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生キ抜ク

異界、それは鬼神の領域。鬼神が現れると同時にそれを中心に異界が広がる。

感知できる狩人は世界から強制的に切り離され異界で鬼神と闘うことになる。

異界にしても謎は多い。現実と同じような世界である理由。

生き物の気配がしない事。常にあらゆるところに血だまりや血痕があること。


――――そしてなぜかスイレンの花が咲いている一角があること。


-----------------------------------------------------------------------------


「うわぁぁぁぁぁ!!」


阿久津結城(あくつゆうき)は異界を走っていた。

その理由は明白だ。後ろから鬼神が追ってきているからだ。

その大きさ大型のトラックほど。形状はしっぽに大きな針があるところから

サソリ型、とりあえずスコーピオンと呼ぶことにした。


「クソっタダ逃げても意味がない!」


なんでこんなことになっているかと言うと簡単だ。

異界に入った直後、御崎真理(みさきしんり)とマシロを巡っての口論になった。

御崎真理(みさきしんり)はマシロは放置して異界に巣くう鬼神を殺しに行くと言った。

阿久津結城(あくつゆうき)はマシロを見つけに行こうとしていた。

そこで口論になった結果、別行動をとればいいという結論になり今に至る。

別行動した直後にスコーピオンがまっすぐ自分を狙ってきたのだ。


「よりによって俺を狙ってくるとは、なんて間の悪い!」


今の状態でマシロと会ってもマシロに危険が及ぶのは変わりない。

そもそもマシロ自体が今は敵の可能性がある。

さすがに挟まれたら死ぬ。今も死にそう。


「こんなことなら御崎のアドレス聞いておくべきだった。助けてくれぇぇ。」


今更ながらに後悔しそうになるが、スコーピオンはそんな暇を与えようとはしてくれなかった。

スコーピオンは飛び上がり進行方向上に移動した。


「そういうのありかよ!クソっ。」


阿久津結城(あくつゆうき)はすぐに急ブレーキし左側の路地へと入った。

サイズ的にスコーピオンが通れる路地ではない。追っては来なかった。





御崎真理(みさきしんり)は、状況を見ていた。たった今

阿久津結城(あくつゆうき)がスコーピオンから一時的に逃げ切った。

鬼神は異界を破壊できない。それに彼は気づいているのかと思ったが、多分運がいいだけだ。

少しおかしいことに彼女は気づいた。


「普通奴らに明確な意思はない。追えなくなったらまた徘徊を続けるだけのはずだけど。」


しかしスコーピオンは、依然として阿久津結城(あくつゆうき)を追っている。

わざわざ建物の壁をよじ登ってまでして。


「私を誘っている……?いやあれは」


考えてもみたらおかしな事だ、何故狩人としての能力を持たない人間が異界にいるのか。


「阿久津君には鬼神を引きつける何かがあるということかしら。」


その何かが何なのかは正直どうでもいい。

こちらを見ていない鬼神など能力を持たない男子高校生よりも容易く殺せる。彼女はポケットから巻尺を取り出し30cmほど出した。





「逃げ切った……か?」


路地の中を延々走り続けた。周りを見渡すと恐らく2駅分は走ったことがわかった。

最初に異界に入ったのはこの辺だったような気がする。

あのファミレスには見覚えがあった。マシロと最初に入った場所だ。


好奇心猫を殺すと言う言葉がある。

阿久津結城(あくつゆうき)はそのファミレスに入ってしまった。

そして()()と対峙した。


「ヴゥ……ヴヴヴ」


「マシロ……」


それはマシロだが先ほどまでと違う部分がある。


肌から硬質な仮面のようなものや鎧が、所々着いていて鬼神に近い見た目になっている。

さっきは一瞬だけ自分のことを認識したが、今はそんな様子はない。

だが確実に苦しんでいることはわかる。そして自分にできることなど何もないことも。


「流石に情けなさすぎるだろ俺。コイツがこんな大変な目に遭ってるってのに助けるどころか話すら聞いてやれねぇなんてよ。」


だから逃げない。せめて


「御崎が来るまで、ここでお前を引き留める。」


スコーピオンを倒した御崎がやってくればそれでいい。

殺させる気はないが、今のマシロに何かしてやれるのは彼女しかいない。





スコーピオンの針を体を逸らし回避する。

