表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第四部06:因と陰の章
329/571

第322話 俺の周りにいる可愛い女の子たちが魔王より逃がしてくれない

「えいっ」


 余り緊張感のないコレットの掛け声とは裏腹に、住民を蝕んでいた呪いの暗黒グッズは次々と真っ二つにされていく。


 勿論、ステータスは調整済み。スピードよりも精度のパラメータを高めにしている事もあって、誤って装備者を傷付ける事は全くない。正確に暗黒装備だけを斬り、無事に呪いから解放し続けている。


 ただ、この高等技術の背景にあるのは俺の調整スキルだけじゃない。コレット自身の剣の腕、技術の賜物でもある。元々、圧倒的に高いレベルとは裏腹に戦闘経験は少なめだったんだけど、修練自体は相応に積んでいたらしい。特に俺と出会ってパラメータの調整をして以降は、その能力を少しでも活かせるようかなり頑張っていたみたいだ。 


「あっ、ありがとう……やはり貴女は凄いな」


「普段の姿からは想像も出来ないが、これだけの腕を見せられると嫌でも力の差を思い知らされるよ……」


 中には冒険者ギルド所属の反コレット派もいたようで、コレットに救われた瞬間に掌を返していた。どうやら効果覿面みたいだ。


「……」


 でも、コレットは釈然としていない様子。褒められても表情は優れないし、何処か物憂げだ。


「どうした?」


「……私がこんな事出来るのってさ、トモのお陰なんだよね」


「調整スキルの事か? まあ、それもあるっちゃあるけど……だから素直に喜べないとか言い出す気じゃないだろな」


「ううん。でも、私って何なんだろうって。レベルだって自力で上げた訳じゃないし、ギルドマスターになれたのもそのレベルとか強さとか、フレンちゃん様の力とかがあっての事だし……」


 成程、自分で積み重ねたものばかりじゃないから戸惑ってるのか。わかるわー。こういうトコはホント、俺と似てるよなコイツ。無駄にプライドがあるとそうなっちゃうんだよ。


 でもここで共感の言葉を言っても、コレットにとって何のプラスにもならないだろうな。


「面倒臭い事言ってんじゃねーよ。人間、誰だって突き詰めりゃ他人様の世話になってんだから。親がいなきゃ生まれてすらいないってのに、それ気にしてどうする?」


「そうなんだけど……」


「少なくともフレンデリアは、コレットがコレットじゃなきゃ協力してない。それにお前の『ギルドの為に』って気持ちがなかったら、奴等だって掌返しちゃいないだろ? 性格とか生き様が反映された結果なんだから、もっと自信持てよ」


「……じゃあ、トモは?」


「俺? まあ俺も自信はそんなにないけど……」


「そうじゃなくて。トモは、私が私じゃなかったら協力してない?」


 不安そうな目を向けてくる。


 一体どういうつもりでこんな事を聞いてくるのかは良くわからない。いや、愛情を確かめる為みたいな感じは出してるけど、その愛情がどういう種類の愛情なのかは……やっぱりわかんねーな。


「……あんまり言いたくないけどさ」


 でも、これだけは確かだ。


「俺、人見知りはそんなにしない方だけど、人懐っこい訳じゃないし、人との繋がり? みたいなのはそんな重要視してこなかったから、珍しいんだよ」


「何が?」


「こいつ、ほっとけねーな……って思う事」


 俺自身がどう考えても立派な大人じゃないから、誰かに頼られる事なんて想定して来なかったし、頼りにされる事を喜ばしいとも思えない。人の世話を焼けるほど立派な人間でもない。


