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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部03:次期と自棄の章
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第525話 恐怖のバリエーションも豊富

 モンスターとの戦いから身を引いた俺にとって、魔法とスキルはちょっと遠い存在のものだ。


 勿論、それなりに間近で見たり自分に向けられたりする機会はあったから遥か遠くって訳じゃないけど、じゃあ自分の生活に深く関わるもので分析や解明が必須かと言えばそうじゃない。この世界にはどんな魔法やスキルがあるのか、その中の何々を使える奴が欲しいとか、そういう戦略的視点で捉えることも一切なかった。


 けど今後はそうも言っていられない。本格的に街の治安維持を担うギルドになっていくには、これらの超常的な能力を駆使すべき局面が次々と出てくるだろう。俺には際立った戦闘力はないし、直接的な戦闘指揮を行えるほどの卓越した戦術眼や知識もない。だからこそ、ギルド運営をしていく上での人材管理と仕分けには注力しなきゃいけない。


 ソーサラーギルドへの一日体験入団には色んな意図と理由があるけど、一番はこれだ。本格的にこの世界、この街に根差した人生を歩んでいくための第一歩。アインシュレイル城下町ギルドを不動の地位に押し上げるには、俺自身がギルマスとしてレベルアップしなきゃならない。


 冒険者としての俺のレベルは18で頭打ち。その事実が判明した時はちょっとだけショックだったけど、おかげで腹を括れた面もある。自分の生きる道を示して貰ったと言ってもいいくらいだ。


 生前から自分が偉くなったり自分を誇示したりすることには余り興味がなかった。転生したからといって性格は変わらない。


 俺個人はどうでもいい。城下町ギルドが栄えればそれでいい。


 そういう異世界ライフがあってもいいだろう。


 その道を邁進する為にも、この機会に魔法とソーサラーギルドについて多少は学んでおきたいところなんだけど……


「パンを買ってきて頂戴」


 一通り部屋の整理整頓を終えた俺にティシエラが下した命令は、その思惑と最も縁遠い内容だった。


「あのなあ……俺をこのギルドにいさせたくねーの?」


「それもないとは言わないけど」


 言わないのかよ。実際ずっと歓迎とは程遠い対応だもんな。俺にギルドをかき乱されたくないって気持ちの表れなんだろうか。


「これから来客があるのよ。その人物がパンを好きみたいだから、パンに一家言ある貴方に選んで貰いたいの」


 おいおい随分と安く見られたもんだな。そう言えば二つ返事でホイホイ引き受けると思ったか? 引き受けるに決まってるだろ?


「それじゃ、客の生育歴と人生設計について詳しく」


「……何故?」


「どんな相手かわからなきゃ好みのパンなんて推察できないだろ!? この俺にパンを選ばせる以上は一切の妥協を認めないからな!」


「…………貴方の好きなパンで構わないから。一人付き添わせるから多めに買っておいて」


 本気で呆れられてしまったらしい。眉間にしわ寄せて部屋から出て行ったな今。悪いことしちゃった。


 何にしても、今の俺はソーサラーギルドの一員。トップのティシエラに逆らえる立場じゃない。お使いイベントだろうとそつなくこなすぜ。


 それはそれとして、一人付き添わせるっつってたな。どうせ案内役って名目でお目付役を付けるとは思ってたから意外性はない。イリスもサクアもいないし、これまでの流れを考えるとエチュア辺りになりそうだけど――――





「初めまして。パステリアと言います。反ヤメ派の筆頭であるこの私が本日の案内役を務めさせて頂きます」


 全然違う人が来た! なんか自己紹介からもうクセが強いな……つーか反ヤメ派って何よ。あいつ主軸レベルの存在だったの?


 それにしても顔色が悪い女性だな。体調大丈夫? あと見るからに気難しそう……初対面で既に睨みつけられてるし。


「えーっと……とりあえずパンを買いに行きましょうか」


「そうしましょう。ただし道中、問い詰めたいことが死ぬほどありますので御覚悟を」


 どうやらエチュアを通じてヤメを吊し上げた連中を調べていたことが相当気に入らなかったらしい。敵視されてるっつーかもうブチ切れてるよなこれ。


 とはいえ俺自身が望んだことだ。いずれ対峙しなきゃならない相手なんだし、仲間のいるギルド内で話すよりは恐らくマシだ。ティシエラが気を回してくれたのかもしれない。


「……」


 にしても怖い。外に出てからもずーっと俺の方を睨んでるし。今にも襲ってきそうな獰猛な面構えだ。女帝とはまた違ったタイプの圧力を感じる。


 このままじゃ埒が明かない。でもこっちから切り出すのもな……軽く促してみるか。


「あの……何か仰りたいことがあるのなら、遠慮なく言ってくれれば」


「ええ。そのつもりです」


「……」


「……」


 言ってこねぇ! 了承したよな今、俺……伝わんなかった?


「あの、問い詰めたいことがあるんですよね? 今大丈夫なんで、受け入れ体制整ってるんでどうぞ」


「無論です」


「……」


「……」


 えぇぇ……


 何これ。言葉ちゃんと通じてる? 俺に言いたいことあるんだよね? 『ヤメを被害者みたいに言ってるけどこっちの方がよっぽど被害者だから!』みたいなこと言うんじゃないの? 言ってくれよ早く。こっちもその覚悟で来てるんだからさ。なんで何も言わないの……? 俺から切り出すのを待ってんのか?


 仕方ない。多少刺激することにはなるだろうけど、この件で下手に出るつもりはないしもう率直に切り出すか。


「ヤ」

「ヤメは元気にしてますかっ!!」


 あぁもうタイミング悪いな!


