人造神兵 6
早朝、鬼龍達が男達と対峙している頃と同時刻。
焔龍家の屋敷をケイスが送り込んだ軍団が取り囲んでいた。
焔龍家当主の焔龍勝はこの大陸の鬼神家、龍神家を除けば最強の武力を持つ。
だが、この事実を知るものはほとんどいない。
知っているものは龍神家と鬼神家だけなのだ。
しかし戦力が不明な龍神家よりは戦力わかっている焔龍家に人数を割いた事はケイスは間違いだと思っていない。
ケイスの頭の中での序列は鬼神家、焔龍家、龍神家になっている。
実際は龍神家、鬼神家、焔龍家なのだ。
龍神家が格下の焔龍家に負けるはずは無いのだがこれもまたケイスの知ることではなかった。
焔龍勝はケイスが謀反を起こすという情報を手にいれていた。
そしてここが狙われるという情報も。
そのため勝は待ち構えていたのだ、ケイスの送る軍団を。
だが、勝もこれは予想外だった。
焔龍家の屋敷を取り囲んでいた人数は約三千五百人、そしてその全員が神格を持っていることを勝は見抜いていた。
その人数を見ても勝に焦りはなかった。
それもそうだろう、勝に勝てるのは神格を持っている者、仮初めの神格では恐れるに値しないのだから。
人数を集めれば、この焔龍勝を倒せるとでも思っているのか。
勝は心の中でそんな事を思いながら龍神化をする。
それは正にドラゴン。赤い灼熱のドラゴン。
今にも屋敷が、地面が、大気が今にも燃え上がりそうな程の高温を発している。
時間はない。さっさとやるか。
勝は自分の熱量をコントロールできる。
最小限にコントロールしてこの温度なのだ。
勝は龍神固有の能力を発動させる。
この能力には名前がない。実際はあるのかもしれないが勝は知らない。
世界が変わる。炎の世界に。
赤黒い空、燃え上がる大地、歪む大気、ここはさっきまで居た場所ではない。
この炎の世界は勝の世界。
ある一定の領域に踏みいった龍神のみが会得できる能力。
この世界は勝の特性を具現化させた世界。
その世界に勝の屋敷を取り囲んでいた約三千五百人の疑似神格を持った者達が転移させられる。
勝がこの世界に呼び込んだのだ。
普通の人間ならば苦しみ悶えながら焼け死ぬ高温の炎の世界のはずだが、彼らは苦しんでいるだけで死にはしない。
仮にも神格を持っているのだ、そう簡単には死ねるはずがない。
そのうえ勝が死なないように温度を調節している。
そのため今の現状で死ぬことは許されない。
ただ、喉が焼け声も発することができず、ただ苦しんでいる姿を見るほど勝もこいつらに関心があるわけでもなかった。
勝は一瞬だけこいつらを尋問して情報を引き出そうか考えたが、結局必要ないと思った。
勝が世界の温度を戻す。
今この世界の温度は約一千度、そこから世界の温度が急激に上がり始める。
そして温度が四億度超えていたときには三千五百人の元人間は、あっという間に消えていた。
鬼龍達が転移していった後に残ったのはディーネだけだった。
転移の魔法陣にディーネが入っていなかったためにディーネは鬼龍と同じところには転移出来ずに、その場に残ってしまっていた。
やってしまった。
ディーネは心の中でそう思っていた。
あるのは後悔。
なぜ魔法陣をもっと大きくしなかったのか。
なぜ魔法陣の外に立ってしまっていたのか。
思っていても、もう遅い。
いや遅くない、今からでも間に合う。
ふと思い出す、魔法陣の構造。
魔法陣を再構築すれば転移は可能だ。
この魔法陣を設計したのは鬼龍だが、描いたのはワタシだ。 ならばもう一度描けばいい、精霊のワタシの記憶力を侮るな!
ディーネは自分にそう言い聞かせ、魔法陣を再構築し鬼龍の元に転移していった。
その光景を端から見ていた時雨と白が何を思ったのかは誰もわからないだろう。
俺が五人の敵を荒野に転移させ、そこで俺を庇おうとした東華と一緒に敵を無力化しようとしていた。
そして今正に俺が敵に攻撃を仕掛けようとした時、光と共にディーネが転移してきた。
「間に合った?」
ディーネがちょっと焦った顔をしている。
精霊の焦った顔を見るのは初めて見たかもしれない。
そもそも人の姿をしている精霊は中位以上の存在だけだから見たことないのは当たり前か。
「間に合ってるよ」
俺はディーネにそう言う。
ディーネが居れば水を使った戦いかたができる。
水を相手に絡ませて動きを止めよう。
もしそれでも不十分ならば凍らせて相手の体力を奪おう。
「なあディーネ、あいつらの動きを水で封じ込めてくれないか?」
俺はディーネにそう聞く。
「わかりましたやりましょう」
ディーネがそう言うと湿度が少し上がった気がする。
この荒野は盆地でありながら周りには水が一切ない場所で、大型の生物は一匹として生息していない過酷な地だ。
植物すらまともに生えない地。その理由は地面にあった、ここの地面はとてつもなく水捌けがいいので水が溜まらない。
しかも降水量も極端に少ないため普通の大型の生物は生息できない。
そしてそんな枯れ果てた地に一滴の雫が落ちる。
いや一滴だけではない、また一つ、また一つとだんだんと量が増えていく。
そう、さっきまで晴れていたのに雨が降ってきたのだ。
神格を持って生まれ変わった水の精霊ディーネは天候すら変えるほどの力を持っていたのだ。
「雨?」
後ろで東華がそう呟く。
「はやり水の精霊王でしたか」
今のは呟きではなかった。
明らかに俺に向けて話している。
「ん? 確かにディーネは水の精霊だが、精霊王ではないぞ」
そう俺は東華に言った。
ディーネは元はただの精霊、俺のせいで神格を持ち、人の姿や言葉を話せるし、神格を持っているから普通の精霊よりは強い。
だからと言って精霊王ではないはずだ。
「いや、少し前に精霊神様から水の精霊王の位を授かりましたので、水の精霊王ですよ」
ディーネがたんたんと表情をかえずにそう言う。
精霊神、最初の精霊にして最強の精霊。全ての精霊の頂点に君臨する精霊達の主。
精霊王の座はその精霊神が与えていたのか。
てか、ディーネが精霊王に成っていたのは気が付かなかった。
「いつの間に。まあいいや、とりあえずあいつらの動きを止めてくれ」
「はい」
ディーネは俺の命令に従い相手の動きを止めようとする。
気が付くと空には黒い雲が広がってきており、雨もだんだんと増してきている。
だがこの地は水捌けがいいので、水がたまったりはしていない。
降っている雨の雫が不自然な動きで敵の五人に降り注ぐ。
まるで雨が集まっているかのような動きだ。
そしてその雨は地面に落ちるわけでもなく、ただ敵にまとわりついているだけだった。
「圧縮した水で動きを止めたから、多分これで動けないと思う」
ディーネがそう報告してきた。
あの量の水を圧縮したのか、凄い水圧がかかってそうだな。
よし拘束したし、尋問を開始するか。
今回も読んでいただきありがとうございました。