入学試験7
二人が家に着いたのは午後三時過ぎだった。
「ただいま」
「ただいま」
俺は玄関の扉を開けながら家の中に入る、その後を時雨が俺と同じ言葉を言いながらついてくる。すると、廊下の奥から駆けてくる足音が聞こえてきた。
「二人ともおかえりー」
廊下の奥から姿を見せたのは末っ子の命だ。
「二人ともどこに行ってたの」
茶の間に行く途中で命が聞いてくる。
そういえば、今日は皆学校で家には俺と時雨しか居なくて誰にも、どこに行くか言ってなかった。
「どこに行ってたかは晩御飯の時に話すよ」
「むぅ」
俺がそう命に言うと命は頬を膨らませた。
すると命の膨らんでいる頬を時雨がつつく。命の頬は結構柔らかそうな見た目をしているので俺もつつきたかったりする。
「なにするのさ」
頬をつつかれながら命が時雨に抗議するが、まんざらでもない顔をしている。
本当に時雨と命は仲がいいな。
「後で面白い本貸してあげるから機嫌直して命ちゃん」
時雨が命の機嫌を直そうとしているがほっぺをつつきながらだとなんだか笑える。
そんなやり取りをしながらリビングに行くとそこには、長女の刹那と三女の冬姫が居た。
「あら、二人ともおかえりなさい」
「おかえりなさい兄さん、時雨さん」
紫髪のロングストレートで最初におかえりなさいと言ったのが俺と同い年で妹の刹那で。銀髪ポニーテールで刹那の後におかえりなさいといったのが俺の二つ下の妹の冬姫だ。
長男に俺、鬼龍、長女にしっかり者の刹那、次女に読書が好きな時雨、三女に剣術が凄くて生真面目な冬姫、末っ子に甘えん坊な命だ。
これが俺の家族だ。ちなみに両親はとある事がきっかけで居ない。
「ただいま」
「ただいま、ちょっと食事の時に話があるから」
俺は用件だけ皆に伝えて自室に行った。
俺は部屋に戻り部屋着に着替た。
「さて、どうしたものかな」
俺はそんなことを言いながら考えをまとめていた。
考え事というのはこの屋敷が留守になるということだ、鍵を掛ければいいじゃないかと思うかもしれないが、ここには悪用されたらシャレにならないものが多いからそういうわけにもいかない。
まだ誰にも言ってはいないが来週には俺と時雨は学校に近いところに引っ越すつもりだ、この家では学校に通うには遠すぎる、刹那や冬姫、命も俺たちとは違う学校に通うため日中は留守にすることが多くなるだろう。
「どうしたものかな」
「キー君」
俺が考え事をしていると命が部屋に入ってきた。
命は俺の事をキー君と呼んでいる。
「ご飯できたよー」
俺は結構な時間考え込んでいたみたいだ、時計を見ると秒針は全て下を向いていた。
どうやら命は俺に晩飯ができたことを教えに来てくれたらしい。
「わかった、今行く」
俺は命と一緒に茶の間に向かった。
俺は考えがまとまらないままリビングで今日あったことと、さっき考えてたことをみんなに相談している。相談した理由は自分一人で考えるより皆の意見も訊いてどうするかきめようとおもったからだ。
「え? 兄さん引っ越すんですか⁉」
冬姫が珍しく食事中にもかかわらずいきなり立ち上がった。
「どうしてですか!」
「さっき理由を行っただろ」
俺は引っ越す理由を冬姫にもう一度言う。
「ここからじゃ俺たちの通う学校から遠すぎるんだよ」
「兄さんはそれでいいかもしれませんが、時雨姉さんはいいんですか?」
冬姫は俺に訊いた、後に時雨にも訊いた。
確かにこの話は時雨にも相談していなかった、少し自分勝手だったかもしれない。
「私は鬼龍に任せる、引っ越しても土日はこっちに戻るつもりだし」
今まで黙々と食事をしていた時雨が会話に入ってきた。
確かに、土日なら戻れるな。
