魂
怪物を倒した俺は夜の森に一人立っていた。
日は沈み月明かりだけが静かに森を照らしていた。
今この森には鳥の鳴き声も虫の音もまして動物の気配すらなかった。
最近何もうまくいかないなー
「はー」
俺は思わずため息をついてしまった。
これもしょうがないだろう。この大陸に帰ってから約二か月普通の人間の生活どころか事件が多い気がするのだから。
俺がこの島に戻ったのはもともと俺が普通の生活をしてみたいと思ったからだ、そして時雨と出会い色々ありこの大陸に帰ってきたのだ。しかも龍王という人格まで作って人の世界に馴染めるようにしたのにすべて台無しだ。
考えててもしょうがないし帰るか。
帰るために足を屋敷の方に運ぼうとしたとき、俺はあることに気が付いた。
今なら転移して帰れるじゃん。
俺が一人でそんな事を思っていたら突如背後に気配を感じた。
『鬼龍さん』
俺はその聞き覚えのある声に振り向く。
その声に敵意は無く、ましてや害意なんて全くない少女の声だった。
俺は振り向き声の主を見た時に全てを悟った。
そこには二つの青白い光の玉が漂っていたのだ。
それはこの世界では魂と呼ばれるもだ。
『お昼ぶりだねお兄ちゃん』
そう、声の主は昼に一緒に遊んでいた双子の姉妹、ユイとユニのものだった。
二人はすでに死んでいる。全知ですべてを知った俺はすでにその事実を知っていた。知っていたが、実際二人の死を受け入れない俺がいたのは事実であった。
だが、二人の魂を目の当たりにした俺はどう声をかけていいのか分からなかった。
『鬼龍さん泣いてるの?』
ユイの声が心配そうに俺に声をかける。
え?
俺は言われて初めて自分の変化に気が付いた。
自分の顔に手を当てた時には驚いた、そこには涙が流れていたのだ。
俺は自分で思っていたよりもユイとユニを大切に思っていたのかもしれない。
俺は涙を手でふき取る。
「泣いてない」
俺は強がって見せる。
彼女たちは少なくとも俺より年下なのだから少しは大人っぽく見せないと。
しかし、龍王の力が戻った俺に人間の感情がまだあったとは自分でもびっくりだ。
俺の父は純粋の龍種で母は半人半神だった。俺はそんな両親の血を受け継いでおり龍、人、神の血が流れている。
そのおかげで龍神にまで上り詰め、さらには龍王の力にも覚醒した。そして覚醒してからは別の世界で龍神王の配下となり、戦争をしていた。
そこでは邪神や魔神などの神々を殺していた。殺しまくっていた時には可哀想などの感情や同情心などは全くなかったのだ。
だが、しばらくして時雨と出会い、このムー大陸に戻り学生をすることになった。
学生をして一か月もたっていないが友人と呼べるような人とも出会った。
恐らくそれが今の俺にこんな感情を抱かせているのだろう。
俺の親友の龍鬼にもこんな感情はあるのだろうか。
俺はそんなことを考えていたが、ふと別のことを考えてしまった。
なぜ死んだはずの二人は俺のもとに来たのだろう。
本来魂は死した肉体を離れ死後の世界へと行くはずだ。稀に死後、この世界に未練が残っているものはとどまるが。
「二人は俺に何か用があったんだろ?」
俺は二人にそう言った。
憶測だが死後二人は未練がありこの世界にとどまり、俺のもとに来たのだろう。
となれば俺は二人の手助けをしなければならない。
そう思えるほどに俺は人間の心を持っていた。
『あ! そうだった。実はねユニがどうしてもっていうからなんだけど』
ユイは要件をはっきりと言わずに少し躊躇しているみたいだ。
言いにくい要件なのかな。
『あのね、私達を娘にしてほしいの!』
ユイは大きな声で俺にそう言う。
なぜそうなったのかはユニに聞いた方がいいだろう。
「どういうことか説明してくれるか?」
俺は優しい声でユニに訊いてみた。
俺は二人の願いなら例え死者の復活だろうが、俺の大切な人以外の命を奪ってほしい程度なら全て叶えるつもりだ。
実際その力を俺は持っているのだから。
だが、理由は知りたいものだ。
『えっとね。それが運命だから。ダメ?』
ユニははっきりと俺にそう言った。
ダメな訳はない。
むしろ俺にとっては願ってもないことだ。白ともこれから仲良くしてほしい。
「ダメな訳無いだろ。わかった、その願い叶えてやるよ」
俺は二人に向かいそう言った。
運命それで構わない、今度は二人に幸せな人生を歩んでほしいものだ。
『ユニのお願いを聞いてくれてありがとう。私にはもうユニしかいないから……』
ユイはそう嬉しそうな声で俺にそう言った。
その声からは妹への思いと両親への恨みに近い思いを感じてしまった。
「あぁ、次の人生は幸せに成れよ」
『ありがとね』
「あぁ」
俺は二人にそう言うと。手をかざし二人の魂を体内に取り込む。
これで準備はできた。
俺は陽月がいる屋敷に向かう。
今回も読んでいただきありがとうございました。