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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部03:次期と自棄の章
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第521話 我が心の友トモ

 王子様が魔王を目指していた。その自称魔王は娼館を男娼館へと業種変更し、街の女性たちを性的に支配すると言い放った。


 ……これは大変だ。今まで全然目立ってなかった分、ここに来て一気にトバして来やがったぞ王子様が。


「あ、あの! それはちょっと……無茶なのでは」


 第一王子ヴェルンスンカノウスの剣幕に気圧されてずっと黙っていたコレットも、流石に口を挟まざるを得ないか。そりゃそうだ。俺より女性のコレットの方がより深刻な事態なんだから。


「無茶ではない。夜の帝王こそが魔王に最も近い存在という持論に俺は何ら疑問を抱いてなどいない。全てが誇らしき我が思索の果てよ。この街を性的に支配し魔王に俺はなる!」


 ……さっきからちょくちょく言ってるけど、性的に支配するって何なんですかね。全くピンと来ないんですけど。幾ら酔ってるっつっても限度があるだろ。


「はぁ……結局昨日言ってたことは酔っ払いの世迷い言じゃなかったって訳かい」


「え、昨日も言ってたんですか? その割に初耳みたいな驚き方してましたけど」


「そりゃ王子様がこんなことを言い出したら酩酊の末の妄言だって思うだろ? 二日連続で言われて本当の胸の内だったって判明した方がよっぽどキツいさ」


 確かに……


「昨夜はもっと暴れててね。娼館中を走り回って魔王だなんだって叫ぶもんだから、口止めにも苦労したもんさ。大勢の客を朝方まで引き留めちまったよ」


「ユマ父も気の毒に」

 

 彼が一切口を割らなかったのは第一王位のご乱心を徹底的に隠蔽する為の工作だった訳か。


 それにしても酷い。男娼となるとホストとは訳が違うよな。いやまあホストも一部で似たようなことやってる連中がいるのかもしれんけど。いずれにせよ男の俺にとっては一切関わりたくない話になってきた。もう何も聞かなかったことにして帰してくれんか。


「あっ、あのっ!」


「何だ最強冒険者。客として来たいのであれば歓迎するぞ? 今ここで予約しておくか?」


「違います! こっ、こういうのはよくないと思います! その……そういうビジネス全般を全否定する訳じゃありませんけど、支配とかいう強い言葉を使ってるのも気になるし……」


 ダメだコレット、まるで要領を得ていない。拒否反応ばかりが前に出て反論の中身がスカスカだ。


 でも気持ちはわかる。こんな宣言を王子にされて頭を回せって方が酷だ。まして王族と縁のない世界で生きてきた俺と違って、コレットは生まれた時からこの世界の住民だしな。


 白馬の王子様、なんて言葉がこの世界にあるのかどうかは知らんけど多少なりとも憧憬の対象ではあるだろう。イケメンだし。彼や他の王子に夢中になっている女性もきっと多いだろう。


 そんな中で、突然王子が『男娼館を始める! 俺も自らサービスしてやるぞ!』とか言い出したら……


 ……マジでどうなるんだ?


 なんかちょっと面白いかもしれない。ティシエラとかの反応超見てみたい。あれ? なんかちょっと興味湧いてきたな。


「王子様王子様」


「なんだ庶民。この俺の偉大な野望に震えたか?」


「ええ。見てみたい気にはなってきました。城下町が震撼する瞬間を」


「トモ!? ちょっと急にどうしたの!? つい今の今まで一緒にドン引きしてたよね!?」


 悪いなコレット。よく考えたらこの国の王族がトチ狂おうが娼館が男娼館になろうが俺にはどうでもいいことだった。


「どうでもいいことないでしょ!? 王子様が奇行に走ってるんだから止めなきゃ! それに……その……男性の……そういうお店が城下町にできたら治安とかおかしくなりそうじゃん!」


「そうか?」


「そうだよ! だって……今までそういう欲求を満たしてくれたお店がなくなったら、なんか暴走しそうだし」


 さっきからフワフワした発言が目立つぞコレット。まあ下ネタ全般苦手だもんな。俺もそうだからよくわかる。今コレットはかなり精神を削られているだろう。


 それに対し、俺の場合は男娼っつっても全くピンとこないから下ネタって意識すら希薄。全く違う世界って感じ。だからいやらしさも特に感じない。


 これはアレだ。BLの話題を見聞きするのに近い。自分の住む世界とは全く違うものって感じだから特段下ネタとも思わないし割と気楽に普通のネタとして話せる。そういう感覚だな。今。俺は。


「治安に関しちゃ寧ろ良化するんじゃねーかな。飢えた野郎どもは下僕か奴隷にするんですよね?」


「そうだ庶民。今なら好きに選び放題だぞ。貴様はどっちが望みだ?」


「そうなると当然、この王子様に対する反発が膨らんで巨大な反乱分子になる。けど女性たちは王子様を支持するだろう。男女の間にかつてないほどの軋轢が生まれると予想できる」


