少し変わった兄妹1
寧々が目を覚ますまで陽月と少し話した。
話した内容は俺がどこで何をしていたのかとかだった。
もちろん陽月のことも話した。その時に生贄になった巫女たちのことも訊いたが、陽月は彼女たちとあまりかかわりがなかったらしく正直どうでもいいそうだ。
俺はこのことに対して陽月が冷たいとは思わない。
何故なら赤の他人が死んでも何も思わないのと変わらないと思ったからだ。
陽月は寧々が皆のことを心配していたから探していただけだったそうだ。
一方の目を覚ました寧々にはすでに事情をすべて話したのだが、意外なことに別段悲しむ様子がなかった。
理由を訊いたところ「あの人たち陽月様の陰口を言っていたので元々好きじゃなかったのです」とのことだった。
皆がいなくなった時に焦ったのは明らかな異常事態だったからだそうだ。
「でも、困りました」
寧々が陽月に向かいそう言った。
「どうしたの寧々」
寧々の言葉に陽月が反応する。
「いや、これからは神社で二人だけだなと思いまして。あ、いや! けして陽月様と二人が嫌な訳では無くてですね。ごめんなさい」
寧々は自分の誤解を生みそうな言葉に気が付いたのか必死に頭を下げて陽月と俺に謝ってきた。
なぜ俺にまで謝罪をするのだろう。
「謝んないでいいわよ、わかってるから」
陽月が優しい眼差しで寧々にそう言葉を掛ける。
でも、確かに神社に二人だけって言うのは少し心配だな。部屋も余ってるし二人にはここに住んでもらうかな。
まあ二人がいいならだけど。
神社は壊すかな。
「二人ともここで暮らさないか? 部屋は余ってるしあの神社よりは安全だけど」
俺は二人にここに住まないかと提案する。
この屋敷の女の子の密度が濃くなる気がするが別にいい。どうせ俺は平日、学園の近くの家に居て屋敷には居ないのだから。
「んー そうね、二人だけで神社に居ても悲しいだけだから、そうさせてもらうわ。いいわよね寧々?」
陽月は少しなにかを考えたあとに寧々を見てここに住むことを決めた。
「はい」
その決断は勝手に陽月が決めたことだが寧々もそれに従うらしく返事をした。
寧々がこの屋敷に住むにあたって四神達と時雨を紹介した。
寧々は昔この屋敷に陽月と一緒に何度か来たことがあり、刹那たちとは面識があるのだが最近この屋敷に来た時雨や四神達とは面識がなかったのだ。
「兄さんはいつも勝手に物事を決めますね。まあ、いいですけど」
そう俺に言ってくるのは冬姫だ。
ちなみに胡座で座っている俺の膝の上には白が座りながら寝ている。白は夕方に帰ってからずっと俺の部屋で寝ていて、寧々に紹介するときに起こしたのだが、まだ少し寝足りないのかすぐに俺の膝の上で寝始めた。
勘違いしないでほしいが白はこれでも白虎でありこの大陸でも上位の存在だ。
決して寝ること大好きの猫耳幼女ではない。
「ところで兄さん。この後少し手合わせしてもらってもいいですか?」
冬姫が立ち上がり俺を見下しながらそう言った。
龍は基本的に争うことが好きな種族でありそれは俺達龍神家ですら例外ではない。
俺、刹那、時雨、冬姫、命の中で争いを好むのかと言われたら間違いなく俺だろう。その次が冬姫だ。
冬姫は普段は優しい性格をしているが、とても生真面目で負けず嫌いだ。
誰にも負けないために毎朝剣を振るっているし、刹那とも手合わせをよくする。
数年前と比べたら別人のように強くもなっているのがわかる。
数年前までは毎日俺と剣術の稽古をしていたが今では全くやっていない。もしかしたらそのせいで今手合わせをしろといっているのかもしれない。
久しぶりに相手をするのも悪くないな。力が戻った俺が負けるはずはなが、リハビリにはいいだろう。
少しの間とはいえ力がなかったのだから感覚を取り戻さないと。
「いいぞ、久しぶりに遊ぶか」
そして俺達は久しぶりに兄妹で遊ぶことになった。
俺と冬姫は今日の光が降り注ぐ森の中に来ている。
ここはただの森ではない、俺が創造で作り出した世界の森だ。
この作り出した世界には生物は俺達以外居ないため戦うのにはうってつけの場所だ。
俺の五メートル前には白銀の太刀を持った冬姫が立っている。
対する俺の装備は冬姫とは対照的な漆黒の太刀の一振りだけだ。
ちなみに俺の膝の上で寝ていた白は俺の部屋に寝かせてきている。
「兄さん行きますよ?」
冬姫は俺の返事を聞かずに一瞬で五メートルの距離を詰め俺に斬りかかってくる。
俺はその刀をかわす。
俺がかわしたため冬姫の太刀は空を切る。
普通ならそれだけで終わるのだが、俺が回避した場所の後方に有った木が切り裂かれ凍り付いているのが見える。
いや、木だけではない。その後ろの山も切り裂かれ凍り付いている。
冬姫の能力は万物の動きを停める能力で、その力は凍らせることにも使える。
