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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部03:次期と自棄の章
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第538話 そんな魔王に世界征服の理由を聞くテンションで問われても

 予感はあったけど、ミーティングは序盤から難航を極めた。


 その理由は明らかで――――


「すみません、意見を言う時は挙手でお願いします。それじゃはい、そちらの横ポニーの方」


「違いますティシエラ様の佇まいはこうじゃないです! もっと何て言うか……もっとお美しいです! これじゃ全然伝わらない! なんで!? なんでこんなふうになっちゃうの!?」


「申し訳ありません。感情的にならないようお願いします」


 ……シーマをはじめとしたソーサラーたちの『この銅像じゃティシエラ様の魅力が伝わらない!』という意見が総じて抽象的だからだ。具体的な理由がほとんど出てこないから、発注を受けている職人ギルドのゴーギィも終始苦笑いを浮かべるしかない。


 そんな感じで小一時間ほど経っても何一つ進展のないまま、司会進行を務める俺の声も徐々に枯れてきた。


 元いた世界の銅像がどうやって作られていたかは知らないけど、多分粘土とか石膏で原型を作って溶かした銅を流し込んで固めるんだろう。恐らくこの世界でも似たようなプロセスで作られている筈だ。


 だから表情が硬くなったり人間と異なる質感になるのは当たり前で、その割にこの銅像は大分健闘している方だ。ソーサラーたちのティシエラ愛が強すぎて理想がストップ高になってる気がする。これ以上ミーティングを長引かせても実のある話は出て来そうにない。つーかこんなに長引くなら普通の会議室でやってくれませんかね。なんで突っ立ったままやらなきゃならないんだ?


「皆さん、この場は一旦私に預けてくれませんか?」


 そんな閉塞感と疲弊感が漂う中、シーマが美しい所作で挙手した。


「問題提起はティシエラ様の魅力が全く反映されていない一点に集約しています。これを改善するためには、今一度ティシエラ様の魅力を全員で共有する必要があります。見落としがあってはいけません。全て! ティシエラ様の全てをこの像に込めなければ、ティシエラ様の真の姿を後世に残すことはできません!」


 力説してるシーマに他のソーサラーたちも真剣な表情で頷いている。物作りに対して真摯な現場……なんだろうけど、やっぱりちょっと怖いよね。当の本人が見たらドン引きするんじゃないかな……


「そこで私は考えました。私たちのような内部の人間だけで魅力を出し合ったのが良くないと。もっと客観視できる人間を招いて、その意見を拝聴することで新たな気付きを得られるんじゃないかと」


 ……こっち見んなよ。


 え? 俺に意見を求める気? いやいやいやいや。俺司会で呼ばれたんじゃなかったのかよ。何処の世界に司会からの意見をラストカードにするミーティングがあるんだよ。


「私としても決して本意ではありません。誰が好きこのんでこんな輩に……でも背に腹は代えられません。ティシエラ像のクオリティアップは私たちにとって絶対。毒を飲む覚悟で彼の意見を聞きたいと思います。皆さんも腹を括って下さい」


 シーマの演説に対するソーサラーたちの反応は9割が歯軋り。すげぇな。こんな多重音で歯軋り聞いたの初めてだよ。不快が過ぎる。


「宿敵トモに問う。ティシエラ様の魅力とは何?」


「そんな魔王に世界征服の理由を聞くテンションで問われても」


「いいから答えろ」


 有無を言わせないな。つーかソーサラー全員の目が俺に集中してるこの光景、控えめに言って魔女裁判なんよ。


 まあ、別に語るけども。余裕で語れるけどティシエラの魅力くらいなら幾らでも。


「じゃあハッキリ言うぞ。俺が思うティシエラの魅力は『闇』だ」


「!」


 断言した俺に対する反応は様々。『は?』って顔のソーサラーもいれば『この逆張り野郎』ってツラの奴もいる。一方でシーマは憎々しい感情を隠しもせず『そこに目を付けやがったか』って顔。他にも固唾を呑んで次の言葉を待っているソーサラーが何人かいる。


 流石、ソーサラーギルドの中でもティシエラ愛が強い精鋭たち。宿敵の意見でもこれはと思えば耳を傾ける。中々できないことだ。顔面から伝わってくる苛立ちはともかく。


「ねえどういうこと? ティシエラ様の闇って何? まさかティシエラ様がダークな一面を持っているとか言い出さないでしょうね」


 ……いたのかエチュア。隣にはアメリーもいる。仮面のせいで全然気付かなかった。つーかあいつら、フレンデリア主催の合コンもどきが終わったら即ここに駆けつけてたんかい。フットワーク軽いな。


「私はそんな戯言、認めな――――」


「黙りなさい会員No.0000879。闇とはそんな安直にあしらうべき言葉じゃないのです」


 シーマが急に話に割って入ってきた。つーかソーサラーギルド所属のエチュアで会員番号879なのかよ。勿論、何の会員なのかは推して知るべし。100万人以上を想定しているのも地味に怖い。


「闇。それは悪人の代名詞として頻繁に使われる言葉だけれど、闇とは悪と同義語ではありません。人の心に差す陰もまた闇。そうですよね? 我が宿敵トモ」


「仰る通り」


 闇担当だけあって闇の解像度が高い。闇に解像度があるのかどうかは甚だ疑問だけれども。


「ティシエラの心には常に陰が差している。それはここにいるソーサラー全員が何かしらの形で実感してるだろ? 自分の掲げる詠唱必要論が中々理解を得られていない現実。イリスやヤメに対しての一部のソーサラーの妬み。一枚岩になりきれていないソーサラーギルドをまとめるには苦労の連続だろうし後継者問題もある。そんな中でも日々ソーサラーギルドのために身を粉にして働いているティシエラの心は、ずっと疲弊したままだ。そりゃ陰も差すさ」


