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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部03:次期と自棄の章
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第552話 話の途中で大声出されるのって心臓にクるよな

 ギルマスとして、大勢のギルド員を纏めることに四苦八苦しているコレットは現在も勉強中。当然、ソーサラーギルドのゴタついた現状もコレットにとっては良い教材になるだろう


 ……と思ってたんだけど、本人は明らかに他人顔だな。まあ人間から見る蝿って常に他人顔かもしれないけど。表情わからんし。


「冒険者ギルドもあんまり空気良くないけど、比較するとまだマシかなあ……私だったら絶対あの人たち纏めきれないだろうし」


「誰でも無理だろ。ティシエラが例外なんだよ」


 俺だって、あの連中を一つに纏めるなんて不可能不可能。ソーサラーに比べたらウチのギルド員の方が遥かに大人だ。ヤメも例外じゃない。


「でも、これでトモも目が覚めたでしょ?」


「あ? 何がだよ」


「美人ばかりで華やかで良い香りがして楽園のようなギルド……そう期待して一日体験とか希望してたんでしょ? でも違うの。そんなんじゃないの。幻想。女の現実ってね、大体こんな感じなんだから」


「普通にイメージ通りだけど」


「……そうなの?」


 別にソーサラーギルドだからとか、女性ばかりの組織だからって話じゃない。人数が多ければ性格のひん曲がった奴もいるし悪目立ちする。それだけの話だ。


 ウチのギルドだって例えば飲み会にでもフォーカスすれば、中年エロオヤジ共が暴れ回って印象最悪になる。俺も最近妙に持ち上げられてるけど、ギルマスとしては未熟だから見る人が見れば欠点だらけの組織に見えるだろう。


「そっか。私トモを誤解してたんだね」


「ようやくわかってくれたか」


「うん。混浴、娼館ときて次がソーサラーギルドだから下心以外の何も感じなかったけど、そっか。怖いもの見たさだったんだね」


 ……ん?


「普段住んでる街から離れて、ちょっと変なお宿で過ごす休暇。お客さんじゃ通れないような娼館のスタッフルーム。で、今回。そういえば鉱山での事件の時も、すっごく複雑な人間関係に首突っ込んでくれてたもんね。そっかー。トモってホラーマニアなんだ。だよね。ベリアルザ武器商会で働くくらいだもんね。あ、今凄く納得した!」


「いやいや……」


「じゃあこのマスクも口では嫌々言ってるけど実は怖がってなかったんだね。良かったー。ずっとこんな顔だから煙たがられてるって思ってたよー。安心安心」


 何が安心なのかこれっぽっちもわからないけど、コレットは妙に満足げだ。それなら無理に反論する必要はないか。ゲテモノ好きみたいなレッテル貼られて釈然としないけど…… 


「でも、アメリーさんたちに協力するんだったら一度アメリーさんと話をしておいた方がいいんじゃない?」


「……そうだな」


 正直気は乗らないけど、あんな場面に出くわした以上は色々聞いておいた方が良いだろう。エチュアやシーマと違ってあんまり話したこともないし。


 口は悪くとも∇ヨミエレ∇の常識人枠って印象だったけど、果たして――――





「邪魔。どいて。オマエに話すことなんて何もないから」


 ……取り敢えず取っ付き難いのは間違いなさそうだ。


 けどまあ、多少荒ぶってる程度なら特に問題ない。チッチとかの方がよっぽど狂犬だからな。ましてイリス姉なんかとは比較にならないくらいまともな会話ができる。それで十分だ。


「俺さ、一応シレクス家の御嬢様と協力関係にあるんだよ。その御嬢様がプロデュースしてるユニットの現状くらいは知っておかなきゃ仕事に支障が出るだろ?」


「チッ」


 聞こえるようにする舌打ちとかクソデカ溜息って何らかの罪に問われないんだろうか? 侮辱罪とか。あるだろ何か。マジで取り締まって欲しい。


 まあ、この程度の口実で聞く耳を持ってくれるだけマシと思うべきか。そう切り替えられる時点で俺も相当鍛えられてきたんだろうな。この街で。


「率直に聞くけど、現状抱えている問題を解決しないと色々厳しいと思うんだよ。それで――――」


「余計なお世話! 私はあいつらと仲良くする気はないから!」


 凄まじい拒否反応。俺でなきゃキレちゃうね。そんなに嫌か先輩と仲良くするの。


 つーか話の途中で大声出されるのって心臓にクるよな。ま、俺だから耐えられるけど。俺だから。


「そりゃ無理強いはしないけど……」


「うっさい! 私をアイツらと一緒にしないで! セット売りにされて迷惑してんの!」


 ……ん? 


 てっきり先輩ソーサラーとの確執で頭を悩ませていると思いきや、∇ヨミエレ∇の話なの? これ。


「性格なんて昔から一つも合ってないし。私はシーマみたいに趣味悪くないし、エチュアみたいな同情のされ方嫌いだし。子供の頃からの腐れ縁じゃなかったら話もしてなかったんじゃない? あんな連中と一緒くたにされて昔から迷惑してんの私は!」


 なんか『やれやれ感』みたいなの出してるけど、露骨に瞬きが多いし視線も泳いでますね。あと唇が微かに震えてますよ。感情を押し殺しきれていないんじゃないですか?