「おいおい、その王子様を今ガン無視しなかったかい?」


 女帝だってぞんざいに扱ってるじゃん。別にいいよこんなボンボン適当な扱いで。魔王になるとか言っちゃってんだよ? 敬えねーって。


「男女間の不仲で雰囲気は最悪になるけど、同性同士の団結力は増すと思うんだよ。大体街の治安を悪化させてるのは男だろ? 粗暴な荒くれとかゴロツキとかコソ泥とか、反社会的な行動を起こしてる奴の大半は男だし。そういうちょいワルな連中も女性が仮想敵になったら団結して一旦悪事を控えるんじゃないか?」


「そんな訳なくない!? トモ言ってること全部おかしい!」


 そりゃそうだ。わざとメチャクチャなこと言ってっからね。


 理屈はなんでもいいんだ。要はこの王子様を肯定するのが目的。明らかにチョロそうだからな。肯定しとけば好印象を持たれる筈。


「庶民……お前中々見所のある奴だったんだな」


「とんでもございません。ただ、私はファッキウと名勝負を繰り広げた仲。心ならずも彼の追放に関わってしまいましたが、決して本意ではありません。あれは不幸な事故だったんです」


「そうか。俺は誤解していたみたいだな。庶民、貴様は下僕ではなくこの俺と語り合う役を担わせてやろう。特別だぞ」


「ありがたき幸せ」


 想像以上にチョロかった。まあ泥酔してるみたいだし当然か。


 これで一応、王族から追放を食らわされる最悪の事態は免れた。特に危機感はなかった気もするけど。


 今はとりあえずこの王子様に話を合わせておく。本人はどうせ覚えていないけど、後日女帝の口から俺と友情を深めたって話を聞けば関わり方も違ってくるだろう。


「アンタねえ……何考えてんだい?」


 流石に当事者の女帝にとって、俺の態度は猜疑心を刺激するものだったらしい。こう見えて女帝も動揺しているんだろうな。普段なら俺の狙いなんて容易に気付いている筈だ。


「魔王不在の現状を利用して、影の薄かった王族の復権を目論む。いいじゃないですか。俺好みの考え方ですよ。だから関心を持ったってだけです」


 当然、そんな訳がない。


 俺の狙いは――――王族とのパイプを作り、城下町ギルドの運営に役立てること。


 そしてファッキウが今、何処で何をしているのか探ること。


 娼館を男娼館にするって発想は、性転換の秘法を手に入れ一悶着起こしたファッキウの発想と一致する。奴が関わっている可能性が高い。街の治安を守る組織の長として、奴の動向には目を光らせておかなくては。


 こんなこと、親バカの女帝には言えないけどな。


「……」


 ヴェルンスンカノウス王子が無言で手を差し出してくる。王族との握手なんて初めてだけど緊張はない。


 城下町に混沌をもたらそうとしているこのバカ王子を、可能な限り利用する。それが今、俺にできる最適な行動だ。


「あわわわわわ……どうしよう。トモが……トモが女の敵になっちゃった」


「寧ろ味方のつもりなんだけどな」


「絶対違うもん! 私、トモ見損なっちゃったから! そんなエッチなお店を作りたいんなら勝手に作れば!? もーっ暫く顔も見たくない! 帰る!」


 あ、本当に帰った。


 ……すげー剣幕で怒ってたな。下ネタNGのコレットにとって男娼館の誕生は度し難いものだったんだろう。俺との温度差は計り知れない。


「今宵はいい夜だ。新たな理解者ができて嬉しいぜ。俺には心の友と呼べる奴が一人しかいなかった。王子の威光に媚びへつらって適当に話を合わせる奴ばっかりだったからな……くっ」


 なんか男泣きしちゃってるんですけど王子様。これもし俺の狙いが露呈したらブチ切れないですかね。王子にブチ切れられたら普通は人生詰みますよね。


 危ない橋渡っちゃったかな……早まったかもしんない。


「何が目的かは知らないけどね。その王子に付くってんなら今日からアンタはアタイの敵だよ」


「……」


「……フン。とっとと出ていきな」


 流石に女帝は気付いたっぽいな。流石、コレットとは違う。冷静に洞察できる人だ。


 女帝にしてみれば、失踪中の息子が今どうしているか気になって仕方ない筈。本気で敵視してはこないだろう。寧ろ支援してくれると期待しよう。


「ところで我が理解者」


「どういう呼び方ですか。トモって読んで貰えると」


「ならば我が心の友トモ。近日中に貴様を俺の所へ招待しよう。詳しく話を聞かせてやる。そして魔王誕生の瞬間に同席することを許すぜ!」


 最終的に早口言葉のような呼び方で王子様からの招待を受けた。







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