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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部03:次期と自棄の章
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第531話 関係を清算しなければならないんです

 金枝ミスティルテインって確か十三穢、それも四光の一つだったっけ。武器が神代わりってのも妙だけど、要は御神木みたいなもんなんだろう。


 とはいえ教義と無関係じゃない筈。子孫繁栄と何の関係があるんだ?


「ミスティルテインは命を宿す剣と言われていて、一部では子宝の象徴とする考えもあるわ。その性質を世界からの贈り物と見なして拠り所にしているみたい」


「安産祈願のお守りみたいだな……」


 何にしても面妖な宗教なのはビシビシ伝わってくる。面妖って普段使わない言葉だけど、この場合一番しっくりくる表現はこれだ。ジュンジョアーナ教マジ面妖。


「それじゃ、金枝ミスティルテインはジュンジョアーナ教団が保有してる訳か」


「いえ。本物ではなくレプリカを教団内に飾ってあるらしいわ」


「それも一つや二つじゃないみたい。お父様から聞いた話だと、武器職人がフル稼働でガンガン複製してるんだって。もしかしたら一人一本持ってるかも」


 偶像崇拝にありがちな濫造パターンか。つーか信者が揃って剣を持ち歩いている宗教団体って普通に怖いな。


 それでも、男中心の組織の中にはジュンジョアーナ教を支持している連中も少なからずいるだろうな。性的な魅力に溢れた女性を増やしたいっていう彼らの主張は、分厚い男性支持層を得るのに十分すぎる内容だ。


 その連中にこぞって距離を置かれてしまえば、ソーサラーギルドにとっては大打撃になりかねない。フレンデリアの懸念は正当なものだ。


「ちょうどいい機会なんです」


 それでもティシエラは、一切迷うことなく答える。既に覚悟は決まっているらしい。


「行方不明になっていた王族が見つかって、これから私たちは彼らと少なからず向き合わなければならなくなります。だから、その時までにジュンジョアーナ教との関係を清算しなければならないんです」


「……どうして?」


「王族の失踪とジュンジョアーナ教団は、無関係ではないと私は考えています」


 衝撃の事実!


 ……と言えるほどのことでもないな。さっきから話に出ているようにジュンジョアーナ教が色んな勢力と関わっている訳だから、王族と縁のある組織、若しくは王族と直接の関わりがあるのは寧ろ自然だ。


 ただ、今のティシエラの口振りは単に関わりがある程度の話じゃなさそうだ。


「例の王族失踪事件ですが、やはり王族が自発的に行ったとは考えられません。彼らにその覚悟があるのなら聖噴水の機能が停止したモンスター襲来事件の直後には実行に移している筈なんです」


「ま、それはそうだけど。あの一件を手引きしたのはジスケッドって結論が出てるでしょ?」


「そのジスケッドの支持母体がジュンジョアーナ教団だとしたら、辻褄が合うんです」


 ……聞き逃せない話だな。あのジスケッドと変態宗教団体がグルってか? そんな気持ち悪い組み合わせ想像するだけでおぞましいぞ……


「ジスケッドは鑑定ギルドのサブマスターですけど、鑑定ギルドには籍を置いているだけでギルド員との交流はほぼありません。彼が野心を叶えるためには別の後ろ盾が必要です。ジュンジョアーナ教団にとっても、十三穢に詳しい彼を支援するメリットがあるんです」


「金枝ミスティルテインか」


「ええ。どれだけレプリカを造ろうと、彼らは本物を欲している筈よ」


 そりゃ、自分たちにとってのシンボルが偽物のままじゃ収まりも悪いだろう。意地でも探し当てたい筈だ。


 ジスケッドの野望は世界征服。そのために十三穢を完璧に解析しようと考え鑑定士になったと本人が暴露していた。この情報は五大ギルドと共有しているから、当然ティシエラの耳にも入っている。その時点でジュンジョアーナ教団との関係性を確信したんだろう。


「確かに組む理由はあるみたいだけど、証拠はないんでしょ?」


「はい。現時点ではありません」


 ねーのかよ。自信たっぷりに言うもんだから証人なり物的証拠なり見つけたのかと思った。


「ですが状況証拠としては十分です。王城から王族だけでなく全員を追い出すほどの大掛かりな計画は、個人はもちろん生半可な組織では到底実現できません。可能とするだけの人脈が必須です」


「確かに、そうなってくるとジュンジョアーナ教が有力候補ではあるのよね……」


 フレンデリアも色々と言いつつもティシエラの意見には賛同気味だ。でも俺は全てに納得できた訳じゃない。俺はジスケッドと組んでいるのはファッキウだと思っているからな。


 ファッキウは娼館の息子。ジュンジョアーナ教にはアリエナス神父をはじめ娼館に入り浸っている連中が山ほどいそうだけど、教義そのものとは到底相容れない業種だ。実際、さっきフォビア神父も敵視してたし。