 他人に興味がない――――とまでは言わないけど、他人に思い入れを持てない。だから恋愛感情だの親愛の情だのが全くわからない。


 それが生前の俺だった。


 でも今の俺は、フワワの成長を我が事のように喜べるし、ギルド員達を心から大切に思える。ごく自然に、自分よりも大切な事ってのが増えている。


 この世界に転生してからは心機一転、生前できなかった事をやろうと決起してはいた。人との繋がりを大事に生きたいって気持ちもあった。


 けど俺は元々、そういう感情を知らなかった。


 知ったのは――――転生初日、フィールド上でコレットと出会ったからだ。


「前に俺が『ベヒーモスから庇おうとしてくれた時の事を一生忘れない』って言ったのは覚えてるか?」


「うん」


「もしかしたら、俺がその恩に縛られてるとか、あの時の事があるから仕方なく世話焼いてるとか思ってるのかもしれないけど、それは違うからな」


「じゃあ、どうして? どうしてほっとけないの?」


「それは……」


 そう率直に問われると、回答に困る。


 俺はコレットの事を、相棒のように思ってる。この世界に溶け込めたのも、ギルマスになったのも、コレットがいたからだと思ってる。何度か共闘もしたし、命だって預けた。


 コレットがいたから、この右も左もわからなかった異世界で頑張れた。全部が全部とは言わないけど、コレットの存在を無視して今の俺は語れない。


 でも……恥ずかしいだろ? レベル18の奴が79を相棒だと思ってるなんて。こんなの言えねーって。


 生前の俺は、基本的に社会的地位はずっと底辺だったし、当然自己評価も低かったから、格上だと思う存在は山ほどいた。ネット上で多くのファンを抱えるインフルエンサーに嫉妬のような感情を抱いた事もあった。


 けど、所詮は他人。俺には関係のない世界で生きている人達。俺の人生に交わる事はない訳で、それ以上の感情は湧きようもない。


 だから、もしかしたら……初めてかもしれない。他人に引け目を感じているのは。



 対等でありたいと思う相手が出来たのは。



「……危なっかしいからだよ。俺が危なっかしいなんて思う奴、そうそういねーぞ」


 半分は本音。でも、もう半分はそっと隠した。


「ですよねー。私本当ダメだしねー……」


 自虐交じりにコレットは項垂れている。まるで自分の心の中を見ているみたいな気分だ。


「俺に世話焼かれるような奴も滅多にいない。だから、俺としては珍しく優越感を味わえるレアな相手なんで、これからも宜しく」


「なんか嬉しくない! もっとこう……なんかない!?」


「ない」


「もーっ!」


 そんなやり取りをしながらも、コレットは着々と暗黒グッズを斬り続け、夕日が沈む前にリストの大半を消化していた。


「これで……最後!」


 結局、一度もミスする事なく完璧に任務を遂行。コレットは大勢の住民に感謝され、疲労感交じりの笑顔で――――


「お嬢様がお待ちです。ささ、共に夕食を」


「うう……今日はもう寝たいのに……」


 馬車に揺られ、遠ざかっていった。


 大丈夫かな……食事中に眠りこけて、フレンデリアから襲われたりして。まあ、そうなったらそうなったで俺としては一向に構わんのだけど。


 さて、一旦劇場に戻るか。


 予想外のトラブルが起こったけど無事対処できて良かったな。コレットと呪い巡りするついでに街の見回りも出来たし。


 ただ若干殺伐した空気になった事で、恋愛ブームを巻き起こすのは困難になっちまった。まあこればっかりは仕方ない。なるようにしかならないだろう。


 明日はいよいよ交易祭の最終日。俺の借金が期日内に返せるかどうかの瀬戸際だ。


 同時に明日は――――怪盗メアロがシキさんの持つラルラリラの鏡を狙ってくる日でもある。


 お墓に供えるっていう当初の目的は果たしたし、仮に盗まれてもそれほど痛手じゃないだろう。でも、そういう問題じゃない。城下町ギルドとして……いや、俺個人の問題として、奴とはキッチリ決着を付けたい。