「私たちの力不足を指摘してるの? 私たちがティシエラ様の負担になってるって言いたい訳?」


 苛立ちつつ問うアメリーの顔には、俺への攻撃性とは別の苦々しさが滲んでいる。どうやら自覚はしているらしい。


「こいつに指摘されるのは虫酸が走る思いですけど……残念ながら的を射ています」


「シーマ!」


「狼狽えんなアメリー! これは私たちにとって避けて通れない問題だろうが!」


 あ、また口調が荒々しく……身内にもこうなっちゃう時あるんだな。


「け、けど……」


「アメリー アメリー アメリー アメリーよォ~~~~私はアンタを信じてるんだ。私がさっき怒鳴ったことなら『自信を持て』…アンタのティシエラ様への愛は何者にも負けないんじゃなかったのか? いつも自分で宣言してるだろ? ここが正念場だアメリー! こいつがさっき言った『闇』はものスゴクいいヒントなんだ。私たちは今核心に近付いてる!」


 演技派だなシーマ。やっぱ闇担当ってこんな感じの仕上がりになるんだなあ。アイドルあるあるだよね。


「我が宿敵トモ。もう少し詳しい説明を彼女らに」


「……まあいいけど」


 他人の魅力を具体的に話すって恥ずかしいんだよな。自分をアピールするより恥ずかしいかもしれない。


「今言ったように、ここにいるソーサラーの面々をはじめとしたギルド員たちの日頃の行いや考えがティシエラの心に陰を差している一因なのは否定できない。本人は決してそんなことを口にはしないけどな。俺自身、イリスや他のソーサラーから相談を受けたこともある」


「イリス……っ! また勝手にそんなことをっ……」


 アメリーはどうやらイリスを敵対視しているらしい。彼女だけじゃない。ティシエラの右腕ポジションにいるイリスを妬ましく思うソーサラーはかなり多い。


「それだよアメリーそれなんだよアメリー」


 シーマが凄い圧でアメリーを指差す。鼻の穴に指を突っ込む勢いだ。


「アンタたちのそういう過剰反応の一つ一つが、ティシエラ様をちょっとずつ傷付け疲弊させている。アンタたちも気付いてるんだろ?」


「それは……でもだって仕方ないでしょ!? 私たちは人間なんだから! 思ったことが顔や口につい出ちゃうなんて仕方ないことじゃない! ティシエラ様の寵愛を受けている幼なじみとか憎むなって方が無理だから!」


「だから徹底しろといつも言ってるだろ! 隠せ! 誰にもその感情を見せるな! 中途半端に理解ある部下みたいな振る舞いしやがって!」


「できないよ! 私にはそこまではできない! ティシエラ様を慕ってる気持ちがそれをさせない! 私の《想い》の強さがさせないの! わかるでしょ!?」


「わかるからこそ我慢しろっつってるんだろうが! アンタらの中には『《想い》が弱いから我慢できるんだ』って私たちを下に見てる気持ちがどっかにあんだよ!」


「そんなこと思ってない!」


「いや思ってる! 自分の方がティシエラ様への愛が深いと思ってるね! それが驕りなんだ!」


 ……何だこれ。何だ?この修羅場は。あと想いのイントネーションがクドいんだってば。イラっとする。


 双方の言いたいことはわかるけどさあ……余所でやってくんねーかなあ……


「うううううううう~~~~~~」


 あーあ。とうとうアメリーが泣いちゃったよ。それにつられて隣のエチュアも涙ぐんでるじゃん。空気悪いって。


 率直に愛が重すぎるんだよね。そりゃティシエラも日に日に弱っていくわ。毎日こんな連中の世話をしてたんじゃな……


「そんなことより銅像の話は終わったのか? だったら俺らもう帰るぞ」


「終わってないから黙ってそこで見てろ!」


「あ、ああ」


 ゴーギィさん一喝されちゃったよ可哀想に。絵的にはゴリラが子猫に威嚇されてビビったみたいで中々シュールだ。


「はぁ……見ての通り、私たちはずっとこのザマだ。埒が明かない。ティシエラ様の銅像を作るって目標があれば一つにまとまると思ったんだけど、それぞれの思うティシエラ様の魅力も微妙に食い違ってんだよ。途中までは『それもあるー』って共感し合って和気藹々と進行するんだけど……途中からいつもこんな感じなんです」


 若干冷静になったらしく、シーマの口調が戻った。


 成程なあ。俺に司会進行やらせる訳だ。ソーサラーの誰がやってもまとまりそうにないもの。


 何にしても、こんな空気の中で時間を浪費したくない。とっとと終わらせよう。


「……一応俺の意見を続けるけど、俺はあくまでティシエラの心の陰は魅力だと思ってる。堪え忍ぶ美徳っていうか……闇を抱える中で正しくあろうとするからこその美しさだと思うんだよ。そう考えると、この銅像にはそんなティシエラの一面は反映されてないように思う」


 こんなの完全に言いがかりだ。けどこの場を収めるには『魅力が反映されてない』っていうソーサラーの総意を肯定しなきゃいけない。却下しちゃダメなんだ。


「そこで一つ案があるんだけど」


「聞きます。なんでしょう」


「銅像のティシエラに暗黒武器を持たせてみたらどうだろう」


 具体的にわかりやすく闇要素をくっつけることで、無理やりにでも納得して貰う。それが一番だ。


 何より――――


「……検討に値する提案です」


 ベリアルザ武器商会のファンであるシーマが受け入れない筈がない。


 そんな訳で、ティシエラの銅像に最も相応しい暗黒武器は何かを検討する新たなミーティングが後日行われることになり、今日はここでお開きとなった。







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