第2話 図書室での再会
翌日の朝。
始業前の教室で栞里と有志は話していた。
昨日の女子生徒の件である。
「しつこいぞお前」
「いやだってさぁ」
「あんまりしつこいと【アレ】、ばら撒くぞ」
「すみませんでした」
しつこく昨日の詮索をしていた有志だったが、栞里が学ランの内側に手を入れながら脅すと止めた。
さっきまでニヤついていたその顔は冷や汗で真っ青だ。
やれやれ、と栞里が肩を竦めると、二人に近ずいてくる集団が目に入った。
クラスメイトの女子生徒四人だ。
有志は一歩前に出ると、彼女らに挨拶をする。
「やぁ、おはようみんな」
ニコリ。
さっきまでとは違う爽やかな笑顔だ。窓から差し込む日差しも相まって、まるで恋愛ドラマのワンシーンの様にも見える。
その笑顔を向けられた、女子生徒達は栞里には目もくれず、有志との会話に夢中だ。
(なんでこいつこんな絵になるんだろムカつく)
幼馴染のその様を改めて観察する。
栞里より少し高い身長に細く見えるが筋肉質な身体。
焦げ茶色のくせっ毛の前髪を緩く上げてヘアピンで止めている。
髪よりも明るい琥珀色の瞳と彫りの深い造形も相まってハーフの様な印象を与えるが、純日本人である。
学ランの下にパーカーを着ており、パッと見軽薄そうな印象を与えるがとにかくモテる。
入学してからまだ一ヶ月と少しだが、学年一のモテ男と言っても過言ではないだろう。
(それに加えて性格もまぁ悪くは無いときたもんだ。そりゃモテるわな)
溜息を一つ。
「ねぇ栞里」
有志が振り返りながら声を掛けてきた。
「なんだよ」
「三澤さんが今教えてくれたんだけど、今日部活無くなったみたいでさ。放課後どうする?」
「あー放課後?ならいつも通りに…」
返事をしながら何となく視線を女子生徒達に向けると、栞里は慌てて顔を逸らした。
そのまま会話を続ける。
「俺はやる事あるからお前は好きにしろよ」
そう言い残し、栞里は自分の席に向かう。
有志は女子生徒に囲まれて動けなくなっていた。
その表情は、さっきの笑顔と違い、悲しみに満ちていた。
放課後。
有志が女子生徒の集団に連れていかれるのを後目に見つつ、栞里は図書室へ向かった。
昨日の本を読むためだ。
図書室に到着し、扉を開ける。
(あ、今日は居ない。)
昨日と違い、今日は図書室は無人だった。
(まぁ、毎日居るわけないよな)
本を手に取り、席に着く。
その席は、昨日女子生徒が座っていた席の対面の席だった。
(さて、続き続きっと)
女子生徒の事を頭から追い出し、昨日の続きを読み始めた。
(面白かった…)
パタン、と、本を閉じる。
今の栞里は、満足感に満ちていた。
(何だこの本めっちゃ面白い…初めてこんな本読んだ…)
当たりだ。と栞里は思った。
そして時計を確認しようと顔を上げた。
(まだ少し時間あるな…)
昨日のうちに半分以上読んでいた上に、読むペースも早かったのだろう。
下校時間までまだ三十分ほどあった。
少しでも続きを読もうと立ち上がり、ついでに伸びをする。
ついでに図書室内を見渡すが、栞里以外の姿は見えない。
(ん?図書カード?ああ、あれがあれば本を借りれるのか)
入口の左側の棚に【図書カード】と書かれたコーナーがあった。
このカードに名前、学年とクラス、借りたい本のタイトルと借りた日付を記入し図書委員に提出し、受領印を押してもらうと借りた日から一週間借りる事が出来る、と説明文があった。
栞里は早速、読んでいた本の第二巻を持ってきて図書カードを記入した。
(で、図書委員のいるカウンターに提出、と)
本とカードを持ち、カウンターへ向かう。
「すみません。本の貸し出しをお願いします」
返事はない。
カウンターを除くと、奥の扉が開いている。
脇に【図書準備室】とあるから、蔵書やら資料の保管に使っているのだろう。
(扉は開いてるし、誰かしらいるだろ)
もう一度、さっきより大きめに声を出すと、返事があった。
図書準備室からだ。
「はーい。今行きますー。」
パタパタと小走りで現れた図書委員と思われる人影。
「お待たせしました。本の貸し出しですね?カードと本と学生証を提出してください。」
そう言いながら栞里を見上げるのは、
「昨日の船乗りだ」
「船乗り!?」
うたた寝して起こすと逃げ出した、昨日の女子生徒だった。