 全ては明日だ。


 ……でも、その前に今日だ。まだ今日は全然終わってない。これから娼館と娼婦の護衛もあるし。気合いを入れ直して――――


「あ、トモ君だ」


「ん?」


 突然の声に振り向くと、あどけない少女三人組の姿があった。


 ……もとい。


 少女と精霊とお姫様がいた。


「フワワ、祭りは楽しめたか?」


「はい。ユマさんにもルウェリアさんにも、とっても良くして頂きました」


「そっか。ユマ、フワワに付き合ってくれてありがとうな」


「全然。もーすっごい良い子だし、友達できて嬉しいよ。ねー」


 たった一日ですっかり打ち解けたらしく、ユマはニコニコ笑顔でフワワに寄りかかった。


「ルウェリアさんも、ありがとうございます」


「いえ、こちらこそ楽しい時間を過ごさせて頂きました。とっても潤沢な一日でした」


 うーん……心がほっこりする。なんだろうな。この三人に友情が芽生えた事が凄まじく嬉しいこの感情は。ちょっと言葉では言い表せない。人間、変われば変わるもんだ。


「家まで送るよ。ここからだとユマの家が近いな」


「え、いいよ。お祭りだから、そんな危なくないし」


「そんな訳にはいかないって。ユマを一人で返したら親父さんに殺される」


 実際にはそこまで過保護じゃないと思うけど、もう日が暮れる時間帯。これからと今後の付き合いを考えても、ここでスルーはあり得ない。


「ユマさん、御言葉に甘えましょう」


「んー。それじゃ、今日のところはトモ君の顔を立ててあげよっか」


 ……中々生意気言うじゃないか。ギルドで受付やってるからか、妙に大人びて来たんだよな最近。


 親戚付き合いをちゃんとしてたら、これと似たような場面に何度も出くわしてたんだろうな。そう思うと、生前の自分が少し憐れに思えてくる。


 ま、昔の話だ。そういう経験があったからって、今より良いリアクションが出来た訳じゃないだろうし。


「それじゃ行こう。あ、その前にフワワはここでお別れにしようか」


「はい。ユマさん、ルウェリアさん、遊んでくれて本当にありがとうございました。今日の事、一生忘れない〃v〃です。またお会い出来る日を楽しみにしています」


 フワワが若干重い言葉で挨拶すると、二人はなんとも言えない表情でフワワの手を握った。


「うん。約束。また絶対遊ぼうね」


「私も楽しかったです。是非またご一緒させて下さい」


 ……尊い。何これ。なんて尊い景色なんだ。スマホにゲーム以外の存在価値を見出せなかった俺だけど、今日ばかりはスマホがないのを恨めしく思う。この瞬間を画像……いや動画に収められてたら、一生の宝物になっていただろう。無念だ。


「それでは、また……」


 儚い笑みを残し、フワワは精霊界へと還った。


「じゃ、行こっか」


「え……トモ君なんで泣いてるの」


 ユマに若干引かれつつ、あらためて帰路に就く。


 話題の中心は交易祭二日目の盛り上がり。暗黒グッズ事件の解決に追われてイマイチ空気感がわかってなかったけど、どうやら劇場で舞台の代わりに行われたシャンドレーゼ交響楽団によるコンサートが大盛況だったらしい。


 あと、広場で恋占いをやっていたラフレシアの元に、この街で一番の占い師と噂のキャロライン先生が訪れ、一触即発のムードだったらしい。ちょっと見てみたかった。


 祭りの事を話すルウェリアさん達はとても良い笑顔で、今年の交易祭の充実振りが窺える。恋愛ブームは産めないかもしれないけど、この祭りに関わって良かった――――


「トモ君って恋人とかいないの?」


 ここでまさかのブーメラン! 何これ。まさかギルド内だけで恋愛ブームが発生したってオチじゃないだろな……


「ゆ、ユマさん! そういうプライバシーを気軽に聞くのは良くないです!」


 おお、流石ルウェリアさん。この手の話題の時って基本四面楚歌だから、味方してくれる人がいるのはスゲーありがたい。


「えー、でもトモ君っていっつも女の人とばっかり話してるもん。本命は誰なんだろって気にならない?」


「それはなりますね」


 ちょっとルウェリアさん!? 寝返るの早過ぎない!? ネズミや峰や竜騎士だってもうちょい勿体振るよ!?


