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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部03:次期と自棄の章
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第559話 無人島なのに取り付く島もない



 





 これは俺がソーサラーから逃亡しながら暇潰しついでに綿密に観察した、∇こんな夜道のエレメント∇とその同僚たちの修羅場の記録である。




 無人島生活18日目。



 当初はパステリアの精神状態に影響を受け黙々と脱出を目指していたソーサラーたちだったが、次第にパステリアの支配力が及ばなくなってきたのか自我の方が強く出るようになった。


 そうなると彼女たちの意識にも個人差が生じるようになる。アメリー、エチュア、シーマの3人がリーダー的存在になっている現状が彼女たちのコンプレックスを刺激し、拒否反応が芽生え、やがて臨界点に達したんだろう。各陣営とも目に見えて表情が険しさを増し、日に日に口数が減っていった。


 必然的に考える時間が増え、現状に対して多少は冷静な判断ができるようになる。


「私たち何してんだろ」


 遠泳を終え戻ってきたアメリー陣営の誰かがポツリと呟いた。それに応える者は誰もいなかったが、誰もが同じことを思っていたに違いない。



 無人島生活21日目。


 

 この日は秘密裏に∇ヨミエレ∇の3人が集まり意見交換を行った。


「……今更だけど、本当に今のままで脱出できると思う?」


 その席でポツリとアメリーが呟くと、他の2人も同じように顔を曇らせた。彼女たちも自分の提案した脱出方法に疑問を抱いていたからだ。


 アメリーの案はパステリアに対しての努力アピールが主。だが何度繰り返してもそのアピールが奏功しないとなれば、既に答えは出ているに等しい。


 他の2人の案についても、本来なら無謀としか言い様がない。ソーサラーの彼女たちは頑丈なイカダや船を作れるだけの工作スキルなど持ち合わせていないし操作術にも長けていない。それでもパステリアの精神世界なんだから最終的には何とかなるだろうという打算あっての発案だった訳だが、サッパリ上手くいっていないのが現状だ。


 3人とも結構前の段階で『これ無理だ』とは感じていたに違いない。だが失敗を認めれば自分に賛同しチームを組んでいるソーサラーたちからの糾弾は免れない。それに他の2チームが画期的な脱出方法を見つけたのならともかく、全チームがジリ貧の現状なら痛みの伴う方向転換は必要ない。


 そんな先延ばしの日々が続いた結果21日も経ってしまい、各自のヘイトは元凶である俺へと向けられた。


 けれど、その俺が姿を消し捕まえきれない状況が続き、ある程度の時間が経ったことで∇ヨミエレ∇の3人はある程度冷静になったようだ。余談だが、俺がどうやって彼女たちから逃亡し続けられているのかは付記しないものとする。


「これさ、他に脱出方法あるんじゃない?」


 意見交換の最中、そう言い出したのはエチュアだった。


 その通りだ。イカダや船なんてのは無人島脱出の常套手段だが。この無人島はパステリアの精神世界なんだから必ずしも現実的な脱出方法だけに囚われる必要はない。


 例えば――――


「あるかもしれませんね。何処かに頑丈な船が隠されているとか、ワープゾーンのような物が存在するとか」


「転移魔法用の魔方陣とか確かにありそう」


 こういった発想も自然と出てくる。実際、パステリア自身が『甘い』と自称しているんだから、簡単に脱出できる裏技的な方法が隠されていても全く不思議じゃない。それが救済措置なのか、洞察力を試す要素なのかは不明だけど。


「でもこんなこと言って、先輩たちが納得すると思う?」


「思わないですね。そんなのある訳ないと捜索に反対されるだけでしょう」


 ∇ヨミエレ∇の3人は知っている。自分たちが日頃から年上のソーサラーに妬まれていることを。無人島に強制転移させられた直後は不安や責任逃れから大人しくしていた彼女たちも、今は確実に普段の状態に戻っていると。


 他の脱出方法を示唆すれば先輩ソーサラーたちは表では反対しつつも水面下で捜索し、見つけたら自分たちの手柄だと言いふらしてしまうだろう。


 それでも脱出できれば問題ない。重要なのは全員で協力して生還することだ――――


「絶対イヤだよね」


「そんな結末あり得ませんね。あの人たちにドヤ顔なんて絶対されたくありません」


 などと思えるほど、∇ヨミエレ∇の3人は達観してなどいない。普通に自分たちが手柄を立てたいお年頃だった。


 今回のパステリアの暴走行為は決して許されることではない。生還後にティシエラへと報告し、罰して貰いたいとの共通認識は全員にある。それは身内のエチュアですら例外ではない。


「あのバカ姉のことだから、私たちが上手くやったら『あの3人を成長させるためにやりました全て計画通りです』って報告するだろうし、先輩たちが脱出方法見つけたら『団結力のないソーサラーたちに協力する尊さを学ばせるためにやりました全て計画通りです』とか言うんだよ絶対」


「あーその二枚舌、如何にもパステリアって感じ」


「最悪ですね」


 寧ろ、誰よりも姉の性格を知っているだけに処罰感情は一番だった。


 今回のパステリアには完全敗北が存在しない。∇ヨミエレ∇の3人が中心となって脱出に成功すれば『若手の成長』という成果があり、ティシエラとフレンデリアにアピールできる。他のソーサラーたちの手柄なら『ソーサラーたちを団結させるため協力プレイを促し成功した』とアピールできる。