 でもジュンジョアーナ教団とジスケッドが組んでいるのなら、ジュンジョアーナ教団はファッキウも受け入れてることになる。そうなると俺の予想は大外れだ。


 ……普通にあり得るな。毎度毎度大外れですからね俺の予想って。


「もう一つ、証拠と言うほどではありませんが有力な情報があります」


「何? 勿体ぶらずに言って。あとトモ、ちょっとは会話に入ってきなさいよ。さっきからずーっとダンマリじゃない」


「いやいや、そんなあっさりと割って入れるような問題じゃないだろ。俺、この街の勢力図とか全然知らんし」


「今把握している情報で大体の想像はつくでしょう? サボりは厳禁。貴方はもう一介の新参者じゃないのよ?」


 ……そう言われましてもね。こっちはまだ異世界転生から半年ちょっとしか経ってない城下町ビギナーなんですよ。ちょっとは考慮時間をくれって。早指し戦じゃないんだからさ。


「フレンデリア様の言う通りよ。それに今の貴方はソーサラーギルドの一員なんだから下手な遠慮はいらないわ。好きに発言して」


 う……ここでそのカードを切ってきたか。


 あれ?


 まさかティシエラさん、そのために一日体験の日程を今日に合わせました? フォビア神父の来訪と被るように?


 よくよく考えたら、幾ら魔法市が迫ってるとは言ってもまだ一週間も先の話。今日しか無理って理由にはならない。


「ティシエラ! 謀ったな!」


「私は事前に確認したわよ。『私を人でなしだと思う?』って。その時貴方はなんて言ったの?」


「ぐぬぬ……」


 やられた。最初からこの面倒事に俺を巻き込む魂胆だったのか。てっきり罪悪感で苦い顔をしてると思ってたのに!


「はぁ……面倒な性格よね、貴女も」


 一瞬俺のことを言ってるのかと目線を上げると、フレンデリアの呆れ顔はティシエラの方に向けられていた。


「素直に『トモの力が必要だから協力して』って頼めば、彼なら二つ返事で快諾するのに」


「……」


 俺への解像度がやけに高い貴族令嬢の正論に対し、ティシエラはそっぽを向いて無視。どうやら図星らしい。


 普通ならここで『ティシエラが俺を頼ってくれている!』って一気にアガる所なんだけど……敵対勢力があのアリエナス神父やフォビア神父を生み出したジュンジョアーナ教団となると素直には喜べない。


 敵がいるのはいいんだよ。例えば先日戦ったジスケッドとかは多少の変態性はあっても正統な強敵って感じだったし、こっちもストレートにぶつかっていける。モンスターを使役してくる相手なら尚更だ。


 けどラヴィヴィオとの決戦や鉱山での殺人未遂事件の一件みたいな、人間が腐ったような連中とやり合うのは疲れる。しかもその疲労が抜け難い。引き摺る。すんごいしんどい。


 とはいえ、モンスターとの戦いよりもこっちの道を選んだのは他ならぬ俺自身。城下町の治安に直結するこの問題に泣き言は言えない。


「わかった。明らかにティシエラの苦手そうな相手だし、サポートできることがあるんならやるよ」


「……ありがとう」


 言葉だけを聞けば素直な御礼だけど、表情はとてもそうは受け取れない。俺に頼らざるを得なかったことへの忸怩たる思いとか、これからあの連中と本腰入れて徹底抗戦しなきゃならないことへの煩慮が滲み出ている。


 これは素人にはわからないだろうな。ティシエラをよく知らない人が見たら、寧ろ無表情だと訴えるかもしれない。でも違うんだな。ティシエラの感情表現は優れた絵画のように奥深い。こればっかりは言葉だけでは説明できない。


「決まりね。このチームでジュンジョアーナ教を粉々になるまで捻り潰してあげましょう!」


 対照的に、こっちはなんて大味な表情なんだ。フレンデリア御嬢様? 急に言葉が過激になりましてよ?


 あーそうか。同性のコレットに恋するフレンデリアにとってジュンジョアーナ教の教義は決して相容れないもの。さてはずっと潰す機会を窺ってたな?


 逆に言えば、貴族と五大ギルドの一角でも単体だと容易には対抗できない相手。国教ってのはそれだけ重い存在なんだろう。


 俺も覚悟を決めなきゃな。


 まずはその本質を知るところから始めよう。







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