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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第四部01:生気と生起の章
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第237話 授かり方改革

 マイザーの同行――――その提案の勘所は当然、奴だけが使えるマギヴィートだ。


 王城奪還作戦の際、ヒーラー対策として特攻するマッチョ達にマギヴィートを使いマギ遮断状態にした。ただこれだと、魔法全般を受け付けないだけじゃなくマギを宿した武器防具も装備できなくなる。あの時はワンオフ特攻作戦だったからそれで問題なかったけど、今回は中長期的な旅になるみたいだから、マイザーを同行させ状況に応じて使用するって形が最善だろう。


「良いのかい? ヒーラーギルドは人手不足だろう? 更に一人失うとなれば……」


「構うかよ。今回のチーム、かなり重要な役割なんだろ? そこに一枚噛むのが信頼を得る近道になるだろ」


 ドスの利いた声だけど、何気にチッチの判断は理知的だ。三人が二人になったところで、どのみち大した活動が出来ない事には変わりない。だったら魔王討伐の重要な一歩となる今回のチームに参加する方が意義はある。回復役としての需要もあるだろうしな。


「ただし、あの野郎は元ラヴィヴィオの人間だ。信用できるかどうかはテメェら次第、ってトコだな」


「……良いねぇ。そういうの嫌いじゃねぇよ」


 バングッフさんが挑発的に微笑む。なんかクドいんだよな……アンタさあ、そういうトコあるからティシエラに嫌われてるんじゃないの?


「バングッフさん、そういうトコあるからティシエラさんに嫌われてるんじゃないですか?」


「マジで!? 俺そんな変な事言った!?」


 コレットも全く同じ事を考えていたらしい。ちょっと気持ち良いシンクロだった。


 そんな一幕はあったものの、マイザー及びマギヴィートの有用性を認めたティシエラ達は、全会一致でマイザーの同行を承諾。彼を含む合同チームの結成およびその遠征が決定した。


 チーム名は『ディスパース』。今後、コレットとティシエラを中心とした話し合いでメンバーを決定するらしい。


 その後も幾つかの議題を話し合い、夕刻が迫る頃合い――――


「……今日の議題は以上となります」


 終始堅いままだったコレットの宣言で、ようやく本日の五大ギルド会議は終わり。長かった……っていうか、後半は俺いる必要なかっただろ。部外者なんだから用が済んだらとっとと追い払ってくれよ。こっちは忙しいっつってんのに。


「あ、お開きにする前に一つ、皆さんに伝えたい事と提案があります」


「……?」


 妙に勿体振ったコレットの言葉に違和感を抱いたものの、俺以外の面々は特に異を唱えて来ない。しょっちゅうある事なんだろうか。


 一体何を話すつもり……


「先日の王城奪還作戦、皆さん大変お疲れさまでした。特にアインシュレイル城下町ギルドの活躍は目を見張るものがあり、素晴らしい戦果を上げてくれました。街の防衛に多大な貢献をした栄誉を称え、同ギルドに防衛勲章の授与を提案したいと思います」


「……え?」


 勲章? そんなんあるの? っていうか……ウチに?


「良いんじゃねーの。あの作戦、ウチは一切関わってねーし異論もねぇよ」


「武器防具一式貸し出した甲斐もあったよ。僕も賛成だ。良い仕事っぷりだったじゃあないか」


 こっちが呆然としている間にも、男二人は賛成。チッチは舌打ちしてそっぽを向いているものの、反対する気配はない。


 そして、その作戦で割を食った形になったティシエラは――――


「私も異論はないわ。彼等の働きで王城を取り戻せたのは紛れもない事実。その前のヒーラー騒動でも活躍していたし、勲章授与に値する働きはしているんじゃない?」


 おお……想像以上の高評価だ。


 これは素直に嬉しい。彼女に認められるのは、もしかしたら一番嬉しいかもしれない。


 俺がこの世界に来て、尊敬の念を抱いた人間は何人もいるけど、その中でも特に影響を受けたのは恐らくティシエラとコレット、御主人の三人。その中でもティシエラからは、ギルマスとはどうあるべきかを学ばせて貰った。彼女がいなかったら今の俺はない。


「……何涙ぐんでるの?」


「は? いや全然? マジで一滴も出てないんだけど? 何勝手に涙脆いキャラ付けようとしてんの?」


 危な……今日は大人しくしてると思ったのに。油断も隙もないな。


「チッチさんは棄権、他四人は全員賛成。よって、アインシュレイル城下町ギルドに防衛勲章の授与を行うよう具申致します」


 マジかよ決まっちゃったよ! 勲章って良くわかんないけど凄くない!? ギルドのみんなもきっと喜……ん?


