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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部03:次期と自棄の章
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第545話 私は嘘をついています。

 無人島生活1日目。


 アソートを用いた魔法アイテムによって生成されたこの孤島に隔離されてしまったソーサラーは全部で18名。内訳は審査員7名、進行役1名、出展候補作品のプレゼン目的で待機していた者8名だ。


 出展候補の魔法アイテムは全部で16点だったけど、シーマをはじめ複数のアイテムをエントリーさせていた意欲的なソーサラーもいて、中には4つも出していた強者もいたという。


 この中で俺が知っているソーサラーは∇ヨミエレ∇の3人、カイン君、クロード君の計5名。残りの13名は全員女性で、多少顔に覚えがある人はいるものの、ほぼ知らないソーサラーばかりだ。


「リィンカーベルです。えっと……皆、仲良くしましょう」

「チルミィです! 皆さんとご一緒に帰還できるよう精一杯がんばります!」

「ホシカでーすクソだりーでーす仲良くとかどーでもいいんで」

「イオナです! 無人島は大変ですけど気合いで乗り切りましょう!」

「鬱陶しい。なんで私がこんなこと……名前? みんな知ってるでしょ? ドロテアよ」

「……」

「あ、この子はカミラね。私はクローラ。知ってると思うけど従姉妹同士。カミラ全然喋らないけど悪気はないから仲良くしてあげてね♪」

「ヴィヴィオレットデース! ワタシ無人島ハジメテデ興奮シテマース!」

「ネネ……あの……私に構わないで下さい……しつこいと殺しますので……」

「ちょっとぉー! わたしのちょお芸術的作品の審査どうなったの!? 名前!? このミッピー様の名前知らない奴とかいる!?」

「セシラです。全員煩くて辟易します。こんな連中とティシエラ様抜きで集団行動なんて最悪です」

「きゃはははははウェイチェルでーっす! マジ最悪だよねー! つーかここって着替えないの? 審査会用のこの格好地味で嫌なんだけどー!」

「これだからソーサラーって嫌いなんです。魔法バカばっかりで自分勝手で……私ですか? 私はソーサラーが憎くてソーサラーをやってるチェルルカですが何か?」


 ……とても覚えられん。


 けど一度自己紹介されて名前間違えたり知らなかったりは失礼だし最低限の特徴とセットで脳に刷り込もう。大人になると基本こんなだよな。


 えーっと、赤髪の大人しそうな子がリィンカーベル。小柄で童顔で健気そうなのがチルミィ。目付き悪くてやる気なさそうなのがホシカ。ずっとシャドーボクシングやって元気一杯なのがイオナ。∇ヨミエレ∇の面々に先輩風吹かせていた横ポニーの毒舌家がドロテア。一言も喋らない黒髪ロングの子がカミラ。そのカミラの従妹で終始ニコニコ顔な黒髪ロングの子がクローラ……これでようやく半分か。


 そんでそんで、あのカタコトの金髪女性が確か……ヴィヴィオレット。陰鬱な空気を醸し出して終始俯いている人生辛そうな子がネネか。ミッピーってのも∇ヨミエレ∇とケンカしてたな。顔も言動も子供っぽい。セシラは事務的に罵ってくるタイプか。お淑やかな見た目で結構キツい性格だな。


 よしラスト2。ウェイチェルってのは陽気だし髪も紫でド派手だ。派手好きなんだろう。んでやっとラスト! なんか一番ソーサラーっぽっていうか魔女っぽい三角帽子と黒ローブと箒の三点セットなのがチェルルカだ。


 これで一応名前は覚えた……かな。自信ないけど。


「この孤島ロスト・アイランドを誰か一人でも脱出できれば、精神世界は消滅し皆さん元の世界に戻れます。ソーサラー全員で一致団結すれば十分に可能です。私は陰から見守っていますので、この苦難を乗り切って下さい」


 このシチュエーションを生み出したパステリアの他人事のようなアナウンスに対して、苦言を呈するソーサラーは一人もいない。明らかに異常だ。


「この世界は私の精神が作用していますからね。長くいればいるほど、私の願望通りに動くよう心が染まっていくんです」


「マジかよ。完全に洗脳じゃねーか」


「とはいっても精神世界内限定の話ですけどね。ここを出てしまえば元の状態に戻りますから、人格操作はできません。使い道といえば、せいぜい犯罪者の自白を促す程度ですね」


 しれっと謙遜じみたことを言っているけど、勿論そんな訳がない。一旦精神世界に閉じ込めてしまえば、拷問をしなくても容易に特定の人物から情報を奪える。ティシエラのプライマルノヴァもヤバい魔法だと思ったけど、このアソートはそれ以上だ。


「なあ。あんたが作った魔法アイテムってのは、誰が使ってもこのアソートとかいう魔法と同じ効果を発揮できるって訳じゃねぇよな?」


 ゴーギィの懸念は当然だ。こんな魔法を誰彼構わず使える世の中とか想像するだけで具合悪くなる。そんなアイテムが世に出回ったら大変だぞ。


「私しか使えない魔法を、ソーサラーですらない輩にも使えるようにするメリットが私にあると思いますか?」


「確かにあんたの価値は下がるだろうな。だが『あんたのアソートを自分にも使えるようにして欲しい』と権力者に頼まれれば、その限りじゃねぇだろ」


「とある御方、だったか。そいつに依頼されて作った可能性はあるな」


 ゴーギィに加えてシェマルドもパステリアを追い詰めていく。


 二人の危惧はわからなくもない。もし本当に『アソートを誰でも気軽に使える魔法アイテム』なんてのが開発されていたら城下町は洗脳テロが頻発するだろう。当然、俺も全力で潰しにいかなきゃならない。

