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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部03:次期と自棄の章
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第515話 あの子も大分溜まってたみたいでさ

「あーキッツ。なんかずっと気分悪い一日だった」


 ん? まだいたのかエチュア。後半ずっと影薄かったぞ。


「あいつらマジ見る目ないよね。このバカがエクスカリバーなんて高尚な武器を手に入れられる訳ないじゃない」


「は? 誰のこと言ってんですか? ちょっとそこのソーサラー調子に乗ってますね。たかが一回勝ったくらいではしゃぎすぎじゃないですか?」


「はしゃ……! ちょっとトモさん! コイツちゃんと教育してよ! 言動がいちいち生意気でイラつくんだけど!」


 知らねーよ10代のケンカに30代巻き込むな。お前らみたいなエネルギーはもうないんだよこっちは。ヤメですらこれなのに俺が対抗できる訳ねーだろ。


「とにかく、まだ色々と消化不良だけど今日は解散! お疲れ様!」


 遠巻きにこっちの様子を窺っていたギルド員たちも、俺の号令を合図に緩慢な速度で散っていく。尚、家宅捜索で諸々の私物を没収された面々は合同で反省会を開いている模様。雰囲気はほぼお通夜だ。


 ま、もう夕食の時間だしあいつらもすぐ帰宅の途につくだろう。俺も戸締まりの前に一旦部屋に戻って……


 そういや棺桶がない問題、未解決なままだった。


 いや覚えてはいたさ。ただこの寝床を失った現実をどうにも受け入れがたくて考えないようにしていた。


 どうしたもんか。棺桶があった場所に毛布でも敷いて寝るか? でもなあ……そんなことしたら泣きそうになるよな。死別した友との思い出の場所で膝抱えながら座ってボーッと空を眺めるようなもんだ。余りに虚しい。


 いっそ、ユマとユマ母が泊まってる宿も俺も……いやダメだ。あの淀んだ空気、壁くらい平気で貫通しそうだもんな。悪夢見そう。


 ユマ父もバカなことしたよな。あんな温かい家庭を裏切るかね。全く理解に苦しむったらないね。ウチのギルド員の中にも娼館にハマってる奴数名いるけど、大金使ってまで通い詰めるような所かねえ。


 ……娼館か。


 ユマ父がそこで一晩何をしていたのか、娼館で聞き込みすればわかるかもしれないな。


 よし、行ってみるか。どうせ寝られないだろうし。





 ――――ってな訳で、すっかり夜。やっぱり娼館は夜が似合うな。派手にライトアップされてる訳じゃないけど、形容しがたい独特の空気があるよな。


 ここを訪れるのは交易祭の時以来か。その前は宿から情報が流れてないか潜入捜査をしに来たんだよな。確かファッキウと遭遇して、そのまま案内されて……中でアイザックの取り巻き共と遭遇したんだっけ。


 複数回娼館を訪れているのに客としては一度もない。勿論今回もそうだ。流石にそれはどうなんだ……って気持ちもなくはないけど、正直客としてここに来る気はしないよな。たかだか数時間、下手したら数十分の快楽の為に大金を使う気には一切なれない。もう借金はないけど、それでもこの感覚は全く変わっていない。


 あらためて思う。


 ……性欲薄いったらないな俺。


 勿論、完全に枯れ果てた訳じゃない……と信じたい。この世界に来てこの身体になってからも、あらぬ妄想をしたことは一度や二度じゃないから。機能もまだまだ全然現役。もうビンビンですから。引退には程遠いね。


 そういう精神では常にいるんだけど、性的興奮に至る前の段階がどうにも鈍いっていうか、エンジンかかるのが遅いって自覚があるよな。腰が重いっつーか。


 今だって目の前に娼館があるけど、特にヤラしい気持ちにもならないし。例えばここで500Gとか使うくらいなら普段買わない最高級のパンを試しに買い漁ってみたい。高いパンが美味いとは限らないし、ガッカリすることの方が多いくらいだけど、それでも娼館で一夜限りの享楽に耽るより全然有意義だ。


 食欲が性欲を上回ってる、ってのとも違うんだよな。なんか気が乗らない。圧倒的に気持ちが入らない。これは多分、自分で自分にカッコ付けてるところが多分にあると思う。『性欲に負けて堕落する自分』が嫌なんだろうな俺。だからユマ父に何にも同情できなかったんだろうな。これも安いプライドの一種なんだろう。我ながら気持ちが悪い精神の持ち主だ。


