11.賢者はSランク冒険者の正体を考える
なんと2年以上のブランクを経ての再開です。
再分割した後は21話まで進んでいるので、他の2作品の30話に合わせて、そこまで進める予定です。
広場での試験を終えたユーティ達一行は、昼食のため手近な食堂を訪れていた。個室に案内され、適当にパスタやサラダ、肉類に飲み物をオーダーする。
まず最初に口を開いたのはユーティだった。
「さて。先程のイセスという女性について、どう見えただろうか?」
「うーん……美人さんでしたねぇ?」
人差し指を唇に当て、少し考えながら答えたのは、ユーティの斜向かいに座ったティエンだった。
「ユーティさまは、あのくらいのプロポーションがお好きですかぁ?」
「「――――っ!」」
ぽやぽやした口調で投げかけられた爆弾質問に、ユーティの横を陣取ったアマリエと、正面に座ったシャテルに緊張が走る。
「ん? いや、そのような視点で聞いたわけでは無いのだが……」
「どうなんですぅ?」
「プロポーションは気にしたことは無いかな。やはり判断するのは人柄だね」
と、当たり障りの無い返事を返しておく。実のところ、胸は大きければ大きい方がいいという嗜好は持っているものの、流石に女の子三人に性癖を暴露する訳にもいかないユーティだった。
そして考え込んでいたために、アマリエとシャテルの間に走った緊張と、そしてユーティの答えを聞いてそれが解けた事には気付いていなかった。
(で、あれば、うちにも機会はあるようじゃな! あのイセスとか言う女のようにデカければ良い、と言うのでは、他の二人に太刀打ちできんからのう)
(流石はユーティ様、普段の親交度が重要という事ですね。その場合、常日頃から御世話させて頂いている私が一歩リードという事になるでしょうか?)
「アマリエはどう思ったかね?」
「はい、私達に対して、少なくとも敵対的ではありませんでした。ただ、それは私達が古代白竜に対抗できるだけの力を持っていた事による結果論であり、彼女が害する意図を持っていなかったとしても、力無きパーティだった場合、古代白竜に蹂躙されていた可能性はあります」
アマリエの返答に、ユーティはしばし考え込む。
「そうだね。確かに、彼女には力に見合った自制心は無さそうに見える。どこかのAランクパーティのように、危うきには近寄らないのが正しいだろう。興味を持たれた以上、もう遅いかも知れないが」
苦笑したユーティは、次いでシャテルに目を向けた。
「古代白竜。君は、彼女のあれをどう見た?」
「ユウも分かっておろう? あれはうちの範疇ではなく、ユウの専門分野じゃと」
笑みを浮かべ、肩をすくめながら答えるシャテルに、ユーティは小さく肯いた。
ただ、アマリエは二人の会話が理解できず、ユーティに質問する。
「ユーティ様、どういう事なんでしょう?」
「あのイセスという女性は、古代白竜を召喚ではなく、転移させたんだ。つまり――」
ユーティはアマリエに、召喚と転移の違いを簡単に説明した。
召喚とは、異世界からこの世界に意識だけを呼び出し、マナによって構築された身体に定着させて活動させる事を指す。そして、転移とは、身体そのものを同じ世界、あるいは違う世界間を移動する事を指している。
「召喚であれば、うちのように詠唱によって呼び出す事ができる。じゃが、転移には正確かつ安定した魔法陣を維持せねばならん。ユウならば魔導具で実現可能じゃが……」
「魔導回路が少しでも乱れてしまうと、空間が千切れてしまうからね。魔導具を使わない、詠唱による転移はまさに神業さ。それが可能なのは、神か魔王、そして彼らに力を分け与えられた勇者に限られるだろう。だが、神は人間界に絡むことを避けているし、勇者という柄でも無さそうだ」
そして説明の最後に、ユーティは一言付け足した。
「なので私は、彼女が魔王だったとしても驚かないだろうね」
先程まで顔をつきあわせていた女性が、魔王かも知れないと言う言葉に、アマリエは困惑の顔を見せる。ちなみに、ティエンは理解しているのかしていないのか、ニコニコ笑みを浮かべたままだ。
「それでは、ユーティ様はどう致しますか?」
アマリエの質問に、ユーティは飄々とした様子で返答する。
「どうもしないさ。少なくとも、彼女自身はここでどうこうしようと言う気は無いようだし、なるべく絡まない事を祈るしか無いね」
そして、給仕が料理を持ってやってきたのを見て、皆に声を掛けたのだった。
「さ、料理が来たようだ。まずは食事にしよう」
◇ ◇ ◇
テーブルに幾つかの大皿料理と取り分け皿が並べられ、給仕が一礼して去って行くと、アマリエは無言で立ち上がった。
手際よく大皿からユーティの分を取り分け、小皿をすっとユーティの目の前に差し出していく。
「ユーティ様、どうぞ」
紳士服の男性にメイド姿の女性が世話をするのは、そこが領主館や城館のダイニングルームであれば自然な光景ではあるのだが、そこが大衆食堂ではかなり異彩を放っていた。
「ありがとう、アマリエ君。でもいきなりどうしたのかな?」
「ユーティ様のお世話をするのは、私の勤めですので」
領主館でメイドとして働いて貰っていた頃ですら、そこまで過剰な世話はしていなかったアマリエ。居心地の悪さを感じながら尋ねたユーティに、アマリエはしれっと返答した。
「この旅の間は、私たちは一介の冒険者パーティだからね。メイドの仕事は忘れて平等に行こうか」
「承知しました。でも、いつでも仰ってくださいね? いつでも御世話いたしますから」
と、ユーティに対して静かに微笑むアマリエ。ユーティは突然のサービスに当惑しながらも、笑みを浮かべながら僅かに首を傾げるしか無かった。
なお、シャテルは微妙に口を尖らせながら、ティエンは全く気にしない素振りで、自分の分を取り分けていた。
「と、ともあれ、いただく事にしようか」
最後にアマリエが自分の分を取り分けたところで、ユーティは昼食の開始を宣言したのだった。




