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圧倒的な敗北

 暮れた空にはもう、星や月が出ていた。

 屋敷の周りの湖を超えた森の端をよく見ると、木々が少し枯れているのがわかる。

 私、龍神代陽月はその原因に心当たりがあった。


 それは女性の姿をした怪物。あの怪物は、周りの生物の生命力を奪い、己の糧にしている怪物だ。そのため、森の木々も枯れているのだ。

 しかも生命力奪っているせいで、徐々に力を増している。この森には魔獣や幻獣、精霊が多くいるためさらに怪物はそれらからも力を奪い、力を増すだろう。


 鬼龍の屋敷の周りにある湖まではもう少し、そこには龍神も住んでいるのでどうにかなるだろう。怪物が今のままなら。


 もしも私が死んだら鬼龍は悲しむかな? 

 私には親しい人は鬼龍とその妹たち、そして隣にいる寧々だけしかいない。


 いや、もしものことは考えないでいよう。なぜなら私が死ぬということは隣にいる寧々も危険にさらされるということなのだから。それだけは何としても。


 私と寧々が走って二十分くらいたっただろうか。それでも屋敷まではまだまだ距離がある。

 だが、森の中から知っている気配がこちらに近づいているのがわかる。


 鬼龍来てくれたんだ。


 



 俺が陽月と寧々に会ったのは俺が屋敷を出てから約七分後のことだった。

 

 森の中で俺と出会ったとき陽月と寧々は見るからに疲労していた。


 「よかった」


 陽月はそれだけ言うとふらっと倒れそうになった。


 「陽月様!」


 倒れそうな陽月を寧々が支えた。


 「大丈夫ですか?」


 寧々は陽月にそう声をかけた。


 「大丈夫よ。少し安心しちゃっただけ」


 陽月は俺の方を見てそう言った。

 陽月はまた、あんまり睡眠をとっていないようだな。


 「寧々。陽月と一緒に屋敷に転移させるからそのまま動くなよ」


 俺は魔法を発動させる準備をする。

 今の力の制限されている俺は異能の使える回数が制限されている。その回数は五回。

 その五回の内の一回をここで使う。


 「えっと鬼龍様はどうなさるのですか?」


 寧々が俺にためらいがちに訊いてくる。

 俺と寧々は小さい時に数回しかあったことがない。そのため少し緊張しているのだろう。


 「俺はここに残って奴と戦う」


 俺がそういうと寧々は少し驚いたようだった。


 「やっぱり陽月様と私は何かに追われていたのですね」


 陽月は寧々に何も話していなかったようだな。

 陽月は寧々に抱えられていて顔はよく見えない。


 「詳しく知りたいのなら屋敷で陽月に訊いてね」


 俺はそう言うと寧々と陽月を屋敷に転移させた。





 奴がやってきたのはそれから数分後だった。

 思ったより早かったな。


 俺の周りの木々が枯れ、気づけば周りから鳥の声や虫の音が消えた。そして、気が付けば周りには黒い霧が立ち込めていた。


 ついにそいつは姿を現した。


 そいつは女性の姿をしていた。だが、目は白目もすべてすべて真っ黒に染まり、奴の周りは異様な黒い霧のようなものが濃くなっていた。


 あの黒い霧はやばいな。


 俺は直感でそうおもった。


 「貴方もおいしそうですね」


 怪物は口角を思い切り吊り上げた。

 そして次の瞬間、俺は右方に痛みを感じた。


 「なんだよこれ」


 俺は痛みを感じ所を見たら、そこには何もなかった。

 そう何もなかったんだ。肩から下が。


 「貴方やっぱりおいしいわ」


 そして驚くことに怪物の右手には俺の右腕が握られていた。

 いつの間に攻撃してきた。


 制限されている状態での俺の強さは上位龍くらいだろう、武器があれば最上位龍くらいとなら戦えるだろう。

 だが、そんな俺でも、油断していたとしても攻撃が見えなかった。


 奴は強いな。武器を持ってくればよかったか。


 「不思議そうな顔をしているのね。簡単よ影で攻撃しただけよ」


 怪物は余裕なのか攻撃の種明かしをしてくれた。

 そして、ぐちょぐちょバリバリと俺の腕を食べている。


 少し目がぼやけるな


 俺は今になって身体の異変に気が付いた。

 

 この黒い霧か。


 「その顔はやっと効いてきたみたいね」


 どうやら怪物はおしゃべり好きの様だ。


 「この霧は生物のエネルギーを吸収して私に運んでくれるの」


 怪物が切り取った俺の腕を一口食べる。


 「つまりこの霧に触れている者は生命エネルギーを奪われるってこと。それにしても貴方美味しいわね」


 俺は魔法を発動させる。 

 発動した魔法は治癒魔法。

 肩からの出血が止まる。


 血が止まったのを確認した俺は更に魔法を発動させる。

 発動した魔法は光魔法。光源を発生させる魔法。

 俺の周囲は明るくなりまるで昼間の様だった。


 俺は光魔法で影を消した。

 今は夜なのであたり一帯影だったので、相手の攻撃手段である影を減らしたのだ。


 そして更に俺は風魔法を発動させる。

 暴風が俺を中心に吹き荒れる。

 木々は揺れ、枯れ木は折れる。


 だが、黒い霧だけは風が当たっていないかのようにその場にとどまっていた。

 俺は時間短縮のために無詠唱で魔法を発動させていたが威力は落ちていない。いや、効果の弱い魔法しか使えないからしょうがないのかもしれないが、それでも霧が影響を受けていないのは変だ。


 魔法の使用回数五回、そのうち四回は効果があったが最後の一回は無駄にしたな。

 これで全部使ってしまったな。


 そしてまたしても身体に痛み。しかも今度は左胸から。


 胸を見てみると今度は黒い棒のような物が刺さっていた。


 「楽しかったわ」


 怪物がそういいながら笑う。


 大丈夫、抜かなければ出血しはしない。


 そう思う俺とは裏腹に俺の胸に刺さった棒は体内で形状を変え、俺の体を内側から串刺しにする。地面には俺の血がぽたぽたと零れ落ちるのが見える。


 俺の体は内側からの刺でサボテンの様になった。

 

 俺の意識はそこで途切れた。


 


 

今回も読んでいただきありがとうございました。

次回の投稿は来週の日曜日に予定しています。

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