12.賢者はカートリッジの充填方法を説明する&13.賢者はSクラス任務を品定めする
都合により2話分まとめて公開します。
できればこの状態で週刊にしたいですが、週4000~5000文字が必要になるので、そこまで行けるかどうか……ともあれ、頑張ります。
広場での試験を終えたユーティ達一行は、食堂の個室で昼食を取っていた。
そして食事も後半に移った頃、シャテルが何か思い出したようにユーティに声を掛ける。
「そういえば、ユウよ。先程の戦闘で、マナリボルバーを発砲しておったな」
「ああ、そうだね」
「カートリッジの充填、以前共に旅していた頃のように、うちがやってやろうかと思っての。ほれほれ、寄越すが良い」
と、右手を差し出すシャテル。
ユーティは懐の拳銃を抜き、シリンダーを開いて銃弾を模したカートリッジを取り出した。とりあえず、テーブルの上に使用済みの二本を立てて置く。
「申し出は有り難いが、今はアマリエ君にお願いしていてね」
「ほう? 人の身で充填できるのかの?」
シャテルの記憶では、カートリッジの充填には、並の人間では昏倒してしまう程の魔力量を必要としていた。
なので、シャテルがユーティと旅をしていた頃は、彼女が魔力の充填役を務めていたのだ。シャテルはハイエルフのため、もともと種族的に魔力が多く、更にその中でも異常と言えるほどの魔力量を先天的に保有していた。
「彼女の妹であるアニー君とは顔を合わせただろう? アマリエ君は、アニー君に引けを取らない魔力量を持っているようなんだ」
「むぅ……確かに、あの娘は底知れぬ魔力を持っておったな」
シャテルは、隠棲していた庵に突然訪れてきた少女の姿を思い出す。独創的な魔法も目立っていたが、その無尽蔵な魔力量も強く記憶に残っていた。
「ただ、魔力量はあってもアマリエ君は魔法は全く使えなくてね。それに、君の魔力は君自身の魔法や召喚のために、大事に温存しておきたいと言うのもあるかな」
「そうか、うちの事が大事か。では、仕方ないのう!」
大事に、と言う言葉が気に入ったシャテルは、腕を組んで大きく肯いた。
「では、預からせて頂きます」
それを横目に、テーブルの上のカートリッジを取り上げたアマリエ。
腰の後ろに取り付けたポーチ状の充填機の蓋を開けると、そのままカートリッジを入れるのかと思いきや、椅子を座り直してユーティに背を向ける。
「ユーティ様、充填機に差し込んで頂けますか?」
「いや、アマリエくん。手、届くよね?」
突然のお願いに当惑するユーティ。それを観たシャテルは、ぷいっと勢いよく立ち上がり、机を回り込んでいった。
「さあ、これで良いじゃろう!」
アマリエの手から奪い取ったカートリッジを素早く充填機に差し込むと、すぱーんと蓋を閉めたのだった。
(ユーティ様に触れて頂ける機会を、奪われてしまいました)
(やらせはせんのじゃ!)