普通なら人に使うには大きすぎる力だ。
「普通に殺す気で斬りかかってるんじゃねーよ」
俺は思わずそう言ってしまった。
何故なら斬られ凍り付いた木が倒れ砕け散ったからだ。しかも冬姫からは先ほど殺気を感じたので本格的にヤバいと思ったからだ。
絶対にあの木のような末路は送りたくない。
「当たり前です。それと一つだけ教えて上げます」
そう言いながら冬姫は靴と靴下を脱ぎ出す。そして結っている髪をほどく。
少し気温が下がった。周りの木々には霜が付き、息は白くなっていく。
そして冬姫の姿も変わっていく。
背中からわ白銀の翼が現れ、頭部からは水晶のような角が生え、手足は白い鱗に覆わられた龍のからだの一部だった。
これは龍化。
龍の血が流れている者の証であり、紛い者の龍人には出来ないことだ。
「さっきの技は簡単に言えば、斬った対象を一瞬にして凍らせ死に至らせる技です。この技を受けて生きていけるのはおそらく兄さんと陽月さん、姉さん、時雨さん、そして相性の関係で焔龍勝さんでしょうか? ですが死にはしないだけで当たったらだいぶ苦しむと思うので兄さんも少し本気を出した方がいいですよ」
冬姫がそう言い終わると目の前の景色が瞬く間に銀世界に代わり始めた。
気温は下がりすべてが、大地すら凍てつく。
荒れ狂う風と雪、猛吹雪すら生易しい環境で視界はほとんどホワイトアウトしている。
一メートル先すら見えない環境だ。
そしてそれに伴い吹雪の音で聴覚、寒さで触覚、ホワイトアウトで視覚、五感のうち三つが使い物になら無い状況だ。普通ならこんな状況では勝負にすらならないが、雪の龍の力を操る冬姫には問題ない環境だろう。
そして俺も問題ない。
俺は死ぬ度に強くなる。ただし同じ死にかたが出来ないうえに隙が大きいからあまり死にたくはないが。
怪物との戦いで一度死んだ俺は、以前では龍神化しなければ未来を視ることも透視することも出来なかったが、今では普通の状態でも出来るようになった。
冬姫が右側から斬りかかってくる未来が見えた。
その未来はすぐにやって来た。
冬姫が右側から俺に斬りかかってくる。
俺は冬姫の剣を自分の剣で受け流す。そしてカウンターで蹴りを入れる。
だが、その蹴りが当たることはなかった。おそらく俺の蹴りを予測していたのだろう。
また雪の世界に姿を消した冬姫を透視で見る。
正直吹雪が鬱陶しくなってきたので、全能の消滅で全てを消し去る。
雪は消し去り空は晴れ渡り、風も止んだ。そして冬姫の驚いている姿も確認できた。
俺は驚いている冬姫の後ろに転移して斬りかかる。
普通ならその攻撃は当たっていたのだろうが、冬姫は俺の刀を難なく回避して見せた。
だが、それも想定内。未来視の通りなのだから。
「よく龍化もしないで平然と動けますね。やはり兄さんは化物です」
冬姫は呆れたような声で俺の後ろがわから声をかけてきた。
今の一瞬で俺の後ろに移動したのか。
「なぜ氷点下二百度でも動けるんですか? 確かに多少は動きが鈍い気はしますが、普通ならこんな温度では生物は生きていけないですよ。一瞬で凍死しますから。しかも雪まで消されて、まあこれは別にいいですけど」
冬姫が俺に話している間にだんだんと気温が下がっていっているのがわかる。さらに雪も降ってきている、いや、雪と言うより一センチくらいの氷の粒だ。
俺はその全てを全能の変換で炎に変える。
「ひゃっ!」
冬姫がすっとんきょうな声を上げ驚く。
無理もないか、降っていた雪がいきなり炎に変わったのだから。
「また全て消されましたね。ではこれはどうですか?」
冬姫は何事も無かったかのように話をしてきた。
だが俺は見逃さなかった、少し頬が赤くなっていたことを。
やっぱり少し恥ずかしかったのか。
太刀を地面に突き立てる冬姫、その刀からは凄まじい力を感じる。
そして次の瞬間世界が凍り付いた。時間も空間も光も闇も全てが凍りついた。
俺の作り出した世界の全てが凍りついた。
「これで… どうですか。ハァハァ…」
息を切らしながら停まった世界で冬姫はそう口に出す。だが、その声は誰にも聞こえない、何故なら空気の流れも全てが停まっているからだ。
俺は自分に向けられた冬姫の攻撃を無効する。
この能力は全能とは関係ない能力で、俺の人としての能力の一つだ。
怪物との戦いの時にこれを使えば良かったが、俺は油断をして使う前に死んでしまったのが今さら悔しい。
世界が動きだし時間も空間も光も闇も全て元に戻り始める。
「地球規模で全てを停めるなんてそこら辺の最下位龍神じゃ相手にならないな。だが、俺はそいつらより強いからな」
俺は息を切らしている冬姫に黒い太刀を向ける。
「ここからは第二ラウンドだ」
今回も読んでいただきありがとうございます!
まだまだ続くのでこれからもよろしくお願いします