分岐点
黒い表現が入っています。
時刻は午後五時、天気は晴れ、オレンジ色の空に少し雲があるくらいだ。
俺達は夕暮れまで公園でかくれんぼをしていた。
まさかここまでかくれんぼに熱中するとは俺は思っていなかった。
俺が最後にかくれんぼをしたのはいつだっただろうか。
記憶の片隅に複数の女の子と屋敷でかくれんぼをしたのをかすかに覚えている。その女の子たちは妹たちではない、あれは誰だったか。
「あんまりぼーっとしてたら見つかっちゃうよ?」
懐かしい記憶を思い出していた俺を現実に戻したのは、双子の少女の姉であるユイだった。
俺達のかくれんぼは白熱していた。
鬼は白。
白の鬼は驚異的で、十分かからないうちに全員見つかることが多い。
「あの子は見つかったみたい」
ユイが言っているあのことは双子の妹のユニのことだ。
物陰から白のいる場所を見ると、白にくっつきながらこっちに向かって真っすぐ歩いてきいるユニの姿が見えた。
「こっちに向かって歩いてきてるから場所を変えよう」
俺はまじめな声でユイに小声でそう言った。
ユイは小さく頷き見つからないように、大岩の後ろをに身を隠した。
夕暮れ焔龍家当主である焔龍勝率いる一個分隊はとある島にて軍事跡を発見していた。
「これは見た限り数十年は前のものだな」
勝は目の前の光景を見てそう言った。
勝の目の前には軍事基地があった。
正確には、軍事基地跡だろう。そこには緑のつたで覆われた建物や、サビて朽ち果てた配管や戦車。座礁した軍艦があった。
この島は三日月状になっていたらしく島の中心は湾になっていた。
つまり勝たちは島の反対側から遠回りしてきたことになる。
「...撤退するぞ」
勝は驚くことを口にした。
だが、これに口を挟める者はこの一個分隊の中には誰一人いなかった。
「はい」
隊員の一人が返事をし、全員来た道を引き返した。
その後この小さな島は島から消えた。
報告によると焔龍家当主、焔龍勝が龍化したのち消滅させたそうだ。
この噂はたちまち軍内部で広まり、鬼神龍鬼が命令したと後に語っている。
午後六時太陽が沈みかけている時刻だ。
「みーつけた」
やっとの思いで最後の一人を見つけた。
かくれんぼで時間を忘れるほど遊ぶ高校生は俺くらいだろう。
「みつかっちゃった」
「みつかったね」
「みっかった」
最後は三人そろって小さな小屋の後ろに隠れていた。
ユイ、ユニ、白が順番にそう言った。
「さすがに暗くなってきたからそろそろ帰るか」
そう時間は午後六時、小学生などはもう帰る時間だ。
ここら辺の治安はよく知らないがあまり遅くならない方がいいだろう。
「もっと遊びたい!」
ユイがそんなことを言った。
今日の様子を見ていたらあまりわがまわを言わない子のように思っていたが。
「もう遅いから帰らないと」
俺はユイの目線に顔を合わせてそう言った。
ユイの眼の中に少し怯えがあるのを俺は気が付いてしまった。
「わかった。また来週ここで遊ぼう」
俺はまたここで遊ぼうと彼女に約束する。
今度は冬姫や刹那、時雨に命も連れてきてみんなで遊ぶのもいいな。
俺は心の中でそんなことを思いながらユイに笑顔を見せた。
「...わかった。約束ね」
ユイは少し考えた様子でそう言った。
「おう」
俺はそれだけ言うと二人を家まで送った方いいと思った。
「家まで送っていくから」
俺がそういうと双子の姉妹の顔が曇った。
「来ない方がいい」
「来たらだめ」
双子の姉妹がうつむきながらそう言った。
そのただならない様子に白も少し不安そうだ。
白はこの数時間でだいぶ二人と仲良くなった。むろん俺もだ。
だが拒絶ではないが否定された。
ここは引くしかないな。
「わかった、今日はここでお別れだ。来週の土曜日の昼にまた遊ぼうな。今度は一緒にお昼も食べような」
俺は二人にやさしくそう言い頭を撫でた。
「うん」
「うん」
俺は双子を背に屋敷へと帰る。
白も双子に手を振りながら俺についてくる。
これが正解かはわからない、だけど今の俺はこれが最善だと思った。
これが、運命の分岐点とは思いもしないで。
ユイとユニが家に着いたのは鬼龍達と別れて三十分後のことだった。
家の中には珍しく人の気配があった。
「二人とも帰りが遅かったじゃないか」
私達にそう言ったのは他でもない私達姉妹のお父さんだ。
