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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部03:次期と自棄の章
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第520話 俺はな、魔王になるのさ

「そこの失礼な庶民。この俺が王家であることに驕り高ぶって横暴を働いているとでも言いたげだな。どうなんだ?」


 いえいえ王子様。正直そんなことは思ってません。もっと言えばこの状況にも貴方にもそこまでの思い入れはないんですよ。ファッキウ絡みの案件って時点で割と冷めてます。


 要はアレだろ? ファッキウとの友情を守る的なやつだろ? 王子と平民のバディものだろ? そりゃ悪くないだろうよ。そういうの俺も嫌いじゃないよ。けど最終目標が娼館の支配じゃ乗れねぇって。他になかったのか。


「ダンマリか。嘗めた態度取りやがって。コレットの仲間か知人か知らんが、猛者の威を借りて気を大きくしているのだとしたら度し難い。度し難いぞ貴様ァ!」


 なんかロックオンされてしまった。次期国王、第一王子にこんな露骨に不機嫌になられたら平伏するしかない筈なんだけど……シチュエーションがシチュエーションだけに深刻に捉え辛い。加えてあのファッキウをちょっと尊敬してるっぽいのが若干小物感あるんだよな……


 そもそも女帝が全く畏まってないのが悪い。加えて先日のヒーラー温泉で国王と第二王子が醜態晒してたもんだから余計に王族の威容を感じられない。


 参ったな……こんな所で不敬を理由にギルドを潰されたらシャレになんねーぞ。けど他人様の娼館を乗っ取ると宣言する王子に今更敬意を示せるか? 難しいって……


「はぁ……全く困ったもんだね。あんたら王子たちの酒癖には」


「……え? 酒?」


「顔色では判断できないだろ? でも酔ってんだよ、あの子は。昨日の夜もそうだったけど、酔うと思ってることを全部言っちまうバカになっちまうのさ。普段はそれなりなのにねえ」


 王子にバカっつったぞ今。女帝やべーな。


「おいバカっつったろ今! この次期国王の俺にバカだと!? 庶民の分際で!」


「どうせ明日には何も覚えちゃいないだろ? 大体こっちはアンタがハナタレの頃から面倒見てやってんだ。それとも何かい? 今更アタイにヘコヘコしろってのかい? それがアンタの望みかい?」


「それは嫌だ! 俺は本音でぶつかってくれる奴が欲しい! 貴様ら親子は最高だ! ずっとそのままでいてくれ!」


 うーん……これは泥酔ですね。全然顔赤くないけど言動がムチャクチャだ。


「けど、昔はここまでじゃなかったんだけどねえ……第一王子のプレッシャーってやつかね?」


「ヒーラー温泉の後遺症かもしれません。大分バカになってる時間長かったみたいですし今もバカなままですし」


「庶民ンンンンンン!! 聞こえてるぞ!! 貴様死にたいのか!?」


 まあ明日何も覚えてないらしいから多少の暴言は大丈夫だろう。さっきも本音でぶつかって欲しいっつってたし、言葉を飾る方が嫌がられそうだ。


「クソッ、どいつもこいつも王族をバカにしやがって……この街はいつもそうだ。王家への敬意が全くねぇ。何が最強の冒険者だ。何が英雄だ。どいつもこいつも無駄に伝説作りやがって……クソォ……俺だって伝説くらい作れるんだ!!」


 本当に本音ダダ漏れだな……クダ巻きすぎです王子様。


 まあ女帝もさっき言ってたけど、次期国王のプレッシャーもあるんだろな。いずれ国王としての威厳を見せなきゃならないのに、この街にいる限り『王』って肩書きだけじゃ地味だもんな。魔王城の近くって立地条件にビビって逃げだそうとしてた王家だから住民の印象も良くないだろうし。


 王家には王家の劣等感があるんだな。俺には一生縁のないものだけど。


「それで、ウチの娼館を乗っ取ってどんな伝説を作る気なんだい? 酒池肉林にまつわるエピソードなら昔の人間にはまあ勝てないよ」


「生憎、肉欲には困ってないんでね。俺がやりたいのはそんなことじゃない」


 流石にそこまでベタじゃなかったか。幾らなんでも娼館をハーレム化とか下世話すぎるしな。


「ね、ねえトモ……なんかあの王子様、変じゃない?」


「ん? そりゃ酔ってるだけあって言動はずっと変だろ」


「そうじゃなくて……雰囲気っていうか、なんか闇を内在させてる感じがする」


 聖属性のコレットは闇属性には敏感だ。暗黒武器も苦手っぽいし。


 闇か。まさかまた人間に化けたモンスターとかじゃないだろな。そりゃ王族に化けたモンスターとか手を出し辛くて厄介だけど……


 それとも、エルリアフが久々に悪さしてるとか? でもあいつってたしか反魂フラガラッハの夢が具現化したって奴だよな。イリスのフラガラッハ版。フラガラッハは魂を蘇生させる武器だし闇属性じゃないよな。だったら違うか。


 じゃあ一体――――


「俺はな、魔王になるのさ」


 ……んんん?


