ソーシャルディスタンスLv999で大魔王を強制排除
神話はお好きですか?悪魔や神様はお好きですか?
※ゾ0アヌター教を知らなかったらWiki見てみてね
※察しがいい人はより楽しめるかも
不謹慎に感じる方もいるかも知れません。旬な内にやりたかったんです。
2020年4月作成。
---長い道程だった。
異世界に召喚され、文化の違いにむせび泣いた自分はもういない。最高錬度のユニークスキルで他をよせつけないまでに成長した自分は、今日現代社会に復帰する。
大魔王を退けた暁には召喚時の時間軸に戻れるように創造神に頼んである。冬アニメを見逃さないで済むのはありがたい。
例の異種族アニメは最終話まで放送されるのだろうか、春アニメも期待していたのがいくつかあったはずだがだいぶ記憶が薄れてしまっている。
バイトや授業についていけるだろうか。心配事ばかりが浮かぶ。
だが、そんなことは帰ってから確認すれば良い。
早く帰ろう。「自宅が一番だ!」と声を大にして言いたい。しばらく引きこもってしまいたい。小さいながらも自分の聖域を愛し尽くしたい!
竜退治なんて二度とやりたくない。
ケルベロスみたいな三つ頭の竜はグロテスクだったな、ジェネリックヤマタノオロチは切っても切っても爬虫類に似た化け物が噴き出して、結局山の地中深くに追いやるしかなかった。
火の神が一寸法師戦法で脅して退けたことがあるらしいから、自分がいなくなっても大丈夫だろう。
とにかく爬虫類はもういい。嫌でも慣れると言うか見飽き過ぎて嫌いになった。
ここの世界の人間も最初は神に祝福された自分に良くしてくれたが近親婚や鳥葬・風葬文化に自分が慣れることはないだろう。
物理的に距離を取ってから、自分に近付く者は皆無だ。
誰にも声をかけられることなく、自分はこの世界から退場する。
自分についていけなくなった仲間達はこの先もこの世界で生きていくのだろう。ほんの少しさびしいが仕方がない。
---暗闇の中、一際暗い、光さえ飲み込みそうな重厚な扉に手をかざすと、ゆっくりと開いた。
「よくぞここまでたどり着いた。孤独な英雄」
数段上の王座にふんぞり返るのは褐色の美形だ。傍らにセクシーな褐色美人もいる。
・・・久し振りに見た異性につい視線がいってしまうのはどうか許して欲しい。
視線をたっぷり絡ませてから妖艶に微笑んだ美女は大魔王に耳打ちをする。なんだか居心地が悪い。
大魔王が鼻で笑う。
「臆せず入って来い」
「・・・じゃあ遠慮なく」
足を踏み出し、全体重が室内に入ってから数歩。
周囲10m程の床が開き、穴底で剣先が待ち構えているのが見える。横から毒矢が発射され、飛び退く余裕はない。
常人なら、あわれ串刺し針ネズミ。
毒矢が一定の距離で静止し、床に落ちた音がする。身体を包み込む力を足元に集中させる。
思っていたよりも穴が深く、落ちてしまった。
強度より範囲を重視すべきだったなと階段状にしたスキルを足場に登っていく。
底から伸びてきた闇が、うねうねとうっとうしい。視界の邪魔だと手で払うと霧散していく。
毒ガスか窒息させようとしたのか、穴をふさぐ高濃度の闇も片手で割ることができた。
再び大魔王と視線を交わすと、明らかな殺意を向けられる。
「器用な奴だ」
美女が大魔王から離れる。王座からほんの少し身を乗り出した大魔王が球体を造り出した。
「それほどでも」
ユニークスキルを極めたとは言え、大魔王を遠距離から倒せはしない。
最大限に近付き、捨て身のゼロ距離接触でスキルを発動する必要がある。
油断も無駄遣いも出来ない。
小手先勝負で終われる相手ではない
闇が晴れ、視界がクリアになる。頭に響く天啓がどこか懐かしく遠く感じる。
『よく成し遂げてくれた』
『そなたの力で この世界から大魔王を追放することができた』
『狂気や病にむしばまわれていた世界は 落ち着きを取り戻すだろう』
『そなたの願い通り 元の世界に帰そう』
『そして---』
最後の天啓を待たず、自分は意識を手放した。
目を開けると、見慣れた懐かしい自室の布団の上だった。
窓を開けると冬にしては暖かな、涼しい夜風が部屋に吹き込む。
近くの幹線道路でトラックでも通ったのかエンジン音がうるさい。
テレビをつけ、風呂場の鏡で顔を見る。伸びきった髪も、治せなかった傷跡も、何もかも消えていた。いや、元々なかった。
この世界ではなかった。なくて当たり前だ。
冷え過ぎた部屋に戻り、窓に手をかける。
2020年2月が始まる。
お帰りなさい、主人公。
しばらくお家でゆっくりしようね、気が済むまでお楽しみなさい!
狂気や病を撒き散らす大魔王様はあの世界から弾き飛ばされて、今頃何をしているんだろうか・・・あなたは心当たりあるかな?
拙い作品ですが、読んで頂きありがとうございました。