そして、アマリエとシャテルの間で視線が交錯し、お互い微かに笑い声を立てる。
「ふふふふふふふふ」「ほほほほほほほほ」
それを見ていたユーティは、二人がなぜ笑い合っているのか分からないまま、ともあれ仲良くなっているのは良い事だと考えていたのだった。
一方、ティエンはと言えば。
「地元の麺も美味しいですけどぉ、こちらの"すぱげてぃ"って言うんですか? この麺も美味しいですねぇ!」
回りに構わず、一人ゆったりと食事を満喫していたのだった。
◇ ◇ ◇
昼食を終えた一行は、帝国冒険者ギルドに足を向けていた。
ドアベルの音を鳴らしながら入室したユーティ達は、居合わせた冒険者達にぎょっとした目で見られたが、それに構わず依頼掲示板に歩みを進める。
「さて、依頼は……と」
「あらぁ? Bランクまでしかないみたいですねぇ」
「高ランクの依頼は、それ自体が機密に関わる場合がありますから、表に出していない可能性があります」
「そうじゃな、受付で聞いてみれば良かろう」
冒険者向けの依頼が貼られているはずの依頼掲示板だが、そこに貼られていたのは一流下位であるBランク以下の依頼だけだった。仕方なく、ユーティ達は掲示板の近くの窓口に向かい、行列の最後尾に並んでおく。
列には数グループの冒険者が並んでいたのだが、ユーティ達の顔を見ると覿面に動揺して互いに目配せすると、あっと言う間に去って行ってしまった。
待つこと無く先頭になってしまったユーティは、露骨な特別扱いに顔をしかめてしまう。
「また、これか」
その姿を見るシャテルは、含み笑いをしながら突っ込みを入れた。
「古代白竜に認められたSランク冒険者、言わば英雄じゃからのう。試験を受けねば良かったのにの」
「ふう……避けがたい必要経費としてある事は分かってはいるんだけどね」
「もう時既に遅しじゃ。あきらめて英雄らしく、堂々としておるんじゃな」
ともあれ、ユーティ達の姿を見た受付嬢がベルを一つ鳴らすと、奥から別の職員が顔を出してきた。
「いらっしゃいませ、ユーティ様ご一行様。依頼のご確認でしょうか?」
「その通りです。他にもあるのであれば、ぜひ確認させていただきたいのですが」
「承知いたしました。こちらにご足労頂けますか?」
と、その職員に案内されて、ユーティ達は階上に上がって行ったのだった。
◇ ◇ ◇
ユーティ達は、先日も訪れた応接室に案内されていた。
席に着いたユーティ達の前に香茶を置いた職員が一礼して去って行くと、入れ違いのように大きなファイルを抱えた職員が入室して来た。
「お待たせ致しました。依頼管理を担当させていただいている、キャサリンと申します」
栗色のロングヘアを持った、二十代後半くらいだろうか、少し顔はきつそうだが、かなり有能そうな女性だった。
「ここに案内されたと言う事は、掲示板以外にも依頼があると考えて構わないのかな?」
「仰るとおりです。掲示板で公開しているのはBランク以下に限られておりまして、Aランク以上のご依頼はご希望をお伺いした上で、クローズドでご案内しております」
と、胸に抱えたファイルをテーブルの上に置きながら、そのギルド職員は柔らかな笑みを浮かべたのだった。
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13.賢者はSクラス任務を品定めする
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冒険者ギルドを訪れ、応接室に案内されていたユーティ達は、ギルド職員にAランク以上の依頼は希望を聞いた上で、クローズドで案内されると聞かされていた。
「ふむ……そうだね。では、以下の条件の依頼はあるだろうか?」
ギルド職員の言葉に小さく肯いたユーティは、指折り数えながら条件をゆっくりとした口調で伝える。
一つ、依頼の達成確認が、この街から北方の街で行える事。
一つ、討伐依頼など、捜索の手間が少ない依頼である事。
一つ、報酬が現金である事。
一つ、モンスターレートの上限は20である事。
「に、20、ですか?」
条件を冷静に聞き取っていたギルド職員だったが、魔物の強さを示すモンスターレートを聞いたとき、初めて動揺した声を上げた。
「20を超えると流石に骨だからね。今回はそこまでリスクを負いたくない」
「そ、その、20でも充分伝説級の魔物の世界です。もしそのような魔物が出たとしても、冒険者ギルドに討伐依頼が来ると言うよりは、神に懇願して勇者を降臨させていただく事になるでしょう」
一つ咳払いをしたギルド職員は、気を取り直して机の上に置いたファイルをゆっくりと開いた。
「こほん、ご要望はお伺いいたしました。そうですね、ご希望を満たした依頼ですが……これと……これと、これ」
