一方その頃
俺は暗い場所にいた。なぜこんなところの居るのかはわかっている。
俺は死んだんだ。
普通ならもっと戦えたはずだ。だけど俺は心のどこかであの怪物を見下していたんだろう、そして案の定殺された。
実際普段の俺なら勝てただろう。
『負けたか』
暗闇から声が聞こえる。
声の主の姿は見えない。だが、誰かはわかる。
「あぁ、負けたな」
俺は声の主。龍王にそう言った。
『貴様は死ぬたびに倍以上になって蘇る。だが、同じ死に方は出来ない。強くなるのは難しいな』
龍王は少しうれしそうに俺にそう言った。
確かに俺は死ぬたびに強くなる、だいたい死ぬ前の二倍くらいの強さになる。これは俺の人間としての能力の一つだ。
『死んだことによって我が貴様に掛けた弱体化も解除されているだろう。そして我は勝手ながら貴様へ戻るとしよう』
いきなりの話の内容で俺の頭が付いていかない。
意味が分からない。
「それはどういうことだ?」
俺は訳が分からなかったので龍王に問いかけた。
『龍とは本来何かを守るものだ、我の守るものは貴様の大切な者達。というわけだ』
龍王は訳の分からないことを言っている。俺が馬鹿なのかわからないが、話がつかめない。
『まだわからないような顔をしているな。まあわかる必要はない、じきにわかる』
は?
「おい龍王」
俺はたまらず龍王に話しかける。
『貴様は龍王なのだから』
龍王はそれだけ言う俺の中に消えていった。
屋敷。
私と寧々は鬼龍の屋敷の庭に転移させられていた。
そこで待っていたのは風を纏う少女。
「ヤッホー 二人とも大分疲れてるね、大丈夫?」
少女は私達を見下ろすように空中に浮いていた。
私はその少女に見覚えがあった。
確か鬼龍がシルフィーって呼んでいたはず。
「鬼龍の精霊?」
私は確認のために彼女にそう訊いた。
「ん~ まぁそうだね。鬼龍にはシルフィーって呼ばれてるよ」
彼女は遠くの空を見上げる。
その光景は黄昏ているのかと思うほど心ここにあらずだ。
「ねえ、二人は龍王って何かしってる?」
少女がこちらを見てそう訊いてきた。
私には彼女の質問の意味は分からなかった。だから黙ってしまった。
だが、寧々は違った。
「鬼龍様のことです」
寧々は迷いなくシルフィーにそう言った。
「間違ってないけど、そうじゃないんだよね~ ヒツキはわかる?」
シルフィーは私にそう問いかけてきた。
...私にはわからなかった。
「龍王ってのはね、昔々に神々すら恐れ憧れた原初の神のことなんだよ」
シルフィーがじっと私を見つめる。
何故だろう、少し頭が痛い。
「まあいいわ。とりあえず屋敷に上がったら?」
シルフィーはそういうと屋敷の方に向かっていった。
シルフィーが言いたかったことは結局分からなかった。
もしかしたら鬼龍ならわかるのかもしれない。
「そうさせてもらうわ。寧々大丈夫?」
私は少し痛い頭を無視して隣にいる寧々に声をかける。
寧々の顔色が少し悪いように見える。
「少し休めば大丈夫だと思います」
私たちは屋敷で少し休むことにした。
鬼龍があの忌まわしい怪物を倒すと信じて。
鬼龍が殺された現場を目撃していた者がいた。
秘かにこの大陸に来ていたギリシャの女神アテナ。
彼女は数十キロ離れているビルの屋上から気配を殺して怪物を観察していたのだ。
「あの人間龍王にそっくりな顔をしているな」
アテナは気配を消しながら串刺しになった鬼龍の体を見る。
それはまるでよく観察する学者のように真剣なまなざしだった。
「だが、力の大きさが小さすぎる。しかも死んでしまったな」
アテナは怪物を見る。
「しかし、あれはなんだ? 見たことがないぞ」
アテナは怪物を見ながらそんなことをつぶやいていた。
古の時代から神として生きているアテナですら見たことのない怪物。
「ん? なんだあれは?」
突如鬼龍の体が黒い霧のようなものに変わっていく。
怪物の周りにはもともと黒い霧が発生していたが、明らかに鬼龍の霧の方が濃かった。
あれはヤバいな。
本日も読んでいただきありがとうございました。
次回からの投稿は気が向いたときにしようかと思います。