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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第六部03:次期と自棄の章
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第512話 虚無結界の正体






「――――貴様はマギを何だと思っている?」


 戦闘中の私語は余裕の表れ……でもなんでもない。俺と魔王の戦いは完全に情報戦の様相を呈している。俺の結界を破る為の手掛かりを奴が得るか、それとも俺が奴の心を折るか。その鬩ぎ合いだ。


 だから沈黙は決して得策じゃない。ずっと黙っているだけじゃこの状況を維持できない。俺の虚無結界が破壊されるとは思えないけど、それはあくまで俺が俺であり続けることが条件。魔王の出方次第でそれを崩される恐れもある。


 自分の殻に閉じこもるのが虚無結界の基軸。けどこれは他者の声を遠ざける為の結界じゃない。


 運命から切り離される為の結界。だから一つ間違えば俺自身がここから消失しかねない。


 魔王からのコンタクトは、俺をこの場に繋ぎ止める大事な鎖だ。


 勿論、そうなるようにと考えてこの結界をデザインしたんだ。それを自らの手で放棄する選択肢なんてない。


「マギか……魂ってだけじゃなさそうなのは何となくわかるけどな」


「肉体的、精神的活動を司る魂の概念とマギとは極めて近しい。だがそれは矮小化したマギを強引に定義付けしただけに過ぎん」


「……?」


「では質問を変えよう。マギとは一体誰がもたらした力だと思う?」


 魔王の質問が俺の結界と無関係とは思えない。結界の正体を探る為にこの話をしてきたに違いない。


 だとしたら、俺とこの結界に関係するものが答えなんだろう。


「まさか……始祖ミロとか?」


「バカ野郎! あんな奴がマギの生みの親な訳ねーだろ!」


 取り乱し過ぎじゃないか魔王様。威厳がないぞ。


「いいかよく聞け。マギってのはな、世界を創造する力だ」


 ……何だって?


「その理屈だと、どんな人間も世界を創造できることになるな」


「モンスターもな。マギを所有している存在には全て、世界創造の能力が備わっている。だから実際、それぞれがそれぞれの世界を内在させているだろ?」


 まあ、理屈はわからなくもない。人間誰しも自分の中に自分だけの世界を保有しているのは確かだ。


 その世界は『想像』と言い換えることができる。誰もが想像の世界を持ち、その中で自分に都合の良い認知を横行させている。


 想像の中で人は無敵になれる。誰にも負けない、誰からも傷一つ付けられない自分を構築できる。自分だけじゃない。他者に対しても好きなだけ都合の良い認知を適用できる。


 だとしたら、マギっていうのは想像力のことなのか?


 それとも……創造力?


「その昔、マギとは世界を創る力そのものだった。だからその力で沢山の世界が生み出され、次第に混雑していったんだ。膨大な数の世界が誕生した結果、世界がひしめき合う状態になった。そうなると何が問題か貴様にわかるか?」


「……わかる訳ないだろ。世界が密集してる状況自体、想像したこともないのに」


「世界と世界を隔てる溝が狭まり、やがて消失したんだ。その結果、各世界が影響し合い混じり合うケースが生まれた。お互いに干渉する余地ができたことで、それぞれの世界を行き来する手段が生まれたんだ」


 ……マズい。こいつ、虚無結界の正体に気付きつつある。


「世界は無数に存在するが、それぞれの世界は完全に独立していてお互いに存在すら認知できない筈だったのに、膨大な数の世界が生み出された弊害で隣同士が混じり合って境目が曖昧になった訳だな。だからこの世界においても、隣接する異世界の物や人が転移するようになった。物はオーパーツ。人であれば……転生者だ」


 そう。虚無結界はそれらの異世界転移を利用して生み出した結界。


 異世界の虚無エネルギーを完全循環させることで尽きることなく無敵の結界を維持する、循環型再生可能エネルギーシステム。


 異世界ならば時間の壁を越えられる。だからこそ、それが可能となった。


 永遠に魔王と戦うってプランが成り立った。


 もしこの魔王に循環を断ち切る力があったら……お手上げだ。


「もう一つ別の話をしよう。人間には我を倒す手段があった。知ってるな?」


「四光と九星だろ?」


「そう。世界が一つの存在によって恒久的に支配されないよう、人間の抗う手段として神より四光が贈られた。その後、異世界からの転生者およびオーパーツによって四光と同質のマギを得た人間が九星を創り出した。ただし九星は全て偶発的に生み出された物で、異世界のエネルギーを原動力にしているとは誰も理解していない。一番多いのが『奇跡の力』って解釈だ」


 その手の物語は子供の頃から本や詩で触れてきた。勇者だの英雄だのが奇跡の力を得て魔王を倒す。そこに理路整然とした根拠はいらない。誰もそんなものは求めない。


 魔王を倒せる力があるとして、その力の由来なんて誰も気に留めはしない。倒せる事実がある。それだけで十分だから。


「四光は起源のマギであり、世界を創る力そのものだ。内在する理想を具現化する力がある。だから、本来は世界そのものと結びついて消失しようのない存在すらも消去できる。本来はあり得ない『魔王のいない世界』、つまり我のいない世界を生み出すことができる。九星も同様だ。異世界のエネルギーが作用して偶然にも四光のマギと同質のものになった。故に我を殺せる」


「だからお前はそれらの武器を全部穢して無力化したんだな?」


「違うな」


 ……何?


