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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第四部04:交易と広益の章
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第284話 予想の遥か上から隕石を落としてくる

 有権者の皆様にまず申し上げたいのは、五大ギルド会議はアインシュレイル城下町で起こった諸問題や今後の展望をもとに、冒険者ギルドとソーサラーギルドと商業ギルドと職人ギルドとヒーラーギルドのギルマスが、好き勝手にトークをするという事であります!


「……なのに何で部外者の俺がこう何度も何度も呼ばれるんだよ忙しいっつってんだろ! だったら六大ギルド会議に改名してウチも入れろや!」


「いや冒頭からブチ切れんなって……今回はしゃーねーじゃん。お前当事者なんだから」


 そうは言ってもバングッフさんよ。こちとら最早、準レギュラーと呼んで差し支えない頻度でこの会議に呼ばれ続けてんのよ。そりゃ最初は身に余る光栄って思って謙虚に昂揚もしてたけど、こうタダ働きが嵩むとありがたみも全然ねーのよ。単に便利屋扱いされているだけとしか思えんのよ。それなら司会進行って名目で正式に仕事として発注して欲しいくらいだ。


「まあまあ。ここは僕の顔に免じて許してくれたまえよ。例のブツ、役に立ったんだろう?」


「……ええ、それはもう。その節は大変お世話になりました」


 怒り心頭に発する自分自身をどうにか抑え、ロハネルに向かって深々と頭を下げる。実際、彼が手配してくれた探索用アイテムの『プッフォルン』がなかったら、こうもスムーズにメキト達を捕まえる事は出来なかった。その恩義がある以上、彼の言葉には従うべきだろう。


「でも貴方だって、五大ギルド会議へ五大ギルド以外の人間を入れる事には反対してたでしょう?」


「まあね。でも僕たち職人は形式よりも効率を重んじる。君がいた方が手っ取り早く進むのなら、君にいて貰う方が好ましい。シンプルだろ?」


「……わかりやすくはありますね」



 と、そんな訳で――――



 鉱山にてメキト達を召し捕った翌日。一連の事件の詳細や顛末を共有すべく、ティシエラの招集で臨時の五大ギルド会議が開かれ、俺も強制参加と相成った。会場が行き慣れたソーサラーギルドだったのは幸いだったけど、戦闘翌日の朝っぱらから会議はキツいって……しかも一応怪我人なのに。


 とはいえ、本来ならこっちから出向いて礼を言わなきゃいけなかったロハネルに、時間も手間も使わず頭を下げられたのは良かった。こういうのって忙しいとつい忘れちゃって、とんだ無礼を働く事が稀にあるからな……


「はぁ……朝っぱらからクソだりぃ」


 相変わらずチッチは口も態度も悪い。俺よりも新参な癖して、会議が始まる前からテーブルに突っ伏してやがる。


「……」


 そして予想はしていたけど、コレットは元気がない。一連の事件がメキトの仕業っていうのは、コレット自身も言っていたように予想の範疇だった訳だけど、いざそれが確定し、しかも明るみに出たとなると、ギルマスとしての責任を痛感せざるを得ないよな。


「それでは会議を始めるわ」


 対照的に、ティシエラはいつにも増してギラギラしている。鉱山に遠征に行った翌日だってのに、随分とタフなこって。


「今回招集をかけたのは、先日ヴァルキルムル鉱山で発生した殺人未遂事件の犯人が判明したからよ。当事者じゃないとはいえ、私もこの件については多少の関わりがあったし、他のギルドマスターも程度の差はあれ関与しているみたいだから、情報を共有する意義があると判断して……」