ギルド職員はファイルをぱらぱらとめくり、迷うこと無く三枚の用紙を取り出してユーティの前に並べる。
「こちらの三件となります。いずれも報告先不問、つまり、どの街の帝国冒険者ギルドでも報告可能な討伐依頼でございます」
ユーティは三枚の依頼書を取り上げた。他の三人もその内容を覗き込む。
「ふむ。ヴェルコール山地の火竜、推定モンスターレートは16。レ・ヴァンの迷宮に潜む、推定モンスターレート13の巨大目玉。そして、カーマーグ湿地帯で目撃された、推定モンスターレート15の巨大芋虫、か」
「報酬は金貨で1300枚、850枚、1100枚ですか。どれも豪邸が建ちそうな額ですから、路銀の問題は完全に解決しますね」
「ユウとうちの前では、どれでも大差ない相手じゃの。ユウよ、どれにする?」
「わたし的にはぁ、火竜とやらに格の違いを教育してやりたいんですけどぉ」
しばし考え込んだユーティは、心を決めて一枚の依頼書を手に取り、ギルド職員の方に差し出した。
「よし、これで頼むよ」
「ヴェルコール山地の火竜でございますね。ル・ジーヴ様と相対したユーティ様ご一行の実力を疑うわけではございませんが、他2種と比較すると、遠距離攻撃能力が鍵となりますのでご注意ください」
「ああ、大丈夫だ、問題無い」
ギルド職員の指摘に、爽やかな笑みを浮かべたユーティであった。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドを後にした一行は、旅行道具の買い出しに出かけることにした。
達成すれば莫大な報酬を得ることができる依頼を受注したものの、現時点では路銀に問題がある事に変わりは無い。少なくとも徒歩で移動しなければならず、道中では野宿も予想されていた。
もともと二人分は用意していたものの、シャテルとティエンという予定外の二人が増えたため、彼女達の分を用意する必要があったのだ。
「まあ、なるべく野宿はしたくないがね」
「私は慣れておりますので、問題ございません」(待ち伏せで泥濘の中、三日間伏臥していた頃に比べると、天国同然です)
「ユウと冒険していた頃以来じゃのう。懐かしいの」
「わたしもそれは同じですねぇ。馬でしたけどぉ」
雑談しながらも、様々な道具店をハシゴして、寝具に携帯食料といった旅行道具を調達した一行であった。
そして宿屋に帰って夕食を済ませた一行は、客室に戻ってきていた。
ただ今回は、ユーティは女性陣の着替えを室内で待つ事は無く、その間、階下の酒場で時間を潰す事にしていた。着替えの際に身体を拭くこともできるだろうと、ついでに桶一杯のお湯とタオルを部屋に届けるように頼んでおく。
軽く呑んだユーティが部屋に戻った頃には、彼女達によって既にベッドの配分も決まっていたようだった。
二つの二段ベッドの二つの下段にはアマリエとシャテルが入り、上段の一つにはティエンが寝る事になっていた。
アマリエから寝間着と下着の替えを受け取り、ユーティは桶の方に向かいながら声を掛ける。
「すまない、身体を拭かせて貰うよ」
ユーティとしては向こうを向いていて欲しい、と言う意味で声を掛けたのだが、なぜか全員、ユーティの方に寄ってこようと言う構えを見せていた。
「ユーティ様、お拭きしましょうか?」
「そうじゃな、おんしは背中側を頼もうかの、うちは前側を担当するでな」
「わたしも、やりますよぉ?」
ユーティは慌てて断りを入れる。旅に出ている際、アマリエに背中を拭いて貰った事はないでもないが、年頃の女性三人に囲まれて、と言うのは流石に恥ずかしさが先に立ってしまう。
「い、いやいやいや、それはダメだろう!?」
「旅行中は拭かせていただいていたと記憶しておりますが」
「いつもわたしの身体を拭いてくれてたじゃないですかぁ」
「それは馬の頃の話じゃがな。ユウよ、綺麗どころに囲まれて、まるで王侯貴族のようじゃぞ? 遠慮するでない」
笑顔でにじり寄ってくる三人に、大きく手を振って拒否するユーティ。
「勘弁してくれ!」
「――仕方有りませんね。それでは、私一人の時にでも」
「へたれじゃのう」
「鷹揚に構えるのも器量ですよぉ?」
流石にそれほど無理に拭こうとは思っていなかったようだ。口々に文句を言いつつも、おとなしく引き下がってくれる。そして三人の気が変わる前にと、ユーティはそそくさと自分で身体を拭き、寝間着に着替えたのだった。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさいませ、ユーティ様」
「おやすみなさぁい」
「うむ、おやすみなのじゃ」
明日は朝早く出立しなければならない。ユーティ達は比較的早めに就寝する事にしたのだった。




