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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部03:次期と自棄の章
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第557話 迫真

「子供の頃のあの子は、私の背中を見て育ったかのように私に似ていました。悪い気はしませんでしたが、似なくて良い所まで似てしまって……」


 パステリアの述懐が続く間にも、遠くの方から雷が落ちたような音が定期的に聞こえてくる。けどそれが雨雲から落ちた普通の雷なのか、それともソーサラーたちの魔法なのかは判別できない。つまり場合によっちゃ俺に落雷しちゃう恐れもある。


 普通ならビビるところなんだけど……なんか悪人の供述を聞きながらだと演出感が強すぎてあんまり怖くないな。なんで迫真顔と稲光ってこんなに相性いいんだろう。話すタイミングでピカって光ると何か笑えてくるんだけど。


「私は心の何処かで、あの子に変わって欲しいと願っていた気がします。あの子を見ていると、幼い頃の未熟だった自分を突きつけられている気がして……居たたまれない気持ちになったものです」


 その気持ちはわかるけど同情心は全く湧いて来ない。さっきから雷が忙しなさ過ぎるんだよ。語調を荒げてる訳じゃないのに全ての言葉が重要なワードみたくなってるし、雷鳴もガンガン轟いてるから話に集中できない。ティシエラが使ってたサンダーコンティニュアム並だ。


「だから私はあの子が豹変した時、私の心を見透かしたあの子があえて性格を変えたんじゃないかって思ったんです。私に似て気持ち悪い性格でしたが、私を思いやる心も持っていた子でしたから」


 ……なんだろう。さっきから会話の中身が入って来ないせいか、全然違うことが気になって仕方ない。


 なんかこの人、誰かに似てる気がするんだよな。顔じゃなく言動というか雰囲気というか、この相手の受け入れ体制をガン無視して喋りまくる感じが。まあそういう奴、俺の回りに何人かいるから特定はできないけど。


「その疑いは今もあります。サクアは私を気遣う余り、自分の人格をねじ曲げて無理やり私とは似ても似つかない性格になってしまったんじゃないでしょうか?」


「あーそうなんじゃないの」


「なんですかその生返事は。この話に興味ないんですか?」


「ない」


「……」


 かなり不服そうなパステリアに対し、申し訳ない気持ちは一切ない。こんな鬱陶しいことに巻き込んでおいて人生相談とか片腹痛いわ。こっちは嘘かホントかわからないお前の話に付き合ってる場合じゃないんだよ。


 人の気配なんて読めない俺でも、殺気だったソーサラーたちが近付いているのがわかる。茂みを掻き分けるような音が微かに聞こえてくるからな。無人島だし獣が寄りついている可能性もあるけど、ぶっちゃけそっちの方がマシだ。


「私をぞんざいに扱わないことです。私が不機嫌になればなるほど、その影響でソーサラーたちの殺気も増していきますよ?」


「今更だろ。それに、もうお前の発言は何一つ信用できない。サクアの話にしたって、俺はサクアの豹変前の性格を知らないからな。幾らでも捏造できる」


「私は確かに嘘つきですが、身内を使って騙しはしません。肉親の情を利用するのは、例え間接的であっても美学に反しますので」


「美学……?」


「はい。私は虚言に対して罪悪感を抱いていません。自分のためになる、自分の大切な人のためになるのであれば、騙すことや誤魔化すことに一切の躊躇はしませんので」


 平然と恐ろしことを言いやがる。要するに『我欲のためなら平気で他人を利用する』と宣言しているだけだ。元々の聞こえも大して良くないけど要約するとミもフタもない悪者じゃねーか。


 けど、こんな性格破綻者について今まで何の悪い噂も聞いたことがないのには違和感を覚える。ヤメと同レベル、若しくはそれ以上の問題児として扱われていそうなもんだけどな。これまでは抑えていたのか……?


「今の話を聞く限りだと、お前の精神状態がソーサラーたちに伝染したんじゃなくて、お前が直接唆して俺を攻撃するよう仕向けていても不思議じゃないな」


「それはありません。私、あの子たちから嫌われているので」


 ……ああ、そうでしたね。単に話題に出すのも億劫な存在なのかもしれない。名前を呼んではいけないあの人状態なのかも。


「いいんです。何かを成すためには代償が必要ですから。彼女たちに嫌われてソーサラーギルドがより良くなるのなら、喜んで嫌われ者にもエゴイストにもなります。それが私の生きる道です」


「エチュアは姉が嫌われてるせいで居心地悪そうにしてるけど」


「その反面、同情も買ってますから大丈夫です」


 ……強い。何言っても揺るぎそうにない。今まで俺の回りにいたどの厄介勢とも違うタイプの人間だ。こりゃ何言っても無駄だな。


 仕方ない。ここは要求を呑もう。


「サクアが豹変した理由を知りたいんだったな。参考にならなかったとしても怒るなよ?」


「それは気分次第です」


「せめて内容次第にしてくれ……」


 さて、どうしたもんか。


 俺としてはサクアの人格変化は十中八九、異世界転生によるものだと思っている。でも同じ転生組として、確証もなければ当人の許可も貰っていないのに仄めかすのはルール違反って気がする。なんとなくだけど。


 フレンデリアに対しても、長い交流の中で言葉にこそしなかったけど相互理解を深めていってからの吐露だった。そこには積み上げて来た信頼関係とはまた別の、なんというか……タイミングとしか言いようのないお互いの呼吸が合わさった瞬間があったからこそのカミングアウトだった。


 サクアとは仕事仲間として多少の信頼はお互いにある。でも転生関連は完全に俺の一方通行。ここでそれを口に出すのは、彼女に対してのマナー違反だ。


 だったら――――


「サクアは自分で性格を変えた訳じゃないと思う」


「どうしてそう思うのですか?」


「彼女が魔法少女好きだからだ」


 ピシャーーーーーーーーン!!!