「長い前置きは良いよ。要はコイツらが濡れ衣着せられた一件だろ? 犯人は誰だったんだよ結局」


 指差すな指。


 今回、俺が積極的に余所へ助力を求めた事もあって、ある程度の事情はここにいる全員が知っている。バングッフさんの言うように、ここは時短でお願いしたい。


「あの……その件、私の方から説明させて下さい」


 おずおずと手を挙げたのはコレット。ずっと機会を窺っていたんだろう。


「鉱山でコーシュを刺した犯人は、私達のギルドに所属しているメキトという冒険者でした」


「動機は?」


「……痴情の縺れ、です」


 それ以上は聞いてくれるな、と言わんばかりにコレットは苦々しい顔を浮かべている。まあ、話せば話すほど冒険者ギルドの醜態を晒す事に繋がるから無理もない。


 とはいえ、これからが本番。コレットにとっては辛い時間が始まる。


「単なる身内同士のいざこざ、って訳か。だったら良いんだけどよ……どうも最近、五大ギルド発のトラブルが多過ぎやしねぇか?」


「同感だね。ヒーラー騒動を筆頭に、ソーサラーや冒険者の失踪、そして今回の一件。合同チームの編成も未だに済んでいないそうじゃあないか。気が緩んでるとは言わないけどね」


 バングッフさんとロハネルの男性組が結託して、早速つつき始めた。他のギルドの発言力を削る為に、こういう連携を即興で行うのは連中にとっちゃ朝飯前。今回は誰を責めるか、誰と組むと得か――――そういう事を常に考えながら牽制し合うのが、五大ギルド会議の平常運行だ。


「そんなつもりは一切ないわ。寧ろ、合同チームについては気を引き締めているからこそ時間を割いて入念に選出しているのよ」


「今回の事件があったから、当事者を選び辛かったってだけだろ? そもそも、事件に関与してる疑惑がある時点で候補から外せば良かっただけじゃねーのか?」


「あの、それは私の所為で……」


 いつものようにティシエラとバングッフさんがバチバチやり合っているところに、コレットがおずおずと挙手する。


「私が待って貰っていました。高レベルの冒険者が短期間で数人、ギルドから離れた事情もあって……」


「容疑者の手を借りなきゃあいけないくらい、人材不足だって言いたいのかい? だとしたらそれは、実力者達を引き留められず流出を許したギルドの責任が重大だと僕は思うね。そもそも、最近の冒険者ギルドは迷惑をかけ過ぎてる。そう思わないかい?」


「……」


 ロハネルの容赦ない指摘にコレットは押し黙るしかなく、辛い顔のまま項垂れてしまった。


 前から懸念していた事だけど……やっぱりコレットはこの会議に向いていない。自ら弱味を露呈させた事で、一気呵成に攻め込まれる展開を作ってしまった。余りにも素直過ぎる。


 コレットがその辺の事情を汲んで、のらりくらり躱すようになれるなんて到底思えない。悪いと思ったら謙虚に反省して、それを誤魔化さず口にするような性格だ。このままだと肩身が狭くなる一方だろう。


「……」

「……」

「……」


 な、なんか複数の視線がこっちに向いてるな。


 わかってるよ。俺に『早くフォローしろ』って言いたいんだろ? コレットを追い込んだロハネルまでそういう目で見てくるし。


 ここの連中だって、別にコレットを虐めたくて厳しい事を言っている訳じゃないんだろう。各ギルドを代表して会議に臨んでいるから、ギルドの利益になる事を発言していく必要がある。そこには当然、相対的な地位向上も含まれている訳で、余所のギルドの問題点をつつくのはそれが目的だ。


 でも、新人ギルマス一人を寄って集って一方的に攻撃する状況に何も思わないほど人間が腐ってる奴は、この中には一人も……一人いるか。ヒーラー以外には一人もいない。なんとか反論して欲しい、無理なら誰かフォローしてやって欲しい。そんな思いもあるんだろう。


 そのフォローを俺に求めている訳だ。 


 ……俺は保護者かコレットの!


 全力でそう叫びたい心の内をギュッと握り潰し、挙手する。今の俺の心境を100文字以内でまとめよ、みたいな国語の問題があったら、きっと正解者は少ないだろう。そんな文字数じゃとても表せない。


「その中の一人を引き抜いたのはウチだ。冒険者ギルドの弱体化については、ウチにも一定の責任がある」


 五大ギルドに含まれていない我がギルドは、この会議内の発言力なんて一切関係ない。だから謙虚になっても、非を認めても特に問題はない。


 尤も――――


「だからと言って、今回の件を黙殺する気はないけどな。ウチは純粋な被害者だし。犯人扱いされた上に根も葉もない悪評をバラ撒かれて、ギルドイメージを著しく損なった件については、正式に抗議させて貰う」


