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大切な人

 転移で屋敷に戻った俺はシルフィーの案内で二人が寝かされている部屋と来ていた。

 この屋敷には多くの部屋があり、そのなかには使われていない部屋や入ってはいけない部屋もある。そのなかには昔陽月がこの屋敷に住んでいたときに使っていた部屋もそのまま残してある。


 その部屋は十二畳ほどの広さで奥にベッドが二つ置かれている。そこで陽月と寧々は寝ていた。


 正直無理やり起こすのも気がひけるので、全能の能力で二人の生命力を回復させて二人が自然に起きるのを待つとしよう。


 そもそも陽月は知っているかも知れないが、神社の巫達がどうなったのか寧々にも伝えなければならない。


 魔術の中には死者を蘇らせる能力があるが、魂が無ければ怪物が生まれるだけだ。

 残念ながら犠牲になった巫女達の魂は既に腐敗龍に喰われてもうない。


 全能で復活も可能だが、それは世界の秩序が崩れる原因になるので出来ない。

 俺にできるのは彼女たちに事実を伝えるだけ。


 

 二人が目を覚めるのをここで待つのもいいが、ここは時間を有効に使おうと思う。

 さっき一度死んでいるのに、自分でもびっくりするくらい冷静になっている。


 とりあえず黄守には事の終わりを伝えるか。





 俺は黄守のもとに向かった。

 その際に近くにいたシルフィーに龍鬼へと今回の件の連絡をしてもらった。

 シルフィーは風の精霊で、空気のある場所の状況がわかるので、今回のことをほとんど理解していてさらに、空気を使って遠く離れた相手に連絡することも可能なので頼んでおいた。


 「あれキー君。怪我してないの?」


 廊下を歩いていた俺は命と会ってしまった。

 命は俺の体を見るとそんなことを言った。


 「確かにキー君の血の匂いがしたんだけどな?」


 命は首をかしげて考えているそぶりを見せている。

 命の言ったことは正しい。実際言われるまで気が付かなかったが、体から血の匂いがする。おそらく怪物と戦った時に右腕を切り落とされたときにその血が服に少しついたのだろう。

 右腕や怪我はすでに全て完治している。

 

 自分でもびっくりするくらいの自己治癒だといまだに思う。


 「ちょっと色々あってね。でももう大丈夫だから気にしなくていいよ」


 俺は命にそう言いながら消滅で服についた自分の血液を消し去った。

 今思ったが命は鼻がいいのかもしれない。実際龍王としての力が戻った俺ですら気づかなかった些細な血の匂いに気が付いたのだから。


 まあ、命の龍としての特性かもしれないが。


 「これで血の匂いは気になんないだろ? 一応後で風呂に入るけど」


 俺と命はそんな会話をしながら黄龍の場所に向かった。





 「戻ったか主」


 黄守に会って開始早々にそう言われた。

 黄守はお茶を飲んでいてくつろいでいるところだった。


 「まあな。無事に勝ってはいないが問題なくことは終わりそうだ」


 俺は黄守に事の全てを話しておいた。

 別に話す必要はないが一応事態を知る一人として知っていてほしかったのだ。


 「そうか。にしても主様はお優しくなったな」


 俺が話し終わると黄守がそんなことを言った。

 その表情は笑いを堪えているようにも見える。


 「たった数百年前まで魔界で暴れまわって魔神や魔王を殺して回り、蘇らせて下僕にして魔界の全ての悪魔やら魔神やらをすべて束ねた男のすることではないぞ。ましてやそのあと気に食わないからと邪神の軍隊を皆殺しにした男が言うとは誰も信じないだろうな」