 誰も脱出方法を見つけられなかった場合でも、ある御方とやらの所望していた試練を与えるって目的は達成できる。


 まさに死角なし。どう転んでも何かしらの成果を得られる。


「もし誰も脱出できなかったら『無人島で二人きり(相手は逃げられません)になれる魔法アイテム』として魔法市に出展するつもりだよ、きっと。束縛系のヤバい奴に需要あるでしょ?」


 ……などという身内のエチュアならではの恐ろしい発想もありつつ、パステリアの狙いが複合的なものだと断定。∇ヨミエレ∇の3人は彼女への敵意を剥き出しに水面下での共闘を誓った。


 これは恐らくパステリアが軌道修正した結果。彼女は元々この3人が他の先輩ソーサラーたちと敵対する構図を予定していた。けど実際には∇ヨミエレ∇内で対立してしまったから、俺を共通の敵にすることで彼女たちが結束する流れを作ろうと企てた。それすら破綻したもんだから今度は自分を敵にすることで結束を促したんだろう。


 思わず目を覆いたくなるほどグダグダである。



 無人島生活22日目。



「ねえ、私たちを騙してるよね」


 共闘体制が早々に先輩ソーサラーたちにバレた。パステリアが情報漏洩したんだろう。彼女には全部筒抜けなんだから当然だ。間抜けの所業である。


「若手同士で敵対したフリして私たちを振り回してたの?」

「何それ最悪。殺したいんだけど」

「私たちを欺いて裏で嘲笑っていたんですね……今すぐ海の底に沈めましょう」


 あと、いつの間にか先輩ソーサラーの一部が精神的に病んでいた。幾らヌルゲーでも無人島生活が普段の生活より遥かに不便なことに変わりはない。まして先輩ソーサラー同士だって仲が良い訳じゃない。心が荒む理由は幾らでもある。当然の結果だった。


 殺気立つ先輩ソーサラー。躙り寄る包囲網。


 果たして∇ヨミエレ∇の3人はこの難局をどうやって乗り切るのか?


「私たちは自分の意志で先輩方を騙していた訳ではありません!」

「トモという男に唆されたんです!」

「怒りはあの男にぶつけるべきです!」


 こうやって乗り切った。安直だが妥当と言わざるを得ない。


 共通の敵が現れると結束するのは世の常。彼女たちはパステリアに踊らされていることは一旦忘れ、再び俺という不浄の者を狩るべく一致団結した。


 ソーサラーとバーサーカーは紙一重。


 それを今回の教訓として、一旦記録を締め括ろうと思う。


 



「両手を挙げて」



 ――――現実逃避していた俺の背後から、そんなピリピリした声が聞こえてくる。


 風の音に紛れているから確証は持てないが、相手の声を特定するのはそう難しくはない。


「アメリーか」


「ええ。降伏すれば苦しまないよう一瞬で逝かせてやるから」


 物騒すぎる。マジで殺す気満々じゃねーか。


「まさかベルゼブブマスクを被って堂々と生活してるなんてね。コレットから借りたの?」


「勝手に使わせて貰っただけだよ」


「仲間は売らない、って訳ね。ギルドマスターなだけあって最低限の正義感はあるんだね」


 いやー、流石にバレちゃいましたか。


 俺とコレットはそれほど身長差はないから、あの蝿マスクを被って胸に詰め物入れておけばコレットのフリができる。これでどうにか凌いできたけど、流石に限界が来たらしい。


「言っとくけど抵抗しても無駄よ。この周囲はもう私たちのチームで囲んでるから」


「俺はお前のチームに協力してたんだけどな」


「だから何? 関係ないから」


「俺一人を大勢で追い詰めて良心が痛まねーの?」


「誰も痛んでないでしょうね。アンタ、ソーサラー全員の敵だから」


 ……無人島なのに取り付く島もない。


 さて、どうしましょ。


 天候は相変わらず不安定。暴風雨かと思えば急に晴れ間が見え、その10分後には霧が出る。そんな状況下で何日も俺を捜索し続けている彼女たちのコンディションは最悪に近いだろう。


 けど、俺一人でどうこうできる相手じゃない。恐らくアメリーはエチュアと同等の強さだと思うけど、そのエチュア相手でも精霊の力を借りてようやく五分。精霊を喚べない現状では戦いにならない。


 アメリーが俺に手心を加える展開も期待できない。俺に騙されたと先輩ソーサラーたちに嘘をついた手前、確実に俺を仕留めなきゃ――――



「えいっ!」



 唐突に稲光が閃き――――無人島に轟音が鳴り響いた。


 自然の雷じゃない。魔法だ。


「あはははははは! 不浄の者を仕留めたのはこのリィンカーベルです! ティシエラ様私やりました!」


 いやお前の仕業かよ! 無害そうな口調と名前の癖に一番好戦的だったのか!


「……あれ? もしかしてやれてません?」


 奴の放った魔法の雷は多分、俺を正確に狙った筈だ。


 そして一撃で絶命してもおかしくない威力だった。


 でも、俺は無傷だった。


「バカがしくじってやんの! 奴を仕留めるのはチルミィだっ!」

「いいえ奴を殺すのはイオナです!」

「……」

「トドメ刺スノハヴィヴィオレットデース!」


 その後も続々と追撃が繰り出されていく。


 つーか攻撃してくるの無害っぽかった奴ばっかなんだけど……特に陽気な外国人っぽいヴィヴィオレットが殺意高めなのは納得できねーな! どう考えても無害枠だろ陽気な外国人女子は!


「な……」


 でも、それらの攻撃全てが俺に直撃することはなかった。


 何故なら――――





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