 幾らコレットが代表をしているからといって、なあなあにするつもりはない。まずはそこをハッキリさせておかないと、ギルド全体が嘗められる。


「う、うん……じゃなくて、はい。後日、あらためてお詫びをしに参ります。勿論、噂はデタラメだって事を市民にもしっかり伝えます」


「そうしてくれると助かる。名誉さえ回復できれば、それ以上事を大きくするつもりはない」


 実害を被ったのはウチだけなんだから、これで手打ちって事で良いだろ?


 そんな目で周囲を睨むと、如何にも『良くやった』と言わんばかりに弛んだ口元で男性陣が小さく頷いていた。お前らも大概、初孫に甘いジジイと変わらんよな。


「じゃ、後は当事者同士でケジメつけるとして……それよりも、問題は合同チームの方だ。別に魔王軍から侵略されてる訳でもねーし、慌てなくても良くないか?」


 バングッフさんが腕組みしながら、ティシエラに鋭い視線を向ける。その瞬間、空気がピリッとした。


「寧ろ今は街中で問題が頻発してる状況だ。出てったヒーラー連中が何しでかすかわかんねーし、王族失踪の件もある。そりゃ魔王討伐は人類の悲願だし、その為に魔王城周辺の霧を晴らすのが必須ってのはわかる。けど急ぐ理由はないだろ? 実力者がこぞって街から抜ける方が危険じゃねーのか?」


「そうね。貴方の言っている事は一理あるわ。でも私は違う視点も持っているの」


「違う視点……ね。良いぜ、聞かせて貰うとしようか」


 部下にサプライズ誕生パーティ開いて貰って泣いてた奴が何カッコつけてんだ、と言いたい気持ちが口腔内で渦巻いているけど、ここはグッと呑み込んで高みの見物に徹しよう。約束もあるし。


「最近、この城下町で起こっている問題は全て、魔王軍……いえ、魔王本人が絡んでいる――――としたら?」


 ティシエラの言葉が、この場にいる全員の目を見開かせた。


「おいおい。街に忍び込んで人間に化けてたモンスター連中が魔王を探してるって話だったろ? そいつらを魔王が統率してんのなら矛盾も良いトコじゃねーか」


 アイザックの証言によると、魔王は現在、魔王城から姿を消していて、それを探す為にモンスターがヒーラーと組んで始祖を探しているらしい。始祖は魔王のマギを感知できるからって理由で。なのに、そのモンスター共を実は魔王が指揮してました……となれば意味不明過ぎる。


「モンスター達が魔王を探しているのは、恐らく間違いないでしょうね。少なくとも聖噴水に異常があったモンスター襲来事件の頃から。なのに、未だ魔王は見つかっていない。だったら魔王の方は『見つかりたくない』って思ってると解釈できない?」


「それって……」


 思わず口を挟んでしまう。ティシエラは俺の言わんとしている事を察したらしく、こっちに向かって頷いてみせた。


「魔王も自分の意志で失踪しているのよ。こっちの王族と同じようにね」


 ……その発想はなかった。


 というか、魔王が失踪している理由や真意なんて考えもしなかった。そもそも失踪自体の真偽すら不明だからな。


 でもティシエラの仮説には説得力がある。


 この世界の魔王がどんな奴かは知らん。わかっているのは、世界征服にあんまり興味がないって事だ。


 俺達が魔王城の周辺に漂う霧をどうにかしない限り魔王討伐は果たせないのと同じように、連中も聖噴水をどうにかしない限りは人類を滅ぼせない。そして実際、奴等は一時的とはいえそれを実現した。


 なのに、それ以降は聖噴水をどうにかしようって動きが全く見られない。もし魔王がこの城下町をガチで滅ぼそうとしているなら、シャルフあたりがそういう行動を起こしてなきゃおかしい。


「魔王は世界征服に興味がない。だから、それを期待してくる部下に嫌気が差して逃げ出して、見つからないよう隠れている。バングッフ、貴方はそう思わない?」


「いや、魔王軍の事情は知らねーけどよ……おいロハネル、お前どう思う?」


「中々斬新な意見じゃあないか。人間側の王族が逃げ出した事がヒントになったのかい?」


「ええ。ずっと考えていたのよ。そういう事もあり得るのかもって。もしそうなら、部下であるモンスター達に見つからないよう何かしらの工作をしている可能性があるわ」


 ティシエラの仮説が正しければ、魔王はモンスターじゃなく寧ろ人間側の味方をしていた、って事になる。こっそりと。


 そんな事が果たしてあり得るのか……?


