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過去の約束

もう三月ですね、これからもよろしくお願いします。

 時刻は悲劇が起こる数分前。

 場所は鬼龍の屋敷の西に位置する神社。その神社の境内には二つの人影があった。

 一つは私、龍神代陽月。もう一つは黒髪のセミロングの少女柊寧々だ。


 「今日も何も見つからなかったです」


 寧々が疲れ切った顔で私にそう言う。

 無理もないだろう、私と一緒に丸二日も失踪していた皆を探していたのだから。


 そう、皆失踪したのだ。


 私が知ったのは一昨日の夜。寧々が私に知らせてくれたのだ。

 あの日からほとんど寝ずに神社の周りに手掛かりがないのか探していたのだ。

 もちろん私も半径一キロほどの魔力の結界を常時発動させながら周りを捜索していた。

 捜索対象は失踪にかかわった人、又は関係のある物、人物で探していた。


 だけど何も見つからなかった。私の魔法も万能ではない。

 私は鬼龍の力を一時的に行使できることもできるが、私情であまり鬼龍をあまり頼りたくない。


 「少し頑張ってみましょうか」


 私はとある魔法を発動させる。その魔法は私は初めて鬼龍に教えてもらった魔法。名前もない単純な魔法。

 

 私は寧々のことを本当の妹のように思っている。そんな寧々も頑張っていることだ、私も頑張らなくちゃ。

 

 その魔法は願いを叶える魔法。不可能を可能にする魔法。


 その魔法を行使するには今の私の体力、魔力では行使できても効果が弱くなっちゃう。だけどやらないと私自身このままだと納得がいかない。


 

 魔法を使う。千里眼に似た感覚になる。

 脳内にこことは違う場所の映像が流れる、綺麗な女性の姿が見える、何かを食べてる? 肉? 人の肉だ!

 彼女の黒い目と合ってしまった。まるで全てを飲み込む闇のような目で怖い。


 怖い怖い怖い。


 恐怖とともに情報が頭の中に入ってくる。

 怪物の正体と満たされない飢え、そして生まれた時に何があったかも。


 怪物と目が合ってしまった、本来ありえないはずの出来事。 ただの偶然の可能性もあるがあれは偶然ではない。怪物は私に気付いた。そして私のもとに来るだろう。


 私は直感でそう思い寧々の手を取って走り出した。


 「陽月様!?」


 私は寧々と一緒に屋敷に向かう。

 もちろん鬼龍の屋敷だ。

 鬼龍ならあの怪物をどうにかしてくれるだろう。


 


 陽月はそう思えるほどに恐怖していた。


 



 そして現在。地下の研究所にその怪物はいた。

 地下の研究所で怪物は食事を終えたところだった。


 「やっぱり満たされないわね~」


 怪物は思い出す。

 先ほどこちらを見ていた少女のことを。


 「あの子を食べれば少しは満たされるかな?」


 怪物の鋭い嗅覚は容易に陽月の場所を嗅ぎ分ける。


 「すこし遠いけど。美味しそうなごちそうね」


 怪物は不敵に笑い、研究所を出た。

 



 

 俺達は屋敷に戻り晩飯まで少しゆっくりしているところだった。

 屋敷の庭に突如手のひらサイズの紙の龍がやってきたのだ。

 その龍は式神、陽月の式神だ。


 式神は戸をすり抜け俺のもとに来て、一枚の紙になった。

 そこにこう記されていた。


 今から行くから助けて。


 そう記載されていた。

 これは陽月が助けを求めているということだろう。


 陽月は未来視や魔法、魔術といった以外にも色々な異能を使える。

 また、儀式を行えば龍の力や俺の力の数割を使うことだってできる。


 俺の力。龍王の力を数割でも行使できるのだからこの大陸でも頂点に立てるくらいの強さはあるだろう。

 更に俺の力を抜きにしても、陽月は武器や異能も優れているのでこの大陸では龍族や鬼族、神族、それととある例外を除いたら陽月に勝てるやつはいない。


 今の力を制限されている俺では陽月の状況がわからない。

 シルフィーを頼るか。


 「シルフィー」


 俺は誰もいない部屋でシルフィーを呼ぶ。

 突如、密閉された部屋の中に穏やかな風が吹く。

 その風はまるで渦を巻くかのように一か所に集まる。すると風の中からまるで草のドレスの様な服を身にまとっている少女が現れた。

 その少女の髪は綺麗なエメラルドグリーンの色をしており、目も同じ色をしていた。


 「呼んだ?」


 シルフィーが首をかしげて俺に問いかける。

 

 「あぁ、陽月って知っているよな?」


 俺はシルフィーに陽月を知っているのか訊いた。

 一応訊いておかないと、知らなかったら説明するのが面倒だし。


 「知ってるよ~ この前ここに居た銀髪の娘でしょ~」


 シルフィーはニマニマと笑いながら俺にそう答えた。

 何を考えているのか?


 「そうだ。今陽月がどこに居てどういう状況なのかわかるか?」


 俺はシルフィーにそう訊いた。


 「わかるよ。...結構やばそうだね~」


 一瞬シルフィーの顔が険しくなったのがわかった。


 「ヒツキはなんだか得体の知れないのに追われているね~ どうする? 助けに行く?」


 シルフィーは少し不敵な笑みを浮かべてそう言った。 


 「当たり前だろ」


 俺はシルフィーにそう即答した。

 そう、俺にとっては当たり前だった。


 「もしかしたらキリュー死ぬかもしれないよ?」


 シルフィーはそう言った。もしかしたら確信に近いものがシルフィーにはあったのかもしれない。

 今の俺は正直弱い。

 でも、それでも。


 「行くよ、助けを求められたんだ。死んでも守るって昔約束したんだから」


 俺は嫌な予感を覚えた。

 行ったらシルフィーが言ったように死ぬかもしれない。

 死が怖くないわけではない。ただ死んだら俺が弱かっただけだ。

 それなら強くなればいいだけだ。


 「そう。それならワタシはどうすればいいのかな?」


 シルフィーは少し笑いながら俺にそう訊いてきた。


 「シルフィーはここで陽月たちを守ってくれ」


 俺はシルフィーにそう命令した。


 「ヒツキってことは、キリューは守らなくていいのかな?」


 「あぁ」


 俺はシルフィーにそう言い、自室をでた。





 自室を出た俺は黄龍。黄守のもとへと行っていた。

 

 「事情はわかった。だが主様、お主が負けることなんてあり得るのか?」


 俺は黄守にさっき知った事情をすべて話した。

 そして、俺が負けた時に皆を守るようにとも言った。

 

 「あぁ、もしもの時だ」


 黄守は俺の事情を知らない、そして話すつもりもない。


 「もしそんな時が来たら我も一緒に死んでやるよ。主様が倒せない怪物は私にも倒せないからな」


 黄守は笑いながらそう言った。


 そして俺は陽月たちのもとへ一人で向かった。

次回の投稿は来週の日曜日に予定しています。

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