王の会合
アテナがこの国を去って一ヶ月。
俺は平和な学生生活を送っていた。
時雨は東華とすごく仲良くなったようで、よく晩飯に誘い、東華も一人暮らしで一人のご飯が嫌なのか、よく家で晩飯を一緒に食べている。
そして授業では来月の七月に迫った鬼神祭に向けた対人訓練を主にしていた。
鬼神祭は大陸全土にある国立の学園で二人一組のペアを三つ用意して争う、大きな祭りだ。
この祭りでは、各国からも人がこの国に訪れ、屋台なども出る。
この祭りの目的は、この国の人々がこの国の守護神である鬼王にたいする感謝だ。
この国の守護神は二柱いて、そのどちらも闘いが好きなことからこの祭りが行われ始めた。
そして今日の授業では先日締め切りになった出場者のペアで訓練することになった。
俺は当初時雨と出場しようかなと思っていたんだが、雫に頼まれて、雫と出ることになった。
雫とは朱里は一緒に出ると思ってたんだが、どうやら朱里は今回は何故だか出たくないと言ったので、俺に頼んだそうだ。
それを俺は時雨に話したところ、時雨も東華と出ると言っていたので、結果的にはよかったのかもしれない。
「鬼龍さん、白ちゃん、今日は頑張ろう」
雫が俺と白にそう言ってくる。
今日の授業は他の学科の人の模擬戦でペアでの初めての戦闘だ。
「おう!」
「ん」
俺と白が雫に返事を返す。
白は人見知りだが、最近は朱里と雫、東華には慣れ始めたようで返事はするようになった。
「鬼龍さんって模擬戦の時だけテンション高いね、そんなに楽しみ?」
いきなり俺の顔を見ていた雫がそう言ってきた。
テンションが高い? 俺が? 確かに戦闘は好きだけど、そんなに表情に出てたかな。
「まあ、一応俺は龍種だからね」
俺は小声で雫にそう言う。
すると雫は少し驚いたような顔をする。
「そうなんだ。鬼龍さん強すぎるから、てっきりつまらないと思ってた」
雫がそんなことを言ってきた。
確かに俺と他の人との力の差は大きいし、自分で戦うこともあまりないけど、それでも他人の戦術や技を見ると面白いと感じるし、参考にもなる。
そのために俺は全知全能を封印したんだから。
でも全知全能を封印したことで闘いは多少は楽しくなったけど、緊急の時とかには少し不便になった気がする。
今後その対処を考えないといけない。
まあ、それでも楽しいから、やってよかったと思ってる。
真っ白い部屋に大小さまざまな種族がそろっていた。一人は鬼の王、一人はドワーフの王、一人はエルフの王、一人は獣の王がこの部屋の中に居た。
この国には王と呼べる者は六人居た。現在人王ケイスローサーリーは死亡していて、人王は空席になってるので六人になっている。
そしてあと二人、獣王と龍王は今日は欠席になっている。
今日この三人の王がそろったのは、人王ケイスが龍王と鬼王を襲撃して殺害された件についての話し合いのために集まっていた。
「今日集まってもらったのは、ケイスについてだ」
静寂の空間にそう切り出したのは鬼王だった。
王たちにはそれぞれ名前がある。それは鬼王龍鬼も同じなのだが、こういう場では何故か何々王と呼び合っている。
そしてケイスは人王ではなくなったためケイスと呼ばれている。
「もろもろの説明はどうせ二人とも興味がないと思うから省くが、ケイスが龍王の屋敷を襲撃して、そこに居た龍神の巫女に返り討ちに合い、そして駆け付けた龍王によりケイスが殺害されたわけだ」
鬼王はエルフ王とドワーフ王に虚偽の報告をした。
実際は鬼王とその側近である雷神風神が殺したのだが、鬼王はそれを言わずに龍王が殺したことにしたのだ。
そしてその場に居なかった二人の王はそれを信じるほかになかった。
「ケイスの件については今軍で焔龍家と鬼神家が担当させてもらってるので任せてもらいたい。だが、人王の空席はどうすべきか二人に訊きたい」
鬼王は白い椅子に座する二人に問う。
「そんなの知らん。そもそも人王は五十年位で変わるのだから、必要あるのか?」
そう言ったのはエルフ王。整った顔立ちで長い銀髪のエルフ族の王だ。
エルフは長寿の種族で、千年くらい生きる者すら居るので人の寿命は短く感じるのだろう。
「確かにな。人と共に暮らし始めて数千年がたったが、人の王は世代が変わるたびに傲慢になってきた。そしてケイスの先代の人王からは何もしなくなり、今では鬼王、貴殿が人族の政治まで行っている。結論を言おう、この大陸に人王は必要ないと私は思うのだが、鬼王はどう思いで?」
髭を蓄えた大男が鬼王に訊く。
この髭を蓄えた大男こそドワーフの王。ドワーフは背の低い種族と思われているが、年月が経つにつれその平均身長は伸びてきた。それでも人と比べれば小さく見えるだろう。
そして、そのドワーフの王族の男性は他のドワーフと比べても大きく育ち、生涯その身長は伸び続けるらしい。
「オレも人王の存在意義は今では無いと思っている。だけど、必要か不必要かはこの大陸の主である龍王が決めることで、オレ達が決めれるのは誰が人王にふさわしいのかを龍王に報告することだけだ」
鬼王がそう言うと、二人の王は黙り込んだ。
「オレからは禁呪の魔女を次の人王に押す」
鬼王はそう言った。
「確かにあの娘なら実力も問題ない」
「顔も知られているし問題は無かろう」
二人の王は鬼王の意見に賛成の様だった。
本人の知らぬ間に人王候補に名前が挙がった禁呪の魔女こと桜井紗那がこのことを知るのは、数か月先のことだった。
今回も読んでいただきありがとうございました。