 黄守が昔のことを思う出させてくる。

 確かに魔界を統一したり邪神を殺しまわったり、調子に乗った神々をボコったりしていた時期はあったが、今はどうでもいいだろう。


 「そんな昔のことは知らん。もしも俺が変わったように思えるならそれは時雨のおかげだろうな」


 昔の自分のことはよく覚えていない。ただ時雨が人間味を失っていた俺に人間らしさを思い出させてくれたのは覚えている。

 時雨には感謝している。

 まあ、本人には今後も言わないだろうが。


 「話は終わりだ」


 俺はそう黄守に一方的に言い、部屋を出て行った。





 俺が黄守の部屋を出たのには理由がある。

 その理由とは、部屋で陽月が目を覚ました気配があったからだ。

 まだ、寧々は寝ているみたいだが直に身を覚ますだろう。その前に陽月と話しておきたい。


 戸を引き陽月の部屋に入る。

 そこには俺を睨みつける陽月の姿があった。

 

 なんで俺は睨まれているのだろうか。


 「助けてくれてありがとう」


 睨みながら俺にそう言う陽月。

 態度と言葉がまるで逆だ。


 陽月は睡眠をとらないと素直で優しいのだが、なぜか睡眠をとった直後はすごい素直じゃない。

 不思議なことにそれは俺だけな様で皆にはいつも優しかったりする。


 「気にしなくていいよ。それよりも陽月は全部知ってるのか?」


 恐らく陽月もすべて知っているのだろう。だが、確認は大事だ。


 「知ってる。全部知っているわ」


 陽月うつむきながらそう言った。表情は見えない。

 こういう時に俺はどう声をかけていいのかもわからない。

 全知全能の能力があったとして、その全知で言葉を選んでもそれは俺の言葉ではない。

 全知で選んだ言葉にはその重みがないのだから。


 「そうか。寧々が起きたら俺から話す。それと、無関係ではないんだけど相談がある」


 俺はあまり説明がうまい訳ではない。だからと言って説明しないわけにはいかない。

 

 俺は全能の能力で俺の記憶の一部を陽月に見せる。


 「これは鬼龍の記憶?」


 時間にして十秒も経っていなかっただろう。

 だが俺にはその数秒の静寂が恐かった。


 双子を俺の娘にするにあたって陽月に母親になってほしいのだ。

 だが、陽月と一緒に居た巫女の娘達を生贄にしたのは双子達の父親だ。そして、その父親が生み出した怪物によって陽月と寧々は襲われかけた。


 子に罪はないのは陽月もわかっているだろう。

 だが、感情は別物だ。陽月が生贄になった者達とどれほどの中だったのかは俺にはわからない。もしかしたらあの中に陽月の親友と呼べる仲の人がいたかもしれない。


 もしそうだとしたら陽月は双子の母親になることを拒否するだろう。きっとそれだけではなく双子の転生すら許さないだろう。


 俺は全知全能だ。だが、今の不完全な俺では全知全能をうまくコントロールできない。下手な使い方をしたら世界の全てを消し去るかもしれないのだ。


 まあ、俺が完全だったらこんな事を悩まずに済むのだろうけど。

 そもそもこんな事態には成らなかったのかもしれないけど。


 「つまり私の子供が欲しいってこと?」


 陽月が俺の記憶を見終わったのか俺にそう問いかけてきた。

 少なくともその声には怒りや憎しみは無かった。


 「そうだ」


 俺ははっきりとそう言った。

 俺の記憶を見た陽月に嘘は通じない。

 まあ嘘をつく必要なんてないのだが。


 「別にいいんじゃない? どうせ私達の間には遅かれ早かれ子供が出来るのだから」


 陽月がそう言ったのを聞いてホッとする自分がいる。

 確かに俺と陽月は婚約をしている。それは俺の親父が決めたことだ、もし陽月が嫌なら取り消すこともできる。

 だが、陽月は俺と結婚する気満々の様なのでいまだに婚約は破棄されていない。

 ぶっちゃけると今の俺にある陽月への気持ちが恋心なのかわからない、だけど陽月がいいなら別に結婚しても構わないと思っている。


 「陽月。ありがとうな」


 俺は陽月の目を見ながら感謝を込めてそう言った。

 言われた陽月の顔は彼女の瞳と同じで真っ赤になった。

今回も読んでいただきありがとうございます。

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