「時雨さんがよくても私がだめです!」
冬姫がだんだんと赤面していく。
「あら、どうしてダメなのかしら冬姫」
刹那が意地悪な笑みを作りながら冬姫に尋ねる。
「あ、いや・・・ そう、兄さんが居なくなったら朝の稽古の相手が居なくなりますから」
冬姫は赤面したまま刹那にそう言った。
時々、冬姫の剣術の稽古に付き合っていたからそのことだろう。
「まあ、そういうことにしときましょう」
刹那は何が楽しかったのか凄いご機嫌になった。
「冬姫大丈夫」
時雨が冬姫の肩をポンポンとたたきながらそう言った。
いったい何が大丈夫なのだろう。
それは、冬姫も同じだったようで時雨に聞き返していた。
「一体何が大丈夫だというのですか?」
「私と鬼龍はさっきも言ったように土日には帰って来る、鬼龍の空間魔法で」
「え? 電車じゃないの?」
時雨が唐突にそう言った、俺はここに戻ってくるのは電車だと思っていたので、その発言は予想外だった。空間魔法はいわゆる高等魔法の分類でその中にはテレポートみたいなものもあるが、普通は移動には使わないが、確かにバスや電車よりも移動は早い。でも、消費魔力が桁違いに大きいのだ。
だが、鬼龍なら問題はないだろう。鬼龍は生まれながらにして無限の魔力を持っているので、実質コストがないのだ。
「当たり前、電車やバスでも五時間もかかるんだから」
確かにそうだ、今日だって起きたのは朝三時だったんだから。
「わかった、とりあえずこの話はここまでにして話を戻す」
冬姫が何かを言いたげだったが無理矢理話を戻す。
「とりあえず、留守にするときはどうするかだけど」
「まあ、鬼龍の言いたいことは分かるけどそんなに警戒すること?」
刹那が首をかしげて聞いてくる。
「そりゃ用心にこしたことは無いけど、ここに侵入しようって人が居るとは思えないわ、この湖に囲まれた島にわざわざ。それにこの島には龍神家ゆかりの龍家の当主たちが居るのよ、ここは例え神だろうと覚悟を決めないと落とせないわよ」
刹那が言ったことは確かに事実だこの島は大陸の中心にある島でさらに、龍神家の分家の十を超える龍家の本家がある、各当主たちの強さは一柱の神と互角くらいだ、多少例外は居るが、そんな島に侵入しようとするものは確かに居るはずがない、過去には侵入したもの居たが一人の例外なく侵入者は死亡あるいは捕まっている、逃げれた者は一人もいない。
だが、警戒しないわけにはいかない、それほど危険なものがこの屋敷には確かに存在する。
「そんなに悩むならキー君が信用できる使い魔か何かにここを守護してもらえばいいんじゃない?」
ここまで、会話に参加してなかった命がそんなことを言った。
確かにその手があったか。盲点だった。自分の信頼できるものにここを守護してもらえばいいんだ。
「確かにそうだな、でかした命」
俺は残ってた晩御飯を食べ終え中庭に出た。
俺以外のみんなも中庭についてきた。
外はまだ薄暗く、カラスの鳴き声が聞こえてきた。
俺は早速中庭で使い魔を呼び出していた。
「龍王の名の下に命ずる、玄武、青龍、白虎、朱雀、黄龍我の下にはせ参じよ」
空がひび割れ、割れた場所に巨大な影が五体現れた。
「あれが兄さんの使い魔なのですか?」
その光景を見ていた冬姫がそう訊いてきた。
俺が呼び出した使い魔たちは常人では耐えきれないぐらいの魔力を放っていたが、妹たちは何食わぬ顔でそれをみていた。
「ああ、あれが俺の使い魔だ」
五体の影は庭に実体化した。
一体目はカメのような体で蛇のしっぽをもつ、北を守護すると言われる玄武。
二体目は青い龍である、東を守護すると言われている青龍。
三体目は白い大きな虎、西を守護すると言われている白虎。
