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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部03:次期と自棄の章
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第548話 俺って清純派じゃなきゃダメなん?

 震撼王ゲシュタリア……なんだその勝手に崩壊しそうな名前の王は。


「知りませんか? 震撼王。この世界の地下でグランディンワームとかのモンスターを捕食し続ける超越者なんですけど」


 知らん。つーか人類じゃなくてモンスターの天敵じゃねーか。その益虫みたいな奴は果たして本当に倒すべき敵なのか?


「あのね。震撼王ゲシュタリアが最近、この城下町の近くに来てるんじゃないかって話があって。もしそうなら城下町の真下に来ることも考えられるでしょ?」


「それが脅威になりかねないんですよ」


 脅威ねえ……そういえば似たシチュエーションに覚えがある。ミーナでジスケッドの野郎がグランディンワームを呼び寄せた件だ。


 でも幾ら地下に潜るモンスターとはいえ、聖噴水の影響を受けないことはない。あの時は聖噴水を一時無効化したから侵入できた。城下町でも一度そういうことはあったけど、もう問題は起こらない筈だ。だったら大した脅威じゃ……


「震撼王ゲシュタリアが居座るとね、その近くで地震が頻繁に起こるんだよ」


「……地震?」


「震撼王は【ガイアクエイク】の使い手ですから。地下にいるモンスターをガイアクエイクで揺さぶって瀕死にしてから捕食するんです」


 何それ怖っわ! 久々にこの世界のモンスターを怖いって思ったわ。


 グランディンワームも地震のような揺れを起こす超デカいモンスターだった。そんなモンスターさえも捕食される側になるバケモノが起こす地震か……震度ヤバそう。


「もし一度でも直下で地震を起こされたら、城下町は壊滅的なダメージを受けます。その前に倒さないといけません。幸い、震撼王は過去に何度も人類に迷惑かけてるのでブッ殺す口実はありますからね。これ以上ない獲物ですよ」

 

 邪悪な笑みをアヤメルが浮かべている。似合うなあ……


 まあ大地震を起こすバケモノなら討伐も止むなしか。なんか色々な生態系をブッ壊してそうだし、倫理的にも討伐OKな存在かもしれない。


 その作戦が奏功するかどうかはわからない。けど現状を打破しようって気持ちは伝わってくる。何より、冒険者を束ねるために冒険者に刺さりそうな実績を……って発想は悪くない。


 今までコレットは自分の努力で得た訳じゃない力――――レベル79っていう人類最強クラスの戦闘力を何処か煙たがっていた。気持ちはわかる。俺もただ与えられただけの力を行使するのは抵抗ある。未だに調整スキルは滅多に使わないしな。


 でも、それも自分の一部だ。与えられただけというなら容姿だって声だって命だってそう。誇る必要はないけど、使うことにいちいち抵抗を感じる必要はないんだ。本来は。


「ま、いいんじゃねーの。やってみる価値はあると思うし」


「トモ先輩ならそう言うと思ってました! なら手伝ってくれますね?」


 ……は?


「実は結構難敵なんですよ。本体もですけど、取り巻きモンスターが厄介で。コレット先輩には震撼王に集中して貰いたいんで、ザコ散らしは私たちがやりましょう!」


「いや、俺は……」


「あれー? 随分冷めてますね。さっきはあんなに情熱的で官能的なご尊顔を向けてきたじゃないですか」


 うわコイツここでかよ! ここでイジってきやがった投げキッスの件を! なんて悪質な!


「情熱的? 官能的? どういう意味?」


 ブブコレットがスゲー至近距離で睨んでくる。怖い。複眼が怖いから余計怖い。こんなデカい蝿いないから更に怖い。


「おいアヤメル……!」


「大丈夫ですよトモ先輩。私は口の固い信頼できる乙女ですから。ちゃんと筋を通す人間に対しては私も義を貫きます。逆に非協力的な輩は相応の扱いをしますけどね」


「ぐっ……俺から寝床を奪っただけじゃ飽き足らず、脅迫までしてくるのかよ」


「人聞きの悪いこと言わないで下さいね。私はいつだってトモ先輩を破滅へ追いやれるんですから。温情なんですよ? こうして交渉の余地を与えてるのは」


 なんで勝ち誇った笑みを浮かべてるんだこいつは……俺を相手にマウント取って何のメリットがあるんだ?


 けど、ここは従うしかない。恐らくアヤメルは自分に投げキッスをしたと思ってるんだろうし、実際正面からその時の顔をガッツリ見られてしまっているから言い訳しても弱い。俺に逆らう選択肢はないんだ。あんな顔をコレットや他の面々に赤裸々に語られた日には、もう外を歩けない。


