Episode.1 暗黒の騎士と神殿
ゼロはあの【第七大天使】アズライールという説が浮上し、騎士たちは総動員で逃げたゼロを探し回っていた。
本人はというと・・・
「ここならバレないよ」
「・・・」
「本当にアズライール様じゃねぇんだろ?ならいいさ」
そこは町外れの倉庫の中にある隠し扉の中だった。
イヴの魔法で少しは明るくなっている。
「ゼロ、アズライール嫌い」
「ちょ、お前殺されるぞ!やめとけ!」
「その口ぶり、知ってるの?」
ゼロは少し嫌な思い出があるのか、手を強く握っていた。
「・・・七人、ゼロ虐める。アズライール助けない」
「・・・てか、大天使と面識はあるのね・・・」
そのとき、頭上の方から足音が聞こえてきた。馬の足音だ。
「・・・」
「ここから人の気配を感じる。アズライール様!いらっしゃるのでしょうか!」
どうやら気配でバレているみたいだった。
すると、ゼロが立ち上がろうとしていた。
「・・・恩は返した。恩、借りたらダメ」
「そんなことよりも、あんたが助かる方法を探すのよ」
「そこにいらっしゃるのは確認した『斬撃』」
その声とともにゼロと二人の間に鋭い斬撃が走った。
ゼロの視界には腕から血を流すレヴィの姿が映っていた。
「・・・レヴィ」
「アズライール様、大天使様がお待ちでございます」
「・・・暗黒騎士」
暗黒騎士、それは神に作られた神力がある人間と天使のハーフであり、その力は凄まじいものだった。
「レヴィ、治さないと・・・」
「やめろゼロ、今は逃げるんだ」
「・・・」
数少ないマナをゼロは消費しながら傷に手を当てていた。
そこの傷にはパキパキ・・・と水晶が傷を覆っていた。
「あれ、治ってる・・・?」
「マナが、助けてくれる」
「行きましょう、アズライール様」
ふらつくゼロは既に逃げられないように抱え込まれており、暗黒騎士は馬を動かした。
「・・・ゼロ」
「・・・ありがとう、レヴィ、イヴ」
そのまま、ゼロは神々がいるとされる大神殿に転移魔法をかけられていた。
その部屋に肌が強く叩かれる音が響いていた。
頬を抑えるゼロと叩いた手を摩る白のローブを身にまとった大天使がいた。
「・・・貴方が逃げて数日経ちましたが、なぜ逃げたのか教えなさい」
「・・・・・・」
「・・・はぁ」
その後に、大天使はゼロを抱きしめる。
「あなたに外の下卑た知識、空気は要らないんです。あなたはただここに入ればいい」
「ゼロ、恩、返さないと」
「そんなの、忘れてしまいなさい。それは貴方の前世なのですから」
そのまま、大天使は部屋を去っていった。
ゼロは渡された硝子を食べながら本を広げる。
それが、ゼロの逃げる前の生活だった。
ただ、朝昼夜に魔力の込められた硝子を食べ、
ただ、天使やこの世の理に関する知識を得り、
ただ、何かを考えることも無く過ごしていた。
だけど、ゼロは脱走して思考回路が変わった。
天使たちはおかしいのだ。
何故ここにひきこもらなければならない。
王ならば街を直接見て、聞いて、問題を解決せねばならない。
「・・・こんなのおかしい」
ゼロは新たな脱走方法を考え出していた。
幼き頭には知識はそれという程は入っていなかった。
彼女が読まされていたのはただの童話絵本なのだから。
「まだ、恩返しは終わってないよ」
そのとき、ゼロの姿が一瞬でその場から消えた。