「そんなショボくれた顔でウチの前に立たないで貰いたいね。営業妨害だよ全く」


 あ、女帝だ。俯いてたから接近に気付かなかった。


「珍しいじゃないか。客として来たのかい?」


「いえ。家庭持ってる知り合いがここへ来て修羅場になってるんで、ちょっと聞き込み調査をしようかなと」


「よくある話さね。余所の家庭の問題にクビ突っ込んでもロクなことにならないよ」


 全くその通り。異論反論一切ございません。でも恩人なんで仕方ないんです。


「ま、立ち話もなんだから中に入りな。別に営業かけようって訳でもないから。アンタらンとこのギルド員、ウチの娼婦たちに評判悪いからねえ」


「本当ウチのバカ共がご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした!」


 斜め45°の角度で全身全霊謝罪した。





「……ああ、昨日のことかい。よーく覚えてるよ」


 応接室じゃなく女帝の仕事場と思しき部屋に通され、一通り話を終えホッと一息。こういう身内以外の人に関しての説明ってなんか緊張しちゃうんだよな。変なこと言ってイメージ悪くしたら申し訳ないし。


 にしても、凄い部屋だ。息子の肖像画が7、8……10点以上展示されてるんですけど。しかも全部明らかに高級な額縁に入れられてるし。何だよ向こうの横顔描いた絵の額縁。赤、青、黄、緑、色取り取りの宝石が散りばめられてるじゃん。コレットが見たら興奮しそうな一品だ。


 でも肖像画以外は特に成金趣味的な感じはない。女帝自身は特に派手好きって訳でもないんだろな。


「ま、ここで妙なことがあったのは事実さ。ちょっとした立てこもりがあってね」


「立てこもり……?」


 また想定できない不穏ワードが出てきたよ。娼館に立てこもりって何よ。またシャルフの時みたいな一騒動があったのか?


「生憎、アタイも事後説明で知っただけで直接は見てないのさ。昨日はコレットと深い時間まで飲んでてね。あっちは酒なんて一滴も飲んじゃいないけど」


「え……? 何ですかその悪ふざけみたいな飲み会」


「ただの意見交換さ。ウチと冒険者ギルドは持ちつ持たれつ。トップ同士がサシでちょっとしたコミュニケーションを取るなんて定期的にやってることだよ」


 マジか。そりゃ歴代のギルマスは問題なくやってたんだろうけど、コレットがそんな面倒事に出席していたとは。やっぱりあいつ、ああ見えて成長……


「まあ何かと理由をつけて逃げ回ってたから、ギルドまで押しかけて強制連行したんだけどね」


 ……でしょうね。その情景が目に浮かぶようだ。


「あの子には、この頃やけに共感することが多くてね。脆弱なリーダーシップ、周囲に大きな影響を与える独創的な個性、そして、強者としてひたすら駆け続けることを宿命付けられた立場」


「……」


「あの子が、一番アタイに似ている」


 まあ、確かにこの城下町でも指折りの実力者同士ではあるけど……似てはいませんよ。それは御自身のイメージと容姿をねじ曲げ過ぎですね女帝。


「もしあの子が、その天才的な身体能力を持ち合わせていなかったら――――やはり、娼館の頂点を望んだかもしれないよ」


「いやそれはどうでしょう」


 コレットが娼館のボス……想像も付かない。確かに共通点がないこともないけど、どっちかといえば対照的な二人だよな。一方は圧倒的な肉体と不遜な言動で突き抜けた存在感を放ち、一方は奇妙なステータスの偏りでレベルの割にコソコソ活動し……剛と柔ってのとも違うけど。


「あの子も大分溜まってたみたいでさ」


「え!?」


「……鬱憤がね」


 ああビックリした……


 誤解なのはわかったんだけど、なんか生々しいワードが出た所為で若干ドキドキしてきた。


 これ以上色々想像するのはやめておこう。コレットに対する冒涜だ。


「なんだかんだ、冒険者ギルドってのは男社会に近いところがあるからね。ウチやソーサラーギルドとは逆で。そんな所で女がトップになったんだ。そりゃ大変さ」


「ええ。本人からもそう聞いてます」


「だからアタイなんか何の参考にもなりゃしないって言ったんだけどね。鬱憤溜まりすぎてアタイより酔ってるみたくなっちゃっててさ。その勢いで言ってきたんだよ。『サキュッチさんの帝王学を参考にさせて下さい』って。あんな若い子にそんなこと今まで言われたこともなかったから、ちょいと照れちまってね。フフ……」


 成程。お手本にしたいって言われて可愛いヤツと思った訳か。女帝もこう見えて結構繊細だからな。


 それにしてもコレット、随分とアクティブだな。あんまり他人に教えを請うタイプじゃないだろうに。今はマルガリータもいないし、なりふり構っちゃいられないってことなんだろうけど中々逞しい奴だ。


 若干迷走の気配もしなくもないけど――――


「そんなワケで今晩から暫くアタイの所で学ぶことになったんだけどね」


「…………は?」 


「失礼します! サキュッチさん、約束通り来ました! お世話になりまトモがなんでいるの!?」


 突然部屋の扉を開けて現れたコレットは、娼館の雰囲気に合わせたのか普段よりも露出高めの格好をしていた。







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― 新着の感想 ―
コレットと女帝の共通点……似ているというほど、あったかな……?
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