「……わかった。屈しよう」


「トモ!? ホントに何やらかしたの!? まさかアヤメルちゃんにセクハラした!? もしそうなら絶交案件だよ!?」


「してねーし」


 そういやこいつ、ちょっと前に娼館でも俺が男娼館の建設に協力的だって誤解して『顔も見たくない!』とか叫んでたよな。


「お前さ、なんか俺に対して潔癖じゃね?」


「……どういう意味?」


「いや、俺が性的な悪事を働いてるって誤解するパターンが目立つし、スゲー嫌悪感示すじゃん。俺って清純派じゃなきゃダメなん?」


「それは……だってトモってそういう感じじゃないじゃん。だから話しやすいっていうのもあるし……私そっち系の話苦手だし嫌いだしこの世からなくなって欲しいし」


 極端だな! 聖属性だけあってシスターっぽいトコあんだな。


「私ね、思うんだ。大人だからって少しくらいのイヤらしいことを我慢しなきゃダメとか、お酒の席ならそういうお話も出来なきゃダメとか、接待なんだからセクハラオヤジと話合せないとダメとか、全部あり得なくない? そういうの勝手に押しつけられても困るし許容できないし撲滅したいんだよね。私ってそのためにレベルが79もあるんじゃないかな」


「……そ、そうだな。アヤメルもそう思うよな? 俺、セクハラしてないよな?」 


「あっはい。そう思います。トモ先輩セクハラしてません」


 珍しくアヤメルまでもが引くほどのド圧。コレットさん複眼がバキバキにイッてますって。いや気持ちはわかるんだけどさ。俺も下ネタ苦手だし。


 そんなコレットが女帝の所にまでリーダーシップを学びにいったと思うと泣けてくるな。決死の覚悟だったんだろうな。


「それにトモ先輩はギルドでもそこは徹底してるっていうか、セクハラになりそうな言動を取り締まる側ですから。私が保証します」


「……だったらさっきの官能的って何?」


「ひいっ! コレット先輩そのマスクで躙り寄って来ないで下さい! なんでもないんです! ちょっとトモ先輩が投げキッスの練習してる所を見ちゃっただけですから!」


 あ、そう解釈してくれてたんだ。案外良い奴だなアヤメル。見直したよ。


「あ……そうだったんだ。ゴメンねトモ、私ちょっといきり立っちゃって」


 自分に向かっていきり立つって表現使う奴初めて見た……自我があるバーサーカーなの?


「とにかく、コレット先輩はここを出たら震撼王ゲシュタリア討伐に出かけるんで、トモ先輩も手伝って下さいね」


「……まあ時間があったら」


「大丈夫です。スキマ時間で出来るお仕事ですから」


 そんなサクッと倒せるもんなんか震撼王。魔王と同格の知名度っつってなかったか?


 まあいいや。コレットが冒険者ギルドを纏められる存在になるためなら協力は惜しまない。俺や城下町ギルドにとっても必ずプラスになるし。


「話が纏まったところで、無人島生活に話題を戻しましょう。トモ先輩はすんなりクリアできると思いますか?」


 アヤメルの目が、遥か遠くにいるソーサラーたちへと移る。


 彼女たちは地力で岩壁や地面に巨大な穴を開け、そこを生活の拠点にしている。勿論、壁や地面に向かって普通に攻撃魔法を使っても居住区になるような洞穴にはならないから、魔法を駆使して上手に作り上げたんだろう。


 ……つくづく思う。ソーサラーって無人島向けの職種だよな。逆にいえば無人島生活で一番苦労しない職種だ。簡単に火を起こせるし。


「脱出自体は何とかなるだろ。でもお互いを牽制してるっぽいし、協力体制を築くのは無理なんじゃないか?」


「ですよね。多分、これって脱出自体が目的じゃなくて……」


「ああ。『どんな形で』脱出するかを問うやつだな」


 パステリアが定めたルールだと、誰かが脱出に成功した時点でこの精神世界は消滅するという。つまり、クリア条件を満たすのは一人でいい。


 その一人に誰がなるか。


 当然、そこに大した意味はない。リレーのアンカーみたいに優れた人物が選ばれる訳でもないんだし。誰が脱出しても問題はない。


 けど多分、彼女たちはそれを勝手に意味のあるものにしてしまう。


 この精神世界に閉じ込められたソーサラーの中から、代表者を一人選出しその人物にゴールさせるか。


 それとも各自バラバラに脱出方法を探って、最初にそれを達成した人物の『勝利』とするか。


 或いは、全員で一致団結して同時にゴールするか。


 パステリアはクリアの形を決めていない。だから当事者のソーサラーたちは、それをマウントを取るために利用することもできる。


 そして、ティシエラに期待されている∇ヨミエレ∇の3人にだけは絶対に負けられないと思っている奴もいるだろう。


 この無人島サバイバルは、彼女たちの中に燻っている他のソーサラーへの嫉妬心や競争意識を顕在化する為のもの。その上で協力するよう呼び掛けているんだからタチが悪い。完全に∇ヨミエレ∇以外のソーサラーたちを煽っている。


 確かに∇ヨミエレ∇の成長には繋がるかもしれない。無人島サバイバルにしちゃ難易度は低いかもしれない。


 けど、これは別の意味でソーサラーギルドの命運を懸けたサバイバルだ。


「ま、私たちには関係ないからギスギスして貰った方が見応えあって面白いんですけどね」


「お前そういうこと堂々と言うなよ。思うだけにしとけって」


「……2人とも性格悪くなってない?」


 コレットの指摘に賛同する者はなく、俺たちは暫くソーサラーたちの生態を遠くからまったり観察する無人島ライフを送ることになった。






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