「四光も九星も、我のいなくなった世界を想像して自我崩壊を起こしただけだ。我のいなくなった世界がどんな結末を迎えるかを想像してな」


「……お前がいなくなって人間が支配する世の中になったら、世界が崩壊に向かうとでも言いたいのか?」


「我はそんなこと思ってないがな。四光と九星が勝手に想像しただけだ」


 世界を想像する力。その想像を具現化する力。13の武器はそれらの力を有している。


 魔王を倒したら世界が崩壊してしまう。そんな想像を具現化しないよう、自ら魔王を倒せる力を封印した……とでも言うのか?


「貴様の結界は逆だ。どういう種類のエネルギーなのかは知らんが、世界の創造ではなく世界の破滅を常に願っている」


 これはもう……


「全てを消滅させようとする想像の具現化」


 完全に把握されてしまった、と捉えるしかない。


「故に外部からのあらゆる攻撃を受け付けん。周囲からのあらゆる干渉を『一つの世界』と見なし、それを破滅させる。貴様の結界のカラクリはこうだな? 枯渇しないのは異世界とこの世界でエネルギーを循環させているからか。世界の破滅を願うエネルギーが潤沢な世界と繋がっている訳だな」


 魔王……恐ろしい奴だ。虚無結界の正体、そして仕組みをほぼ完璧に見破りやがった。


 もうこっちに打つ手はない。自分の力の大半は結界に注ぎ込んでしまった。今の俺なんて雑兵レベルの力しか残っていない。


 この結界を破壊された瞬間、俺の運命は尽きる。魔王が野放しになる。


 みんな……ごめん。


 俺はみんなを、街を……守れなかった――――


「……」


「……」


 ……なんだ? 全部見透かした余裕か? 何も仕掛けてこないな。


「一つ聞く。貴様に入れ知恵したのはミロか? アルケイオンか? それとも神擬きのあのイケすかない野郎か?」


「全員に協力して貰ったけど、考案したのは俺だ」


「……全員?」


「ああ」


「全員……そうか……全員一致で我に嫌がらせを……ククク……」


 なんだ?


 気の所為か……魔王が嬉しそうに見える。


「上等だバカ野郎共め! その結界、必ず我が打ち砕いてみせるわ! 覚悟しておけ!」


「え?」


「え?」


 おちょくってる……って訳でもなさそうだな。


「いや、こっちはとっくに打ち砕く方法もわかってて偉そうに講釈垂れてると思ってたんだけど……違うのか?」


「……」


 ……。



 …………うーん。 




 この後、魔王が拗ねて長いこと沈黙し、暫く謎の冷戦状態が続いた。





「……やっぱダメだ。寝れねぇ」


 棺桶のない部屋で寝られるか試しに横になってみたものの、違和感と寒さですぐ目が覚めてしまう。なんか夢を見たっぽい感じが残ってるし多分ほんの一瞬だけ入眠できたと思うけど、これじゃ快眠には程遠い。


 棺桶の中って思いの外温かかったんだな。失って気付く棺桶の偉大さ。俺はなんて物を手放してしまったんだ。 


 はぁ……


「辛気臭い人がいた」


「うわビックリした! え!? 記録子さん!?」


「お久、ってほどでもないが続き持って来た」


 急に入って来て急になんだよ! 相変わらず神出鬼没にも程がある!


「続きって何の?」


「アイザックのその後。気にならん?」


「……まあ一応」


「なら読め」


 有無を言わせない謎の圧力。相変わらずだな記録子さん。


 にしてもアイザックか。懐かしい名前だ。ぶっちゃけ色々あって存在ほぼ忘れつつあったけど、あれからどうしてるのか気にはなる。



 どれどれ……






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― 新着の感想 ―
ア、アイザックの物語は終わっていなかった! ここからが『モーゼの出エジプト記』に匹敵する抱腹絶倒の英雄談の始まりですね! と、その喜びは横においておいてと……。 著者様、確か本作は『本来やらないメタネ…
ミロちゃんとも前身は遣り取りがあったわけだけど、ミロからすると今のトモはどう見えてるんだろうね
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