「国王陛下って今、不在だろ? どうすんの?」


「勿論、国王代理のジュリアーノ様に、って事になるけど」


 ジュリアーノ? 誰? そんな人いたっけ?


「……ベリアルザ武器商会の御主人だよ」


「あ、そうだった」


 ダメだ。何回聞いても覚えられそうにない。御主人とジュリアーノを重ねようとしても一致しないというか、脳が拒絶する。ドウェイン・ジョンソンとかマット・デイモンみたいな名前ならピタって来るのに。


「それじゃトモ、防衛勲章の授与を打診しますって御主人に言いに行ってね」



 ……は?



「俺が? 自分で? 『僕のギルドは勲章を頂くに相応しい活躍をしました。みんなもそう言ってるんで下さい』って言うの?」


「だってそれが一番手っ取り早いもん。トモ、御主人と仲良いし」


 そりゃそうだけども! こんな恥ずかしい事ある!? つーか絶対嘘臭くなるって!


 そもそも勲章って自分で貰いに行く物じゃないだろ……あげるから来なさいって言われて授与されるやつなんだって。百歩譲って自分で要求するにしても、それは国王から『何でも望みを叶えてやろう。何が良い?』って言われた時だけ!


「勲章をくれるよう直訴にねぇ」


 流石のバングッフさんも呆れ気味だ。もうこの際言ったって! このアホにクドクド言ったって!


「授かり方改革ってやつか? 時代だなぁ。まぁ子供できて結婚したのを『授かり婚』って言うやつも居るしなぁ」


 そういう事じゃないんだよなあ……何だよ授かり方改革って。あとこの世界でもやっぱりデキ婚ってそんな扱いなんだ。別に良いと思うんだけどねえ……


 ここはもうティシエラの説教に期待するしか――――


「本日の会議を終了します」


 あっ強引に終わりやがった! おのれコレットさんめ……


 自己申請で勲章貰うとかマジかよ。確定申告で還付金貰うのとは訳が違うんだぞ? 勲章に対する冒涜じゃねーのこれ。 


「それでは、今日はここでお開きとします。お疲れ様でした」


 俺的には全然納得できないけど、会議はここで終了。足早にチッチが出て行く中、チェアギルドの役目を果たしたコレットはプハーっと息を吐き、パッタリと手前の机に突っ伏した。


「良かったねー、トモ」


「良かねーよ。恥ずかしいにも程がある」


「でも、これだったら私が贔屓してトモのギルドにあげた、ってならないよ。きっと」


「え……」


 まさか……そこまで考えてくれてたのか?


 実際にはほぼ満場一致だったから問題なかったけど、確かにコレットの提案は唐突だったし、まだ新米の域を出ないギルドに勲章をって話になれば、それを言い出したコレットの贔屓と取られかねない。俺とコレットが親しいのはみんな知ってるしな。


 でも『自分で勲章を打診しに行く』って羞恥プレイ込みなら、そこで批判が中和されて、俺やコレットへの風当たりも弱くなる――――と推察される。中々高度な画策だ。


 ……絶対コレットの案じゃないよな、これ。


「ティシエラの入れ知恵か」


「何でわかったの!?」


「お前はもう少し自分が俺にどう思われているのか真剣に考えろ」


 とは言え。


 勲章をウチのギルドに、って言い出したのはコレットなんだろう。じゃなきゃ、コレットがこの話を出す訳がない。全部ティシエラの案ならティシエラが言うだろうし。


「まあ……勲章についてはありがとう。凄く嬉しい」


「そ、そう? なら良かったぁ」

 

 顔を上げてニヘーっと笑う。司会進行やってた時の強張った表情とは大違いだ。勿論、こっちのコレットの方が俺には馴染み深い。


 きっと、チェアギルドって事で何日も前からかなり緊張していた筈だ。それなのに、俺の為に勲章を授与させたいって思ってくれたのか。弱小ギルドにとって、それは大きなイメージアップに繋がる。ヒーラーの件で新規のギルド員が入り難い状況だっただけに、余計その恩恵はデカい。