 でもなんか思ってたのとは違う言動きたな。あれ? もしかしてヤメに気を遣ってる? つーか年齢が全然わかんないから言葉遣いにも迷うな。10代でも30代でもおかしくない。もう全部やり辛ぇ……


「あー……ヤメは今、少しお疲れ気味ですかね」


「お疲れ気味!? あの子が疲れるなんてことがあるんですか!?」


 そりゃあるだろ人間なんだから。気持ちはわかるけど。


「失礼しました。ソーサラーギルドではあの子、弱い所を一度も見せていなかったもので……」


「その辺の事情も含めて、ソーサラーギルド時代のヤメと皆さんの関係について知りたいんですけど、話して貰えますか?」


「当然です。私、そのために今日を迎えましたから。この日に向けて全身全霊、人生を懸けて話を仕上げて来ました。今日で全て出し切ります」


 いや怖いって! 今までにないタイプのヤバそうな人だとは思ってたけど、いよいよ恐怖しかなくなってきた。この街って変人のバリエーションも豊富だけど恐怖のバリエーションも豊富なんだよなあ……


「話しましょう。ヤメと私たちの因縁の……全てを」


 力入れてるだけあって壮大な導入だな。できればコンパクトにまとめて欲しいんだけどなこっちは。今から買うパンのことも考えなきゃだし。


「ソーサラーギルドがティシエラ様を中心とした組織なのは周知の事実かと思いますが」


「あ、はい。そうですね」


「ティシエラ様にはイリスという絶対的なパートナーがいます。私たちにとって彼女は複雑な存在で……あのティシエラ様が気を許している上に二人並ぶとこれ以上ないほど絵になると神聖視するソーサラーもいれば、ティシエラ様の寵愛を独り占めするなんて許せないってソーサラーもいて。でも両者が明確に分れている訳でもなく、どちらの感情も持ち合わせているソーサラーが大半で」


 ……俺は何の話を聞いてるんだ?


 まあでも何処かでヤメの話題に繋がるんだろうし今は黙って聞いていよう。


「他にも、ティシエラ様は絶対だけど詠唱に関してだけはついて行けないというソーサラーもいます。とにかくティシエラ様が中心なのは共通認識としてありつつ、ティシエラ様とどう向き合っていくかは人によって微妙に違うんです」


「それはどんな人間関係にも当てはまることでは」


「ええ。でもティシエラ様がいなければ今のソーサラーギルドはありませんから、そういう意味ではあの方は神なんです。なので普通の人間関係と同じには括れません」


 その件については前々からティシエラ本人やイリスたちから聞いている。


 ソーサラーギルドという組織には歴史もあるし格もある。けど一時期存在意義に関してグラついていたことがあって、それをティシエラが全てブッ壊してフラットにしたもんだから、ティシエラが第二の創始者にみたいな立場になったのは間違いない。その結果、ソーサラー全員から神格化されてるんだろう。


「ティシエラ様に対してどんな向き合い方をしているか。どう向き合うべきか。それは私たちにとって最重要と言っていい問題です。魔法の鍛錬や研究、教育者としての貢献も重要ですが、それ以上にティシエラ様との距離感の方が大事なんです」


 ……なんつー不健全な組織なんだ。聞いてるだけで具合悪くなってきた。


 ある程度の覚悟はしてたよ。ソーサラーギルドってヒーラーギルドとは違う角度でヤバい組織かもって。


 だけどこれは……俺が思っていた以上に厄介だなソーサラーギルド。ある意味じゃヒーラーギルドより酷いぞ。だって要は『我々は神をどう信仰すべきか?』って話だろ? もはや宗教団体じゃねーか……


 まあティシエラが最高指導者になるつもりはないから厳密には宗教の体は成していないけどさぁ……思想体系は完全に一致してるよね。


 そっか。だからティシエラが終始不機嫌だったのか。そりゃこんな状況で部外者の俺を招きたくはないわな。神と崇められている自分を見せたいタイプじゃないし。寧ろ嫌がってるくらいだ。


「誤解しないで頂きたいのですが、私たちも現状を健全だとは思っていません。もっとこう、普通の感じでティシエラ様をお慕いしたいのが本音です。私個人としてもキャッキャウフフできればそれで」


「ああ、そう……」


「ですがそうじゃない奴もいるんです!」


 うわビックリしたなあ! 往来で急に大声出すなよ怖いな……


「ソーサラーの中には過激派もいて、精神魔法でティシエラ様を支配しようと目論む愚か者さえいました。色欲に狂ったクズが……ティシエラ様に気付かれないよう粛清するのにどれほどの時間と労力を割いたか」


 聞けば聞くほど嫌な組織だ……出てくる単語がいちいち不穏なんよ。


 俺、もしかして安易に近付き過ぎたかもしれない。


「様々な思惑が交差する中、私たちはお互いを牽制し合うことで均衡を保っていました。ティシエラ様がそこにいて、隣にイリスがいて、そのイリスの座を狙ってそれぞれが競い合う。そういう組織になりつつあったんです」


 それもあんまり健全じゃないと思うけど……イリス闇討ちされなくて良かったな。


「そこに現れたのが、あのヤメという異端児でした」


 いよいよ主役が登場したけど、然程ワクワクはしなかった。







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― 新着の感想 ―
クラスのアイドルくらいの距離感がよいのか、偶像崇拝崇拝宗教の神的な立ち位置がよいのか?という論争だったのか?これはティシエラに対して友人、尊敬する人として接するトモは聞かされても苦痛だろうねぇ……
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