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終盤の街に転生した底辺警備員にどうしろと  作者: 馬面
第三部01:閑散と甘酸の章
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第173話 お姫様

 今、王女って言った? 確かに言ったよな。王女と話をさせてくれと。それってつまり……


「御主人……王族の方々を匿ってるんですか?」


「うおっ!? トモか!?」


 この驚きよう……やっぱり城から夜逃げした王族をこのベリアルザ武器商会で囲ってんのか……!?


「おいおい急にどうしたよ城下町ギルドのあんちゃん。王族とか訳わかんねー事言い出してさ。暑さで頭イカれちまったか?」


 季節はもうすぐ冬だよバングッフさんよ。しかも表情もジェスチャーもいちいち大袈裟だ。ただでさえ怪しい行動とってんのに、ここに来てこの挙動……怪しいにもほどがある。


「貴方が今言ったんですよ。『そろそろ王女殿下と話をさせてくれや』って。惚けても無駄です。実は俺、聞いたばかりの言葉を脳内で再生させる【再現3】ってスキル持ってるんで」


「マジかよ!? 何その便利そうで便利じゃない少し便利なスキル! 初めて聞いたんだけど!?」


 俺も聞いた事ないよ。


「チッ、仕方ねーな……ったくアイツら、ちゃんと誰も入って来ないよう見張ってろっつったのによ。どうせこの店に客なんて来ねぇってタカ括ってサボってやがんだ。後で全員ケツこんぼうだな」


 何そのケツバットみたいなの。こんぼう愛好家の俺が無視できる案件じゃないな……無視するけど。


「はぁ……聞かれちまったんなら仕方ねぇな。ま、どうせお前にはいつか話すつもりでいたけどよ」


 御主人も俺の偽スキルを信じたらしい。観念したような溜息には、何処か肩の荷が下りたようなニュアンスを感じた気がした。


「随分と王族って言葉に食いついたな。何処まで知ってる?」


「先日、王城に行きました」


 向こうが腹を割って話してくれるというのなら、こっちも隠し事をするつもりはない。俺だってあの無人城について何か手掛かりがあるなら知りたいしな。多少、厄介事の匂いはするけど……


「ああ……成程な。なら、もう知ってるんだな」


「ええ。見事に無人でした。中々壮観でしたよ」


「ま、そういうこった。一応先に言っとくが、俺は理由も状況も一切知らねぇ。城から人が消えたってのも、ついさっきソイツに聞いたばっかだからな」


 バングッフさん、御主人に話したのか。意外だな。五大ギルド会議では話に出さなかったのに……この二人、どういう関係なんだ?


 でも、これでバングッフさんの税金横領疑惑は晴れた。もし本当に金を横取りしようとしていたのなら、無人城の件を御主人に話す訳ないからな。


 正直、ちょっとホッとした。別にこの人の身内でもなければ仲間でもないけど、世話になった人が極悪人で罪人ってのはやっぱり気が滅入る。良かった良かった。


「会議では黙ってて悪かったな。先走って話す前に、どうしても確認したい事があったからよ」


「この武器屋に王族が匿われてるかどうか、ですか?」


「いや。つーか、そこがまず誤解なんだが……」


「バングッフ。そこから先は俺が話す」


 んー……二人の口振りから察するに、どうやら俺の解釈は早とちりだったらしい。でも、だったら何故『王女殿下』なんて言葉が出て来る?


 まさか御主人、お姫様と知り合いなのか? 若しくは……身内? だから御主人に間を取り持って貰おうとしたのか?


 ……勝手にアレコレ考えても仕方ない。御主人の話を聞こう。


「トモ。ここから先を聞けば、お前も無関係じゃなくなっちまう。それなりに覚悟が要るぞ。良いのか?」


「承知の上です」


「わかった。なら心して聞いてくれ」


 表情、そして声のトーンが変わった。単なる真面目な話……ってだけじゃなさそうだ。


「今だから言えるが、ルウェリアが行き倒れてたお前を拾ってた来た時、正直俺はお前の事を疑ってたんだ。ルウェリアを狙う悪ぃ奴かもしれねぇってな。お前を寝かせてた部屋にブラッドスピアコク深めが置いてあったのは偶然じゃねぇ。万が一の時の事を考えてだ」


 えぇぇ……今更そんな暴露要る? 俺がちょっと凹むだけで、他には何の意味もないような……


 でも、あの状況で警戒しない方がおかしい。保護者である御主人が防衛策を講じるのは当然だろう。


「そんな出会いだったが、お前は良く働いてくれたし、店を辞めてからもルウェリアを気にかけてくれて、何度も保護してくれた。あの時は悪かったな。で、今はなんつーか……まあ、家族って言ったら大袈裟だけどよ。身内くらいには思ってんだ、俺は」