 交易祭の前に随分と豪華な贈り物を貰っちまったな。プレゼント交換なんだから、しっかりお返ししないと。


 そんな事を考えていると、不意に背後からポンポンと肩を叩かれた。


「俺とロハネルはメシ食って帰るけど、一緒にどうだ?」


 まさかのバングッフさんからの誘い。正直、行ってみたい気もするけど……


「これから用事があるんで遠慮しておきます。また誘って下さい」


「そっか、仕方ねーな。んじゃまたな」


「いや、会議はもう呼ばないで下さいってマジで」


「つっても、警備ギルドのあんちゃんがいると進行がスムーズなんだよ。あんまギスギスしないしさぁ」


「……警備ギルド?」


「元々、そういうギルドを作ろうとしてただろ。実際、そんな感じになってきたんじゃねーの?」


 そう言い残し、バングッフさんは会議室から出て行った。


 ……警備ギルド。確かにそうだ。


 街の警備が事実上禁止されている状態だったからギルド名としては使えなかったけど、その理念は今も当時も変わらない。アインシュレイル城下町を守る為のギルドだ。


 この街で自分が出来る事を……と自分なりに取り組んで来た事が、一気に認められた感じがする。なんか……感無量だ。


「トモ、用事って何?」


 ……っと。危ねー危ねー。年取ると涙腺緩くなりがちだよな。


「久々に冒険者ギルド来たし、マギソートでステータス見てみようかなって。ホラ、シャルフ倒しただろ? あれで俺もレベルアップしてるんじゃないかって睨んでるんだけど」


 俺自身がトドメを刺した訳じゃないけど、結構ガッツリ戦ったし、パーティの一員としてそれなりのマギが得られたんじゃないかって思うんだよな。レベル18からどれくらい上がったか確認してみたい。


「なら早く行きましょう」


 ……ティシエラ?


「まだ残ってたのか」


「私はこれからコレットと合同チームについて話し合い」


「冒険者のリストを見ながら、この機会にある程度まで候補者を搾っておこうって。リストはカウンターの奥だから、一緒に行こ」


「ああ」


 先頭で会議室を出ながら、チラリと後ろの様子を窺ってみる。二人とも穏やかな顔で話しているし、何も問題ないみたいだな。両ギルドが少しギスってたから心配だったけど、二人の良好な関係性には影響なかったらしい。


 問題は――――


「会議終わったみたいですね。トモさん、お疲れ様でした」


 受付にいるマルガリータさんとティシエラが接触不可避な事。


 さぁて……気まずいぞぉ……


「ティシエラさんもお疲れ様」


「ええ。貴女も遅くまで大変ね」


 ……あれ?


 確かこの二人、メチャクチャ仲悪いんじゃなかったっけ?


「何?」


「いや、ホラ前に……色々ありましたやん」


「あのね。幾ら性格が合わないって言っても、顔を合わせる度に雰囲気悪くするほど子供じゃないの」


「そうですよ。相性の悪さを理由に毎回言い合いしてたら身が持ちませんから」


 ……怖いよぉー。コレットとイリスの微妙な仲が可愛く思えるくらい怖いよぉー。『性格が合わない』とか『相性の悪さ』とか言う必要あるぅー?


「えーっと、マルガリータさん。久々にマギソートでレベルとステータスを確認したいんですけど、良いですか?」


「はい、どうぞ。こちらへ」


 一刻も早く二人のいない場所に行きたい一心で、雑談抜きに用事を済ませるべく動く。半年以上振りだけど、恐ろしいくらいスムーズに準備は終わった。


「あれからモンスターと戦われたんですか?」


「一応。自分がトドメ刺した訳じゃないんですけど、その場で一緒に戦ってればレベルって上がりますよね?」


「そうですね。戦闘によって自身のマギとモンスターが衝突する事で、マギに上昇反応が生じます。倒した瞬間が最も大きな反応を生むので、トドメを刺した人が必然的に大きな上昇となりますが、その時に近くにいたり、戦闘中に何度も攻防を繰り広げたりしていれば、相応の上昇が期待できますよ」


 へー、そんなメカニズムなんだ。


 シャルフとは何度も戦っているし、その度に際どい攻防をして来た。一度は手を吹き飛ばされもした。トドメ刺したのはヤメだったけど、その時は俺も結構近くにいたよな。


 だったら、かなりのレベルアップが期待――――


「あ」


 お、結果が出たか。30に乗ってれば最高だけど、そこまでの贅沢は言わない。25くらいまで上がってれば……!



「18のままですね」



 …………んんっ?


「いやいや。マルガリータさん。またまた」


「いえ、その……」


 あれ? 冗談なんて言ってませんよ、って顔だこれ。


 え……? 何で? どういう事?


「あの、そういう事なので……では」


「急に余所余所しくなった! 違いますって!! 俺モンスター倒した倒した詐欺してませんって! そんな見栄を張る意味ないですもん!」


「では……マギソートの故障でしょうか?」


「なら私が測ってみよっか」


 放心状態の俺の横をすり抜け、コレットがマギソートで測定を行った。


 結果――――


「あ、79。上がってるー」


「なんでだよ!!!」


 俺の魂の叫びがギルド内に響き渡ったのも束の間。


 冒険者の現役最高記録を更新したコレットに、ギルド内にいた冒険者達から拍手喝采が浴びせられた。





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