奴の攻撃は単純だ。正面に立てばその巨大な爪を使って物理攻撃を、背後に立てば、尻尾に着いた毒針を打ってくる。どちらかというと背後の方が危険だ。



「物理攻撃は問題ないけど毒は厄介ね。」


巻尺による斬撃は爪によって防がれてしまうので、彼女としては正面で攻撃を避けながら背後に回り切り裂くのがいい。片方の爪は不意打ちで既に切り落とした。

やることはシンプル、ただ正面から切りかかるのみ。


「せあぁぁぁ!」


防がれることは承知の上で突撃する。予想通り残りの爪を使ってガードしてきた。


「ここでジャンプ!」


爪に足をかけてジャンプする。狩人である彼女は高い身体能力を持っている。

その高さ約3メートルほど。左手に持っていた瓦礫に力を籠める。


「フレクションコード=ボム。」


瓦礫に筋のような模様が浮かび上がる。それを思い切りサソリ型に向けて投げた。

サソリの背甲が爆発した。そこに向けて


「これで……とどめっ!」


巻尺を3mほどのばし突き刺した。そこへ更に


「フレクションコード=ボム!」


巻尺を爆発させた。サソリ型の体は体内から爆発し体や甲の破片が各所に飛び散った。

血痕がいくつか自分にも降り掛かった。


「服も髪も滅茶苦茶。お風呂入らなくちゃ。」


でもまだやることがある。これだけ暴れてもやってこないということは彼が上手く引き付けているのだろう。

生きているのなら助けなければ。




状況は最悪だった。


右腕はパンチを防いだ時に骨折。左腕は噛みつかれ動かなくなった。体は彼女の爪が繰り出す

突風によって裂かれている。特に足が重傷だ。本当に狩りの手段を心得ている。

今自分は彼女にとって障害でも何でもない。ただの餌。草食動物だ。

いや、生き延びるための手段を持たない辺り動物ですらない。


「はぁはぁはぁ……」


「ヴヴヴ」


(死ぬな。これ。)


さっきから視界が安定しない。血を流しすぎた。だが不思議と恐怖心はない。

もう心がマヒしているのだろう。


(まあ、ビビりながら死ぬよりかはマシだけどさ)


マシロがこちらへとどめを刺そう正面から飛びかかって来る。

もう完全に餌扱い。守りを完全に捨てている。そこを


「せいっ」


横から御崎真理(みさきしんり)が蹴り飛ばした。

彼女はそのまま長い長髪を揺らしながら優雅に着地した。


「二度目ね。」


「うるせぇ。今回は全然間に合ってねぇよ。」


何分死にかけだ。ほっといても出血多量で死ぬだろう。


「運良く生きてたら病院へ送ってあげるからそれまで待ってなさい。」


御崎真理(みさきしんり)がマシロの方へ向かっていく。


「やっぱり殺すのか?」


「それもできそうにないわね。だって武器が無いもの。」


「それにしては余裕すぎね?」


まるで勝ちを確信しているような、そんな風に御崎真理(みさきしんり)は話す。


「鬼神は倒した。なら異界も収まる。この子が何なのかは

知らないけど鬼神と異界に反応して、こうなった可能性

が高いわ。なら異界が消えれば元に戻るでしょう。」


わからなくはない話だが。本当にそうなのだろうか。


「異界が消えれば戦える狩人は私だけじゃなくなる。逃げ

回るのも選択肢に入るわ。」


そうなると少なからず巻き込まれる人が出るがまあそんなことを気にしていたら二人とも死ぬ。

段々と景色がぼやけていく。


「ほら。異界が溶けていくわ。」


それと同時にマシロが急に苦しみだした。


「ヴ……ヴゥゥ…ガァァァァァァァァ!!」


マシロは自分の首をひっかきながらもがいている。

あのままでは首を切り裂きかねない。


「ちっ」


御崎真理(みさきしんり)がマシロの頭を蹴飛ばし気絶させた。


「お前やりすぎだろ。」


「確実に落としたんだからチャラよ。」


それでいいのだろうか。この先何があろうと、この女の治療だけは受けたくはない。

そう思う阿久津結城(あくつゆうき)だった。


「ぐ……。」


「ちょっと阿久津君?!」


現実に帰るにつれて意識もとうとう薄れていく。

人の物か元からあった物かわからないほど血にまみれたファミレスが元に戻っていく。

段々と客や店員が現れ始めた。


その様子を対面するビルの屋上で、御崎真理(みさきしんり)は見届けた。


「さて約束通り病院へ送らないとね。」


赤い月はすでに消え、そこには太陽が世界を照らしていた。


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