「トモはどう思う?」


「知らん」


「……ちょっと。真面目に考えなさいよ」


 当方、諸事情で考察は現在休止中です。どうぞ皆さんでお考え下さい。


「……」


 沈黙が流れる。俺が空気を悪くしたみたいになっちゃってるけど、そんな事はないだろう。俺はそもそも部外者なんだから。


 その部外者の俺にさえ意見を求めているティシエラが、コレットに話を振らない時点で、なんとなく察してはいた。


「あ、あの」


 そのコレットがおずおずと手を挙げる。心なしか、さっき以上に顔色が悪い。


 俺の見立てが間違っていなければ……この場にいる連中はみんな、冒険者ギルドに懐疑の念を抱いている。



『冒険者ギルドは現在、魔王を匿っているかもしれない』もしくは『魔王に乗っ取られているかもしれない』と。



 実際、本当に魔王がこの街に潜伏していて、かつ部下に見つかりたくないのなら、モンスターに対抗できる組織に与している方が都合は良い。


 しかも最近、冒険者ギルドから次々と高レベルの冒険者が姿を消している。アイザックは勿論、今回の鉱山殺人未遂事件でも数名のレベル50台冒険者が拘束された。っていうか俺達がしたんだけど。


 痴情の縺れだったのは間違いない。ただ……その流れを誰かが作った可能性は未だに否定できない。例えば、メキトに『進化の種を人間でも使える方法』を伝授した奴とか。それがメキトの暴走のきっかけではなかったにせよ、後押ししたのは間違いない。


 そいつの正体が魔王で、自身が潜伏を継続するため自分の存在に気付く可能性のある冒険者を人知れず排除している……と解釈する事も、一応出来なくもない。


 そんな疑いの目を向けられているとコレットが気付いていたら、不安に思うのは当然だ。魔王を討伐する為に存在する冒険者ギルドが魔王に支配されているかもと思われている時点で、存在意義はもうボロボロだ。


 でもそれを自ら口にしてしまえば、さっきの二の舞。ますます立場が不利になる。


 言わせちゃいけない。止めないと。


「ちょっと待――――」


「もしかして……」


 遅かった。もう俺の声なんて聞こえちゃいない。自分の中に浮かんできた考えを口にする事で頭が一杯だ。


 コレット。


 お前はどうして、いつもいつも――――



「私、魔王って疑われてますか!?」



 俺の予想の遥か上から隕石を落としてくるんだ!


「だって私、無駄にレベルが高過ぎるし、大した実績もないのに冒険者ギルドのギルドマスターになっちゃったし、一時期山羊の悪魔だったし……あれ!? やっぱり私魔王なんじゃない!?」


「いや落ち着けって」


「でもトモだってそう思わない!? 人間の姿に化けている時はその記憶がない、みたいな! なんか御伽噺で見た事ある! どうしよう! 私ってば魔王かも!」


 混乱しているのか、コレットは一人身悶え始めた。


 コレットが……自覚なき魔王?

 

 その可能性は――――



「ねーわ」

「ないな」

「ないだろうね」

「バカじゃねぇの」



 今の今まで寝てたチッチにまで完全否定された。


「コレット」


「ティシエラさん! 私、どんな目に遭って文句は言いませんから、監禁でも何でもして徹底的に調べて……」


「魔王はそんなこと言わないの。あまり魔王を侮らないで。わかった?」


「……すみませんでした」


 そのチッチが若干引くほどのテンションでティシエラからダメ出しを食らったコレットは、会議が終わるまでずっと沈んでいた。




 


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