表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/138

精霊界

 今日珍しく朝のニュースを見てみた。

 そこに報道されていたのは、人王ケイスが龍王である俺に軍を差し向け、俺の怒りを買い処刑されたというニュースだった。

 

 実際には俺が殺したわけではないが、殺そうとしていたので何にも問題はない。それに龍王や鬼王が誰を殺したところで誰も裁けないのでこれも問題ない。


 どの番組を見てもこの話題で持ちきりになっていた。

 正直に言うと俺は人王ケイスがどのような人物なのかも、どのような顔や声をしているのかも結局知ることはなかった。

 そのせいなのか、それとも同じ日にアテナの件があったせいなのか、ケイスのことを忘れていた。

 

 今になってはケイスは死んでいるから興味もないし、なぜ攻めてきたかも軍のネクロマンサー達がケイスの思念を呼び出して尋問するから後々わかるのでこっちも問題はなかった。


 

 恐らくこのニュースはこの大陸の国民の殆どに知られることになるだろう。

 更には次の人王のことで少し騒ぎになるかもしれないな。


 「鬼龍、東華が来たから行くよ」


 ニュースを見ていた俺に時雨が登校を促した。







 龍神代陽月は一人で精霊界に居た。

 精霊界はその名の通り精霊が住んでいるこの世とは別の世界。普通の生物は全く生息していなく、人が出向くには危険なところでもあり、そもそも行くことが困難な場所である。


 そんな精霊界は人の手が加わっていないので、人工物はほとんど目にすることはないだろう。

 だけど一か所だけ、明らかに人の手が加わったような場所が存在する。


 その場所は白い石の柱が無数に立ち並ぶ神殿のような作りの場所で、夜になればそこからは精霊界の三つの色の違う月が見える。


 「いつ来ても遠いな」


 そう言いながら神殿に近づいて来るのは陽月だった。


 相変わらずここは静かな場所ね。


 「こっちに来た時から気づいてるんでしょ? 迎えに来てくれてもよくない?」


 陽月は神殿に向かって大声でそう問いかけた。

 

 「レティア久しぶりね。元気だった?」


 どこからか陽月と同じくらいの年の少女が現れた。

 その少女は金色がかった銀髪で、布を纏ったような服を身にまとっていた。


 そしてその少女こそ全世界に居る精霊たちの頂点に君臨する精霊たちの王であり、世界に生み出された原初の神の一柱。

 精霊神ウルカそれが彼女の名前。


 「私の話は無視?! まあいいや。それより今の私の名前は陽月だから間違えないで」


 陽月が精霊神ウルカにまるで友人に接するように話す。

 

 「あ~ ごめんごめん。で? 今日は何しに来たの?」


 ウルカが陽月に近づきながら訊いてくる。

 ウルカは宙に浮きながら陽月を上から見てる。


 「コレコレ」


 陽月は自分の胸を指さしながらウルカに教える。

 

 一瞬だけウルカの目つきが鋭くなる。

 

 「コレを私の言う武器に変えてほしいんだよね。今の私じゃ上手く力を扱えないからウルカにお願いしに来たんだ」


 「なるほどね。やっと目覚めてきたんだ、わかったいいよ」


 ウルカは陽月と同じ地面に降り立ち陽月にそう言った。


 「とりあえず中に入ろうか」


 ウルカはそのまま踵を返し、神殿の中に入っていく。

 それを追うように陽月も続いて神殿に向かった。





 

 神殿の中は白を基調とした内装になっていて、はっきり言って殺風景と言ってもいいほど何もない場所だった。

 松明などの光源がなくても室内は程よく明るく見やすい構造になっていた。

 そしてウルカが陽月の要望を叶えるのにはそう時間はかからなかった。


 陽月がウルカに頼んだことというのは、鬼龍に託された全知全能を封印した鍵を素に、武器を創ることだった。

 ただの武器を創るだけだったら、大陸のドワーフ族に頼んだらいいのだが、陽月が欲しい武器はドワーフでは作ることのできない武器。

 

 龍王である鬼龍が使っても壊れない武器、そして全知全能のカギの役割もこなせれば尚よいと陽月は思っていた。

 

 「じゃあ始めるけど、レティア、じゃなくて陽月も魔法で補助してね」


 ウルカにそう言われて陽月は周りから魔力を集める。

 精霊界ではより濃い魔力があるのか、すぐに使える量の魔力がたまってきた。


 「わかったけど。ちゃんと名前覚えてよね」


 陽月は胸の中から輝く光の玉を出す。

 これこそ全知全能を封じ込めた封印の鍵。

 今からこれを武器に変えるのだ。


 「ほら全力で私に魔力を流し込んでね」


 ウルカが陽月にそう言った。

 

 「わかった」


 陽月がウルカに魔力を流し始めた途端、鍵が眩しい位に光輝き、目を開けてられなくなるほど光が増した。

 そして光が収まり、気が付いた時には二振りの刀がそこにはあった。


 「もう終わったの!?」


 陽月が驚きのあまりウルカを見る。

 ウルカも少し誇らしげな表情で陽月を見返す。


 「当たり前じゃん! ついでに魔力から陽月の記憶を読み取って、陽月に封印されてる鬼龍の力もコレに移しておいたから。もう少ししたら陽月も本当の力が使えるようになると思うよ」


 ウルカは陽月にそう言いながら二振りの刀を手渡した。

 ウルカが手渡した刀は両方とも光の塊のような刀だった。


 「何勝手に私の記憶を覗いてるのよ!」


 陽月はウルカに蹴りを繰り出すがウルカは難なくその蹴りを避けた。


 「あんまり怒んないでよ。陽月の力の覚醒を促したのと、鬼龍の力の封印を解いたお礼ってことでさ」


 ウルカの勝手な物言いにさすがの陽月も呆れていた。


 「はぁ。 まったくウルカは変わらないね」


 陽月の表情は懐かしさを思い出したかの様な表情に変わっていた。

 

 本当に昔から変わらないなウルカは。

 思い出せないほど昔の思い出だけど魂が覚えている、懐かしい過去を。そして絶対に忘れない約束も。


 「でしょ~ 久しぶりに楽しかったよ。娘達も待ってるだろうからさっさと帰んな、そしてまた遊びに来てね」


 ウルカは陽月にそう言って、陽月を屋敷に強制転移させた。

 これはウルカが陽月の記憶を読み取って、陽月が鬼龍にしたことを真似したものだった。

今回も読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