 ちょっ、面と向かってそんな事を言われると泣きそうになるでしょうよ! そういうのホント弱いからやめて。


「だからいつか、お前にはルウェリアの事を話すつもりだったし、その約束もしてたよな。今日がそれを果たす時だ」


「……?」


 王女の話とルウェリアさんに、何の関係が……って。


 まさか。


「え? いや、でも……マジで?」


「察しが良い奴だな。ああ、そうだ」


 頭の中が混乱で渦を巻いている。しかもこの渦、扇風機みたいに高速回転してるんじゃなく、ゆっくりグルグル回りやがるから思考がまるでまとまらない。


 俺は王女の件を話して貰うとばかり思っていた。でも御主人が話そうとしているのはルウェリアさんの事。


 つまり、その二つはイコール。


 だとしたら――――



「ルウェリアはな、リンデロッカルトの第一王女として誕生した、正真正銘のお姫様だ」



 ……。



 予想はしてた。



 予想はしていましたけど……





 ぅええええええええええええええええええ!?


 



 とても信じられない。でもこんな状況で御主人が嘘をつく筈もない。


 ルウェリアさんが……お姫様? しかも第一王女?


 いやでも、思い起こせば確かに初対面時から気品というか、派手な服装の割に上品さを感じたりはしていた。ただの武器屋の娘って感じではなかった。実際、彼女が先日コレットが着ていたようなドレスを着てあの城の玉座に座っていたら、何の違和感もなく王女様だと思うだろう。


 とはいえ、すぐには受け入れ難い気持ちもある。あんなに近くに感じていたルウェリアさんが、急に遠くの存在になってしまったような寂しさだ。


「あの、ご本人はそれを知ってるんですか?」


「いや。物心がつく前に俺が無理矢理連れ出したからな。出自を話した事もない」


 ……どうやら御主人もただの武器屋って訳じゃなさそうだな。


「そいつはな、元近衛隊長なんだよ。今でこそ武器屋の主人なんてやってるが、昔は王族の護衛を任されていた猛者だったのさ。ま、この街じゃ近衛隊長より冒険者の方が強ぇーけどな」


 バングッフさんも二人の過去を知っていたのか。だとしたら相当付き合いは古いんだな。俺が思っていた以上に年いってるかもしれないな、この人。


「古ぃ話だ。こんなんでも一応、黄金時代ってのがあってな。大した腕じゃなかったが、陛下に妙に気に入られちまって出世街道ってのを歩いた時期があったんだよ」


 謙遜しているけど、近衛隊長って言うと護衛の華。間違いなく国内最高の護衛職だ。元いた世界で言うところのシークレットサービス。ある意味、俺がいる業界のトップオブトップだ。


「つってもまあ、王族はみんなここから逃げ出す事だけ考えてたから、近衛隊長っつっても結局は逃避行の手伝いでしかなかったんだがな……」


 自虐気味にそう語る御主人の話は、その後も淡々と続けられた。


 魔王城が近くに建てられて以降、王族達がアインシュレイル城から逃げ出す計画を立てていたのはティシエラから聞いていた。確かフェードアウト作戦だったっけ。


 王城に引きこもり、存在感を極限までなくし、着実に逃げる為の準備を整えていた王族は、魔王討伐についても殆ど関心を失くしていた。魔王を倒せる武器はどれだけ探索させても見つからず、打つ手が殆どなかったからだ。


 でもそんなある日、ルウェリアさんが生まれた。


 ずっと、危険地帯から逃げ出して悠々自適な暮らしを送る事ばかり考えていた国王にも、娘が生まれ心境の変化が訪れる。


 このまま何もせず逃げ出せば、将来娘が大きくなった時にどう思われる? 何と言えば良い? 父親として大きな背中を見せてやらなくては。


 そんな思いが芽生え、それまで存在を消していた国王が心機一転、魔王討伐に注力するようになった。過去の例に倣い、世界最強の面々が集うグランドパーティを結成させ、魔王を倒すよう指示。娘に良い所を見せたい一心で、膠着する魔王軍との戦いに終止符を打とうとした。


『今日グランドパーティが魔王討伐に出発したんですか! もう魔王にビビらなくて良いんですか! やったーーーー!』


 国民もそんなノリで期待を寄せていたらしい。


 でも結局、魔王を倒せる武器は見つからないまま、魔王討伐も失敗に終わる。余りにも当然の結果だ。倒す手段がない相手に勝つ道理はない。


 だが国王はヒステリーを起こす。


『魔王倒せてないじゃないすか! やだーーーー!』


 ……みたいな感じで大暴れして、王城内は騒然としたそうな。


 問題はこの後。どうしても娘の為に魔王討伐の実績を作りたい国王は、更に魔王討伐に前のめりになった。


 しかし貴比位二級以下の王族貴族たちは無謀だと感じ、何度も説得を試みた。それでも国王は首を縦に振らない。彼等からしてみれば、もう逃げる準備は整っているのに魔王を刺激し続けるのはリスクでしかない。最悪、王城に攻め込まれて絶滅の恐れすらある。


 そこで彼等が下した決断は――――



「国王の娘、すなわち第一王女の拉致監禁だ」



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