四体目は炎をまとった赤い鳥、南を守護すると言われている朱雀。
五体目は黄金の体の龍、四神たちのまとめ役である黄龍。
さすがに庭が狭いな。
『久しいな主』
黄龍が神々の言葉で話しかけてきた。
神々の言葉は、いわば神様の共通語だ。
『ああ、久しぶりだ。元気だったか?』
『元気ではあったが、我らを放置しすぎではないか?』
そんなに放置しすぎたっけ。
『1000年は長かった』
白虎が月を見ながらそう言う
千年? そうだったこっちと向こうの世界では時間の感覚が違うんだった。
『ああ、ところで主、後ろの者たちはなんだ?』
黄龍が刹那たちを見ながら言った。
『俺の家族だよ。それより、人の言葉で話してくれないか、俺はともかく俺以外はまだ人の言葉しかわからないからな』
「ああ、すまぬ、これで良いか?」
黄龍は人の言葉でそう言った。
神ともなれば、人の言葉も理解できるし話せる。それは神獣である四神達も例外ではない。
「ああ、問題ない」
俺は後ろにいる皆に目を配る。すると時雨以外の様子が少しおかしかった。
「みんなどうしたんだ?」
俺は皆にどうしたのか尋ねた。
時雨以外のみんなの表情がこわばっていた。
「みんな四神が恐いみたい」
唯一平気な顔で皆の近くにいた時雨が教えてくれた。
皆が恐怖するのも無理はないその恐れは生物が持つ本能的な恐れ、神々に対する畏怖そのものなのだから。
さっきまでは実体化していなかったが、実体化した今はその力も神格もはっきりとわかるようになり、恐怖を抱いたのだろう。
そういえば時雨以外は神にあったことがなかったな。
「なるほどな」
俺は時雨にそう言い黄龍達の方を見た。
「そういうわけで、人の姿になってくれないか? 姿が変われば多少は威圧感も抑えられるだろ、それにその姿じゃ庭が狭いし話しにくい」
「承知した」
四神が皆光に飲まれ小さくなっていく。
さっきまで姿大きさが統一されていなかったが今は皆人の姿になっている。
黄龍は長身で金髪ポニーテール外見年齢は鬼龍と大差なさそうに見える。
玄武は黒髪ストレートの少女の姿で傍らには黒い大蛇が居た。
朱雀は夜でもはっきりとわかるような赤髪のボブカットの少女だ。
青龍は緑にも青にも見えるショートの少女の姿に。
白虎は白銀の髪に猫耳のある幼女だ。
「ああ、これでいいのか?」
黄龍が金髪を風になびかせながらこっちに来る。
やっぱり人の姿になったら神格が薄れるのか。これなら、恐怖も薄れるだろう。
「それで問題ない。おっと」
さっきまで遠くを見ていた白虎が突然抱き着いてきた。
「きりゅー‼」
白虎は俺の腰に抱き着き頬擦りを始めた。
これどうゆう状況だ?
「お、おい白虎どうしたんだ? 黄龍何か知らないか?」
しょうがないから黄龍に訊くか。
俺は、四神のリーダーである黄龍に説明を求めた。
「ああ、知っているさ。白虎は1000年も主に会えなくて寂しかったのさ」
寂しかったって。四神も紛れもない神だ、神は殺すことはできても、寿命で死ぬことは絶対にない。そんな永遠に近い時間を生きる神がたった1000年くらいで寂しかってなんて。
「その顔は信じてはおらぬな」
黄龍は俺の瞳から何を考えているか分かったようだ。
「ああ、神からすればたったの1000年だ、だが白虎は生まれてから2000年もたっていないのだ、無理もないだろう」
そういえば、白虎と出会ったのは白虎が生まれて間もなかったな。
「ましてや、白虎は主のことを親のように思っている、そんな子供からしたら生きた半分の時間もお前に会えなかったのだ」
それは、悪いことをしたかな。
どうやら神獣でも寂しいという感情はあるみたいだ。