたいな気がしてた。僕は他人にできるだけ迷惑かけないように生きてるのになんで僕だけ。僕は他人に興味ないんだから僕にも構わないでくれ。そんな風に生きたかった。

でも本当は知りたかったんだ、なぜか僕はあまり理解できないから、なんでそんな感情になるのか教えて欲しかった。なぜ怒るのか、泣くのか、居なくなるのか。。

いく先々での出会いを大切にするようにした。良く話を聞かせてもらう。ボランティアしてる人、現地の人、旅行者僕に教えてくれる人には誰の話も一生懸命聞いた。あっという間に帰国の日になっていた。苦手ながらも色々な人と出会い話をして自分のことをたくさん考えた。

仲良くなったコーディネーターの保に空はボランティアに向いていると言われた。今回のお試しみたいのでなく、本当に興味のありそうな所へ行ってみないかと誘われた。

もう貯金がないんだと断った所、モニターとして参加してくれたら援助してくれると申し出があった。もちろん、かつかつの生活で現地の人とほぼ同じような生活水準になると思って欲しいと言われた。願ってもなかった。次に行くならそのくらいの覚悟で派遣先の人と触れ合いたかった。


ボランティア生活が始まった。家は安全面でしっかりと檻のような柵に囲われた家でホームステイだ。といっても離れに部屋があってご飯の時くらいしか顔を合わせない。でも僕は基本的に母屋でファミリーの側にいさせてもらった。話をできるだけした。ボランティア活動のない時は小さな町の市場で話をしたり、戯れてる子供たちと遊ばせてもらった。半年ほどたって町の人から「セイ」と呼ばれるまでになって、色んなはなしを聞かせてもらったりした。子供達にも夢は?とか単語英語でコミニケーションをとった。

日本は本当に恵まれている。綺麗な道、建物、公共交通機関、教育。どれもこの町と比べたら天と地の差だ。でも幸せだろうか?ここには少なくとも、いじめはない。皆が互いを助け合っている。もはや助けるとすらおもってないかもしれない。それが当たり前なのだ。知らないこととは、それもまた幸せだ。知りすぎていると、無駄に傷ついたり、無いことや無くなることを恐れる。人より優位なことを誇り、無知な事を馬鹿にする。そんな人間ばかりじゃないけど、僕も含めてそんなところも持ち合わせてる。

ある日、交通事故があった。たまたまその日の朝に挨拶して二言三言言葉を交わした人だった。僕よりも若い。身近な人の死に触れたことのない僕は初めての経験だった。死体もみた血が沢山でていた。町の人はざわざわと群がり涙を流して抱き合っていた。ホームステイ先のファザーがlife is shortと僕の肩をぎゅっとして呟いた。頭のもやが晴れるように、生きなきゃ、一生懸命生きなきゃ、楽しまなきゃ、味わい尽くさなきゃ。そんな力が心から湧いた。そしてなにより、未亜に会いに行こうと強く思った。死ぬ前に彼女に感謝を伝えたい。ただ会えるだけでいい。

日本に帰ったらやるべきことが、一つ決まった。

僕はより今の時間を大切に生活する事を思い直し朝を迎えた。昨日泣いてた彼らはなんもなかったかのようにあっけらかんとしている。仲良くしてた仲間も何事もなかったようにしてる。ここは今一理解できてないのだが、日本人より死に近いからなのか、信仰状なのか、、

あの日から現地の人より地元民らしく暮らしてきたつもりだ。帰国の最後の週は会う人会う人皆うるうるしながらハグしてくれた。会うたび会うたび何度も何度も、僕も沢山泣いた。ここで、暮らしたいと本気で思った。でももっと日本を知りたいとも思ったのだ。豊で冷たい日本で出直したいと。

そして、未亜に逢いに。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