人造神兵 4
早朝、曇天に紛れ鬼龍の屋敷に近づく大規模な集団があった。
早朝の曇天、しかも森を移動しているのでこの集団に気が付いたものはいないだろう。
そのうえ集団は、大規模な魔術を使い気配を偽っていた。
消していたのではなく偽っていたため、屋敷にいる人物達は少し不信に思っただろう。
「ん?」
現に黄守はその気配に違和感を覚えいつでも撃退できる準備をしていた。
そしてもう一人異変に気が付き戦闘準備をしている人物が屋敷の庭の大きな岩の上に座っていた。
その姿はまさしく巫女、銀色に揺らめく長髪にキメの細かい肌、そに肌にはいくつもの汗で出来た水の玉ができていた。
今の陽月には索敵能力はほとんど無い。
鬼龍は自分の物に能力を封印し、その鍵を陽月に預けた。
その後陽月はその鍵を自分に封印した。
封印した理由は陽月本人にしかわからないが、彼女が鍵を封印したことにより力を制限されているのは間違いない。
力に制限を受けている彼女だが未来視や他の幾つかの能力は制限つきで使用が可能だ。
そして未来視で危機を察知した陽月は戦うために魔力を集めている。
陽月の戦闘には魔力が不可欠だ。
魔力は体内で自分で作られる、だが陽月の戦闘では自分で作る魔力量では足りないため、大気や大地から魔力を集めていると言うわけだ。
準備さえ万全ならば鬼龍とも少しの間は戦える。
だが、魔力が無くなればただの少女とそう変わらない戦闘力になる。
彼女にとって魔力は戦う上で無くてはならないものなのだ。
なぜ陽月はこの事を他の者に伝えないのか。
皆この疑問を浮かべるだろう。理由は簡単だった、陽月が見る未来は確定の未来ではなく、数ある内の一つに過ぎない。
鬼龍と違い不明な未来を皆に伝えて混乱させるくらいなら、一人で対処する方を選んだわけだ。
実際弱体化している陽月ですらたった数千人くらいなら魔力を集めれば撃退も可能だからだ。
陽月はとてつもない量の魔力を体内に蓄えている。それは人智の外に身を置くものですら到底及ばない領域。
ここまで膨大な量の魔力を蓄えてなお、陽月の周りには何一つ影響を及ぼしていない。
それは陽月が集めた魔力を微量も出していないということ。陽月が完全に魔力をコントロールしているということ。
「そろそろ頃合いかな」
そう独り言をいい立ち上がる陽月。
その姿はいつものと変わらない。
当たり前だろう魔力を完全にコントロールし大陸最強の鬼龍に続く実力をもつ存在なのだから。
「そうだな」
陽月の独り言に答える者がいた。
「え!?」
驚いた陽月は反射的に後ろを向いた。
そこに立っていたのは黄守だった。
「汗を拭け、戦に行くぞ」
黄守はそういうと白いタオルを一つ陽月に渡した。
黄守の右手には黄金の両刃剣が一つ握られていた。
その剣には黄金の龍が描かれいた。
「うん」
私は頷きタオルを縁側に置いた。
「心配はするな、我以外の四神はここに残る。問題は無い」
黄守はそういうと不敵に笑った。
一方その頃鬼神家の集落では龍鬼が男達を村の中央に集めていた。
この村には約八百の古参の鬼が住んでいる。中には鬼神の領域に踏みいった者も少なくない。
そんな戦闘のできる鬼族が約二百人、村の人口の約半数を集めていた。
ここには前戦を退いた老兵も数多く住んでいる。
戦える若い者も勿論居るがほとんど軍に属しているためここにはいない。
なぜ龍鬼がここに戦えるものを集めたのかは彼の表情が物語っていた。
まさに鬼の形相と言う表現があっている。
鬼族は絆を重んずる一族、それは深い関係がある龍族との間にもある繋がりにも同じことが言える。
龍族と鬼族は太古から共存してきた。
そしてそんな鬼族だからこそ許せない事がある。
それは裏切り。
人族の王ケイスローザーリーがクーデターを起こした。
鬼族は勿論龍族も絶対に許さないだろう。
龍鬼は勿論人族の全てがこの大陸を裏切ったとは思っていない。
ただ攻めてきたものにはそれ相応の対処が必要だと思っている。
「集まった者達よ! よく聞け!!」
龍鬼の声が辺りに響き渡る。
その声は驚くほど響き渡った。さも自然すらも龍鬼の声をまつかのように。
「今人族がこの村に攻めてきている、これは謀反だ! 敵の数は約五千、対するオレ達の数は二百、数では我らが不利だ。だが我らは一騎当千の鬼人、絶対に勝利するぞ!!!」
龍鬼がそういうとここに居るもの龍鬼も含めて全ての者の額から二つの角が生えた。
これは鬼化。
鬼族が戦闘状態の時に見せる姿。
「絶対に奴らを許すな!!!」
そういうと龍鬼は村から進軍していった。
今回も読んでいただきありがとうございました。