 

 けど……それは絶対にない。


「そんなアイテムの開発をティシエラが喜ぶとは思えない」


 俺の言葉に、パステリアがニマーッと笑った。あ、これエチュアがアヤメルに攻撃してた時の顔とそっくりだ。あんまり似てない姉妹だけど好戦的になると血が騒ぐんだな。


「私とソーサラーギルドを理解して頂きありがとうございます。やはり貴方はサクアが言っていたように一目置くべき人間ですね」


 そんな嬉しくも何ともない褒め言葉を聞いている間にも、ソーサラーたちは特に不満を訴えるでもなく無人島生活の備えを粛々と始めている。なんか怖い。AIで動いてるキャラみてぇ。 


「この空間を生み出したのは、私の魔法アイテム【無人島症候群】で間違いありません。ですがこれは洗脳テロのために作られたものでも魔法市に出展する目的で作られた訳でもないのです。だって一度目標に達したら消滅するアイテムですから」


「使い捨てってことか?」


「はい。精霊ならともかく、人間にここまで大規模な精神世界を展開するだけの魔力はありません。なので私のアソートを増幅させる幾つかのオーナメントを用いて開発したのがこの無人島症候群です。かなり歪な設計で無理やり作ったようなものなので、一度の使用が限界なのです。勿論、複製もできません」


「ってことは、あの有象無象のソーサラーたちに無人島サバイバルを経験させるためだけに作ったアイテムだったんですか?」


「はい。開発期間2年を費やしました」


 アヤメルに対しそう答え、パステリアは再び笑う。


 2年は長いな。つーかさっき、元々は違う日に決行する予定だったっつってなかったか? そこまで作り込んで入念に準備しておいて、私情で決行日を変えたのか?


 ……。


「苦労した分気が気じゃないですが、実は好都合だったのですよ。私の焦燥や不穏が反映された方が皆必死になるでしょうから。この無人島脱出はソーサラーが団結するための企画なので必死さは重要な要素でして」


「確かに必死な方が団結はしやすいでしょうけど……要するにこれって結局、ギスギスしてるソーサラーギルドが仲良くなるために用意した魔法アイテムってことなんですか?」


 蝿のマスクを被ったまま問い掛けるコレットにパステリアがコクリと頷く。普通の会話の筈なのに絵面がシュールすぎて内容が中々頭に入ってこない。


「そういう訳なので、巻き込んでしまった皆さんには申し訳なく思っています。でも大丈夫です。ここは私の精神世界ですので、飢え死にしたり脱出に失敗して溺れ死んだりはしません。お腹が空いたら森の中を探せば美味しい果実が必ずありますし、狩りをすれば獣肉も食べ放題ですしソーサラーに頼めば焼き放題です」


 なんで無人島で焼肉バイキングみたいな食生活ができるんだよ! 世界観おかしいよ?


 ……おかしいのは世界観だけじゃないけど。


「っていうか現実に返して下さいよ。私繊細なんで無人島で寝泊まりとか絶対無理なタイプなんで。タフな経験を沢山してきたコレット先輩と一緒にしないで貰えますか?」


「アヤメルちゃん!? しれっと私の過去を捏造しないで! 私だって野宿はほとんど経験ないよ!?」


 その後もアヤメルとコレットの冒険者コンビがクレームを入れまくったが受理はされず、無人島生活1日目は不毛に時間だけが過ぎていった。



 そして2日目の朝――――


「おはようございます。夕べはよく眠れましたか?」


「地べたでまともに寝られる訳ないだろ……」


 寝起きで頭がまとまらない俺の所にパステリアがやって来た。


 昨日から一貫して雲一つない青空が広がってはいたけど、いつ天候が変わるかわからないし何が出てくるかもわかったもんじゃない。当然、砂浜や野原で横になる訳にはいかないから結局昨夜は夜通しで寝られそうな所を探し回ったんだっけ。


 精神世界だからなのか夜間でも月明かりだけで視界良好だったため、程なくして雨風を凌げそうな洞穴を発見。どうにか夜をやり過ごして今に至る。


 ここには俺と彼女以外誰もいない。女性陣と一緒に寝る訳にはいかないし、ゴーギィとシェマルドは疑心暗鬼になってたからな。


 丁度良い。この機会にしか聞けない件を聞いてみよう。


「不躾で悪いんだけど、アンタは嘘をついてるよな?」


「何故そう思うのですか?」


「単純に言動が逐一嘘臭かったってのが一番だけど……少なくとも開発に2年はかかってないだろ? もしそれだけ準備期間があったのなら、決行日の変更が軽率すぎる。俺たち無関係の人間を巻き込む以外の選択肢があった筈だ」


「……」


 動揺は――――なし。


 また読み違えたか……?


「ええ。仰る通り、私は嘘をついています。よくぞ見破りましたね」


「杜撰さを指摘された割に随分余裕だな」


「ここは私が最も安定する場所ですから。それに、嘘を見抜かれたところで計画に支障はありません」


 そりゃそうか。自分の精神世界だもんな。誰だって自分の心の中で脅かされたりはしないだろう。 


「私の目的は単にソーサラーを団結させるだけではありません。∇ヨミエレ∇の3人を強制的に成長させるためにこの状況を用意しました」



 述懐の直後、パステリアは無表情のまま嗤った。







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