神の試練3 (命)
私と対峙するのは栗色の長い髪で整った顔をした大人の女性だった。
彼女の名前はドゥーシア。
この広間を守護しているみたい。
「今すぐお前を殺して、奴を追ってやる」
ドゥーシアが怒りに顔を歪ませ、こちらを睨む。
彼女はどうやらここを突破されたくはなかったみたい。少なくとも怒りに我を忘れそうなぐらいには。
彼女はトウ姉がこの先の扉を破壊して先に進んだとたんに怒り出した。
つまりこの先には行かれたくないってこと。
やっぱりこの先に龍ちゃんと凛ちゃんが居るんだ。
ならば私のすることはこの人を倒すこと。
まあ、建前はそうなんだけど。
実際は得意な転移魔法を封じられて役に立たない自分へのけじめ。
せめてこいつだけはここで止めてトウ姉が二人を助けるまでの時間稼ぎ。
「悪いけど貴方はここで私に付き合ってもらう」
私は無意識のうちに両手に握った短剣を強く握りしめた。
怖くないと言ったら嘘になるし、死ぬかもしれない。
もしも私がここで逃げ出してもトウ姉は私を叱りはしないだろう。トウ姉ならこんなやつすぐに倒してしまう。
きっとキー君も責めないで私を慰めてくれる。
だけどここで何もしなかったら私は成長できないままだ。
そんなのは嫌だ!
「身体強化五」
私は勇気を出すためにそう声に出した。
身体強化五は私が最初に覚えた魔法の身体強化を五つ同時に発動する魔法。
実は無詠唱でも発動させることが出来るが、今回は声に出してみた。
この身体強化の魔法は、魔法の中では一番簡単な魔法の一つだ。
そしてこの魔法は私がキー君に最初に教えてもらった魔法。
身体強化は己の魔力を身体エネルギーに変え、防御力や攻撃力、回復力を上げる魔法で、基本的には発動者の魔力量に依存する魔法になってる。
そしてこの魔法は一定の値になると効果が表れなくなる。だから私は一つの効果を五つに増やすために身体強化を五つ同時に発動させた。
もちろんその分魔力は持っていかれる。
私は龍族で魔力量も相当多いけど、今ので五割持ってかれた。
身体強化は自分の魔力を身体能力に変換させる変換魔法。
一回の身体強化で元の二倍に強化できれば一般的にはすごい方で、普通は一・五倍位までしかできない。
私の身体強化は一回で二倍に強化が出来る。
そして身体強化五では元の約三十二倍になる。
私にこの魔法を教えたキー君は、この身体強化を極めているらしくて、身体強化を制限なく使うことが出来るらしい。
私と違い一回の身体強化で数百倍も可能だそうだ。
龍王のキー君ならもしかしたら数万倍まで出来るかもしれない。
「死ね小娘!」
ドゥーシアがまたどこからか槍を取り出して、槍と盾を携えて物凄い勢いで突っ込んでくる。
だけど身体強化をした私には、その突進も遅く見える。
私は態勢を低くし槍を両手の短剣で受け流し、体捌きで彼女の後ろに滑り込むように回り込む。
そして彼女の喉笛を短剣で切り裂く。
「な!?」
喉を切られたドゥーシアは驚く。
首を落とそうと全力でやったはずなんだけど、丈夫な骨のせいで首を落とせなかった。
だけど首を深く切ったため盛大に血しぶきが上がる。
「グッ」
彼女は何かを口にしようとしたが口や喉から血が物凄い勢いで出て言葉にできないみたい。
追い打ちを仕掛けるなら今の内だ。
私はそのまま左手に持っていた短剣を強化した筋力で力任せに彼女の頭部にめがけて投げつける。
だけどドゥーシアは装備していた盾で私の放った短剣をガードしようとする。
金属音が響く。
私の短剣は彼女の盾を腕ごと弾いた。
弾かれたのは私の短剣も同じで、短剣の軌道が変わり壁にぶつかり壁を砕いた。
「小娘が図に乗るなよ」
ドゥーシアは私を睨みつける。
驚くことに切り裂いたはずの喉は傷跡すら残らずに完治していた。
「死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」
彼女はそう言いながら物凄い槍の連撃で私を攻撃してきた。
だけど早いだけの突きなので横に後ろに間合いを取りながらかわす。
ふと、彼女の顔を見ると、彼女は笑っていた。
イタッ!
その瞬間、脹脛に激痛が走った。
私はたまらず足をもつれさせ転んでしまった。
痛い! 痛い! 痛い!
いったい何なの?
思わず私は自分の脹脛を見る。
そこには私の足に噛みついている暗い色の大蛇が居た。
いつの間に!?
私は瞬間的に大蛇の首を切り飛ばす。
だが、胴体と頭が離れたはずの蛇は未だに私の足から離れようとしない。
何なの、この蛇。身体強化をした私の防御を突破してきた。
それにこの大きさの蛇に気が付かないなんて。
そして私は気づく。
私はドゥーシアの槍を避けていたことを。
ドゥーシアが私の前に立って、不気味に笑う。
遅れて気が付く、胸に痛みがあることに。
胸を見ると、そこには一本の槍が私の胸を貫いていたのが見えた。
「死ね小娘。貴様には呪われた私を滅ぼすことは出来ん」
ドゥーシアが槍を引き抜く。
だけど痛みは無い。
それどころか、力が入らない。
目もかすむ。
思考だけが正常。
「その蛇の毒は始めに激痛を与えるけど、徐々に感覚を奪っていく。そのまま蛇どもの餌になれ小娘」
かすむ目で周りを見ると無数の蛇がぼやけて見えた。
悔しい、このまま食べられるなんて。
そしてドゥーシアはそのままトウ姉の言った方向に走り出した。
今回も読んでいただきありがとうございました!