 ……と雷が近くで鳴ったのは別に俺の言動のせいじゃない。でもパステリアの驚愕顔は稲光のせいで大分クドかった。


「それは、幼いソーサラーが好きということですか?」


「いや違う違う。魔法少女っていう、特定の趣味嗜好に基づいたジャンルがあるんだ。どう言えばいいのかな……童話に出てくるような、魔法で悪い奴を懲らしめる主人公の女の子みたいな感じ?」


「よくわかりませんが、サクアはその魔法少女に憧れて性格を寄せたと?」


「ああ」


「私への憧れを捨てて、その謎の存在に傾倒したと?」


「ああ」


「……ふぅん……へぇぇ……」


 不服そうだな。ってかそのふて腐れ顔も誰かに似てるんだよな……誰だろ。生前の知り合いか? いや違うな……


「一応言っとくけど証拠はないからな。ただサクア本人から魔法少女のことについては聞いてるから、それはガチだ」


「貴方が嘘をついているとは思いません。それに、サクアが私以外の誰かに憧れを抱いて性格を変えたという話には説得力があります。納得しました」


 ……急に雨が止んだな。雷も鳴らなくなったし、ソーサラーたちの草を掻き分ける音もしなくなった。


 さっきまでは多少疑っていたけど、ここまで露骨だとパステリアの心情が反映されているのは間違いなさそうだ。幾ら精神世界とはいっても、これは怖い。こいつの感情次第ではさっき以上の修羅場になる訳だろ?


「そうですか……サクアは私から卒業したんですね。姉として、それはとても喜ばしいことです」


「無理してない?」


「馬鹿なことを。妹の姉離れを喜ばない姉がいますか?」


 姉離れ……? 親でもないのにそんな現象起こるもんなの? 一人っ子の俺には全くピンとこない。


 つーか、その単語自体が奇妙だ。奇妙なんだけど……なんだろうな。妙に耳に馴染む。聞き覚えはないんだけど、似たような表現やニュアンスを何度も聞かされたような……


「そうですか。だったらこのロスト・アイランドを制作する必要もありませんでしたね」


「……どういう意味だ?」


「この魔法アイテムは元々、サクアを招待するために作ったものでした。仕事で忙しい日々を送るあの子が気分転換できるような、ちょっとしたバカンスを楽しめる空間をプレゼントしたかったのですよ。魔法アイテムにすればいつでも使えますからね」


 成程。そのために大分前から用意していた訳か。そしてそれを今回、あの御方とやらの意向を汲み、尚且つフレンデリアのプロデュースする∇ヨミエレ∇の成長を促すために再利用した。


 一応話の筋は通っている。


 ただ――――通り過ぎている。何か作為的というか、作り話が混じっている気がしてならない。


「本当にそうなのか?」


「……やはり私は信用できませんか?」


「さっきもそう言っただろ? 単に嘘をつかれたからじゃない。根拠があってそう判断してるんだよ」


 ヤメに対するクソデカ感情の演技。それはもう一人の妹、エチュアの感情を真似たものだった。その後に行った無人島サバイバルに対する説明でも、一部嘘を交えていた。


 こいつの厄介な所は、バレ難いよう嘘をカムフラージュしてくるところだ。特にヤメに関する言動は完全に騙されたからな……あれは多分、単にエチュアが過去に言ったことをなぞっただけじゃない。エチュアのヤメに対する感情を自分の中に取り込んで、自分自身に『ヤメが気になって仕方ない人間になれ』と催眠をかけたような……それくらいリアルな言動だった。


 奴の嘘は目的を果たすための手段。そのスキルを努力で習得している。閃きや思いつきだけじゃない。技術として磨いている。


 俺にはパステリアの嘘を見抜く自信がない。奴のペースで捲し立てられたら、どれが本当でどれが嘘かを判断できる気がしない。


「そうですよね。これだけの規模の魔法アイテムを妹の休暇のためだけに作ったなんて言っても……」


「規模の問題じゃねーよ。重要なのは他の所だ」


「……?」


 だから今度はこっちから攻める。攻め続けて主導権を奪い返す。


 ようやく自覚できた。これは戦いだ。


 ソーサラー相手だから、魔法で攻撃されてそれに応戦するのが戦闘だと決め付けていた。でも違う。


 俺は今、既に交戦状態にある。このパステリアに仕掛けられ、抗戦の構えを示している。間違いなくこれも戦いだ。


 ここでの負けは許されない。ここは奴の精神世界。屈服しようものなら取り込まれる恐れすらある。


 一度アソートを使用されて精神世界内を体験したことで、俺は何処か危機感を見失っていた。今の俺たちは全員、パステリアから捕らえられているんだ。これはピンチなんだ。


 ……よし。やっと状況を正しく呑み込めた。あとは攻めるのみだ。


「サクアにこの無人島で何をさせたかったんだ?」


「それは先程言ったでしょう。無人島とはいっても所詮は精神世界の産物ですから、食糧も飲料水も一切困りません。街中にいながら孤島での非日常を楽しめる――――」


「方向音痴のサクアが無人島を楽しめるとでも?」


「……」


 豹変前のサクアがどうだったかは知らないけど、今のサクアが方向音痴なのは周知の事実。パステリアが知らない筈がない。


 この無人島は決して狭くはない。特に今みたく森の中に入ってしまうと、自分の現在地がわからなくなってしまう。サクアにとっちゃ致命的だ。


 そんな環境を楽しめる訳がない。


「もう一度聞くぞ。ここでサクアに何をさせたかった?」



 そんな俺の問い掛けに対し――――パステリアは歪んだ本性を顔の中に棲まわせた。






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