入学試験4
試験が早めに終わったので鬼龍と時雨は学園近くのファミレスで少し遅めの昼飯を食べることにした。
昼過ぎということもあってか、店内にはあまり人はいないみたいだった。そのおかげで待たずに席に座ることができた。
「鬼龍大人げない」
時雨が唐突に鬼龍に言う。
いったい何のことだろう? 時雨に大人気ないことをした覚えはないんだけどな。
こういう時は本人に訊くのが一番だな。
「なんにがだよ?」
鬼龍は相手の心を読めるが普段は使わないようにしている。
もしも相手が自分のことが嫌いで心の中で何を思っているかわかってしまったら、多少なり今までと同じ関係を続けていける自信が鬼龍にはないからだ。
まあ、時雨や家族が俺を嫌ってるとは思いたくないのが鬼龍の本音だったりする。
実は鬼龍には友と呼べる人が少なかったりもするので、友達を大切にしたいと思っている。
「試験での」
時雨はあまり喋らないほうなので、言葉足らずになることがある。
試験でのってなんだ? もしかして試験官を倒した時の事かな? いや、それ以外ないな。
「あ~」
鬼龍は時雨が何を言いたいのか理解した。
もう少し言葉を増やしてくれると助かるんだけど。
「なんで手加減しなかったの」
時雨は俺の目をまっすぐ見てきた。
「何でって、あれでも手加減してたんだぞ」
俺は言い訳をした。言い訳と言うよりは事実だ、決して嘘ではない。
事実俺が本気を出していないのは時雨もわかっているはずだ。
もしあの場で俺が本気を出したら間違いなく、あの試験官はこの世にはいなかっただろう。
「まあ、いいけど、能力を使いすぎたら正体ばれるよ」
時雨は諦めたように言ってきた。
確かに時雨の言うとおりだ。試験官に使った力は本来ならば人間が使うことのできない領域の技だ。
だが、幸運にもあの場にいた人にはあれが何だったのかは理解出来てはいない。だが、今後もばれない保証はどこにもないのだ。もしばれたら、今の鬼龍にとっては色々面倒なことになる。
だからこそ、不用意に力を見せてはならないのだ。妹である時雨がそれを理解しているのに鬼龍が理解していないはずはなかった。
実は、鬼龍の本能には戦いを楽しむというものがあるのでつい遊んでしまうのだ。それを理解しているので時雨もあまり強く言えなかったりもする。
「以後気を付けます・・・」
鬼龍は時雨から目をそらしながらそう言った。
だが、自分のために心配してくれた時雨のためにもここは努力はしようと思う。