「知っての通り、魔王はこの何十年もの間一度も人間を襲っていない。軍を率いて攻め込んで来るどころか目撃証言すらない。俺の予想では、既に魔王は寿命で死んだか、或いは人間への興味をなくしたかのどっちかだ」


 言っていることはわからなくもない。俺が聞いた話では魔王城からいなくなってモンスターたちも必死で捜索中とのことだけど、それも本当とは限らないからな。猫みたいに死期を悟って城を離れたかもしれないし、人間どころか全てに飽きて何処か別の世界へと旅立ったかもしれない。可能性は無限にある。


 けど、それとさっきの『魔王になる』宣言と一体どう繋がるんだ……?


「魔王って存在が実質空席になった今、俺がその席を頂く。この世界に君臨する魔王とは俺、ヴェルンスンカノウスだと全世界に知らしめるんだ。そうすりゃ幾ら英雄だの伝説だのが相手でも一歩も引かねぇ。今、俺たち王家に必要なのは魔王って肩書きなのさ」


 ……は? 肩書きだけ? 魔王の肩書きだけ欲しいの? 王から魔王になるってだけのこと?


 これはアレですね。完全に後遺症でしょう。脳やっちゃってますね。


「……アンタねえ」


「おっと、早まるなよ。俺は別に世界征服がしたい訳じゃねぇ。魔王っつってもモンスター共を率いて人間を襲うつもりなんかねぇよ。俺が欲しいのがあくまで魔王って響きさ。言うなればダークヒーローの究極系って感じだな。ちょいワル王族って言い換えてもいい」


 いやよくねーよ! 魔王を何だと思ってんだよ! ちょいワル王族が魔王だったらどの世界の勇者も苦労してねーよ!


 王族が浮き世離れしてるってのは元いた世界でも同じだ。社会を知らない、世間を知らないなんてのも普通だろうよ。けど魔王になりたいとか言い出す王子様はどうなんだ? 幾ら脳やってるっつってもちょっと酷いぞ。


「その話、息子は知ってたのかい?」


「ああ。この俺の夢は奴にだけ話した。勿論笑っていたさ。けど決して否定はしなかった。『次期国王の宿命を背負って生まれた貴方が他になりたいものがあるのは素晴らしい』と言っていたよ」


 ……成程。自分の夢を肯定してくれたからこそファッキウを敬愛してるのか。あいつはあいつで別の性別に生まれ変わって世界を変えたかったみたいだし、シンパシーを感じたんだろうな。


「ね? 闇あったでしょ?」


 コレットは何故かドヤ顔で話を聞いている。確かに属性で分けるなら闇だけど、この場合それはあんまり関係ないんよ。


「まあ、言いたいことは山ほどあるけど……魔王になりたいって野望と、ウチの娼館の支配とどう繋がるんだい」


「愚問だなサキュッチ。人間の俺が魔王と呼ばれる為にすべきことは何か、想像くらいつくだろ?」


「……成程ね。この街最大の娯楽施設を掌握することで憎まれる存在になりたいのかい」


「その通りだ。ここは街の男どもにとって夢の楽園。今や女性をも虜にしている。そういう空間をこの俺が支配する。この時点で既に形骸化して久しい魔王なんかより余程魔王だろ?」


 まあ、少なくともイケすかねぇ王子様とは言われるだろうな。けどその程度じゃ人類の敵とまでは思われないんじゃないか?


「俺はこの娼館を支配する。そして……ここを俺やファッキウのような美しい男性がサービスを提供する男娼館とする!」


「はあぁ!?」


 あ、珍しく女帝が声を荒げた。


「驚くのも無理はない。だがこの計画は遥か以前から俺とファッキウの間で進められていた。魔王とは! 夜の世界を完全支配する真の王なり! 俺はここを男娼館に生まれ変わらせ、手始めにこの街の女性を性的に支配する! そして男どもは下僕もしくは奴隷にする! 圧倒的な雄としての力で王族の威容を取り戻してやるぜ!」


 ……俺が懸念していた以上に、ヒーラー温泉の後遺症はとんでもない事態を引き起こしてしまった。








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