普段お父さんは地下にある自分の研究室に籠っていて私達と顔を合わせることはほとんどない。
「遊んでたから」
私はお父さんにそう言った。
妹は私の後ろで隠れるような位置にいる。
「そうか。まあいい、お前たちに見せたいものがあるんだ来てくれ」
そう言われ、昔から入るなと言われていたお父さんの研究室に私たち姉妹は恐る恐る足を踏み入れた。
きっと数年間入るなと言われていたから好奇心があったに違いない。
妹は後ろで私の服の袖を握っている。
階段を下り、私たちが目にしたのは、散らかった研究室だった。
机の上には本や紙がどっさり、奥には大人の人間が入りそうなカプセルがあり、その横には薄く赤に輝く大きな玉があった。
私が部屋をじっくり見ていると妹がいきなりもたれかかってきた。
双子の少女の姉であるユイの意識はそこで終わっていた。
午後七時。地下研究室。
そこには白衣に赤いシミが付いている研究者が一人と二人の息の無い少女の姿があった。
少女達は全裸の姿で床に寝かされていた。
「もうすこしで... もうすこしで」
研究者は独り言のように言葉を繰り返す。
息が無い二人の少女が寝ているのは大きな魔法陣の中だった、その傍らには薄く輝く龍の宝玉と大人の女性の死体があった。
研究者は冷たくなった自分の娘のもとへと歩いていく。その手には刃渡り一メートルの両刃剣が握りしめられていた。
そしてあろうことかその剣で自分の娘だったものの首切り裂いていく。
切り裂かれていた首からは血が流れ出る。それでも男はやめない。
やがて体と頭が二つにわかれる。
そして次は腕、足と続き最後は腹を裂かれて体内にある骨や臓器が顔を見せる。
この光景が姉妹に行われた。研究室の中は血なまぐさい匂いが漂っている。
この工程が娘であるユイとユニに向けて行われた。
もちろんここには誰も止める者はいない。
「さあ贄は用意したぞ。妻を生き返らせてくれ」
男は大声で叫ぶ。
男が叫んだ瞬間タイミングよくその現象は起きた。
赤い玉に姉妹の血と肉が吸い込めれていく、あちこちに飛び散った血や肉片もだ。
次に大人の女性の体と血と肉を吸収した玉が灰になっていく。
だが、灰になったのは一瞬だった。女性の死体と玉は融合し始めた。
融合した結果見た目は大人の女性の見た目をした、生きている女性が誕生した。
その女性は外見だけを見れば人間と区別がつかないだろう。そう外見だけ見れば。
彼女は素っ裸の状態で研究者に振り向く。
「久しぶりね貴方」
それはさっきまであった大人の女性の記憶だろうか。
「あぁ」
男は願いを叶えた。妻を生き返らせるという願いを。
そのために十数名の巫女を生贄にして、腐敗龍を呼び、腐敗龍の宝玉を手に入れ、実の娘二人を手にかけ残忍に殺したのだから。
「私お腹が空いたわ」
生き返った妻の声。男はうれしかっただろう。涙でうまく顔が見えないだろう。
いや、男にとっては見えない方が良かったに違いない。なぜなら彼女の眼は人の目では無く、恨み苦しみ飢えた腐敗龍の呪いによってすべてを飲み込む黒に代わっていたのだから。
そう、眼球の全てが真っ黒になっていたのだ。
それは、己を殺した龍の呪い。全てをいきなり奪われた龍の呪い。
自分勝手な話だ、自分は罪もない巫女たちを喰らったのに、被害者ずらなのだから。だがしょうがないだろう、それが龍なのだから。
「あぁ。ご飯にしよう」
男は目から零れ落ちる涙を拭きながら妻にそう言う。
「えぇ」
生き返った妻はそれだけを言うと、口を大きく動かした。それはまるで何かを食べるかのように。
次の瞬間研究者は倒れた。
気絶ではない、彼は彼女に魂を喰われ死んだのだ。
ここに居るのは人間ではない。ただの怪物。
龍の呪いで生まれた暴食者。
怪物は飢えている。空腹なのだ。
怪物は食べる。男の抜け殻を。
血の一滴すら残さないでむさぼる。
肉はむしゃくしゃと、骨はボリボリと音を立てて。
研究者の妻の魂はもうこの世界には存在しない。魂の無い者の蘇生は不可能、つまり蘇生は最初から無理だったのだ。それが可能なのは全知全能の神のみ。
ここに居るのは、だた研究者の妻の姿を模した空腹の怪物なのだ。
今回も読んでいただきありがとうございます。
次回の投稿は来週の日曜日に予定しています。