「そもそも私たちは仲良しでもなんでもないから。今回だってお互いの主張が分かれたから別行動してるだけで普段からこれくらいの距離感だし? 大体若手とか幼なじみとかの括りで一緒にされてるけど迷惑な話。∇ヨミエレ∇だって貴族が持ちかけた話じゃなかったら即刻断ってんだよ」


「ずっと口数多いな」


 うーん、つい今さっき先輩たちに嫌味言われていたのに、あっちは気にも留めてないのか。逆に言えばエチュアやシーマとの対立で頭が一杯なんだろな。


 ちょっとフレンデリアさーん。ユニット組ませるならメンタルケアはちゃんとしてくださいよー。このままじゃ明日にでも解散しそうな勢いですよ?


「一応聞いとくけど、先輩ソーサラーの嫌味は気にしてねーの?」


「そっちは別に。私が他の二人と仲違いした途端に食いついてきて『かわいそー。私たちがいるからね』みたいな白々しいこと言ってくるような人たちだし。あんな連中どうでもいいでしょ」


 確かに。こっちは本当に興味なさそうだ。


 反面、∇ヨミエレ∇の他のメンバーに対しての想いは相当なものがありそうだ。勿論、さっきの言葉をそのまま鵜呑みにする気はない。こいつら大抵ツンデレなんだもん。絶対ティシエラの影響だよ。


「……ねえ。今回の一件、ホントにフレンデリア様の企画だと思う?」


「俺に話すことなんて何もないんじゃなかったのかよ」


「は? こっちは一通り質問に答えたんだからそっちも答える義務があるでしょ?」


 まあ正論なんだけど、だったらもう少し物腰をさあ……いやまあいいんだけど別に慣れてるから。


「如何にもフレンデリア御嬢様っぽい企画ではあるな。魔王に届けに触発されてエンタメ性を重視してる所とかも」


「だったらいいけど……」


「何か不審な点でもあるのか?」


「……パステリアなんだけど」


 多分、エチュアやシーマと物別れしたせいで込み合った話ができる相手がいないんだろう。その目には明らかに、本気の苦悩と気苦労が滲んでいた。


「最近ちょっと変だったんだよね。落ち込んでるって訳じゃないんだけど、なんか前に出ないっていうか。今話に出た魔王に届けの時も全然興味なさそうにしてたし。普段なら私がやった中継とかイリスがやってた実況の役割なんて率先してやりたがるタイプなのにさ」


「それは多分、ヤメが他のソーサラーとトラブって気が気じゃなかったんじゃ」


「は? なんでパステリアがそんなにヤメを気にしなんきゃならないの?」



 ……え?



「いや、本人に聞いたんだけど。反ヤメ派の筆頭って自分で言ってたし、その割にヤメのことにえらく詳しいから愛情の裏返しだとばかり」


「それ本当? パステリアがヤメの話してる所なんて見たことないんだけど」


 ……おいおい。何それ怖っわ。急に前提が覆されたぞ。


 だったら、あの時のパステリアの話は全部嘘なのか? あんなにクソデカ感情を乗っけた話が? とても信じられない。


「大体、反ヤメ派なんてのがあるのなら筆頭は私だし。今はオマエん所にいるんだよね? あいつマジで気に入らないから表に出さないでくれる? 魔法の腕はそこそこだけどティシエラ様への敬意が全然ないし、もーマジでウッゼェし」


「ほぼ同じことをパステリアが言ってたな」


「……だったら多分、私が普段言ってたことを真似したんじゃない」


 アメリーの話が本当ならそういうことになる。ヤメにこだわっていたのはパステリアじゃなくアメリーだった訳か。


 けど、そうなるとパステリアの意図がまるでわからない。あのヤメへのクソデカ感情が全部アメリーのコピーだったとして、なんでそんなことする必要あんの?


 ここはパステリアの精神世界。問えば出てきて答えてくれるかもしれないが……なんか不気味だ。


「はぁ……やっぱりか」


 不意にアメリーが溜息を落とす。何かに気付いたんだろうか。


「多分だけどこの無人島脱出、フレンデリア様だけの企画じゃないよ。パステリアも関わってる」


「実行役ってだけじゃなくて、企画の段階で彼女の意図が反映されてる……って言いたいのか?」


「目的もね」


 苦々しい顔で呟くアメリーを見て、ようやく悟った。


 彼女が終始こんな顔をしているのは、脱出が上手くいっていないからじゃない。まして先輩ソーサラーに嫌味を言われたからでもない。


 疑っているんだ。この状況全てを。


「エチュアの手前、ずっと黙ってたけど……あいつ、ソーサラーギルドをメチャクチャにするつもりだよ」


 それは、俺が疑っていたギルドクラッシャーの正体を強く示唆する供述だった。






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