「部外者の私がこんな事を言うのもなんですが、あまりその……女性関係にルーズなのは良くないですね。変な噂が立ってしまいますし」


「いや、変な事はなんにもしてないですよ? ただその、男友達が少ないのと、周りにいる男が俺より格段に強い連中ばっかなんで、なんか疎外感があるっていうか、戦闘力コンプレックスっていうか……」


「わかります。ウチの武器屋もこの街では最下位争いしてます。他の武器屋さんが眩しいです」

 

 そういやそうか。もしかしたら俺の一番の理解者はルウェリアさんかも……


「それはそれとして、本命は誰でしょうか?」


 乗っかった上で逃がしてくれない! しかも悪意が全く感じられない笑顔だから無碍にも出来ねぇ……


「あー……今はまだ借金抱えてるんで、恋人作るような思考になれないし、そもそもモテないんで」


「ウッソだー。あんなに取っ替え引っ替え女の子と話してるのにモテないとかある?」


「取っ替え引っ替え……」


 ウチの受付嬢は表現が杜撰過ぎる! なんでみんな俺が派手に女遊びしてるみたいな言い方すんの……?


「……わかった。そこまで言うなら本当の事を喋ろう」


「おーっ!」


「こ、これは凄い事になりました!」


 スゲェ食いつきだな。ユマはともかくルウェリアさんまでこうだと、俺が思っている以上に恋愛ブーム来てるんじゃないか?


 自分で作ろうとしていたブームで自分が苦しめられるハメになるとは。因果応報とはこの事だ。


 さて、どう答えるか……って、宣言通り真実で話すしかないか。


「マジで恋人はいないし好きな人もいないから本命不在で回答終了です」


「えー……ショボーい」


「ショボいって言うな! 本当なんだから仕方ないだろ」


 ユマはガチで失望している模様。そんなに他人の恋愛事情が気になるのか……ま、お年頃だもんな。


「ではせめて好みのタイプだけでも」


 青春真っ直中の女の子よりもお姫様の方がガッツいてくるだと……!?


 好みか……あんまり考えた事なかったな。多分そういうのって理屈じゃないんと思うんだよな。好きになった人がまずいて、その人がどういうタイプの人間かって分析したら、それが好みなんじゃないかなあ。 


「……」


 でも、それを言ったらルウェリアさんまでガッカリしそうだ。失望されるのも本意じゃないけど、暗黒ブームを終わらせてしまった罪悪感が若干あるから、余計躊躇してしまう。


 真面目に考えてみるか。


「好みって言うほど大袈裟な事でもないんですけど……やっぱり価値観が合う人が良いですね。よく『自分にないものを持っている人が良い』って話を聞くんですけど、俺の場合はちょっと無理です」


「わかります。価値観は凄く大事です。みんなそれぞれ自分だけの感性を持っていますから、それを尊重できなければ一緒にいる意味がないです」


 ルウェリアさんの場合、暗黒系が好みの人じゃないと無理って事か。じゃあ俺もうないじゃん。いや別にルウェリアさんを恋愛対象として見ていたとかじゃないけど……なんかスゲー損した気分だ。


「でも、自分と全然違う人がある日ちょっとだけ自分の色に染まってるってわかったらアガらない?」


「アガります」


 ルウェリアさん!? いやそれよりユマさん! ちょっとユマ父とユマ母の教育に異を唱えたくなるような発言きちゃったな!


 この子の将来がちょっと心配になって来た。


 何にしても、ようやく解放されたか――――


「で、次は?」



 ……俺の周りにいる可愛い女の子たちが魔王より逃がしてくれない。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >レベル18の奴が79を相棒だと思ってるなんて。 まぁ…コレットの打たれ弱さ?精神面はレベル18相当くらいだし…そういうこというと、そもそも精神的に強いのヒーラーたちくらいしかいないんだけ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